大山には、東西南北の各尾根から登山道が通じています。登山者の趣向によって、登山路と下山路をさまざまに組み合わせることができます。
日向薬師バス停のすぐ近くに、ヒガンバナの見学路があります。9月下旬には、日向薬師、浄発願寺などと併せて多くの人々が訪れます。
神奈中バス: 秦野駅 → 蓑毛 神奈中バス: 伊勢原駅 ← 日向薬師
地理院地図: 大山
大山の天気: 神奈川県伊勢原市 , 日向薬師
レポ: 梅ノ木尾根から大山
9月24日、秋の長雨の始まらぬ前にと、大山に行って来ました。平地は晴れていましたが、山頂付近はガスに覆われ、眺望は得られませんでした。
はじめは伊勢原駅から日向薬師(ひなたやくし)に行き、ヒガンバナを見てから大山に登ろうと考えていました。でも、今年は夏の猛暑が長引いて、秋の到来が遅れています。小田原行き電車の車窓からも、あの真っ赤な花がほとんど見られなかったので、車内で予定を変更。渋沢駅からバスで大倉に行くことにしました。ところが、秦野駅が近づいた頃、田んぼの畦にヒガンバナの群落のとてもきれいなところが目に飛び込み、予定を再び変更。蓑毛から大山に登って、日向薬師に下山することにしました。大山・丹沢Bキップを持っています。
秦野駅9時2分発の蓑毛行きバスに乗り、終点で下車。登山者は、私のほかに単独男性が一人だけ。空は晴れていますが、丹沢の峰々は濃い霧に覆われています。私は、まず準備運動をするために、柏木林道への分岐点にある小広場に進みます。シュウカイドウのピンクの花の出迎えを受け、足取り軽く出発です。単独男性は、柏木林道を登って行きました。お地蔵様の前で準備運動を終えて、私は「関東ふれあいの道」を、蓑毛越(みのげごえ)方面に登ります。
昨日の大雨で、登山道は湿っていました。空気はひんやりとして心地よいのですが、気になるのはヤマビルとの「ふれあい」です。特に雨後の山道は彼らが活発に活動するようなので、しっかりと地面を見て歩きます。一応、防虫スプレーは携帯していますが、その効果は1時間程度しか持たないので、ヒルを1匹でも見てから使うつもりです。(ヤマビルは、黒っぽい色をしていて、尺取虫のように進みます。結局、この日は防虫スプレーを使いませんでした。)
林道を三度横断します。三度目はゲートの脇の隙間を通って林道を少しだけ歩きます。しばらく登ると、ヤブがなくなり、右手の谷から涼しいそよ風がわずかに漂ってきました。尾根道の右手は針葉樹林、左手は広葉樹林と植生が分かれています。どちらも樹木が高いので、空気の通りは良好ですが、風はほとんどありません。お茶を取り出し、こまめに水分補給をしながら歩きます。
「百回登山紀念碑」の手前で、道が二手に分かれます。左は大山への近道、右は蓑毛越を経て、阿夫利(あふり)神社下社および浅間山に通じます。私は左に行きましたが、約20分ほどで、かつての富士浅間道の通る尾根に立ちました。大山山頂から南に長く伸びる尾根道なので、ここでは仮に大山南尾根と呼ぶことにします。途中、木々の間から相模湾と秦野市を見ることができました。下の方はよく晴れているようです。
さて、この大山南尾根は、大勢の人々が歩く表参道のように荒れていません。道幅も広いし、ゴロ岩も少なく、とても歩きやすい道です。7分ほど歩くと、道端に六体のお地蔵様が立つ場所に来ました。首の無い像には、首の代わりに石が置かれています。首を取った理由、首なしのまま置かれている理由など想像しながら見ていると、何か古い物語の世界に誘(いざな)われそうな気がします。
道が平坦になったところで、左の樹木が切れ、三ノ塔が望めました。ヘリコプターが爆音を轟かせながら、大山山頂方面に何かを吊り下げて運んでいます。この爆音はひっきりなしに正午頃まで続きました。山頂では横浜エフエムの電波塔を工事していましたが、おそらくその建設機材を運んでいたのでしょう。
大山南尾根に立ってから20分ほどで、「是迄(これまで)二十八丁目」と刻まれた小さな石碑と、これに並んで立つ「従是(これより)女人禁制」の大きな石碑の前にやって来ました。江戸時代の遺物です。さらに3分ほど先で、阿夫利神社下社からの「かごや道」を右から合わせました。この先から、傾斜がきつくなります。
追分の碑から、登山者を見かけるようになりました。運動靴の人も見られます。ここは表参道の十六丁目です。月曜日ですが、小学生たちもいます。運動会のシーズンなので振り替え休日があるのでしょう。石碑は高さ3.6mもあり、「是右富士浅間道」と彫られています。昔の「大山詣」の時代によくこんな大きな石を運び上げたものだと思います。
二十二丁目のベンチで休憩していたら、至近距離でガサガサと音がしました。こういう音は、慎重に音源を確かめねばなりません。静かに覗いて見ると、シカが2頭いました。別段めずらしくはありませんが、草を食んでいます。うち一頭は首を上げたときに、大きな白目が見えました。人間との遭遇には全く慣れっこになっているのか、すぐ近くに立ってカメラを構えている私をなかなか見てくれません。
二十五丁目でイタツミ尾根を左から合わせたとき、お昼を告げるメロディーが、どこか麓の方から聞こえてきました。もう、あたりはすっかりガスに覆われ、遠方は全く見えません。不思議なほど人の気配の無い表参道。最後に二十七丁目と二十八丁目の鳥居をくぐり抜け、12時10分、大山山頂に到着。きょうの山頂は、えらく人が少ないな、と思いました。
丹沢山塊がどこまで見えるか、トイレの裏の展望台に行って見ました。残念、やはり灰色の雲以外は何も見えません。ちょっとした雲の切れ目から辛うじて丹沢三峰の稜線が見えただけでした。山頂には横浜エフエムの工事現場があり、昼休みでもディーゼル発電機(たぶん)が地響きを立てています。私はこの騒音から遠ざかろうと、伊勢原市を望む側に戻ってお昼にしました。おにぎりとお茶だけの簡単ランチです。伊勢原市も厚木市も晴れているのでしょうが、大山が雲に覆われているので、下界を望むことができません。
さて、下山ですが、ヒガンバナの咲いているであろう日向薬師を目指し、東側に降ります。雷の峰尾根を下り始めたら、すぐに視界が開けました。灰色の雲がかかっていたのは、山頂の近くだけだったようです。水蒸気を含んだ大気の中でやや霞んではいますが、相模湾と三浦半島が十分に望めます。特徴のある江ノ島も、すぐに分かります。私はこんな風に、山から海を眺めるのが大好きです。
山頂から15分ほど下ると道が分岐します。右は見晴台を経て日向薬師へ、左は不動尻経由で広沢寺温泉へと至ります。私は、大山三峰山と仏果山方面の景観をしっかりと眺めたいのと、少しマイナーな尾根を歩きたいという気持ちがあって、左に向かいます。左に下り始めると、とたんに道が荒れていました。表面が掘り返されていて、シカの足跡がいっぱいです。シカの臭いも、家畜小屋のように強烈。よく見ると、人の足跡も少しありました。
赤茶色に錆びたワイヤーとトラックの残骸が放置された広場にやって来ました。大山三峰山と、相州アルプスとも呼ばれる、仏果山を中心とする山並みがくっきりと望めます。ちょっと変てこなオブジェ(残骸)はありますが、明るくて気持ちのよい場所です。大山を振り返ると、雲の一部が切れ、きれいな青空も見えてきました。三相の低圧送電線が山頂へと延びています。トラックは、この送電線を架設したときに、ウィンチとして使ったものではないかと思います。ゴミは捨てずに持ち帰りましょう。願わくは、ロープウェイなど架けてくれないよう望みます。
893m点から、ロープを跨いで東に伸びる尾根に入ります。急な斜面を下って行くと、梅ノ木尾根と書かれた、高さ20cmほどの小さな道標が左を指していました。これは最近立てられたものです。去る4月に私は間違えてこの尾根を直進してしまい、かなり下ってから引き返すはめになりました。そのときにはこの小さな道標はなかったのです。道標に従って進んで行くと、左手にまた大山三峰山が見えてきました。今度は目線が下からなので、独特ののこぎりのような峰々が高くせり上がって、一幅の絵になりそうな姿です。
778m峰付近で梅ノ木尾根への道を左に分け、南方に進むと鍵掛(かぎかけ)尾根です。左手下方にこんもりとした鐘ヶ岳が見えてきました。その先には、採石場によって大きく削られた荻野高取山の痛々しい姿。さらに少し下ると、「日向キャンプ場(急坂)」と書かれた白い道標がありました。実際この尾根の傾斜はきつく、しかも踏み跡がかなりの部分で消えかけています。地図上では比較的に短い尾根ですが、下りではあまり時間稼ぎにはならないでしょう。ただ、最後まで狭い尾根の上をひたすら辿るだけなので、道迷いの心配はありません。
鍵掛尾根は、下りにくいので、使うとしたら登りの方が速く歩けそうです。これといった名のあるポイントもありません(たぶん)。私は転倒しないように慎重に下ったので、思いのほか時間がかかりました。778m峰から1時間かけて、ようやく屏風沢の大きな堰堤の下に到着。ここから登る人のために、「クマ出没注意」の張り紙があります。このすぐ下が「ふれあいの森日向キャンプ場」です。この辺はどうも「ふれあい」が好きなようですね。広いキャンプ場はひっそりとして、誰もいませんでした。ゲートを抜けて、日向川に沿った林道を東に向かいます。
浄発願寺(じょうはつがんじ)奥の院にも、首なし六地蔵があります。背の高さは大人と同じくらいあり、ここでも首の代わりに石が載せてあります。夜の暗がりに見たら、置かれた石が本当の首のように見えるかもしれません。この六地蔵の前を通って、梅ノ木尾根に通じる道があります。
日向薬師のヒガンバナは、三部咲きといったところでした。稲田に沿って、緩いロープの張られた見学路があります。大型のデジカメを手に、立つ人や、しゃがむ人や、皆さん撮影に余念がありません。今年はすでに稲がハザに掛けられていました。私はここから望む大山の風景が好きです。大山とヒガンバナとを一枚の写真に収めることができ、きょう最後にここに来れて、本当によかったと思いました。
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