高尾山は、日本の豊かな自然遺産と文化遺産とを手軽に楽しめる山として、海外からの訪問者も含め、多くの人々で賑わいます。これに奥高尾、南高尾、北高尾、裏高尾を加えると、さらに楽しみ方が広がります。
梅雨の晴れ間は、多種の蝶たちと出会うチャンスです。撮影するには、一人で静かに歩ける南高尾山稜と北高尾山稜が特にお奨めです。
京王バス: 橋本駅北口 ← 城山高校前
地理院地図: 大洞山
南高尾山稜の天気: 八王子市 , 相模原市緑区 , 津久井湖 , 高尾山
レポ: 南高尾山稜 , 南高尾山稜のシモバシラ
梅雨の中休みとなった6月27日、高尾山から南高尾山稜を歩いて来ました。この季節、山野草は端境期の様相で、あまり期待できませんが、晴れ間に蝶たちがたくさん出現します。実際歩いてみて、目立った花はオカトラノオくらいなもので、蝶たちもこの花から吸密している姿がよく見られました。
この日は出遅れて、高尾山口駅に着いたらすでに10時半。切符売り場のツバメの巣はなくなっていましたが、子ツバメらしいのが巣の跡に止まっていました。しっかりと巣立ったようです。と、見ていたらどこかにいた2羽とともに、切符売り場の上をスイスイ飛び始めました。「ツバメがいる!ツバメがいる!」と叫ぶ男の子。本当に嬉しそうです。ようこそ高尾山へ。ここはすばらしい体験ゾーンの入口です。
登山路を選択できる高尾山ですが、最も涼しいと思われた6号路に入りました。すでに真っ青な空が見えているので直射日光は避けたい場面。沢すじに沿って登る6号路は、じめじめした部分はあるものの、多様な動植物に出会うことが多く、私の好きな道です。
妙音橋の手前から6号路を5分ほど歩くと、左手に小さな祠があります。その下にこんこんと水が湧き出ていて、柄杓が置かれています。ここで冷たい水を一杯飲みました。体内エンジンの冷却水です。これで準備万端。
まず琵琶滝に立ち寄り、イワタバコを眺めます。まだ花の季節ではなく、葉だけが見えました。次いで、セッコクのビューポイントに行きます。こちらは花がとうに終わっていました。どちらも季節の流れどおりで、がっかりするようなことではありません。花は乏しくても、シダ類が瑞々しくてきれいでした。残念ながら名前が分りません。ハカタシダ、イノデ、クジャクシダ、その他いろいろあるそうです。
高尾山では、何といっても杉の巨樹が目立ちますが、数は少ないもののホオノキやカツラも負けていません。山野草の花が少ない季節は、自然と木々の美しさにも目が行きます。
ところで、夏至の前後は太陽光が山の北面にもよく行き届きます。そこで裏高尾から「いろはの森」コースを登り、様々な木々の葉を透過する光を、ステンドグラスのように見上げて楽しむプランもお奨めです。
高尾山頂のコナラの木は、青々とした葉が繁り、蝶も蜂もカナブンも見当たりませんでした。いくつかの学校の生徒たちのグループが来ていて、元気な声で満ちています。木陰に広げたレジャーシートの上に、ポイポイと置かれた色とりどりのリュックサック。そこをアサギマダラがフワリフワリと低空飛行していました。
奥高尾に向かう縦走路には、オカトラノオがたくさん咲いていました。これは庭に植えられるブッドレアのように、蝶たちが好む花です。それにこの季節は、他の花があまりないのです。日当たりのよいところで、まっ白な花を房状に咲かせます。小さな花がたくさんあるので、ここで吸密を始めた蝶や蜂はすぐには飛び立ちません。つまり、虫の撮影にうってつけの花、ということです。
モミジ平の先で、縦走路から左に分岐する道に進みます。この道は、「学習の歩道」と名づけられています。でも、私が一人で歩いても、ほとんど何も学習できません。緩やかに下って行くと、自動車の走行音が聞こえ、大垂水峠(おおたるみとうげ)にやって来ました。国道20号を跨ぐ橋が架かっています。南側の親柱に大垂水峠橋(おおだるみとうげばし)という名標がありました。
橋を渡ると、南高尾山稜です。これ以降、ぷっつり人とは出会わなくなりました。もともと静かな山域であることに加え、午後の時間帯に入ってしまったということもあります。まずは、大洞山を目指して登ります。距離も高度差も大したことはありませんが、この山の先に登りらしい登りはほとんどないので、大切にする気持ちで、ゆっくりと登ってゆきました。
大洞山の頂上にはベンチとテーブルがあり、そこにルリタテハが独りで待っていました。山のピークを縄張りとするタテハチョウは珍しくありません。私が近づくと飛び立って、周囲を1、2度超高速で飛び回って、目の前に止まりました。翅を開いたり閉じたりして、自分の姿を誇示するかのように目を引きます。珍しい蝶ではありませんが、「お前がここの主(ぬし)かい?」と心で話しかけながら撮影してやりました。
大洞山頂の案内板によれば、このルートは「関東ふれあいの道」のひとつで、「湖の道」というそうです。梅ノ木平から高尾山口駅までの16.2kmの区間だそうですが、梅ノ木平は、アクセスが便利とは言えません。登山道はよく整備され、道標もたくさん立てられていますが、「梅ノ木平」を指すどの道標にも、「バス3本」と、誰かが落書きしてありました。いっそ、峯の薬師を経て津久井湖を発着点とする方が、バスの運行本数も多くて現実的だと思います。
南高尾山稜では、多くの峰々に巻き道があります。どの峰に登っても大した眺望はないので、できるだけ巻き道を歩きましたが、中沢山(494m)だけは、山頂に立ち寄りました。頂上に聖観世音菩薩像が立っています。背後からこの仏様を見ると、大山の右手のヤビツ峠あたりを向いていました。ここからは見えませんが、同じ方向に宮が瀬湖や小田原市があります。また、山頂付近では、樹木の切り取られた狭い空間に、蛭ヶ岳や丹沢三峰を望むことができました。
中沢山から12分ほど南東方向に歩いたところに、パノラマ的な展望地があります。南高尾山稜屈指のハイライトです。上の写真をご覧ください。富士山こそ雲に隠れていましたが、丹沢山塊、石老山、仙洞寺山などが、鏡のような津久井湖を前景に、絵画のように配置されています。ここのベンチでお茶を一服しました。気分は爽快、体も快調です。
三沢峠から約15分、このルート最後のハイライト、峯の薬師にやって来ました。薬師堂のわきからは、津久井城山と津久井湖とを一幅の絵のように眺められます。この風景もなかなかのもの。湖の向こうには、これから向かう城山高校の校舎も見えます。一見、何だかすごく遠いようにも見えますが、3km、歩いて45分の距離です。子育とうがらし地蔵尊の立つ広場で、最後の休憩を取りました。
下山は、東参道を歩きました。古いコンクリート舗装が壊れ、その修復のアスファルトも古びていますが、車が登ってくることはできそうな道です。途中のゴミ置き場ではちょっと興ざめ。津久井城山が見えるようになると、すぐに東参道口で、高い石柱と上中沢バス停があります。タイミングがよければ、橋本駅北口行きのバス(橋10)に乗れるでしょう。ここからは広くなった道の歩道を緩やかに下って行きます。
城山ダムの手前に、「水の苑地」という名の公園があります。五月末から段々花畑を彩ったルピナスはすでに片付けられ、その跡に播かれた何かの花の種が、たくさん発芽していました。ここで腰を下ろし、残ったおやつを全部食べてしまいます。きょうはまだ歩き足りないような気もしますが、城山高校前バス停までは、残りわずか1、2分の距離。ゆっくりと立ち上がって、バス停に向かいました。
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