北八ヶ岳の天狗岳は、西と東にピークを持つ双耳峰。壮大な景観と多彩な高山植物に恵まれています。
最高点は西天狗。その西尾根は、山頂直下までシラビソや苔類に包まれて落ち着いた雰囲気を楽しめますが、森林限界を超えるとガラリと様相を変え、大小の岩石に覆われた急峻な峰がそびえ立っています。
中央自動車道: 諏訪南IC → 唐沢鉱泉
地理院地図: 天狗岳
天狗岳の天気: 夏沢峠
7月23日、山の友たちと北八ヶ岳の天狗岳に登りました。総勢14名のパーティーは、年齢が4歳から60歳台まで。登山経験は初心者、初級者から健脚まで。さらに日ごろほとんど運動していない人も含め、不揃いのリンゴそのもの。全員が念願の山頂を極め、無事に下山し、帰宅できるよう、超楽々登山を実行しました。
午前5時20分、2台のRV車に分乗して東京を出発。中央道を経て、8時10分、唐沢鉱泉前の駐車場に到着しました。空は青く、心は早くも稜線に飛んで行きそうです。無料駐車場はすでに満杯状態。かなりの数の人が入山しているようです。車を降りると、スイーッとアキアカネがやって来て、私の手に止まりました。私たちの入山を歓迎してくれているみたいです。この赤トンボは山の上でもたくさん飛んでいました。
変なアブもいます。数が多くて閉口します。私も2箇所ほど刺され、1時間ほどその痒みが残りました。(このアブは、鉱泉を離れて登山道に入ったら、いなくなりました。)ところでセミの声は何故か、全く聞こえませんでした。
出発前のミーティングで、きょうは「超ラク山登り」をすることを話します。NHKの「ためしてガッテン」で放送されたように、鼻歌がうたえるほどゆっくりと登るというものです。私がペースメーカーを務めます。
歩行速度は、一般のコースタイムの、1.4〜1.5倍を目安にしました。25分の歩行ごとに5分間の休憩を取ります。ただし1回目の休憩は出発の20分後とします。パーティー全体をよく見ながら、弱そうな人に歩調を合わせ、速度を加減します。
登山道は岩石だらけですが、歩きにくいというほどではありません。地表はさまざまな苔類やシダ類に覆われ、「もののけ姫」の世界のようにしっとりしています。シラビソ(たぶん)の林はしんとして風もなく、鳥の声と、私たちの声と足音以外何も聞こえません。ところどころ明るい場所では、ゴゼンタチバナや、名の判らないとても小さな花々が見られました。
登って行くに連れて、パーティー内の口数が減って行きます。一部の人は早くも疲れを感じ始めているようです。ここは全員が一つにまとまって歩くように、少し歩行ペースを落とします。このコースには傾斜の緩やかな箇所がほとんどありません。ペースを誤ればたちまち難行苦行になってしまう人もいるでしょう。これまでのところ、極端に足の重そうな人はいないようです。
西尾根に入って1時間ほど登った頃、初めてシャクナゲの花が咲いていました。ハクサンシャクナゲでしょうか。「こんにちは!」と、やさしいピンク色の花から励まされます。これ以後も山頂まで、白花やピンク花のシャクナゲが所々に見られました。
豊かな樹木に囲まれた西尾根で、眺望が開くのは第一展望台からです。でもそこに到着したとき、残念ながら周辺は濃い霧ばかり。遠望は全く利きません。その後、第二展望台に来て、ぐっと近くなった西天狗が、行く手にはっきりと見えるようになりました。西天狗の斜面に蟻の行列ように白い点々が連なっています。よく見ると、これは岩に付けたペンキマークです。その付近に人の姿も見えます。「あんなに高いところまで登るの?」という声が聞こえました。
2510mの等高線を持つピークを越えると、高低差で30mか40mほど下ります。そして鞍部からいよいよ最後の急登にさしかかります。相変わらず極めてゆっくりしたペースで登って行きましたが、後続が遅れがちになってきました。ときどき立ち止まって、隊列がきちんとつながるようにします。周囲の樹木の背が低くなって、森林限界の近いことが分かります。
森林限界を抜けると、ゴロゴロした大小の岩が山頂まで積み重なっています。白ペンキで大きく描かれた、O × ↑ などに従って、慎重に登って行きます。元気な人にとっては、実はとても楽しい区間です。でも残念ながら、一人の女性が疲労で登頂を断念。パーティーがピストンで下山してくるまで、そこで休んでいてもらうことになりました。
12時53分、ようやく西天狗山頂に到着。残念ながら山頂も霧に覆われ、眺望は利きません。時おりガスの切れ間から東天狗と根石岳が見え隠れするだけ。それでも山頂まで登りきった満足感がそれぞれの顔に表れています。暑くも寒くもなく、おだやかな山頂で、めいめいお弁当を取り出し、ゆったりしたひと時を過ごします。
東天狗から大きなリュックを背負った若い女性がやって来ました。山頂標の前で証拠写真を撮って欲しいというので、しっかりと撮ってあげました。聞けば、都内の大学の2年生で、編笠山から蓼科山まで単独で縦走しているとのこと。幕営しているので荷物は20Kgほどもあります。私たちのパーティーのメンバーが代わる代わるその大きなリュックを持ち上げては、うわあ、重いねえ、と歓声を上げています。昔日の山女とも、今時の山ガールとも違う、元気で爽やかなお嬢さんでした。
山頂にはちょうど1時間いて、下山の途に就きました。ゴロゴロ岩場の下りは4歳の少女にはかなり難儀ですが、難しい箇所はお父さんの助けを借りて下って行きます。幸い、メンバーたちの足取りは、まずまずしっかりしているようです。もちろん、急斜面の下りは登り以上に緊張します。
途中で休んでいた女性隊員も元気を回復していました。第二展望台で西天狗をもう一度振り返ります。きょう最後の見晴らし台である第一展望台で、長めの休憩を取りました。北方には山姿に特徴ある蓼科山、南方には優美な裾野を持つ西岳、西方には湖水の光る諏訪湖。心ゆくまで眺めます。こうして登りと全く同じコースをたどり、午後5時37分、全員元気よく唐沢鉱泉に戻ってきました。
最後に原村の「もみの湯」で汗を洗い流し、頑張ってくれた足の筋肉を揉みほぐしました。きょうは時間こそかかりましたが、全員が無事に下山できたことを感謝し、すがすがしい気持ちで家路につきました。
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