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夢の(?)辺室三角形

みやがせ道より望む坂尻

みやがせ道より、坂尻集落と鐘ヶ嶽を望む

辺室山を囲み、坂尻・旧土山峠・物見峠を頂点とする、「辺室三角形」を勝手に設定しました。歩く三辺には、みやがせ道、宮ヶ瀬尾根、辺室沢右岸尾根を含みます。

堤川は、川弟川(かわおとがわ)の源流部です。現在は宮ヶ瀬湖に水没している川弟川の左岸に、未完成の村道があります。

バス停 神奈中バス: 本厚木駅 ⇔ 坂尻 登山口

地図 地理院地図: 坂尻 , 旧土山峠 , ルート図

天気 辺室山の天気: 清川村 , 土山峠

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コース & タイム 鉄道駅 本厚木駅 バス停 8:40 == 9:23 坂尻バス停 9:25 --- 9:30 みやがせ道トイレ 9:32 --- 10:17 旧土山峠 10:18 --- 10:31 土山峠 10:48 --- 10:55 3号橋 10:56 --- 11:04 堤川左岸尾根取り付き 11:04 --- 11:43 400m地点 11:46 --- 12:15 530mの岩で昼食 12:30 --- 12:48 600m峰(宮ヶ瀬尾根出合) 12:51 --- 13:03 ハタチヶ沢・堤川分岐 13:03 --- 13:11 610m小峰 13:11 --- 13:54 フォークの木 13:54 --- 14:05 堤川山(能ノ爪)14:06 --- 14:20 石祠のある三叉路 14:30 --- 14:39 物見峠 14:44 --- 15:12 三峰山登山道出合 15:13 --- 15:23 430m小峰 15:23 --- 15:28 436m(森ノ岳)15:31 --- 15:49 辺室沢堰堤 15:50 --- 15:58 ゲート 15:58 --- 16:02 坂尻バス停 バス停 16:04 == 本厚木駅 鉄道駅
※歩行時間には、道探しと写真撮影と道草の時間が含まれています。
堤川山(能ノ爪) つつみかわやま(のうのつめ):標高 推定 740m+ 単独 2017.4.24 全 6時間37分 満足度:❀❀❀ ホネオレ度:❢❢❢

4月24日(火)、辺室山を囲む山域を歩いてきました。四月は、近隣の山域にイワウチワやヤマザクラやアカヤシオなどが咲き、心もそわそわ、どの山に、いつ行くか、悩ましい月です。でも花に決め手がないときは、低山でいち早く新緑に浸るのも悪くありません。東丹沢にヤマビルがうごめき始める前にと思い立ち、設定した三角ルートを歩いてきました。

段落見出し 坂尻バス停からみやがせ道へ

「朝晩は曇り、日中は晴れ」と予報されていたので、遅めに出発しました。坂尻でバスを降りたのが、9時23分。まだ曇っていました。里にまだ咲いているのは、八重桜。バス停の横に立っている「関東ふれあいの道」の案内板を見て、法論堂川(おろんどがわ)沿いの道に進みます。少し行くと、木製の道標がありました。「旧宮ヶ瀬線」の文字を確認し、左に分岐するヘアピン状の坂道を上ります。この時、小キジを我慢していたのですが、いい具合にトイレがありました。

坂道を上り切ると、俄然見晴らしがよくなりました。山々は濃淡さまざまな緑のパッチワーク。極薄ピンクのヤマザクラがアクセントを添えています。西方にデンと伏せた、大きい山が辺室山。これからこの山の周囲を、半時計回りに1周します。南に望む形の整った山は、鐘ヶ嶽でしょう。きょうは眺望を期待せずに来たのですが、このみやがせ道からのパノラマは、思わぬプレゼントでした。でも空が青かったらもっときれいだろうにと、つい欲が湧いてしまいます。

みやがせ道は、県道64号とほぼ並行して、北西の宮ヶ瀬に向かっています。左右は杉林だったり、草原だったり、混交林だったりと、ほどほどの変化がありました。山道ですが、登山道よりも幅広で、二人並んで歩いてもゆとりがあります。かつて、人馬や荷車の往来が普通にあったのでしょう。今はひっそりと、古道っぽい雰囲気。道のわきには、ミミガタテンナンショウとヤマブキが目立ちました。やがて左手の空が明るくなり、仏果山登山道と斜めに接続しました。

段落見出し 萌える谷

道標に従い、土山峠方面に進みます。ベンチの二つある休憩所がありますが、ここが旧土山峠でしょう。みやがせ道は、あっけなく終わってしまいましたが、これで三角形の一辺を歩いたことになります。さらに進んで階段道を下り、県道を2分ほど歩いて、現在の土山峠に到着。ここは辺室山の登山口で、バス停があります。坐禅石の脇を通って湖畔に下り、準備運動をしました。ここは大文字形の宮ヶ瀬湖の南端の一つで、細長い人造湖を一直線に見渡すことができます。

これより未完成の村道に入ります。土山峠の北西約300m、虫垂のように突き出た岬がありますが、これが目指す堤川左岸尾根の下端です。この尾根を登って宮ヶ瀬尾根に至る計画ですが、どう取り付けばよいのでしょうか? 通行可能なルートが見つかればいいのですが、さもなければ、きょうは偵察のみ、ということになります。土山峠から村道を進み、最初の橋を仮に1号橋と呼びますが、3号橋のすぐ手前に作業用径路の入口があるので、まずここから入ってみます。

入り口に、「行き止まり、危険箇所があるので、関係者以外立入禁止」と書かれています。ありゃ、ダメか、と思いましたが、「行き止まらなければよい、危険箇所を避ければよい」と屁理屈をこねて、「ちょっとだけ見せてください」と言いながら入って行きました。とはいえ、うしろめたい気持ちがします。でも谷間に溢れる緑、さらさら流れる清流の音に引き込まれて、次第に深入りしてしまいそう。もうここでやめようと思った時、赤テープがありました。

段落見出し 萌える尾根

赤テープの先で、作業用径路は対岸に続いていました。探索はここできっぱりと中止。さて、現在地の東の尾根が、堤川左岸尾根です。見上げると、まだ大して高くはないので、ここから尾根に乗ることにしました。あまり高低差が大きくなると、上の方が見通せず、無理に見切り発車をすると、最悪の場合、どこか途中で進退窮まることになりかねません。行く手の岩や、立ち木などを見てルートを決め、グズグズ気味の斜面に取り付きました。

登って行くと、朽ちて斜面と同化した階段がありました。ルートの選定としては概ね妥当だったようですが、こんな階段は全く足場になりません。下を振り返ると、すごい急傾斜。万一滑落したら、どこでどうしたら止まれるかも考えておきます。何も手がかりのない場所では、四駆(両手両足)モードでヤモリのように、斜面にへばり付いて登って行きました。ドライバーは持って来ませんでしたが、腐葉土の地面が緩いので、あってもあまり役に立たなかったでしょう。

まずまず危なげなく、尾根に乗ることができました。尾根上にも朽ちた階段が続いていて、相変わらず難路です。さらに5分ほど尾根を慎重に登ると、普通に歩けるようになりました。新緑に萌える山の息吹を、胸いっぱいに吸い込みます。今登って来たルートは、とても人に奨められるようなものではありません。次回は、別のルートを探すか、堤川林道経由で宮ヶ瀬尾根に乗るか、少し遠回りして、未完成の村道の終点から617m峰を目指すのが良いかな、などと考えました。

段落見出し 悩ましい鹿柵

さて、堤川左岸尾根にも丹沢名物の鹿柵(植生保護柵)が縦横に設置されていました。柵越え用に橙色の鉄製脚立があるのですが、不安定な脚立に乗るのは怖いもの。動物が開けたか、人が開けたか判らない抜け穴もありますが、いずれにせよ柵の右を行くべきか、左を行くべきか、悩ましい判断を迫られます。鹿戸(扉)があればいいのですが、尾根上の鹿戸は、1箇所しかありませんでした。結局、カンで判断して行きましたが、幸い何とか柵地帯を抜けることができました。

標高530m地点に腰を下ろせる岩場があったので、リュックを下ろして昼食にしました。熱いお茶を飲み、落ち着いて周囲を見回すと、美しい樹木がたくさん。いや、どの木もみな美しく見えます。四季を人生に喩えれば、新緑は青春時代。青年たちと付き合うと元気をもらえるように、今は山に若々しいエネルギーが充満しています。思い切りその生気を吸い込みながら、いいところだなあ、と一人で悦に入っていました。でもここを人にお奨めできるかな? まだ分りません。

尾根の詰めに入ります。急登に喘ぎますが、危険個所はなく、ひたすら頑張るだけで登り切りました。そこは標高600m+、宮ヶ瀬尾根への接続点で、白杭に「大岩のピーク」と落書きがあります。ご神木のような風格を持つ樅の木にタッチ。南へ続くヤセ尾根で、鹿柵と立木との狭い隙間を、カヤの固い葉にチクチク刺されながら通過しました。でもその後は尾根幅が広がります。ところで、緊急時はP597の南方約200mから、南東の尾根を経由して、堤川林道に下りられます。

段落見出し 宮ヶ瀬尾根の持ち味

P610m+の小峰で南東に屈曲します。これから先、宮ヶ瀬尾根に特徴的な、障害物を伴うヤセ尾根が続きます。多少のアップダウンもありますが、息が切れるほどではありません。左手に辺室山、右手に鍋嵐北稜、振り返れば、宮ヶ瀬尾根最高の617m峰や、先ほど通過した610m峰が望めます。また足下に青緑色をした岩が見られるのもこの辺りです。天候が穏やかで、時間にゆとりがあり、体力と気力が充実している時に限定すれば、楽しく歩けるでしょう。

宮ヶ瀬尾根が終わりに近づくと、尾根幅がとても広くなり、名物の「フォークの木」が立っています。「ブランコの木」と呼ぶ人もいます。はたまた「山」という字にも見え、宮ヶ瀬尾根のアトラクションの一つです。この木から10分ほど登ると、能ノ爪(堤川山)に至りました。この峰が宮ヶ瀬尾根の起終点で、鍋嵐の東稜と接続します。木々の隙間から、焼山や宮ヶ瀬湖を何とか覗けました。ここで左折。少し進むと、相州アルプスと関東平野の好展望が待っています。

鍋嵐東稜に1箇所、ロープ場があります。そこはミニキレットで、特に南面の谷は底なしかと思えるほど深く、急激に落ちています。通常は問題なく直進して登り返せるのですが、あいにく、たくさんの小枝を持つ大きな折れ枝が行く手を塞いでいました。やむを得ず、その大枝に潜り込み、どうにかこうにか通り抜けました。そこは石の祠のある三叉路のすぐ西です。少なくとも、この折れ枝が片付くまでは、「この先、登山道ではありません」の立札を尊重しましょう。

段落見出し 夢と悪夢の岐路で

小さな石祠のある、辺室山・物見峠の分岐にやって来ました。休憩の好適地なので、ここで腰を下ろしてお茶にします。おやつの一口ドーナツで、糖分を補給。ここで、三角形の第三辺をどのルートにするか、思案しました。当初は、唐沢林道を少し下って、途中から辺室林道を歩いて坂尻に至るつもりでしたが、少し冒険が過ぎるような気がします。森ノ岳経由で坂尻へ行く道は、より安全だけれども、つまらなさそう。最終判断は、ここでしておきたいと思いました。

辺室林道は、辺室沢に沿う廃道ですが、今も地理院地図にはっきりと破線で示されています。実際に歩いた人のレポが、WEB上に幾つも見られますが、当然とはいえ、いずれも一般登山道に飽き足らない人々の記事ばかり。初めて歩くのなら、天気の良い日の午前中が理想的です。この時、午後2時20分という微妙な時刻。私は下山路の最終コーナーで道を間違えたことが何度かあり、自分を戒めてきました。結局、理性がワクワクへの欲望を抑えて、森ノ岳を選びました。

立ち上がり、物見峠に向かいます。歩き始めるとすぐに、行き止まりでした。でもよく見ると、真新しい倒木が道を塞いでいるだけ。山では何があるか分らないものです。物見峠では、辺室山の中腹に刻まれた唐沢林道を一瞥し、煤ヶ谷方面へと迷わず進みました。崩落個所もあり、足下をよく見て歩くべき道です。突然、ガツン、ガツンと飛び跳ねながら、岩石が落ちてきました。怖い! 上にいたシカが落としたのでしょう。ヒヤヒヤ。危険はどこにでもあるものです。

段落見出し 御姫様ロード

危険地帯の約800mを通り抜けると一安心。左手に、新緑とヤマザクラが美しい辺室山を望めました。この道では、色鮮やかな紅葉の辺室山を見たこともあります。辺室山が見えなくなると、間もなく三峰山登山道に合流。さらに7分ほど下って煤ヶ谷への道を右に分け、森ノ岳へと向かいました。印刷してきた地図を見ます。尾根を正しく選ぶのが勝敗の分かれ目。雨量観測施設のある森ノ岳山頂までは、全く問題ありません。ところが、そこから予想外の展開となりました。

森林作業をしていた若い男性が近づいてきました。「どちらへ?」と尋ねられたので、「できれば坂尻へ行きたいのですが」と答えると、「この道を行くと、水道施設に行けますよ」と、夢のような言葉。「本当ですか、ありがとうございます」と私。この若者は終始にこやかでした。きっと私の願っていたことを知っていて、声をかけてくれたのでしょう。その作業道は、最近造られたばかりのジグザグ道。黒い土が盛られて、高級じゅうたんよりもフカフカでした。

まるでハイウェイのような道を、私は小走りに下りて行きました。私の登山歴で、こんなに歩きやすい道は、初めてです。近々皇太子殿下が歩かれる、と言われたら信じるかも知れません。途中から、ヤマザクラの白い花びらが、黒い絨毯にたくさん撒かれていました。おお、御姫様ロード、踏むのがもったいない! 一気にジグザグ道を下り終えると、「清川宝の山」の碑を再び見て、辺室沢の広い川原に下り立ちました。大きな堰堤のすぐ上流です。本当に夢みたいでした。

段落見出し 最後の難関

堰堤の右岸に白い手すりが見えたので、行って見ると、作業道がありました。以後、楽々と歩いて、水道施設の横を通り過ぎました。辺室沢水道橋を渡り、坂道を上ります。すると、道を閉鎖するゲートがありました。しっかり施錠され、歩行者用の通路もありません。ゲートの端を回り込もうにも、「忍者返し」のようなものが取り付けられています。これは困ったことになりました。思いがけず現れた難関を、どう乗り越えたらいいでしょうか。

1時間に1本しかないバスの時刻が迫っていました。やむを得ず通り抜けます。振り返ると、「関係者以外立入禁止」と大きく書かれていました。「忍者返し」まであるのは、設置者の強い意志表示でしょう。したがって、詳細を記述することは控えます。「立入」ではなく「立出」だとは言え、ここは別のルートを探しましょう。ここから下り坂を走って、バスの予定時刻ぴったりに、坂尻バス停に滑り込みました。三角形の完成です。

こうして、私が勝手に設定した「夢の」三角ルートを実地で歩き、すばらしい魅力と、多くの欠点や問題があることが判りました。これからコース取りを修正し、山の友たちと楽しく歩けるよう、工夫して行こうと思います。なお、この日ヤマビルを見ることはありませんでした。

木の葉ライン

↓ 紙芝居



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