裏高尾の蛇瀧水行道場の石垣には、真夏にイワタバコの花が咲きます。小さく慎ましく、潤いのある花です。花を楽しんだ後は、緑陰たっぷりの登山道を歩き、2号路と4号路を経て高尾山の頂上に至ることができます。
同じ頃、稲荷山コースにヤマユリの花が咲きます。大きく、のびのびと咲き、山路に強い香りを放ちます。もちろん、他にもたくさんの花が咲き、虫や鳥たちも生を謳歌しています。そして、暑さにもかかわらず、多くの人々がこの山を訪れます。
地理院地図: 高尾山
高尾山の天気: 八王子市 , 高尾山
レポ: 高尾山-蛇滝口から
7月19日、真夏の高尾山に行って来ました。小仏川沿いの梅郷遊歩道から、イワタバコの花咲く蛇滝コースへ。その先、全線開通した4号路を経て山頂に至り、昼食後は稲荷山コースを下りました。暑い日の低山歩きでしたが、この季節ならではの魅力もたくさんありました。
横浜市青葉区恩田町に、ひまわり募金の畑があります。東日本大震災の被災地支援のために、ひまわりの花を1本100円で販売しているもので、この夏で3回目になります。この畑のひまわりが咲き揃う頃なので、山に行く前に、恩田町のひまわり畑に立ち寄りました。
場所は、こどもの国通りの中恩田橋交差点のすぐ近く。あたりは田んぼで育ち盛りの稲の、まぶしい緑が広がる田園地帯です。現場に到着すると、まだ誰もいませんでした。看板に「ひまわりの写真を撮ってください」と書かれています。ホイ来た、とちょうど朝の太陽に向かって咲いていた花をパチパチとデジカメに収めてやりました。まだ開花したばかりのような初々しさが、どの花にもみなぎっています。
余談ですが、ひまわりは漢字で向日葵と書きます。本当に首を振るのでしょうか?日没時に西を向いていた花が、朝は東を向く。それは日の出の瞬間にキュッと180度首の運動をする。朝のラジオ体操みたいに、たくさんのひまわりが一斉に首をひねる瞬間を見たいものだと、その昔思っていたことがあります。本当は、開花したら首を振らないそうです。でもひまわりは元気を象徴するような花。復興支援にはぴったりだと思います。
高尾駅から、西に向かって15分間ほど国道20号を歩きます。暑い上に排気ガスを吸わされるので、我慢のしどころです。上椚田橋(かみくぬぎだばし)に至ると、高尾梅郷遊歩道と書かれた道標が立っています。小仏川(南浅川)は緑の草が生い茂って、流れる水がよく見えないほど。よく繁った梅並木の葉も蔭をつくり、川伝いに爽やかな風が流れてきて、心地よい遊歩道になっています。紅白梅の代わりにと言っていいでしょうか、様々な山野草が咲き始め、飽きることなく蛇滝口に到着しました。
蛇滝口から蛇瀧水行道場までの道で、尺八の音色が聞こえてきました。誰かが練習しているようです。金属感の全くない、純和風の音色が静かな谷間をゆったりと流れ、束の間ながら劇の幕開けのような気分を味わいました。
蛇瀧水行道場が近づくと、ビニールを焼くような悪臭が漂って来ました。良いこともあれば、悪いこともあるものです。水行道場の石段わきのドラム缶でゴミを焼いていたのです。このあたりからイワタバコが見られるのですが、悪臭を我慢しながらの鑑賞になりました。
さて、イワタバコさん、ここの石垣だけにどうして生えたのか、誰かに植えられたのか、暗い木陰で軟弱そうですね。でも色美しく、瑞々しくも慎ましい、見たら忘れられない花。手振れを気にしながら、いくつもカメラに収めました。あまり明るい場所ではないので、本格的に撮影したい方は、三脚とレリーズをお持ちになるといいでしょう。
水行道場では、高尾山ケーブルカーの発車音(ポロロロロ)と走行音(ガタン、ゴー)がよく聞こえました。イワタバコの鑑賞と撮影を終え、高尾山頂を目指してジグザグ道を登って行きます。展望はあまり利かないのですが、木々の合間から圏央道八王子ジャンクションが見えました。高尾山を貫通する高速道路。良いことも悪いこともあるでしょう。動物や植物たちは、黙って排気ガスを我慢してくれるのでしょうか?ケーブルカーの発車音と走行音は、そのうちクリーンエネルギーの象徴になるかも知れないと、初めて思いました。
蛇滝コース自体は、あまり長くありません。登り始めて2回ほど発車音を聞くと、早くもケーブルカーの駅舎が見え、2号路に合流します。その2号路を7〜8分ほど歩くと、4号路に接続。このジャンクションで左折すると、薬王院に続く浄心門がすぐです。文化遺産のお好きな方には、こちらがお奨めです。私は右に4号路を進み、みやま橋を渡りました。高尾山唯一の吊橋です。その先、いろはの森コースと交差するところで、この何年か4号路が通行止めになっていましたが、うれしいことに開通していました。
単独のミヤマカラスアゲハが、登山道で吸水していました。翅がすっかりボロになっています。別の場所では、ピカピカのミヤマカラスアゲハが力強く飛んでいました。また数の上では、クロアゲハを最も多く目にしました。いずれも黒系の大型アゲハチョウです。
高尾山頂は、若者たちで賑わっていました。顔つきから察するに、大学生たちのようです。もちろん、中高年者や幼児も来ていました。この暑い日だというのに、さすがは高尾山。私はリュックを下ろし、山頂の主(ぬし)の蝶を探してみました。オオムラサキやスズメバチの来ていたコナラの木はもうなく、付近の木は緑の葉がいっぱい繁って、虫の姿は見られません。大きな栗の木にルリタテハが逆さまに止まっていましたが、翅をぴったり閉じて休息モードでした。
暑い日に強い運動はしたくないので、あっさり下山することにしました。涼しそうな6号路を下ろうかとも思いましたが、それでは、登りも下りも『陰』の道になってしまいます。『陰』の道というのは私の用語で、山の北面や谷すじの道を言います。逆に『陽』は、山の南面や尾根すじです。いろいろな植物や動物(ヒトを含む)と出会いたければ、『陽』と『陰』とをほどよく組み合わせるのが得策です。
稲荷山コースには、ヤマユリがたくさん咲いていました。すると、白百合のような若い西洋人女性がしゃがんで、一眼デジを地面に向けていました。何だろう?花ではありません。虫のようです。すると近くに蜂のような色合いのカミキリムシがいました。(帰宅後に名前を調べると、ヨツスジハナカミキリ)これを撮影したら、その人が静かに別の場所を指さしました。そこには、今飛んできて止まったばかりのアカハナカミキリ。カメラを向けたら飛び立ってしまいましたが、ここはカミキリムシの集まるスポットなのかも知れません。憶えておくことにします。
稲荷山コースでは、最初から最後まで、登ってくる人と、「こんにちは」を交わしました。山上で日没を迎え、都会の夜景を見下ろしながらビールを飲む人も多いと聞きます。でも驚かされたのは、単独の妊婦さん。まだ臨月には少し間がありそうでしたが、お腹がポンと大きくなって、思わず「転びませんように!」と心の中で祈りました。この赤ちゃんが生まれたら、どんな名前をつけてもらうのでしょうか。ちょっとうらやましいくらい、素敵だなあ。でも、くれぐれも慎重に。
ケーブルカーの清滝駅に下り立ち、高尾山口の氷旗(こおりばた)が見えました。ほっと安堵します。きょうは大した距離も高低差も歩いていませんが、結構な疲れを感じました。これが真夏の低山というものでしょう。皆様もどうぞ慎重に。
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