鎌倉市の天園ハイキングコースは、三浦半島の付け根に位置し、周囲に高山がないため、山と海とを広々と望めます。
鎌倉駅と北鎌倉駅と、どちらからも歩いて入下山することができます。短いコースなので、鎌倉の寺社見学などと組み合わせれば、豊かなプランを楽しめるでしょう。
地理院地図: 大平山
鎌倉の天気: 鎌倉市
レポ: 鎌倉アルプス・獅子舞
3月12日、湘南方面に所用で出かけたついでに、天園ハイキングコースを歩いてきました。明月院から瑞泉寺に向かうルートです。春の花はまだほとんど見られませんでしたが、木も草もまもなく吹き出す新芽をたっぷりと準備していました。
午前10時ちょうど、横須賀線北鎌倉駅に到着。跨線橋も地下道もない、レトロ調の駅です。でも下りホームからは、線路を横断することなく、裏口のように小さな出口から円覚寺前に出ることができます。
北鎌倉駅からは、建長寺を経由して天園ハイキングコースに入るルートもあります。でも私はかつて、北鎌倉駅から建長寺まで県道21号を歩きながら、自動車の排気ガスにむせ返ったことがあります。今回はこれを敬遠して、明月院通りから入ることにしました。建長寺の通行料(拝観料)300円も不要になり、一石二鳥です。でも建長寺の拝観は一見の価値以上のものがありますから、初めての方にはちょっとお奨めしたい経路です。
鎌倉には、名所旧跡がぎっしりと詰まっています。北鎌倉駅から歩き始めるとすぐに円覚寺、その並びに鎌倉古陶美術館、明月川に架かる橋を渡って左折し、明月院通りに入ると葉祥明美術館、明月院と続きます。これらの前でちょっとだけ立ち止まって、その時々の色彩を浴び、匂いに触れてみます。でも、今それは一瞬だけ。下山後にゆとりがあれば、じっくり味わうこともできますが。一般に、山は早朝に登るほど景色がよいので、まず目的地に向かってスタコラ歩を進めます。
喫茶店「笛」の約1分先で、右折し、コンクリートの坂道を上ります。「天園ハイキングコース」と書かれた小さな案内板もありますが、目立つものではありません。このやや急な坂道を3分ほど登ると、左折して少し狭いコンクリートの道に入ります。この角にも「天園ハイキングコース」と書かれた小さな案内板があって、小学校の花壇の札のように、低くつつましく立っています。この2箇所の曲がり角さえ間違えなければ、あとは瑞泉寺まで迷うところはありません。
この先、道はすぐに狭い登山道になります。やがて右に小広場のような空間が現れ、青竹のベンチが置かれています。このあたりでウグイスが盛んに美声を響かせていました。さらに進むと左右に笹の茂る小ピークがあり、これを越えて下って登り返すと左手に住宅地が見えてきます。ハイキングコースのすぐ脇まで住宅が押し寄せています。鎌倉時代には、この尾根からどんな風景が見えたのかな? などと想像しながら、ゆっくりと登って行きました。
10時38分、二つ目のピークに達します。勝上巘(しょうじょうけん)という名を持つ展望台です。雲に身を隠して裾野が少しだけ見える富士山。色彩が薄いけれども、まずまず良く見える丹沢。三浦湾の向こうに箱根の山々もどうにか見えます。でも山を見るなら、空気の澄んだ早朝に登るべきでしょう。海は青い空を映して青々としています。実を言うと、午後遅くに、逆光で望む三浦湾がお奨めです。荘厳な鎌倉の海の輝きを、いつまでも見ていたく思ったことがあります。眼下には、きれいな屋根の建長寺。いくつかあるお堂の並びがややファジー(不規則)気味で、親しみを覚えます。
勝上巘を後に、大平山に向かいます。ここから先の道は、とてもよく歩かれているようです。登山路上の露岩は、角がすっかり取れて、川の下流の岩のように滑らかになっています。その上、先週降り続いた雨で尾根道が所々ぬかるみになって、歩きにくくなっていました。ただ起伏は緩やかで、特に危険な箇所はありません。
十王岩のすぐ手前で横浜方面がよく見渡せます。ランドマークタワーが、その名の如くよい目印になっています。相変わらずこの尾根の東側はすぐ脇まで宅地化しています。万一大津波がやって来たら、この高台は多くの生命を救ってくれるかも知れません。
十王岩の下には、「かながわの景勝50選」と書かれていますが、展望はあまりよくありません。十王岩には、かなり風化した磨崖仏があって、目がなくなっても通行人を見守っているかのように、横一列に座っておられます。このあたりの岩は、軟らかく、もろいようです。その5分ほど先には、尊薬師如来の石像がありますが、こちらは堅牢でくっきりしたお姿です。
さらに8分ほど進むと、覚園寺(かくおんじ)への分岐にやって来ました。天園ハイキングコースは、都市部の遊歩道としては、途中での入下山路が比較的少ないのですが、ここがその一つです。
11時24分、大平山に到着。勝上巘から40分ほど歩きました。標高わずか159mながら、鎌倉市の最高峰です。前方に二子山をはじめとする三浦アルプス、右手に三浦湾、左手に横浜みなとみらい方面を望めます。腰を下ろすによい岩がたくさんあるので、景色を眺めながら昼食にしました。トビが2羽、さかんに上昇と急降下を繰り返しています。彼らは人の手から弁当を奪い取る達人です。
弁当を無事に食べ終え、もう目と鼻の先に見える天園に向かいます。頂上直下の広場で大平山を振り返ると、空の青さが鮮やかでした。この広場の先には貴重なトイレがあります。
広場から5分ほど歩いて、「天園峠の茶屋」に到着。この茶屋の入口脇に「横浜市内最高地点 栄区上郷町 海面からの高度159.4m」と書かれた、美しい銘板が設置されています。その周りには廃材のような木材が、置かれているのか散乱しているのか分からないような状態で堆積しています。ここを通るたびに気になるのですが、美しい名の天園と、栄ある最高地点には、何とも不釣合いな光景のように思えます。ここで休憩する気にはとてもなりませんので、先に進みます。
天園休憩所のメニューが張り出された掲示板の先に、ぼこぼこした岩があります。この岩の上に立つと、三浦湾と鎌倉市街地を見渡せます。眼下の谷は「獅子舞」と呼ばれ、紅葉の名所です。12月上〜中旬に訪れると、さぞ美しいことでしょう。今は木々が芽吹きの準備を完了して、春の号令を待っています。
天園からは、獅子舞を下って鎌倉宮(かまくらぐう)に通じる道もありますが、今回は瑞泉寺(ずいせんじ)を目指して直進します。この分岐から7分ほど歩くと、右手に展望が開けます。富士山は雲に包まれ、裾野しか見えませんでしたが、丹沢はきれいに見えました。塔ノ岳から蛭ヶ岳まで、まだかなりの雪が残っているようです。「わあ、アルプスみたいね。」と言っているご婦人もいました。このあたり、大きなコナラの立ち並ぶ、広く気持ちのよい尾根道が続きます。
貝吹地蔵の下、やや急な下りになるあたりは、道がとてもぬかるんでいました。ぬかるみを歩くとさらに道がぬかるむので、なるべく岩の上や道の端などを選んで渡ります。同じ方向に歩いていた男性が、北条一門のやぐらがあることを教えてくれました。路上の標柱から左のわき道に入ると、岩に横穴が掘られた場所があります。その暗い空間を覗くと、いくつかの石が頼りなさそうに積まれていました。説明板もないので、何が何だかよく分かりません。寂しい、侘しい空気だけが漂っていました。
さて、右手の谷に現代の墓地が見えてくると、ハイキングコースもそろそろ終りです。12時26分、天園ハイキングコースの案内板の立つ狭い路地から、車道に飛び出しました。まず瑞泉寺の入口の手前の公衆トイレで用を済ませます。瑞泉寺は花の寺として知られていますが、時間がないので先に進みます。
これ以後、鎌倉宮、荏柄天神社(えがらてんじんしゃ)、頼朝の墓を経由して、鶴岡八幡宮へと歩きました。最終コーナーは鉄の井(くろがねのい)。ここから小町通りを抜けて、JRと江ノ電の鎌倉駅までは、人ごみの多さにもよりますが、7、8分の距離です。
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