明神ヶ岳と明星ヶ岳は、箱根外輪山東部の連山です。明神ヶ岳は山と海の眺望に優れ、明星ヶ岳は箱根らしい長閑な稜線歩きを楽しめます。
富士山と金時山と明神ヶ岳は、ほぼ一直線上にあり、左の写真のように望めます。
地理院地図: 明神ヶ岳 , 明星ヶ岳 , ルート図
明神ヶ岳・明星ヶ岳の天気: 箱根町 , 明神ヶ岳 , 箱根
レポ: 金時山・明神ヶ岳 , 丸岳(箱根外輪山)
2024年1月9日(火)、箱根外輪山東部の連山、明神ヶ岳・明星ヶ岳・塔ノ峰を歩いてきました。富士山を美しく眺めるために、天気予報で「広域の晴天」、「空気が乾燥」、「風が穏やか」という三つの条件がそろった日を待って実行したものです。早朝は雲が多かったのですが、稜線に立った時は快晴になっていました。そしてどこまでも期待に違わぬ眺望が欲しいままになります。最終盤、塔ノ峰の下りでは足の疲れが出て、岩石だらけの山道を慎重に下りました。
小田急線の伊勢原~秦野あたりで見た車窓の風景はまっ暗でした。きょうはハズレでしょうか? 普通に晴れていれば、きれいな表丹沢の峰々を望めるのですが、今朝はよく見えません。このまま曇天が続くのなら、計画の変更もあり得ます。こんな時、IC乗車券の旅は気楽なもので、行く先をどこに変更しようと、自由自在。空模様を見ながら、小田原で箱根登山鉄道に乗り換え、さらに箱根湯本で登山電車に乗り換えました。晴れろよ、晴れろよと願いながら。
登山電車は、平日の早朝だからでしょうか、十分に空いていました。私は最後尾車両の、運転席かぶりつきのシートに着席。線路の急勾配がよく分かります。その昔、箱根のバスガイドから聞いた話ですが、同じ乗客を運ぶのに要する電力(量)は、新宿~小田原間と、小田原~強羅間でほぼ等しいのだとか。線路の勾配を見ていると、モーターの大きな駆動音も、頼もし気に聞こえます。3度のスイッチバックがあり、途中と最終区間では最前列の特等席になりました。
強羅駅では、多くの中高生が降りました。観光客は私だけ? トイレを済ませ、初めて外から駅舎を眺めます。真っ青な空にログハウス風の強羅駅が、まるで絵葉書のよう。まだ暗色の雲も見られますが、もう行くしかありません。これから宮城野橋へ降ります。適当に路地を選んで、狭くて急な道を見つけました。下から外国人が続々と登って来ます。私は道を譲りながら「おはようございます!」― すると、半数以上の人が「おはようございます」と答えてくれました。
宮城野橋には同名のバス停があり、明神ヶ岳と明星ヶ岳の登山口になっています。訪問者にはとても便利と言えるでしょう。私はまず明神ヶ岳に向かうのですが、車の通行の少なそうな明星ヶ岳の道を少しだけ経由して行きました。目立つ案内板が要所ごとにあるので、迷いはありません。道標も充実していて、一日中、地図を見ずに歩けたほどでした。さすが、国立公園。ときどき振り返ると、箱根山を間近に望めました。眠る生き物のように、静かに白煙を噴いています。
「明神ヶ岳近道」と書かれた案内板から、山道に入ります。さっそく名物の箱根竹が、道沿いに生い茂っていました。道脇に「歩道管理 No.」なる小さな標識が、50mごとに設置されています。この番号は明神・明星鞍部まで一連なのですが、最後の番号を知りたいと思いました。大小の岩石がとても多いのですが、これを組んで階段状にしてあります。これは相当な骨を折ったことでしょう。長い歴史のある道だということがうかがえます。でも、眺望はありません。
山道を登ること55分、そろそろ眺望の無い道に飽きてきたころ、明神ヶ岳と明星ヶ岳の鞍部に到着しました。ここは「宮城野分岐」とも呼ばれます。これより先は、明るい天上の稜線歩き。まず明神ヶ岳山頂までピストンします。明るく開けた尾根道だけに、風当たりは多少強くなりました。でも体はすでに十分暖まっています。なにより、すばらしい眺望がどこまでも続き、気疲れする隙が全くありません。霜融けによる泥濘も、今のところ大丈夫です。
左手には、電波塔がツクツクと立つ二子山、雲を被った駒ヶ岳、いかつい山容の神山が、麓の家並みとともに、広大に望めます。何しろ視界を遮るものが一切ありません。これら全体が、いわゆる箱根山です。外輪山のどこからでもよく望める箱根山。歩く私のお供をするように、ずっと付いてきてくれるのです。で、肝心の富士山はどうでしょうか? 幸い行く手の明神ヶ岳の上には真っ青な大空があります。期待しましょう。もう子供のように胸が膨らんでいます。
ところで、私が今歩いている、明神・明星間の稜線は、箱根町(西面)と小田原市・南足柄市(東面)の境界線です。私は西面の道を登ってきました。他方、東面には5本ほどの登山路があり、これから次々にその分岐点を通過していきます。まず最初は「二宮金次郎芝刈りコース分岐」、次が「大雄山最乗寺分岐」(1つ目)。そしてその直ぐ先で、ドーン、幕を切って落としたように富士山が姿を見せました。快晴の天の下、薄めの雪化粧をして、その美を全開しています。
力の増した脚でさらに登ります。「大雄山最乗寺分岐」(2つ目)では海を望めました。伊豆大島の周辺の海が金色に輝き、本当に大きな島が浮かんでいるようです。また湘南方面を望むと、相模湾と海辺の町並みが大空とともに、きれいな青の風景を成しています。ただし泥濘で足元が悪く、この辺りから山頂に至るまで、慎重に足の置き場を選んで歩かされました。そして実質山頂ともいえる「明神ヶ岳展望地」に到着。先客は女性1人とお供のワンちゃん1匹でした。
注「大雄山最乗寺分岐」は3か所にあります。この山行では、その内の2つと出合いました。
水田のようにぐちゃぐちゃになった展望広場。私はまず、縦に並ぶ富士山と金時山とを数ショット、そして愛鷹山、箱根外輪山西部、仙石原などをカメラに収めました。リュックから熱いレモンティーと菓子パンを取り出し、立ったまま昼食にします。砂糖とレモンが濃い目の登山仕立て。お腹が暖まりました。気が付くと、デジカメを置くのにちょうど良い位置に標柱があります。セルフタイマーをセットし、しげしげと富士山を眺める自身の後ろ姿を撮りました。
さて、きょうの路程はまだ3分の1しか消化していません。次の目的地、明星ヶ岳に向かいます。明神・明星鞍部に戻る道は、泥濘が進んでいました。来た時よりも慎重に歩を進めます。後ろから走ってきたランナーが、泥濘でズルルッと足を取られながらも、バランスを失わずに駆け下りていきました。私はもちろんゆっくりと下ります。軽い泥濘では、笹の枯れ葉が滑り止めになりました。行く手には、伊豆大島と聖岳と明星ヶ岳とが、ほぼ一直線上に並んでいます。
明神・明星鞍部でもワンちゃん連れのご婦人と出会いました。縦走路の状態を尋ねると、この先の道は大丈夫だったとのこと。― よかった、安堵します。実際、鞍部から明星ヶ岳までの道は上等でした。道の左右に背の高い箱根竹が生い茂って寒風を遮り、正面(南)から浴びる日差しはぽかぽか、起伏はなだらか。ひたすら長閑なハイキングコースです。「奥和留沢見晴らしコース」分岐を過ぎ、しばらくして振り返ると、金時山が富士山の右に離れていました。
明星ヶ岳の山頂広場に着きました。「宮城野営業所前バス停」への分岐点に道標があり「明星岳山頂200m先→」と落書きがあります。これを見て200m先まで行くと、「御嶽大神」を祀る小山(あるいは築山)がありました。ここが明星ヶ岳の最高地点なのでしょう。その傍らに明星ヶ岳の説明板がありますが「山頂」の二文字はありません。山の神と私以外に誰もいない静寂の山。立ったままですが、ティータイムにしましょう。ここは暖かく明るい太陽がいっぱいです。
きょうの路程は、まだ3分の1ほど残っています。正午を少し回った時計を見て、明星ヶ岳にさようならを言いました。これから塔ノ峰へは急勾配の下りもある、長い道のりです。頑丈な枝を1本拾って、杖にしました。黙々と下っていきます。特筆すべき撮影スポットはありませんでしたが、タイムスタンプ代わりに道標は必ず撮りました。出合った唯一の送電鉄塔は仙石線6号。そのすぐ先で足柄幹線林道に下り立ちました。「塔ノ峰は車道を900m下って右折」とあります。
この林道を下っていくと、海と町とを望めました。目が潤います。他方、あたりの山々は杉花粉が濃厚でした。引き続きテクテク歩いていくと、林道が左にカーブするところに「塔ノ峰 15分」の道標がありました。気合を入れ直し、階段道を登っていきます。途中、キジョランの長い蔓があったので足がストップ。その先、大山から檜岳山稜までを一望できる展望地があって、またストップ。明神ヶ岳が見えて、またまたストップ。そしてようやく塔ノ峰に到着しました。
まだ終りではありません。道標に「阿弥陀寺35分」と書いてあります。きょうの私は足が疲労して、ここから先が厳しい区間になりました。バランスを崩さないよう、ゆっくりと行きます。「歩道管理 No.」が次第に小さくなっていき、最後に「1」になって、阿弥陀寺の裏に下り立ちました。雑然とした雰囲気に、侘しさ半分、嬉しさ半分といったところ。表に回ると、椿の幼木がたくさん植えられていました。それぞれの椿に、人の名を冠した名札が付いています。
阿弥陀寺を出て、その参道を下ります。車道に下り立つと、真っ直ぐ駅に向かいましたが、思うところがあって少し引き返しました。民家のわき道を通り抜けて、塔ノ沢駅の跨線橋に行きます。ずっと前から一度利用してみたかった塔ノ沢駅を、跨線橋から見下ろしました。トンネルからトンネルまでプラットホームでつながった、小さく、地味な駅です。私はここで杖を置き、プラットホームに下りました。そして簡易改札機をピッと鳴らし、きょうの登山を終了しました。
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