丹沢山から北東に伸びる尾根上に五つのピークが並んでいます。そのうちの著名な三つを丹沢三峰(たんざわみつみね)と呼びます。その連続した山容により、遠方からでも容易に見つけることができます。
⇒ 大山三峰山より望む、丹沢三峰 ⇒ 大山北尾根より望む、丹沢三峰
本来の丹沢三峰は、太礼ノ頭(現在の円山木ノ頭)、円山木ノ頭(現在の無名ノ頭)、本間ノ頭だったのかも知れません。
神奈中バス: 渋沢駅 → 大倉(終点) 神奈中バス: 本厚木駅 ← 宮ノ平
地理院地図: 丹沢三峰
丹沢三峰の天気: 丹沢山 , 秦野市 , 大倉 , 三叉路
レポ: 丹沢三峰 2014(シロヤシオ)
7月2日、日帰りで丹沢主脈縦走を計画しました。長丁場なので、日の長くなる季節を待っていたのです。しかし、丹沢山まで来て気が変わり、丹沢三峰経由で宮が瀬に下りることにしました。
下山後のバスの便を考えると、逆コースの方が良いかな、とも考えました。そうすると、ルート後半に山小屋もいくつかあり、万一の場合にも好都合です。しかし長駆を完走するには、まず始めの登りで疲労を最小限にすることが願われます。今までに何度も経験した大倉尾根を登る方が、ペース配分をうまくできると考えました。
渋沢駅発大倉行きの初バスは、6時48分発です。私が6時半にバス乗り場に行くと、すでに6人ほどがリュックを並べてありました。私もリュックを置き、バスを待つ間に登山者カードを書きました。備え付けの小さな用紙には、蛭ヶ岳より北の部分のルートが記されていません。そこで蛭ヶ岳から上に線を延ばし、東野を書き込みました。近頃、富士登山のニュースで言われる、「弾丸登山」と同じようなものです。このとき、もし可能なら、焼山を経て西野々まで歩きたいとすら思っていました。
バスに乗ったのは、25人ほどで、ほとんどが登山者でした。バスは7時ちょうどに大倉到着。下車したら、まず風の吊橋と、三ノ塔・二ノ塔の兄弟山を撮影するのが私の習慣です。今回は、しっとりきれいなアジサイの花を前景に撮影することができました。
大倉から塔ノ岳までは、大倉尾根を省エネモードに徹して登ります。標高差約1,200mを、大雑把に5等分し、5分間の休憩を4回取り、あとは登山道の傾斜に応じて、普通に呼吸ができる速さで登るというプランです。その結果は、休憩を除いた正味歩行時間で、3時間5分でした。疲労感なく登頂した省エネ登山としては、まずまず成功したと思います。
堀山の家を過ぎたあたりで、左の腿が微妙に重いことに気づきました。ズボンの左ポケットに携帯電話を入れていたために、ズボンの裏地と腿の間に変な摩擦があるようです。すでに電源を切ってあった携帯電話は、リュックにしまいました。すると、腿が気持ちよく持ち上がるようになって、効果てきめん。もっと早く気がつけばよかったと思いました。
花立山荘では、濃いガスで西も東もまっ白になり、何も見えませんでした。山野草も、ギンリョウソウからバイケイソウまで、白い花のオンパレード。塔ノ岳直下でようやくニシキウツギ(二色空木)の赤く染まった花が、登山道にたくさん散らばっていました。
晴れていればすばらしい展望のある塔ノ岳ですが、360度視界不良で、景観は望むべくもありませんでした。ただ、時おりわずかに鍋割沢や蛭ヶ岳の裾が、瞬間的に見える程度。私は蛭ヶ岳の方向を向いて腰を下ろし、行動食だけを摂って、体の冷えないうちに立ち上がりました。きょうは正味10時間の行動を予定しているのですが、まだ30パーセントしか来ていません。ゴールインするまでは、速過ぎず遅すぎず、経済速度と心拍のリズムを守って前進し続ける計画なのです。
シロヤシオの小群生地では、葉の縁に赤味を帯びたゴヨウツツジが見られました。ここから日高(ひったか)、竜ヶ馬場を経て丹沢山に続く稜線は、自宅からもよく見え、私の好きな散歩道です。残念ながらこの日はガスが濃くて、見えるのは行く手の丹沢山と左下方の箒杉沢くらいなものでした。
竜ヶ馬場では、昼寝をしている単独男性がいました。本当に眠っておられたかどうか分りませんが、私がヨモギ大福を食べていると起き上がられ、「寒いですねえ」と言いながら塔ノ岳の方に行かれました。相変らず日当たりはなく、ゆっくり休むと体が冷えるくらいの気温です。私はきっちり5分間だけ休んで立ち上がりました。
竜ヶ馬場から少し登ると、ブナの木などが繁る小広い空間があります。ここも私の好きな場所のひとつです。気持ちよく歩いて行くと、向こうから単独のご婦人が歩いて来られました。大倉尾根の登りで私を追い抜いていった人ですが、もう丹沢山に行って来たようです。私が省エネモードで歩くと、ほとんどの人に追い抜かれて行きます。登山は他者との競走ではなく、自分自身と向き合う旅程なのです。
丹沢山では、気象観測機器のメンテナンスをしていました。ソーラーパネルが並んでいる場所です。衛星回線で、観測データを自動送信する機械、オゾン濃度の測定機(ブナの立ち枯れとの関連を調査?)などあります。作業していた方によれば、きょうは曇り空の下なので、仕事をしやすいとのこと。かつて丹沢山頂ではdocomoの携帯電話が使えたけど、FOMAになってから使えなくなったとか。みやま山荘に衛星電話があるが、硬貨がどんどん落ちて行くとも。この方は、いくつもの山々を巡りながら、同様の作業をしておられるとのことでした。
丹沢山頂で昼食を取りながら、計画を再検討しました。ガスは全く晴れそうにありません。これから不動ノ峰、蛭ヶ岳、姫次と続く丹沢主脈は、もっと天気が良く、展望の利く日に歩かないと、もったいなく思えて来たのです。来た道を大倉に戻るのもつまらないので、宮が瀬に下りることにしました。こちらは、もともと展望の乏しいルートです。所要時間も2時間ほど短縮できます。ただ安全面では、2時間ごとに山小屋があり、通行人も多い主脈ルートに劣ります。
宮が瀬ルートには、私の知る限り、明瞭なエスケープルートがありません。ヤマビルもいるらしいので、万一のビバークも軽装では苦しいでしょう。ちょっと大げさな言い方をすれば、不退転の覚悟が必要です。幸い、ここまで省エネモードで温存してきた体力が十分にあるので、そのままのペースで慎重に進めば大丈夫でしょう。山と高原地図により、丹沢山から宮が瀬(の三叉路)まで、正味4時間15分と予想されました。
瀬戸沢ノ頭は、いつ登ったか分らないうちに通過。太礼ノ頭にも大したアップダウンを経ずに到着しました。ここで小休止。残りの三つの峰で、ちょっと大きな登り下りが待っています。夏らしくセミの声が響いていますが、姿は見えません。朽ちた木に大きなサルノコシカケがいくつも生えています。口を開いたブナの実も無数に落ちていました。
なかなか展望の利かないルートですが、円山木ノ頭の手前から、丹沢山を振り返り見ることができました。上の方は相変らず雲の中です。円山木ノ頭に達すると、東の空にわずかながら青い部分も見えていました。標高が下がるほど、晴れているような様子です。さらに無名の頭を越えて下って行くと、大山三峰山から大山へと続く山域を望めました。その向こうに見える伊勢原と厚木の市街地は晴れているようです。どこからか、ホトトギスの声が響き渡ってきました。
本間の頭の手前にハシゴがありますが、その両側にコアジサイが咲いていました。うす青色の涼しげな花で、目が癒やされます。樹高20cmほどの、ゴヨウツツジの幼木もありました。観葉植物のようにきれいな葉です。来年の五月になれば、この小さな木にもシロヤシオが咲くのでしょうか?
本間の頭を越えて下って行くと、まっ黒いおもちゃのネズミのようなものが道に飛び出して来ました。私の握りこぶしほどもない、小さなモグラです。すると地面に頭を突き立てて、あっという間にモコモコモコと潜ってしまいました。なかなかの早業ですが、潜った痕跡がはっきり残っています。これでは熊や狐に簡単に掘り出されてしまうのではないでしょうか。
長い下り道に、いいかげん飽きた頃、金冷シにやって来ました。ここは北面に眺望があります。丹沢主脈の最北部である焼山の稜線や、美しい宮が瀬湖も見えて、少し慰められました。鎖場の先に、小さな岩場があり、結び目の付いたロープが下がっていました。ロープを掴まなくても越えられるのですが、このロープは、半ば切れ掛かっていました。体重を預けると危険です。落ちると深い谷があり、ただでは済まされません。これは早く交換してほしく思います。
この件を、写真添付のメールで秦野ビジターセンターに連絡したら、「県管理歩道のため、管理者である神奈川県自然環境保全センター自然公園課へお伝えさせていただきます。」という回答をすぐにいただきました。
青宇治橋への道を右に分け、高畑山を巻くあたりから、道がとても歩きやすくなりました。宮が瀬からのバスの運行は1時間に1本です。バスの時間に合わせるように、時計を見ながら下って行きました。車道に下り、三叉路のバス停に行ったら、そこは宮が瀬方面(逆方向)行きのバス停でした。でも、すぐ先に宮ノ平(みやのだいら)バス停が見えます。小走りに歩いて、本厚木駅行きのバスに、どんぴしゃで乗ることができました。
この日、ヒルの姿を見ることはありませんでした。下山後に両足を点検しましたが、被害は全くありませんでした。次は、シロヤシオの咲く季節に、今回と同じペースで歩きたいと思います。
翌2014年5月24日、実行しました。→ シロヤシオ満開の記事はこちら
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