棒ノ折山は、棒ノ嶺とも呼びます。埼玉、東京、いずれの側からもアクセスが良く、手軽に登ることができます。
上日向〜奥茶屋〜棒ノ折山〜岩茸石山〜御嶽駅を結ぶ道は、関東ふれあいの道の中でも、「山草の道」と名づけられています。
西東京バス: 川井駅 → 清東橋(運行本数は少ない)
地理院地図: 棒ノ折山
棒ノ折山の天気: 東京都奥多摩町 , 埼玉県飯能市 , 川井駅
レポ: 都県境尾根から大仁田山
5月14日、初夏の山野草を見たくて、奥多摩の棒ノ折山に行ってきました。奥茶屋から入ったのですが、渓流沿いにたくさんの野草が初々しい花をつけ、人が来たことを喜んでさえいるように見えました。岩茸石山に続く道では、ヤマツツジがまもなく見頃を迎えようとしていて、赤い色にも瑞々しさがみなぎっていました。
午前8時51分、川井駅に到着。多摩川に架かる大きな奥多摩大橋の出迎えを受けます。駅の下の道路に降りて、大正橋を渡り、バス停に行くと、5人がすでにバスを待っていました。9時27分発清東橋(せいとうばし)行きバスが来るまで時間があるので、奥多摩大橋で入念に準備運動をします。
バスは定刻にがら空きの状態で来ましたが、50人ほどが乗り込んで満員状態になりました。車内で小耳に挟んだ話では、この先トイレが随所にあるので、電車を降りたら駅のトイレには行かずに、まずバス停に来るのが座席を得るコツだ、とか。とはいえ、清東橋までバスで16分程度なので、立ち席でも大丈夫です。
清東橋終点から、マス釣り場のたくさんある大丹波川沿いに、車道を奥茶屋に向かって歩きます。百軒茶屋では、お店のおばさんが、「きょうは良い天気になりましたね」と声をかけてきました。台風1号も熱低となって通り過ぎ、太陽と虫たちを待っていた多くの草木が、元気よく開花しているかもしれません。
奥茶屋に至り、棒ノ折山登山道入口の木橋を渡ると、さっそくハコベ(白花)、クワガタソウ(白花)、ヒメレンゲ(黄花)などが咲いていました。登山道に沿った渓流にはワサビ田があり、川の透き通った水もほとんど見えないほど、びっしりとワサビの葉が生い茂っています。セリバヒエンソウ(紫花)、ラショウモンカズラ(紫花)なども見られますが、デジカメで撮影すると、青みが強い色に写ってしまいます。
小さな祠のあるところで渓流を離れ、尾根の急登が始まります。すでにウォーミングアップされた足で、どんどん高度を稼ぎます。眺望はありませんが、新緑が青空を埋め尽くさんばかりの広葉樹、その下によく目立つヤマツツジの赤い花。目と心が潤います。山頂まで距離にしてわずか1.1kmですが、休憩を含めて1時間も要しました。
ようやく高い樹木がなくなり、モミジイチゴの緑一色の藪を抜けると山頂でした。埼玉県側に「棒ノ嶺 969m」と書かれています。北と東側に大きく視界が開け、双子のような大持山と武甲山をはじめとする、奥武蔵の山々を望めます。残念ながら霞がかかっていて、上信の山々までは見えません。関東平野では、西武ドームだけが白いもやの中に光っていました。
実は、私が棒ノ折山に来たのは、39年ぶりです。前回来た時は、名栗方面から登りました。そのときの棒ノ嶺の印象がよほど薄かったのか、当時の記憶をよみがえらせるものは、登山手帖以外、何もありません。そのおかげで、この日見るものがすべて初めて見るように新鮮です。気持ちの良い北斜面に腰を下ろし、行動食のヨモギモチを食べ、紅茶を飲みます。
棒ノ折山からは、権次入峠(ごんじりとうげ)と黒山(842m)を経由して、岩茸石山に向かいます。「山と高原地図」には、この区間にスミレ類とツツジ類が多いと書かれています。何が見られるか、行ってみてのお楽しみです。
結果を言ってしまうと、スミレ類はすでに花の季節を過ぎていて、タチツボスミレ以外、目を引くようなものは咲いていませんでした。ツツジは今、何と言ってもヤマツツジです。まだ咲き始めて日が浅いのでしょう、花が落ちていません。色は淡いサーモンピンクから、かなり濃い桃色まであります。チチブドウダンの花は真っ赤。トウゴクミツバツツジは見つけられませんでした。それにしても出会う人の少ない、とても静かな道でした。
岩茸石山に着くと、棒ノ折山から歩いてきたコースがとてもよく見えました。こんなに長く歩いたのかと思うほど距離感があります。岩茸石山も、棒ノ折山と同じように北と東に眺望が開けています。山頂の斜面にはミツバツチグリ(黄花)が咲いていました。
高水山の方から大きなグループがやって来ました。登山講習会のようで、国土地理院の地図とコンパスを使って、地形を読む方法を教えています。講師らしい人が、「登山地図しか持たない人は、コンパスを使って方位や地形を読んでいない」という意味のことを言っています。もちろん磁北と等高線の入った登山地図でなら地形を読むことはできますが、等高線の標高、針葉樹林と広葉樹林、送電線経路などの情報を得るには、国土地理院の5万分の一または2万5千分の一の地図の方が優っています。
岩茸石山から下山するには、上成木、軍畑駅、御嶽駅、川井駅への、合わせて4つのルートがあります。時計と時刻表を見ながら考えた末、川井駅に下ることにしました。先ほど通過した名坂峠まで戻ります。
名坂峠から八桑に下るコースは、シダ類の多い、ひっそりした道でした。目を引くのはエンレイソウ(がく片がしぼんで色は不明)、ウラシマソウ(紫褐色花)、オトコヨウゾメ(白花)など。耳に入るのは、沢の水音と自分の足音だけ。午後3時頃、山の鳥たちも静かです。人には全く出会いません。
八桑からはバスの便がありますが、本数がきわめて少ないので、あてにはしていません。川井駅まで徒歩40分ほど、今朝バスで通った道を歩きます。民家の庭の花や、午後の里山の空気。歩けばまた違ったものが見えます。駅は遠くありませんでした。
川井駅のプラットフォームは一つだけです。無人の駅にアナウンスが流れると、ほどなく単線レールの彼方から、カタン、コトンと電車の音が聞こえてきます。午後3時53分、銀色のボディをキラリと光らせ、大都市からのお迎えが静かに停止。山に別れを告げるように私がボタンを押すと、ドアがみごとに開きました。少し疲れた肩からリュックを下ろし、すいた座席に腰を下ろすと、たちまち瞼(まぶた)が重くなって行きました。
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