山はいいなあ  >  中央沿線  >  浜立山・滝子山

浜立山・滝子山

雲の消え去った、美しい富士山

滝子山主峰より望む、すっきりした富士山

浜立山から南西に、すみ沢の屈曲点に向かって伸びる尾根を、本記事中では仮に「浜立尾根」と呼ぶことにします。滝子山登山では、マイナーなルートです。

甲州市の景徳院には、ソメイヨシノの古木があり、市の天然記念物に指定されています。

バス停 富士急山梨バス: 笹子駅 → 吉久保入口 登山口
バス停 甲州市民バス: 甲斐大和駅 ← 景徳院入口 登山口

地図 地理院地図: 浜立山 , 滝子山

天気 滝子山の天気: 大月市 , 滝子山 , 笹子駅

関連記事 レポ: 道証地蔵から滝子山 , 寂惝尾根から滝子山 , 白野宿から滝子山 , 恵能野からアモウ沢乗越


コース & タイム 鉄道駅 笹子駅 バス停 7:32 == 7:34 吉久保入口 7:35 --- 7:52 櫻公園 7:54 --- 8:26 道証地蔵 8:26 --- 8:41 浜立尾根取り付き 8:42 --- 9:42 P1305m 9:51 --- 9:56 大きな岩 10:01 --- 10:21 浜立山 10:22 --- 10:27 岩頭 10:34 --- 10:39 浜立山 10:57 --- 11:35 滝子山 11:54 --- 12:03 鎮西ヶ池 12:05 --- 12:09 アモウ沢乗越分岐 12:09 --- 12:57 悪路・迂回路 12:58 --- 13:07 笹子駅分岐 13:07 --- 13:31 曲り沢峠 13:32 --- 13:37 オッ立 13:42 --- 14:00 大鹿山 14:05 --- 14:26 大鹿峠 14:27 --- 15:37 景徳院(ゴール)16:23 --- 16:24 景徳院入口バス停 バス停 16:32 == 16:37 甲斐大和駅 鉄道駅
※歩行時間には小休止と写真撮影の時間が含まれています。
浜立山・滝子山 はまだてやま、はまたてやま:標高 1482m、たきごやま:標高 1615m
単独 2017年4月19日 全8時間2分 満足度:❀❀❀ ホネオレ度:❢❢❢

4月19日、首都圏の電車や山形新幹線も止まるほどの強風が吹いた日、浜立山と滝子山を歩いて来ました。浜立山の急登では風に煽られてバランスを崩しそうになることもしばしば。展望地の岩頭では、ほとんど暴風となり、立っていられないほどでした。富士山は残念ながら雲の中。でも、その後雲が霧消して、滝子山に到着した時は、スッキリ美しい富士山を望めました。ゴールの景徳院では、風格ある山門と、優美な桜の取り合わせを、心ゆくまで味わってきました。

段落見出し笹子駅からバスで吉久保入口へ

笹子駅前から吉久保入口まで、国道20号を歩きたくないので、今回もバスを利用します。バスを待つ時間、駅前の広場で準備運動を念入りにしておきましょう。足下では可愛らしいタンポポの花が、みな同じように太陽の方を向いて咲いています。太陽の動きに合わせて首を回すのでしょうか? いやいや、そんなはずは。

バスは吉久保入口から狭い道に入ったところで停車してくれました。降りる私に「気を付けて」と、運転士さんの一言が与える、根拠不明の安心感。いいですね。JR中央本線の下をくぐって行くバスを見送り、私も後に続きます。チューリップが数十本、気儘な間隔で咲いている角地がありました。家の前に立っていたおばあさんに「お早うございます」とあいさつしたら、「チューリップがきれいでしょう!」と言われました。

稲村神社は、枝垂れ桜がきれいでした。しげしげと眺めていたら、近所の犬が吠え始めました。地元の人々と何か異なり、私に不審者のような気配を感じるのかな。まあ、番犬はそうでなくては。そして集落を抜けると、いつものように、滝子山が雄姿を表しました。稜線のほぼ左端に垂直の断崖が見えますが、あそこが浜立山でしょうか。名前にある「立」という字は、あの切り立った断崖から来ているのかも。西方のお坊山東峰も、巨体をどっしり据え、貫禄十分です。

段落見出し長いアプローチ

櫻公園は、花吹雪の真っ最中でした。風は強く吹いたり、弱く吹いたりします。花吹雪も華やかに激しく舞ったり、優しく雅やかに舞ったりしていました。花見をしていれば、花びらが飲み物にいくつも浮かぶことでしょう。ところで、きょうのゴールに予定している景徳院の桜は、どんな様子でしょうか。その前に、浜立山と滝子山では、どんな花が咲いているかな? 山が笑っているときは、少々の急登もいつの間にか、楽しく登れてしまいます。

田通乃姥神を過ぎた直後、「狐の嫁入り」がありました。見上げれば、真っ青な空。いったいどこに雨雲があるのか、おそらく、きょうの強風で遠くから飛ばされて来た雨粒なのでしょう。気になる雨ではありません。側溝に設置されたコップ付きの水場で「力水」を付けます。林道の湿った個所では、たくさんのヒキガエルが、ペアリングをしていました。茶色の大きなガマガエルの上に、黄色っぽい、やや小ぶりのがしっかり抱き着いています。なぜか、全く動きません。

林道歩きに飽きてきたころ、ようやく道証(みちあかし)地蔵にやって来ました。右手の沢に下り、木橋を渡ります。ここからが登山の本番。前日の雨でじめじめした道を、ゆっくりと登って行きました。左に送電鉄塔を2回見て、すみ沢本流が大きく右に曲がる直前が、浜立尾根の先端です。道証地蔵から15分ほどで到着しました。尾根取り付き口の、立ち木の根元に赤テープがありますが、何も目印がなくても、踏み跡は容易に見つかるでしょう。

段落見出し急登を選ぶことの意味

浜立尾根は、はじめ暗い針葉樹林でしたが、すぐに明るい落葉樹林になりました。これはすてきな尾根道だと思ったのもつかの間、谷筋では感じなかった風が激しく吹き付けて、立ち止まると寒くなりそうなほど。登山道も踏み跡もないので、ほぼまともに直登するのですが、スピードを加減しないと、そのうちに筋肉が悲鳴を上げかねません。ゆっくり、ゆっくりと、ひたすら尾根の中心線あたりを登って行きます。

ミツバツツジが咲いていました。寒風の吹きすさぶ尾根でしたが、透明感のある赤紫色の花は、元気をくれる色彩です。この花がずっと続いてくれるといいのですが、そこからわずか5分ほど登ると、花は見られなくなりました。ツツジの木はその先にもたくさんあったので、これから上へ、上へと咲き上がって行くのでしょう。もしかしたら、隠れた花の名所なのかも。浜立山は、白縫姫のための花立山、だったりして。急登の喘ぎを紛らわすための勝手な空想ですが。

ふと振り返ると、もの凄い急斜面に見えました。下りではスリップや転倒に注意しないと、ずっと下まで転げ落ちかねません。すみ沢沿いの登山道を女坂とすると、浜立尾根は男坂。決して時間の短縮にはならないこの尾根を登る理由は何でしょうか? 言うまでもなく「そこに尾根があるから」なのですが、冬枯れの今は、見晴らしと日当たりが好いのは確かです。新緑や紅葉の美しさも、その季節ごとに登ると分かるのでしょう。山の魅力を簡単に知り尽くすことはできません。

段落見出し浜立山の岩頭へ

取り付きから1時間10分ほど歩いたころ、傾斜のなだらかな場所がありました。後に写真のGPSデータを確認すると、そこは標高1305mあたり。南面に座れば、日は当たるけれども風の当たらない、休憩の好適地です。ヤマレコによれば、浜立山の「付近の山」の一つに、[0.6km]寺平(てらでえろ)という地名がありますが、その距離から判断して、きっとここでしょう。地理院地図の1246m地点のずっと上の方です。

そこから5分ほど登ると、大きな岩が立ちはだかっていました。ホールドが多いので、普通に登れそうです。でも左側に赤テープがあったので、迷わず左を巻きました。その後も寂惝尾根に似た岩稜が所々に見られ、赤テープのある場合はそれを追って行きました。右手を見やると、山麓から望んだ、あの断崖が目の高さです。そして、大岩から約15分で、東西方向に延びる尾根に立ちました。西方へは通せんぼがしてあります。この尾根を東へ5分歩いたら、浜立山の山頂でした。

さっそく展望地の岩頭に向かいます。山頂から少し戻って、南へ5分。一旦下って登り返すと、イワカガミの赤銅色の葉がびっしり生えた岩頭に至りました。ところがそこは空中に突き出た、吹きさらしの空間。強風というより暴風に近い風が吹き付け、立っていると吹き飛ばされそう。腰をできるだけ低くし、帽子を脱ぎ、山々を見渡しました。残念ながら富士山は雲に覆われ、裾野の一部が見えるだけ。南アルプス、八ヶ岳なども、どこが何岳なのか、判然としません。

段落見出し浜立山から滝子山へ

風が強いので、早々に引き上げます。浜立山の展望台は、期待して来ただけに残念でした。それでも、お坊山東峰から笹子雁ヶ腹摺山に続く山稜を俯瞰することができたほか、近隣の山地を鳥の視点で眺められたのは収穫でした。このように浮揚感の豊かなビューポイントは、ざらにないでしょう。首都圏からこの山域に来る登山者は、西方の山々に憧れがあります。まず初めに探すのが富士山の姿。そして、赤石岳、北岳、甲斐駒などを擁する南アルプスです。

浜立山の山頂に戻りました。そこに腰を下ろすと、ウサギやキツネのように、静かな林に隠れた気分。熱いお茶と調理パンを取り出して、お昼にしました。山頂からは、枝越しですが、双耳峰の大谷ヶ丸、その右肩に黒岳、さらに右に離れて滝子山を望めます。この境地は、「徐如林」(しずかなること林の如く)だったとは、景徳院に下り立ってからの感想。平穏な山頂で十分に体力を養生し、滝子山に向かいました。

寂惝尾根と出合う地点までは、のどかな道でした。ところがそこから滝子山に向かう道には、小規模ながら少々荒れ気味の岩場がありました。ここは2年前に歩いたはずですが、好い思い出以外は消えてしまったようです。前日の雨でグズグズした岩場は、手を掛け、体重を預けると崩れそうな気がして、緊張を強いられました。そして滝子山主峰に至ると、雲が消え去って、スッキリした姿の富士山が待っていました。すごいご褒美をいただいた気分です。しばしお茶休憩。

段落見出し曲り沢峠へ

下山は、まず鎮西ヶ池を経て、曲り沢峠に向かいます。実は、曲り沢峠と大鹿峠の間を歩くと、大菩薩嶺から三ツ峠山まで足跡が繋がるのです。私にとっての未踏峰、オッ立(おったて)と大鹿山(おおじかやま)を訪れるのも楽しみです。単独登山は、自己満足を最大限にするよう計ってこそ楽しいもの。時には変則的なコース取りもあり得ます。

鎮西ヶ池では、また人の声が聞こえるか、耳を澄ましましたが、何も聞こえませんでした。先回聞いたのは、空耳だったのでしょう。カラマツ林の防火帯は相当に雨を含んだようで、やさしくそっと歩かないと、地表が崩れました。すみ沢の源流域では、白い川床を行く清流がさらさら、キラキラ。天に響くような小鳥の声と相まって、「あ、ここも桃源郷だ」と思いました。いつかこの沢の上流域で、じゃぶじゃぶ歩きをしてみたい気がします。

「難路」と「迂回路」の分岐点から「迂回路」に進みます。少し登り返すと、あとはずっと平坦な道。左手に滝子山と浜立尾根が、まだ葉のないカラマツ越しに望めます。三ツ峠のアンテナ群が、白い富士山をバックに影絵になって、少しずつ左に移動して行きました。笹子駅への道を左に分け、相変らずウソのように楽な登山道を進みます。アブラチャンの群落があり、何度も撮影しましたが、全部ピンボケNG。そして左前方にオッ立が見えると、すぐに曲り沢峠でした。

段落見出し不遇の峰(?)オッ立と大鹿山

曲り沢峠に来た途端、北西の谷から吹き上げる強い風に見舞われました。ここからオッ立に登るのですが、道が分からないので、斜面を適当に登ります。凄まじい横風を受け、帽子を押さえますが、高低差はせいぜい30mほど。あっという間に登頂してしまいました。新旧二つの山頂標が立っています。平成八年十月、大和村と書かれた白い標柱が、新品のようにきれいなのが印象的です。いずれの標柱も、頭に防水用の金属冠をかぶせてありました。滝子山のもお願いします。

オッ立山頂からは、滝子山、浜立尾根、お坊山と東峰などが、冬枯れの季節限定で望めました。山頂から南に延びる、太い尾根に進まないようにしましょう。縦走路へは、西北西の尾根を下ります。ここも道がないので、適当に下って行くと、右からの縦走路と出合いました。すぐ先の鞍部で景徳院への道を右に分けますが、足跡をつなぐために、ここは見送ります。目指す大鹿山は目の前の低いピークで、高低差は20m程度。これまた道が分からないので適当に登りました。

大鹿山頂にも、オッ立と同様、二つの山頂標が立っていました。加えて私製の小さな山名標もあります。特にこれという感慨もない峰ですが、せっかく来たので山頂標に記念のタッチをしました。ところが下る道も分かりません。またまた適当に、西の尾根を下って行きましたが、左から巻き道が接近してきた地点で、巻き道に飛び降りました。どうもオッ立と大鹿山とは、巻き道を歩く人の方が多いようです。私自身も、一度踏んでおけば十分だと思いました。

段落見出し景徳院の桜に感動

大鹿峠も強風の通り道でした。すぐに景徳院に向かいます。送電鉄塔に向かって少し登ったら左折。送電線巡視路でもあるプラ階段の道をどんどん下ります。ここを歩くのは3度目。「松の廊下」(アカマツ数本あり)や「落ち葉スライダー」(滑り台)など、勝手に名付けてあります。山中で不思議な轟音が鳴り響いて来ましたが、それは頭上を越える複数の送電線が強風に唸る音でした。氷川神社の先、凍結した道で転倒したことがあるので、最後まで気を緩めず歩きます。

登山道の終点、パッと視界が開け、田野や初鹿野の集落を望めるところは、とても楽しみです。今回は、初めて桜が咲いていました。景徳院にも桜が見えます。期待に胸をときめかせつつも、民家の庭先を遠慮がちに通らせてもらい、田野の車道に下り立ちました。そして桜満開の景徳院へ。今わずかに散り始めたばかり、まるで絵画そのもののような山門にゴールインしました。バスが来るまでの時間、桜咲く禅寺の美しい庭を、心行くまで味わいました。

木の葉ライン

↓ 紙芝居



©2017 Oda Family  All Rights Reserved.