三国山稜は、豊かなブナ林とヤマボウシの群落で知られます。山中湖は近いけれども、アザミ平でわずかに見える以外には、ほとんど見えません。
富士スピードウェイが至近距離にあるため、レースがあると騒音が三国山稜にも響き渡ります。静寂を好まれる方は、ウェブサイトで行事予定を見ておくといいでしょう。
富士急バス: 駿河小山駅 → 明神峠(期間限定の土休日片道運行) 小山町巡回バス(無料): 健康福祉会館 ← 紅富台
地理院地図: 三国山
三国山稜の天気予報: 小山町 , 山中湖村 , 富士山
富士箱根トレイル情報(小山町サイト)
不老山のサンショウバラ
レポ: 不老山 , 鉄砲木ノ頭・高指山
台風8号が関東地方沿岸を通過した翌日の7月12日、富士箱根トレイルの三国山稜(三国山ハイキングコース)を歩いてきました。小鳥や蝉たちの元気な鳴き声に、天然クーラーの利いたブナ林は快適そのもの。ただ、富士スピードウェイからの爆音は大減点でした。
久々にやって来た、JR御殿場線、駿河小山駅。ホームでゆっくり写真を撮ってからバス乗り場に行くと、既に20人ほどのハイカーが並んでいました。梅雨の晴れ間がちょうど土曜日で、明神峠行きのバスを利用できます。このところしばらく使ってなかった足を慣らすのには、標高900mの明神峠まで楽々行けるこのバスは、ありがたいものです。全員が乗り込むとバスはほぼ満席になり、定時に発車しました。
バスは交通量の少ない県道をスイスイと走り、定時に明神峠に到着。運賃は550円でした。乗客たちは下車すると東行き(不老山方面)と西行き(三国山方面)とに分かれて行きます。西に向かったのは、私を含めて8名ほどでした。
明神峠の仮設トイレ脇を通過すると、すぐに緑のトンネルになりました。しばらく緩やかな上り坂です。黒い地面にヤマボウシの花びら(実は額片)がたくさん落ちていました。はじめ、きれいに咲いたヤマボウシの木を見つけると、いちいち写真を撮っていたのですが、花はこの先ずっと各所で見られたので、急ぐことは全くなかったのでした。途中、南方が開けた場所があります。ガスがかかって鈍い色でしたが、箱根方面と駿河湾方面を望めました。
明神峠から30分ほどで、県道を横断しました。道路の案内標識が、静岡県と神奈川県の境を示していますが、山梨県もすぐそこです。登山道の取り付きに、平成23年11月に行方不明になった男性を尋ねる立看板が取り付けてありました。詩吟の本を持っていたそうです。事情は分かりませんが、自分自身が行方不明にならないようにと、気を引き締めます。
傾斜がややきつくなりました。無理をせずに登って行きます。ヤマボウシの白い花(額片)が4枚まとまった状態で地面に散らばっているのが、ちょうど図案化したモンシロチョウみたいです。送電線の下では北方が開け、西丹沢の甲相国境尾根方面を望めました。三国山ハイキングコース中では貴重な展望地です。このあたりからバライチゴの白い花が目立つようになりました。やがて真っ赤な大きな実ができますが、美味しくはありません。
ブナの木がとてもたくさんあります。杉や檜の植林と異なり、それぞれがユニークな姿をして、なかなか面白いと思いました。台風で鳴りを潜めていたであろう、エゾハルゼミの大合唱がとても賑やかです。鳴き方はヒグラシに似ていますが、少し声がしゃがれ気味。涼しいそよ風もほどよい風量で、天然クーラーは完璧な状態です。梅雨時にこんな快適な山歩きができるなんて、きょうはよい目的地を選択したと思いました。富士スピードウェイから爆音が聞こえるようになるまでは、でしたが。
三国山頂の直前で、右手に若草色をした山が望めました。西面の開けた鉄砲木ノ頭だと思います。あの山頂からなら、山中湖と富士山が同時にきれいに見えるでしょう。もし晴れたら、三国山から鉄砲木ノ頭まで往復してもいいと思いました。でも、この日は、最後まで富士山は姿を隠したまま。この日に汗を流して霧中の富士登山をしていた方々は、どんな想いを持ったでしょうか。
三国山頂は、樹木が生い茂って、展望はありませんでした。小休止して、行動食と水分を口にします。そのとき、大洞山方面から、大型カメラを三脚に取り付けて担いだ青年がやってきました。サンショウバラが咲いていたか尋ねてみようかとも思いましたが、自分で探さねばならないことに変わりはないので、止めておきました。
鉄砲木ノ頭へは次の機会に行くこととして、大洞山に向かいます。ブナ林は陽が差すと美しく輝き、ガスに覆われると心持ち陰鬱になるといったことを繰り返していました。ただ天然クーラーは順調そのもの。ヤマボウシ、ウツギ、バイケイソウ以外に花は少なかったのですが、いろいろなキノコが出ていました。こうして緩い起伏の尾根を歩きながら、ヅナ峠(1330m)、楢木山(1353m)を通過し、最高峰の大洞山(=角取山)に到着しました。いずれの峰も樹木に囲まれ、展望はありませんでした。
大洞山の先で、サンショウバラの小枝が落ちていました。葉はまだ瑞々しく、色鮮やかな花弁も散らばっていました。人が手折ったのでなければ、台風8号に叩き落されたのでしょう。高いところをよく探せば、咲き残りの花が見つかったかもしれません。
「トレイル」が右に折れるところ(1366m 峰)では、蝉たちが低い場所で鳴いていました。体の小さな蝉なのに、鼓膜を突き破りそうな大音響です。大切な婚活とはいえ、こんなに大声で活動しているとは知らず、驚きました。蝉の声は少し離れたところで聞こえてこそ、俳人や詩人の筆を動かすものでしょう。蝉の発音器官を研究すれば、エネルギー効率の高いスピーカーを開発できるかもしれません。
これより、緩やかに下って行くと、明るい砂礫地に出ました。空の一部が真っ青に晴れて、白さの引き立つノイバラやヤマボウシがいっぱいの花園が出現。植生回復のためか、登山路の脇にロープが張られています。イボタ(後で調べたら、ミヤマイボタらしい)の花の香りが漂い、アサギマダラが蜜を吸っていました。行く手には畑尾山がふっくら盛り上がっています。
再び緑のトンネルに入り、7分ほど歩くと、「アザミ平東」と書かれた場所に出ました。開放感のある火山砂礫の草原が広がっています。アザミの花は見当たりませんでしたが、ノイバラの潅木やモミの若木が散在していました。右手のロープ沿いに散策路(?)のような小路があったので入ってみると、山中湖の一部が望めました。西方には全身を現わした畑尾山が、ぐっと近づいたように見えます。ただ、富士山は相変らず雲の中。何か食草でもあるのか、あちらこちらでモンシロチョウがテフテフと飛んでいました。
アザミ平で花を探し、かなり道草を食いました。先に進みます。アザミ平の西端にある籠坂峠への分岐には、小山町の立てた道標と、岩田氏の立てられたイラスト入りの、しかし朽ち掛けたカラフルな道標とが並立していました。後者は、やがて全部山の肥やしになるのでしょう。木製ですから、いつかは必ず朽ちるとしても、防腐処理をもっと何とかできなかったのでしょうか。
畑尾山への登りは思いのほか短く、あっという間に到着しました。うれしいことに、サンショウバラの木があって、2輪が咲き残っていました。高い位置なので、下から見上げるばかりです。でも木に咲いているサンショウバラを見ることができました。見頃は六月末頃までだったのかな、と思います。
「立山(たちやま)東分岐」で籠坂峠への道を右に分けると、その3分先が「立山山頂」(1330m)でした。展望台への左分岐を示す道標があります。その標柱の文字を見て、そこが山頂だということを知りました。すぐに展望台に向かいます。このあたり、ヤマボウシが咲き溢れ、真っ白な花が丹沢のシロヤシオを彷彿させるほどでした。展望台手前のY字路にサンショウバラの木があり、ぶら下がった札に「花期6月〜7月」と書かれています。今は7月ですが、木の上にも、地面の上にも、花は全く見られませんでした。
立山展望台は、「台」というよりミニ草原でした。富士山が見えるように樹木を伐採したのだと思いますが、どうやら今日は富士山遠望がお休みのようです。ここで草に腰を下ろし、昼食にしました。展望台の主はツマグロヒョウモンの♂。次々と飛んでくる他の蝶を追い払うことに余念がありませんが、虫でない私は完全に無視されていました。
紅富台(こうふだい)14時40分発のバスに合わせて、立山展望台を発ちました。再びヤマボウシの洪水を通り抜け、「トレイル」の本線に戻ります。どんどん下って行くと、サンショウバラの木もところどころに見られました。落ちた花すらも見られなかったので、花期はとうの昔に過ぎ去ったのでしょう。今はすっかりヤマボウシの山になっています。
「立山砂場」を過ぎ、「立山休憩所」で左折すると、檜の植林帯になりました。岩石やデコボコのほとんどない歩きやすい道だったので一気に駆け下りてしまいました。「立山登山道入口」から林道になります。「須走紅富台上」で車道に出たのですが、一瞬どちらに進むべきか迷いました。ここは、道標の腕木(道の駅すばしり)の指す方向に下ります。左右に別荘や山荘風の家々の並んだ坂道を下って行くと、青い文字で「町内巡回バス停留所」と書かれた看板が見えてきました。
やってきたバスは白ナンバーで、30人乗りほどの小型バスでした。地元の方はいませんでしたが、私を含めて7人ほどの下山者が乗りました。今どき無料とは、ありがたいことです。車内空調も快適で、車窓から思わぬ田園見物ができました。終点で運転士さんに礼を言って下車。その足で、きれいな健康福祉会館に行き、顔と手を洗わせていただきました。現在、風呂はありません。それでも来訪者として歓迎されたような気分になり、満たされた気持ちで駿河小山駅に向かいました。
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