梅ノ木尾根は大山の登山ルートとしては、遠回りです。その分、土休日でも静かな山歩きが楽しめます。登山路は変化に富み、しかも表参道のように荒れていません。
日向薬師バス停のすぐ近くに、ヒガンバナの見学路があります。秋の彼岸前後には、日向薬師、浄発願寺などと併せて多くの人々が訪れます。
神奈中バス: 伊勢原駅 → 日向薬師 神奈中バス: 秦野駅 ← ヤビツ峠
地理院地図: 二ノ沢の頭
大山の天気: 伊勢原市 , 日向薬師
レポ: 蓑毛から大山鍵掛尾根 , 大山ミニアドベンチャー
9月21日(土)、友人と初秋の大山に行ってきました。まず日向薬師のヒガンバナを見てから、梅ノ木尾根を登りました。5日前に台風18号が通過しましたが、目立つような危険箇所はなく、心配したヤマビルにも出遭いませんでした。
友人とは伊勢原駅で待ち合わせ、日向薬師行きのバスに乗りました。今回も、小田急電鉄の「丹沢・大山フリーパスB」を利用しています。バスが市街地を抜け、田園地帯に入るとすぐに、あちこちに真っ赤なヒガンバナが咲いているのが目に飛び込んできました。ヒガンバナを見るだけなら、自宅の近くでも、どこでも見られるのですが、どうしてヒガンバナの名所なるものに、人は集まるのでしょうか?
バスの終点から、ヒガンバナの見学路が始まっています。時計回りの一方通行です。見学路に入ると、すでに何人かがヒガンバナを撮影していました。どなたも、見学というより撮影のために来ているかのようです。私は赤い彼岸花を前景にした大山の風景が好きです。でも撮影者の皆様は、大山には目もくれず、大きなカメラでひたすらヒガンバナを撮影しています。あるいは、稲刈りをしているお百姓さんにレンズを向けています。
私たちは見学路を出ると、日向薬師(寺院)に向かいました。一頃に比べると、参道に咲くシュウカイドウ(秋海棠:ベゴニアの仲間)の花がめっきり減ったようです。撮影している人も見当たりません。私は燃えるように赤いヒガンバナも好きですが、シュウカイドウも好きです。優しい色のこの花を、もっと愛してくれたらいいのにと思います。
日向薬師参道の、角が丸くなった石段、高く真っ直ぐに立つ杉並木、山門の仁王像、いずれも長い時の流れを経て、今の姿に至っているものばかりです。残念ながら、楽しみにしていた薬師堂は改修工事中で、境内全体が工事現場と化していました。来る前に情報収集をしておかなかったのです。いつ工事が完了するのか知りませんが、終わったら改めて見学しようと思います。私たちは、裏山の梅林に向かいました。
梅林にはベンチがあり、ヒガンバナがひっそりと咲いていました。やはり、赤い色は風景のアクセントとして、少しだけ添えられているのが、私の感性では美しいと思います。
梅林を過ぎると、日向山の登山道に入ります。かつてこの道でヤマビルに襲われた記憶があるので、しっかりと地面を見ながら歩きました。1匹でも見つけたら、足に虫除けスプレーを吹き付ける用意をしています。幸いこの日、ヒルを見ることはありませんでした。
峠の十字路に、クマ出没注意の大きな立て看板がありました。右折すれば日向山、左折すれば梅ノ木尾根です。ここから山道になります。はじめ杉の植林帯の中の階段道を登るのですが、ここで早くも汗が吹き出て来ました。無風です。こういうときは、無駄に疲れないようにペースを加減しなければなりません。この日の東京の最高気温は、31℃という予報でした。右手の深い谷を流れる沢水だけが、耳に涼しさを感じさせてくれていました。
537m峰で小休止しました。大きなヤマザクラやカヤの木などが立っています。北面が開けていて、鐘ヶ嶽が望めますが、鐘の形には見えません。その鐘ヶ嶽と私たちのいる梅ノ木尾根の間には、もう一本の尾根(山の神尾根)と深い谷があります。その谷には広沢寺温泉からの林道(二の足林道)があり、今ここにいる友人と歩きながら、鐘の形に似ていなくもない鐘ヶ嶽を見上げたことが思い出されました。
引き続き、西に進みます。小さなピークを越えて鞍部に降りると、「浄発願寺奥の院」への分岐でした。休憩のベンチがあります。整備された登山道と道標はここまでで、これから先は、地図をよく見ながら進むことになります。と言っても、ほとんどがヤセ尾根の道なので、尾根の分岐点にだけ注意すれば、道は間違えようがありません。また、国土地理院の地形図に梅ノ木尾根ルートが記されているので、忘れずに携行しましょう。
登山路に落ちたモミの実がたくさん見られるようになりました。大きな緑色のぽっくりが丸ごと落ちてしまってよいものでしょうか。5日前の台風の仕業かもしれません。葉もたくさん落ちていました。落葉をサクサク踏みしめて歩くと、故郷の山と同じ、懐かしい秋の香りが漂います。やや急な傾斜を少し喘ぎながら登って行くと、水源林を示す赤帽白杭に「二ノ沢の頭」と書き込まれていました。地形図上で、670mの等高線が小さな三角形を作っているピークです。
このピークで休憩していたら、後から単独男性が追いついて来ました。この方は、2匹のヤマビルに取り付かれたそうです。足首に両面テープを巻き、塩を付着させてきたので、被害に至らなかったのかも知れないとのことでした。先に歩いた私たちが、ヒルの行動を促したのかもしれません。この日、梅ノ木尾根で出会ったのは、このお一人だけでした。
二ノ沢の頭からは北に転じます。ナイフリッジのような超ヤセ尾根を渡るところで、左手の視界が開け、大山を望めました。その名の通り雄大で、なかなかの風格です。さらにヤセ尾根を進んで行くと、「大沢分岐」と書かれた、個性ある標識が立っていました。ここはT字路で、右へ行けば鐘ヶ嶽と広沢寺温泉、左へ行けば大山と大山三峰山です。真正面には大山三峰山がギザギザした頭を見せています。
「大沢分岐」の標識から先は、厚木市と伊勢原市の境界尾根を、西に向かって歩きます。途中、778mのピークを頭にして尾根が分岐しています。左(南東)は鍵掛(かぎかけ)尾根で、日向キャンプ場に下りられます。私たちは右(北西)に下って、893m点を目指します。赤帽白杭に「↑大山・唐沢峠」と書き込みがありました。ガスの濃い日は、少し注意が必要かも知れません。枝越しに大山が見えていれば、進路に迷うことはないでしょう。
この後、結構きつい登りがあり、気合を入れて登って行きました。ふくらはぎと腿の筋肉が、ペースダウンを要求してきたほどです。やがて、昨年の4月に私が間違えて下った尾根を左から合わせ、893m点の近いことが分りました。最後に、私にとって思い出深いロープを跨ぎ越えて、大山・三峰山縦走路に立ちました。893m点は、このすぐ北側にあります。
この時点で正午を回ってしまったので、座ってお昼を食べられる場所を探すことにしました。ロープの場所から、崩落地を過ぎ、大山方向に歩きます。10分ほど歩いたところで、海と秦野市街地を広々と望めました。ここで、倒木に腰を下ろして昼食にします。私はまだ新しい登山靴が足によく馴染んでいないので、ここで運動靴に履き替えました。登山靴はリュックにしまいました。
昼食を終え、大山山頂に向かいます。錆びたトラックの残骸やワイヤー類が放置された広場があります。それらの放置物に警告書が張ってありました。
この放置トラックは、いつ、誰が、何に使ったのでしょうか? またどのようにしてここに運び上げたのでしょうか? 今までここを通った人々の脳に???を想起させてきた、この不思議な残置物。ついに姿を消すようです。ヘリコプターで運び去るのでしょうか? 公費で?
ところで、このあたりもマツカゼソウが一面に繁茂して、ひとり勝ちの様相を呈していました。シカが食べないのだそうです。実際、登山道にはシカの糞の臭いがしっかり漂っていました。
雷の峰尾根に入ると、予想していたことですが、急に人通りが増えました。ここは大山の裏銀座と言っていいかもしれません。登山道では、登り優先というエチケットを知らない人がたくさんいます。でも、「こんにちわ」の声は、例外なく出てきます。ゴミも落ちていません。ただ登山道はどうしても荒れがちです。シカも山を荒らしますが。
雑踏の山頂に到着すると、すぐに富士山や丹沢山塊の見える展望地に行きました。こちらは、ずっと静かです。梅ノ木尾根で出会った男性もここで休憩していました。考えることは大体同じようです。あいにく西の空は曇っていましたが、二ノ塔、三ノ塔から丹沢三峰まではよく見えました。横浜エフエムの電波塔も完成して、騒々しい工事音もありません。携帯電話は圏外表示でした。(docomo と SoftBank)ゆっくりと腰を下ろしてお茶を飲みます。きょうは梅ノ木尾根を登って、心身ともに満たされました。
さて、きょう最後の休憩を終え、山を下りる時がきました。今回の下山路は、イタツミ尾根に決めてあります。何といっても、楽だからです。三浦雄一郎さんも、エベレストからヘリで下山したんだからと、言い訳をこしらえ、一路ヤビツ峠を目指しました。次は、どのルートで登ろうかな、と考えながら。
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