大岳山から秋川に向かって南東方向に伸びる馬頭刈(まずかり)尾根。つづら岩、鶴脚山、馬頭刈山など、標高1000m未満の、手ごろな高さの山が連なっています。
千足からつづら岩に続く谷すじでは、天狗滝、綾滝など、美しい滝を見ることができます。滝ファンの方なら、「払沢(ほっさわ)の滝」「茅倉(かやくら)の滝」「大滝」などと併せて、楽しい滝めぐりもお奨めです。
西東京バス: 武蔵五日市駅 → 千足 西東京バス: 武蔵五日市駅 ← 瀬音の湯
地理院地図: 馬頭刈山
馬頭刈尾根天気: 東京都檜原村 , あきる野市
2月27日、奥多摩の馬頭刈尾根を歩いてきました。明け方は曇り空だったのですが、前日に出ていた天気予報の「晴れ」を信じて出発。午前9時頃から好天に恵まれ、静かな馬頭刈尾根を、ゆっくりと歩いてきました。
午前6 時45分、八高線の電車が多摩川を渡るとき、薄いピンク色に染まった雲と富士山が見えました。天気予報の「晴れ」では、雲がどの程度出るか分かりません。まあ、雨や雪が降らなければいいさ、と思いながら、五日市線に乗り換えます。
JR武蔵五日市駅の1番乗り場から、7 時19分発の小岩行きバスに乗ります。ほとんどの乗客はすぐに降りてしまいましたが、十里木を過ぎたあたりから、中学生たちが少しずつ乗ってきました。全力ダッシュで飛び乗る子もいて、車内でもしばらくハアハアと荒い息が聞こえます。払沢の滝入口で、中学生たちは全員降りました。車内に残った乗客は、私を含めて2人だけです。
7 時45分、千足(せんぞく)で下車。目の前にある山の頂に朝日が当たっています。馬頭刈尾根上の富士見台でしょうか。中腹の杉林が、あまり嬉しくない赤茶色に色づいています。(杉花粉は苦手です。)まず、バス停の近くの「御霊檜原神社」でラジオ体操第一を実行。翌日に腰痛にならないよう、念入りに行います。
千足から馬頭刈山に登るには、柳沢林道から入って滝を見ながら登るルートと、茅倉(かやくら)集落から千足尾根を登る道とがあります。後者の方が、歩行時間を45分ほど短縮できるようですが、私は前者を選びました。途中に見どころのあるポイントがあると、精神的に楽だからです。
柳沢林道を10分ほど登ると、簡易トイレが立っていました。試しにドアを開けてみると、特に何の臭いもしません。さらに7、8分登ると林道が終わり、いよいよ登山道です。小さな流れを渡ると、「天狗滝・綾滝」の高札が立っていました。これによると、「天狗滝まで徒歩約10分、天狗滝から綾滝まで徒歩約20分」となっています。こんな間隔で名所が配置されていれば、疲れることなく登って行けそうです。近くの道標には、「つづら岩まで1.5 km」とあります。
昨晩降ったものらしい、子供の肌のような雪が、樹木や岩石の上に残っています。岩の上ではスリップしないように気をつけます。この谷に日が差すのは、まだ少し先のようです。
8 時22分、まだほとんど歩いたような気がしないうちに、小天狗滝に着いてしまいました。岩を滑り落ちる白い流れは気品があり、「小天狗」というよりは、滑り台で遊ぶ「小姫様」とでも呼んであげたいような気もします。日が差したら、もっと美しく見えることでしょう。
小天狗滝から3分ほどで、天狗滝です。こちらは落差もより大きく、見ごたえがあります。落ちてくる水が下の方で扇のように開き、岩の上を滑って滝つぼに着水します。そのとき、ほとんど水飛沫を上げません。オリンピックの飛び込み競技なら高得点を上げるでしょう。
天狗滝から19分ほどで、綾滝が見えてきました。日も差してきたので、滝の周囲の苔や草の緑が輝き、白い滝の流れを引き立てています。上から下まで、ほとんど同じ幅の流れです。これがどうして「綾」と呼ばれるのか、「あやとり」もしたことのない私には分かりません。滝の真下から見上げると、確かに「綾織物」らしくも見えます。滝に手を差し伸べると、意外と水が温かく、「石走る垂水の上のさわらびの・・・・・・」と詠える日が近いのかもしれません。
綾滝の次は、つづら岩を目指します。道標には、綾滝から0.6kmとあります。綾滝から10分ほど登ると、「この先注意、道悪し」と書かれていました。歩いてみると、特に荒れた道ではありませんが、急傾斜の尾根道です。ここで急ぐことには意味がないので、「超ラク山登り術(NHK:ためしてガッテン)」で、平常時と全く同じように呼吸できる速さで登って行きました。
9 時59分、つづら岩直下で、馬頭刈尾根縦走路に合流。リュックから温かい紅茶を出して、小休止します。つづら岩には誰もいません。雪の上の足跡は私のものだけです。実はこの日、山で出会ったのは、馬頭刈山頂で休憩していた熟年のご夫婦1組だけでした。
これより、馬頭刈尾根縦走路を南東に進みます。ここまで登ってきた南斜面にはあまり雪がありませんでしたが、北斜面にはたくさんの雪がありました。尾根上の雪に、誰か先に歩いたような足跡が見られます。人の足にしては、やや小さすぎるようです。熊の足のようでもありません。歩幅は、人と同じくらいです。
尾根は樹木に覆われていますが、葉が落ちているので、周囲の山々を望めます。振り返れば大きな大岳山が、その右手に御岳山奥の院、御岳山上集落、日の出山、麻生山、金比羅尾根と続きます。南側に富士山が見えるとよいのですが、なかなかよい展望が得られません。縦走路に所どころで現れる緑の笹が、白い雪の中で鮮やかです。笹の葉に雪が残っている場所は、風が当たらないのでしょう。
10時36分、展望の利く場所に出ました。行く手にデンと鶴脚山と馬頭刈山。右遠方に丹沢の山々。少々雲がかかっていますが、一つ一つの峰を確認できます。そして、富士山が初めてすっきりと顕れました。肉眼には十分に美しいのですが、撮影すると、色が薄くしか写りません。この場所が、この日の最大の展望台でした。
引き続き、縦走路を進みます。あまりアップダウンの激しいところもなく、軽やかに歩けます。右から降り注ぐ日光が心地よく、落葉した木々をも暖めているように思えます。ときどき現れる緑の笹むら。ほの暗い樹林帯も、光はどこかに必ず通り道を見つけ、地面の雪を照らしてくれます。
11時2分、千足尾根への分岐点にやって来ました。千足バス停から茅倉経由で登るとここで縦走路と出合うことになるので、鶴脚山や馬頭刈山へはかなりの近道です。しかし、馬頭刈尾根縦走路のすばらしい区間が大幅に減ってしまいます。ここから7分ほど登ったら、鶴脚山に着いてしまいました。
鶴脚山頂は狭いのですが、私一人には十分です。この山頂から見る大岳山は、少し遠くなっていました。甘食のような形をした日の出山と、その南東に伸びる金比羅尾根が見渡せます。棒ノ折山は鶴脚山の真北だったんだなあ、と初めて分かりました。ここで昼食にします。誰もいないので、セルフタイマーで記念撮影をします。すぐ近くに、カメラを置くのにちょうどよい道標が立っています。
鶴脚山から10分ほどと、20分ほどの2箇所に、泉沢への分岐を示す道標が立っていました。どちらの道も、「山と高原地図」には記されていません。
鶴脚山から22分ほどで、馬頭刈山に到着。こちらは広々とした山頂です。熟年のご夫婦が大きな「秩父多摩甲斐国立公園」の案内板を見ていました。軍道(ぐんどう)に車を置いて、登って来られたそうです。この日、山で出会ったのは、このお二人だけです。
馬頭刈山は標高では鶴脚山よりも低いのですが、展望は優れています。ここで初めて大岳山を、樹木の枝に邪魔されることなく望めました。笹尾根の槇寄山が枝越しに望めます。富士山はすっかり雲に隠れてしまっていました。日差しがとても暖かいので、上に着ていた物を3枚脱いで、汗を乾かします。広場の中央に、三角点の石が出べそのように突き出ています。
馬頭刈山を後にし、少し縦走路を下ったら、展望台とベンチがありました。「富士見百景」に選ばれているとのことですが、富士山の方向には雲しか見えませんでした。さらに下って行くと、「高明神社跡」に至ります。質素な祠、一対の石灯籠、古びた木の鳥居と、神社跡を示す石碑があります。さらに下ると、石碑だけの鶴松神社、縄が1本張られた團子木社、大きく立派な石造りの高明神社鳥居など、信仰の道のような趣になってきました。馬頭刈山頂からの道は、秋川に至るまで、ほぼずっとなだらかです。
軍道(ぐんどう)と荷田子(にたご)の分岐で小休止し、どちらに進むか考えました。バスの便がより多い、荷田子・瀬音(せおと)の湯方面(右)に下ることにします。足は元気だし、見るべきものもなさそうなので、どんどん下って行きます。瀬音の湯を指し示す、比較的新しそうな標識がこまめに立てられています。
下の方に青いトタン板やビニールシートが見えて来ました。下まで降りると、そこは集落ではなく、製材所でした。ここで登山道が終わるのかと思ったら、左手に吊橋があり、道路を越えるようになっています。その先、もう一山越えねばなりません。登って行くと、この小さな山は展望がよく、右後方に端正な形の馬頭刈山が、右前方に臼杵山が大きく望めます。眼下に新矢柄橋の白いアーチと荷田子集落が見えて来たので、瀬音の湯は近いでしょう。
午後1時30分、瀬音の湯に到着。きょうの歩行の終点です。バス停の横に無料の足湯があります。靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾をめくり上げて両足を浸します。湯の温度計は41℃。陽光もキラキラと湯の底に届いています。なかなか日の目を見ないのに、きょうも不平を言わず、最後まで元気に頑張ってくれた足。バスが来るまで、しばしねぎらいます。自分の足ではありますが、あ〜いい気分。
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