不老山は、立山(たちやま)と共に、サンショウバラの咲くことで知られ、5月下旬〜6月中旬の花期には大勢のハイカーで賑わいます。また空気の澄んだ日には、富士山、西丹沢、箱根、駿河湾などを広々と見渡すことができます。
登山ルートは多いのですが、土砂災害によって、南面、北面とも通行止めの個所や通行の困難な個所があります。
富士急湘南バス: 谷峨駅 ← 山市場
地理院地図: 不老山
不老山の天気: 静岡県小山町 , 神奈川県山北町
富士箱根トレイル情報(小山町サイト)
レポ: 三国山稜 , 鉄砲木ノ頭・高指山
6月15日、梅雨が一息ついて高気圧に恵まれた日、不老山に行って来ました。終日くもり空でしたが、時折うす日が差し、サンショウバラの花を柔らかく照らしてくれました。
コースの選定は、かなり考えました。登りルートで無難なのは、山市場(やまいちば)からか、生土(いきど)からですが、いずれを使っても不老山と「サンショウバラの丘」の間を往復しなくてはなりません。土休日なら明神峠までバスで行けるのですが、平日に一人でタクシーに乗るのは不経済です。そこで、峰坂林道を行けるところまで行って、現場でその先を考えることにしました。
7時47分、JR御殿場線駿河小山(するがおやま)駅を出発。足の向くまま歩いていたら小山町役場が見えてきて、間違いに気づきUターン。いきなり10分ほどのタイムロスです。湯船への分岐の手前に来た時、自転車に乗って来たおじさんが立ち止まって、「この先、去年の台風で道がやられてしまってね。」と話しかけてきました。私のことを心配してくれてのことです。田舎の人は気性がいいですね。
柳島から山口橋に向かう道では、畑にいたおばさんから、「峰坂に行くのですか?」と尋ねられました。やはり私の先行きを心配してくれているのでしょう。「そうです。偵察に行ってきます。」と答えたら、少し安心した声で、「じゃ、気をつけて行ってらっしゃい。」と言ってくれました。私以外に不老山に向かっているハイカーは見当たりません。畑の縁で、真っ赤なポピーがのどかに揺れています。
山口橋で、川の護岸工事をしている様子がよく見えました。不老橋の手前の分岐点で左に折れ、峰坂林道を登ります。しばらくはきれいに修復された林道が続きます。やがて工事現場が現れ、作業員たちが木と腰をロープで結んで、急斜面で修復作業をしていました。そして、林道そのものが土砂で埋まっている個所が現れ、さらにそのすぐ先で、大崩落個所に行き当たりました。
崩落現場を覗き込みながら、どうするか考えました。崩れた土は急傾斜な上に、雨でゆるんでいるようです。トラバースはできそうにありません。この場で着実に進むには、しっかりした木の生えた斜面を登ることです。崩壊地のすぐ左手から斜面に取り付きました。(決して気軽に真似しないでください。)
ここから道なき道を行きます。山登りが俄然楽しくなりました。木が多いので急斜面も難なく登れます。上りでは迷子になる心配もほとんどありません。ところが10分ほど登ったところで、赤いテープの巻かれた作業道(?)に行き当たり、拾い物の楽しさは終了。その先に、小さな石の祠があり、「天神山」と書いてありました。
10時18分、林道に出ました。これより東に進むと世附峠(よづくとうげ)、西に進むと峰坂峠です。計画通りに西に進むと、さっそくサンショウバラが咲いていました。その先、鹿も見ました。山と高原地図によれば右に峰坂峠への分岐があるはずですが、なかなか見つかりません。おそらくこのあたりだろうと見当をつけ、小さな小屋の横から上に登りました。鹿の足跡はたくさんありますが、人の足跡は全くありませんでした。
獣道のような、あいまいな踏み跡を登って行くと、尾根の上に出ました。ベンチがあり、1パーティーが休憩しています。私がガサガサと音を立てて飛び出してきたからでしょうか、「どこから来たのですか?」とさっそく尋ねられました。「小山駅からテクテク歩いてきました。ここは何という場所ですか?」「峰坂峠です。あそこに道標があります。」見ると、小さな少し壊れかけた道標がありました。このグループは明神峠から来たとのことでした。
これ以後も、下山ルートについて、幾度か尋ねられました。私の知識では、(1)不老山南峰から「不老の活路」を小山駅に下る道と、(2)不老山北峰から山市場に下る道は通れるでしょう、としか答えられませんでした。単独行者は道をよく知っていると思われるのかもしれません。
「サンショウバラの丘」に近づくに従って、サンショウバラが増えてきました。すでに散った花も多く、地面にも花びらが撒き散らされてきれいです。それでも、まだまだたくさんの美しい花が残っています。咲き始めは赤ちゃんの顔のようにエネルギーを感じさせるピンク色。花が開くとその色が縁に移動するかのように花弁の色が薄まり、中心に白色を表わします。一重咲きのすっきりした花びらは、清純な少女の髪に似合いそう。天上の庭に静かに咲いています。
「サンショウバラの丘」は、晴れていたらどんなにか眺望が良いことだろうかと思うほど、広く、明るく開けていました。行く手の不老山もどっしりと、頼もしげです。「樹下の二人」というのは、平成5年からこの地を勝手に呼んだものだと書いてありました。
世附峠から不老山南峰への登りは、この日初めての登りらしい登りでした。30分にも満たない区間です。フタリシズカが咲き、三等三角点があり、「登山者百歳盛年」と書かれた楽しい道標がありました。
不老山南峰の山頂標には、標高926mとも、927mとも書かれていました。サンショウバラがないので、記念撮影だけしてすぐに北峰に向かいます。北峰へのわずか200mの間に、ニシキウツギ(たぶん)とケウツギ(たぶん)とがきれいに咲いていました。
不老山北峰のサンショウバラは、数はわずかながら、満開の今がまさに見頃。初々しい花に鼻を近づけたら、ほんのり甘い香りがしました。ここで昼食にします。山頂広場は木立に囲まれて眺望はありませんが、サンショウバラが3株あるだけで十分に幸せそうな顔がいっぱいです。
下山は、山市場ルートです。下りで使う筋肉の出番がやって来て、軽快に下って行きました。林道を横断するところにベンチがあります。ここがこの日最後のサンショウバラを楽しむ場所でした。ここでバス乗車の時間調整のため、たっぷりと休憩し、靴の紐をしっかりと締め直しました。
この先の下りは、長く、急で、この道を登りに選ばなくて良かったと思いました。それにしても、いつの間にこんなに高く登ってしまっていたのか、不思議に思えるほど。ここはバスの時刻に合わせて、ゆっくりと下りて行きます。沢を渡るところで、再び大休止し、冷たく心地よい水でざぶざぶと顔と手を洗いました。
登山道の終点で、青い吊橋が見えてきました。不老山登山口を示す道標の周りに、杖に使うと良さそうな棒枝がたくさん置かれています。登って行く人が持って行けるようにと、下山して来た人が置いて行くのでしょう。
荒れた茶畑の脇に飛び出すと、昨年登った大野山がそびえ立っていました。明るく気持ちの良い場所です。バス待ちの時間調整はここですれば良かったと思いました。小さな梅林があり、緑色の実がたくさん成っていました。川沿いに延びて行く田園に目をやりながら、ゆっくりと吊橋に向かいました。
青い吊橋は新旧の2本が並んで架かっています。私は、定員6名と書かれた古い方の吊橋を渡りました。無くなってしまわないうちに、と思ったからです。多少揺れましたが、思い出を増やしておきたい方にはお奨めです。
吊橋を渡って車道に出ると、そこは「棚沢キャンプ場」バス停でした。午後一番のバスは3時15分発ですが、まだまだ時間があるので、次の「山市場」バス停まで歩くことにしました。
谷峨(やが)駅行きのバスは5分ほど遅れてやってきました。谷峨駅(無人)に着くと、バスを飛び降り、上りホームに向かって猛然とダッシュ。何とか電車の到着前に全員が線路を渡りきり、無事に乗り込むことができました。切符も整理券もないので、降りた松田駅で正直に「谷峨からです」と言って190円を支払いました。こういう運賃の支払い方は、どこかほっとします。
松田駅を出て、新松田駅までわずかな空間を歩く間に、別世界に移動するような気がしました。
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