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白野宿から滝子山

滝子山の防火帯より望む大谷ヶ丸

滝子山の防火帯より望む大谷ヶ丸

滝子山南麓の旧甲州道中白野宿から林道を北上する、「悲しみの森・癒しの森トレッキングコース」があります。癒しの森からは、引き続き登山道が檜平に続いています。

バス停 富士急山梨バス: 笹子駅 → 白野上宿 登山口
バス停 富士急山梨バス: 笹子駅 ← 吉久保入口 登山口

地図 地理院地図: 滝子山

天気 滝子山の天気: 大月市 , 滝子山 , 笹子駅

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コース & タイム 鉄道駅 笹子駅 バス停 7:33 == 7:40 白野上宿 7:40 --- 7:47 白野下宿 7:48 --- 8:00 悲しみの森看板 8:00 --- 8:19 癒しの森入口 8:24 --- 10:03 檜平 10:17 --- 11:00 滝子山主峰 11:37 --- 11:46 鎮西ヶ池 11:47 --- 11:51 大谷ヶ丸分岐 11:51 --- 12:21 1446m峰 12:31 --- 13:03 迂回路分岐 13:03 --- 13:35 大鹿山分岐 13:35 --- 14:00 三丈の滝 14:00 --- 14:25 道証地蔵 14:37 --- 15:08 櫻公園 15:22 --- 13:37 吉久保入口 バス停 15:40 == 15:43 笹子駅 鉄道駅
※歩行時間には道草と写真撮影の時間が含まれています。
滝子山 たきごやま:標高 1615m(推定) 単独 2015年11月4日 全7時間57分 満足度:❀❀❀❀ ホネオレ度:❢❢❢

11月4日、檜平南稜から滝子山に登りました。絶好の秋晴れに恵まれ、山頂の広大な展望はもとより、防火帯沿いの見事な紅葉、多彩なすみ沢の渓流美など、感動の山場がいくつもありました。

段落見出し白野宿より歩く

交通量の多い国道20号を朝から歩きたくなかったので、笹子駅前から大月駅行きのバスに乗り、白野上宿で下車しました。白野宿の家並みを見ながら、旧道を白野下宿までミクロ膝栗毛を楽しみます。石燈籠には「右江戸道」の文字。民家の庭先で真っ赤に燃えるのは、朝日に照らされたドウダンツツジの紅葉。そして白野下宿バス停のすぐ先、「悲しみの森・癒しの森トレッキングコース」の道標を見て、北へ向かう林道に入りました。

話は前後しますが、笹子駅前7時31分発の大月駅行き一番バスに乗るために、笹子7時6分の下り電車に乗って来ました。次の下り電車ではこのバスに接続しません。バス待ちの時間が長いので、駅前で入念に準備運動をしました。7時20分頃、回送バスが新田方向に突っ走って行きます。昨年春のダイヤ改正以前は、このバスが通常運行され、滝子山や笹子雁ヶ腹摺山の登山口へ、国道20号を歩くことなく行けました。残念ですが、ぼやいても仕方ありません。

さて、林道は滝子川に沿って北上します。JR中央本線のガードをくぐると、左手に一里塚跡が見えました。石に嵌め込まれたレリーフの、男女の顔が和やかです。続いて中央自動車道をくぐると、天神社の小さな社がありました。由緒は分かりませんが、西向きで、屋根に重厚感があります。林道はかなり奥までコンクリートで舗装され、年配の婦人が二人、ゆっくりと登って行くのを追い越しました。

段落見出し悲しみの森と癒しの森

「悲しみの森へようこそ」と書かれた説明板にやって来ました。「今、荒れ果てた森からは、木々の悲しみの声が聞こえてくるようです」「林業では暮らせない時代を迎え、森林を管理する人もお金もないのが、今の時代です」などと書かれています。かつて杉林や檜林の所有者は、一雨降るごとに、ン十万円儲かると言われたものです。人の手で植えられたのに、今は洪水や花粉症を引き起こすことで疎まれる森。山を愛する登山者にも、森の声が聞こえてきます。

そこから僅かに進むと、少し開けた川原があり、行く手の滝子山を望めました。中央に三つ並んだ峰を持ち、その両肩がもっこりと膨らんでいます。西の肩からは寂惝尾根が、東の肩からは、これから登る檜平南尾根が、筋骨豊かに麓まで下りて来ます。これら二つの尾根には紅葉や黄葉が混じっていましたが、山頂付近はすでに落葉したように見えました。

やがて林道は大きな「滝子川砂防堰堤」を巻きます。振り返ると、ふくよかな姿の鶴ヶ鳥屋山が望めました。滝子橋で滝子川右岸に渡ります。滝子山と滝子川は、どちらの名が先でしょうか。やがて林道が明るい植林に突き当たると、そこが「癒しの森」でした。滝子山登山口へは右に進みます。ここで少し道草ですが、左に行くと、「癒しの森にようこそ」の説明板があります。ここでは間伐がなされ、地面まで日が当たっていました。私は各地のブナの林相も、明暗様々であることを思い出しました。

段落見出し癒しの自然林

林道を元の位置まで戻り、滝子山登山口を目指します。道路わきの青い看板を見て、この林道の名が「林道大鹿線」であることを知りました。林道は一旦東に延び、細くなった滝子川を越えます。そして北に向きを変えるところで、初めてきれいな紅葉が見られました。少し黄葉の混じった、オレンジ色のヌルデです。林道が西に転じ、少し進むと白いガードレールと退避場があり、「滝子山登山道(桧平経由)」と書かれた道標が右の尾根を指していました。

尾根はほとんどが広葉樹で、ところどころにアカマツやツガも混じっていました。自然林なので樹木が密生しています。すでに多くの葉が落ち、明るい日差しが地面に届いていました。尾根の中央が伐採されて、歩きやすい登山路になっています。傾斜が急な部分でもジグザグはなく、自分で歩幅を調節しながらマイペースで登って行きました。真っ赤な紅葉は見られませんが、黄色やオレンジ色の葉、明るい緑の葉と濃い緑の葉などが入り混じった森からは、安らぎを感じます。

ふと振り返ると、鶴ヶ鳥屋山の向こうから、富士山が真っ白な頭を出していました。これ以降、登るほどに富士山が高くせり上がって、背中を押してくれました。途中、小さな岩場が2ヶ所ありますが、簡単に越えられます。いずれにもロープが設置されているので、下る場合も安心でしょう。いつしか道にドングリがたくさん見られるようになり、見上げると陽光を浴びたミズナラの葉に、さらに上の葉の影が落ち重なり、その絵模様がとてもきれいでした。

段落見出し檜平で早弁

右手の枝越しに、藤沢集落から立ち上がる南東尾根が高く見えました。あの尾根にこの尾根が合わさる地点が檜平です。まだまだ頑張らねばなりません。左手を望むと、西に寂惝尾根をはじめ、はるか遠方の赤石山脈まで、いくつもの尾根が見えました。赤石岳は冠雪しています。すぐ西隣の寂惝尾根は、順光を浴びて鮮やかな錦色。「隣の尾根は赤い」と心の中でつぶやきます。

やがて登山路が大きく右に逸れて、山腹を巻くようになりました。峠の手前によくある、道の付け方です。落ち葉の深く積もった道は、サクサクと気持ちのいい音を立てますが、登山道はかなり斜面化していて、スリップには注意が必要です。それにしても金色の葉だけが残った落葉広葉樹林は明るく、美しく、ちょっと夢のよう。これは山の南面に季節限定で出現する、贅沢な光景です。南面でも針葉樹林では、このようになりません。

10時3分、檜平に到着しました。先客はいません。まず富士山を眺めます。雲ひとつない快晴の富士。右裾は大部分が三ツ峠山に隠されていますが、左裾は長く、優美に伸びています。「美人は長く見ていると飽きる」、と言った人がいましたが、そうではないと思います。もう半世紀以上も富士山を見ています。「冷めるのが恋、冷めないのが愛」と誰かが言ったような気がしますが…。幸福感と共に空腹感も増したので、ここで腰を下ろし、富士山を見ながら早めの昼食にしました。

段落見出し山頂

南東尾根から単独男性が登ってきました。この日、山で初めて出会う人です。この方は、滝子山登山3度目で、ようやく素晴しい富士山の眺望に恵まれたそうで、とても嬉しそうでした。私は山頂に向かいます。男坂と女坂とがありますが、北面の様子を見たかったので、男坂を選びました。女坂の方は暖かな南面なので樹木に多くの葉が残っていましたが、男坂は稜線上で寒い風を受けるからか、わずか数本を除き、ほとんど落葉していました。

上部で女坂を合わせると、真っ赤なモミジがありました。その背景に緑のツガ、そのまた背景には快晴の青空。完璧な葉と、のびのびと清涼感すらある紅色は、日本画家が描いた屏風絵のモミジを思わせます。カメラを構え、何度も構図を変えてはシャッターボタンを押しました。このモミジ、葉の形も色も、光も空気も純粋そのもの。私の技量とカメラの性能の不足を感じます。そもそも紅葉や黄葉は、人間が見て喜ぶ以外に、樹木自体にとって何の役割があるのでしょう。

午前11時、最高点のある山頂に到着。尾根で頭を見せ始めた富士山が、ここでその姿を完成しました。こんなに優美な富士山は、めったに見られないでしょう。そして、ぐるり360度の展望。心が躍ります。正確に言うと、西方の南アルプスと甲府盆地は、山頂から5分ほど西に下って眺めました。わずかながら北アルプスの白い峰々も望めます。近場の山々がオレンジ色に見えるのは、カラマツの紅葉によるのでしょう。きょう、ここに来れて、本当によかった!

段落見出し防火帯は紅葉の回廊

山頂には40分近くいましたが、その間に紅葉情報も収集しました。下山路に予定していたすみ沢ルートについては、ある方から「見事だった」と聞きました。期待感を持って山頂を後に、鎮西ヶ池方向に向かいます。去る五月に来た時、鎮西ヶ池と大谷ヶ丸分岐の間で、カエデ類の木々から溢れる新緑を見ました。ところが今来て見ると、すっかり落葉済み。その落ち葉も完全な枯れ葉色で、紅葉の名残も見られません。ここは山の北面なので、紅葉せずに落葉したのでしょうか。

大谷ヶ丸分岐で左折すると、幅広い防火帯に入ります。見通しがとてもよく、ゲレンデにも似て、ちょっと絵本のような空間です。防火帯の左右には、いずれも背の高い、オレンジ色のカラマツと、緑色のツガなど。その中央を悠々と、気分よく下って行きました。右手に端正な姿で立つのは大谷ヶ丸。紅葉したカラマツの衣を羽織って、滝子山より高く、きりっと聳える姿は、なかなか粋です。行く手はるかに、金峰山や八ヶ岳も望めました。

防火帯がやや左にカーブすると、左手の林に真っ赤なモミジが見え始めました。なるほど、本当に「見事!」です。笹原の踏み跡から木に近づいて、紅葉を見上げると、そこは透過光の芸術劇場、かぶりつき。「♪手のひらを太陽にかざして見れば、真っ赤に燃える…」のは、コハウチワカエデ。たくさんの落葉広葉樹や落葉松(カラマツ)などと混生しています。集団の多様性は平和と豊かさの証し。心ゆくまで鑑賞し、のどかな秋の回廊を、足取り軽く下って行きました。

段落見出し美しい「難路」

防火帯の鞍部で、笹子駅への道を右に分けます。また道草ですが、真っ直ぐ防火帯を登り返して、草の上に寝転びました。こんな爽やかな、好ましい時間には、もう少し浸っていたい。それに、うまく時間を調整すれば、帰りもバスに乗れるかも知れません。たおやかなカラマツを眺めながら体を起こし、まだまだ熱いミルク紅茶を、ゆっくりと飲みました。そして、体のエンジンが冷えないうちに立ち上がると、鞍部に戻らずに、防火帯をそのまま行ってみることにしました。

防火帯が切れ落ちて終るところでは、ずっと下の小沢を歩く人たちが私を見て手を振ってくれました。私も手を振り返します。その先に踏み跡はありませんでしたが、普通に下ることができました。小沢まで下りると、壊れかけた小さな木橋があります。清流に磨かれて底に堆積した砂がきれいです。この可愛らしい流れがすみ沢の源流で、これ以降、すみ沢沿いに登山道が続きます。クマザサの道をしばらく歩き、やがて左下に光る川面を見ながら下るようになりました。

小さな木橋から20分ほどで、「難路」と「迂回路」の分岐にやって来ました。左の「難路」に進みます。その結果は期待にたがわず、いくつもの美しい滝や、彩り豊かな林相を楽しむことができました。どこが「難路」かと言えば、所々で道がザレていることです。そんな所では、靴底の摩擦を利かせて、ゆっくり慎重に歩きました。木々には虹スペクトルの赤から緑まで、すべての色があります。加えて空の青と、沢の白い飛沫。絵の中を歩いているような道が、迂回路を合わせるまで続きました。

段落見出し笹子駅に帰還

林相はガラリと変わって、ほの暗い杉と檜の針葉樹林になります。途中、土砂崩れで、大きな杉の木がたくさん倒れているところを通過しました。こういうのは、ずっと放置されるのでしょうか。大きな三本立ちのトチがあり、青い空に黄金色の大きな葉をかざしている様には、威厳と気品を感じました。そして三丈の滝で沢の左岸に移ると、道は高くなり、沢はとても深くなりました。やがて浜立山の南西尾根を巻き、送電鉄塔を右に見ます。最後に道証地蔵の手前で沢に下りて、手と顔を洗いました。

道証地蔵から櫻公園まで、やや長ったらしい林道歩きがあります。まだ午後3時前なのに、夕暮れの雰囲気になっていました。そして櫻公園で再び明るい午後の日ざしを取り戻すと、岩に腰を下ろし、靴を脱いで、時間調整をしました。足の血行がよくなり、気持ちのよい感覚が脳に伝わってきます。時間を見計らって、裸足で整理体操をし、靴をゆるく履いて、吉久保に向かいました。この道が中央道を越えると、背後に滝子山をもう一度望めます。きょう笑ってくれた滝子山に、目でありがとうと言いました。

吉久保バス停で、まだ少し時間があったので、次の吉久保入口まで歩きました。国道20号を横断すると、笹子駅方面行きのバス停があります。そこで待っていたら旧道側からバスがやってきて、国道に入る手前で止まり、私に手招きしました。確かに、そこで乗降する方が、バスにも人にも好都合です。いっそ、バス停標識を移動したらいいのではないでしょうか。こうして、行きも帰りも国道20号を歩くことなく、滝子山登山を完了し、笹子駅にゴールインしました。すべて感謝、感謝です。

木の葉ライン

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