一般に、高圧送電線の下は、樹木が伐り払われて見通しが利きます。また、付近に巡視路があること、勇壮な鉄塔を間近で見れることなど、ハイキングの対象としても魅力的です。
鉄塔の番号は、電力の供給側から消費側に向かって、1号、2号....と付けられています。新秦野変電所から京浜変電所に続く「秦浜線」は、不動越(イヨリ峠)付近に立つ9号を頂点に山越えをします。
神奈中バス: 秦野駅 → 小蓑毛 神奈中バス: 伊勢原駅 ← 子易
地理院地図: 秦浜線9号鉄塔 , ルート図
不動越の天気: 伊勢原市 , 小蓑毛
レポ: 蓑毛から浅間山・聖峰
2月19日(金)、雨水の日は快晴で暖かな日となりました。4月上旬並みの気温だということで、ヤマビルの動かないうちにいつか行こうと思っていた、高圧送電秦浜線(しんひんせん?)の山越え区間を歩いてきました。懸垂曲線が正確に揃った送電線は、鉄道の輝く線路のように美しいものです。いくつかの変圧器を介して、わが家、わが部屋にもつながっている送電線。見上げれば猫バスのような速さで夢が駆け抜けて行きます。
秦野駅9時2分発の蓑毛行バスは、ガラガラに空いていました。小蓑毛で下車したのは私だけ。バス停のすぐ先に4号鉄塔が立っています。さて、5号へ行く道はどこにあるのでしょうか? 地理院地図を見ると、4号鉄塔のすぐ北でバス通りから東に入る小道があり、5号鉄塔のすぐ近くまで通じているようです。ところが行ってみると、民家の先で道がなくなっていました。仕方なく、小蓑毛バス停に戻ります。
再出発! 今度は神社と寺のある道に入ってみます。すぐに左手に鳥居が見え、「神明社」という扁額がありました。5号鉄塔も見えます。小川の傍に出ると、お寺が見えました。行ってみると、高岳寺といい、門前に立派な六地蔵が立っています。門前に向かって左に上るコンクリートの農道が、地図上の363m点を過る尾根道への入口でしょう。この農道を登って行きます。振り返ると、新秦野変電所から出た送電線と鉄塔の並ぶ里山が、いい風景になっていました。
農道はすぐに土の道に変わりました。大きな白梅のわきを通り抜けると、行く手が大きく開けました。ゴルフ場の向こうに高取山と530m峰とが並んでいます。地理院地図では、ここで左折して尾根に向かう道があるのですが、50mほど先で途切れています。行けるところまで行ってみると、みかん畑用のモノレールがありました。これをたどって行くと、藪の中に作業小屋がありました。その左をそっと通り抜け、みかん畑の中のモノレールを辿って行きます。
犬がいましたが、私に気が付いて逃げて行きました。そのとき、みかん畑を守る柵の下をくぐって出て行きました。扉があって、開けられますが、紐を解いてまた結ぶのは面倒です。私も下の隙間をくぐりました。柵の外に出ると、目の前に明るい尾根がありました。落ち葉のたくさん積もった、雰囲気のいい尾根です。気分よく尾根を登って行くと、6号鉄塔が見えてきました。大空に悠然と立ち上がり、人の手で与えられた生命感のあるところが、ロボットと似ています。
秦浜線6号の特徴は、大きく見える富士山を背景に持っていることです。送電線も美しければ、富士山も美しい。高圧線の下で、私もハイテンションになります。送電線と富士山とを、さまざまな構図に配置して撮影しました。これだけで、きょうはもう十分に報われたような気がします。この6号鉄塔に続く、7号、8号、9号など、一連の鉄塔巡りに胸が膨らんできました。
秦浜線7号に向かいます。引き続き尾根を登ると、「秦浜線7号に至る」と書かれた黄色の杭に、赤い右向き矢印がありました。ここで尾根から逸れて、送電線巡視路を進みます。少し下って樹林を抜けると、明るい尾根に7号鉄塔が立っていました。送電線の下が大幅に伐採されているので、眺望が抜群です。富士山は見えませんが、箱根の山々、相模湾、伊豆半島、伊豆大島などを広大に望めます。暖かい日差しの下、昼寝をしたらストレスがきれいに解消することでしょう。
7号から8号へと、巡視路らしい道がありましたが、浅間山(せんげんやま)林道を調べてみたかったので、北東の尾根を登りました。道は特にありませんが、普通に歩けます。7分ほどで浅間山林道に飛び出しました。交点にカーブミラーがあります。西の方に何かありそうなので行ってみると、広大な展望がありました。階段状の岳ノ台南尾根、その向こうに富士山、県道70号の白いガードレール。ヤビツ峠行きのバスで何度も通った尾根を、新しい視点で再発見しました。
道草はここまでにして、8号鉄塔に向かいます。浅間山林道を東に緩く下って行くと、先の7号鉄塔が見えてきました。高圧線を横から軽く見下ろす位置になりますが、これはちょっと珍しいかもしれません。相模湾の水平線と比べ、送電線もけっこう水平にピンと張っているものだなあと思いました。すべての電線は完璧に平行です。隣り合う電線は張力が同じでないと、強風の時に電線どうし接触するかも知れません。もちろんスペーサーも入っています。
林道はほぼ等高線沿いに、繰り返し尾根と谷とを回り込んで行きます。三番目の谷から、別の林道を右下方に分けました。実はこれが8号鉄塔への近道だったのです。地図を見ていればすぐに分かったことですが、これを怠ったので見逃してしまいました。次の尾根で、「秦浜線8号に至る」と書かれた杭を見て、そこから右に尾根を下りました。巡視路にしては、やや歩きにくかったのですが、すぐに先ほど分岐した林道に降り立ちました。8号鉄塔は目の前です。
8号鉄塔からは、7号と6号が重なって見えます。送電線がつくる、吸い込まれそうな遠近感、優美な懸垂曲線(カテナリー曲線)、五重塔にも似た鉄塔の構造美などを、たっぷりと味わえます。背景には鍋割山南尾根の末端の丘陵、秦野市街地、ともに頭の丸い金時山と矢倉岳。昼食はここできまりです。太陽に温められた塔脚のコンクリート台に腰を下ろして、熱い紅茶を飲む。半分は描いて来たシナリオどおりですが、実行するときは格別の味がします。
8号鉄塔の下には7号への巡視路らしい道がありました。これを使えば近道だったのですが、仕事で来ているわけではありません。お腹もふくれたので、リュックを閉じ、9号に向かいます。8号のすぐ上の林道を、先ほどは横断したのですが、北に上って、浅間山林道に戻りました。再び「秦浜線8号に至る」の杭まで来ると、すぐ先の左手に階段があり、「秦浜線9号に至る」の杭がありました。しっかりした造りで、歩きやすそうな巡視路です。ちょっと登ってみましょう。
8分ほど登ると、大山南稜の縦走路に飛び出しました。整った道を不動越方向に下って行くと、前方に9号鉄塔が見えてきました。最高地点の鉄塔なので、送電線と碍子が全部八の字になっています。送電線の下まで来ると、西面に素晴らしい眺望がありました。9号鉄塔から豪快に下った送電線を8号が受け止め、7号、6号と水平に進み、一旦尾根に隠れた後、再び現れて変電所に接続します。空中にくっきりと描かれる電流の軌道と、巨大なエネルギーが伝送される不思議。
9号鉄塔直下の展望は、奥に美しい富士山があり、ここを通るすべての人々の目を引くでしょう。人はここに立って何を思うでしょうか?「送電線ってファンタジックね!」「送電線が邪魔だなあ!」「ぶら下がって滑り下りたい!」等々。中には「飛びたい!」という衝動に駆られる人がいるかも知れません。残念なことに、ここでデジカメが電池切れになりました。以後の写真は、携帯で撮影したものです。
ハイキング道と浅間山林道の交差点で左折します。不動越には行きません。林道を緩く下って行くと、「秦浜線10号に至る」の杭がありました。ここで林道を離れ、右(東)に巡視路を下ります。7分ほどで、10号鉄塔と、伊勢原市街地とが見えました。巡視路は10号の右(南)を回るように付けられています。わずかに下れば、10号鉄塔の足下。そこは樹木に囲まれ、誰にも見られることのない、ひっそりした空間です。塔脚にタッチし、次に進みました。
さらに13分ほど巡視路を下ると、小広い仕事道に出ました。小さな橋を渡り、道なりに下って行くと、右手の小沢に「秦浜線11号に至る」の杭が立っていました。赤いUターン矢印があります。その沢を越え、小刻みの階段を登って行くと、広々とした空間に飛び出しました。すらりとした11号が、女神のような威厳を持って立っています。背後の10号と9号もきれい。しかし何と言っても圧巻は、伊勢原方面に12号、13号、14号、15号.....と延びて行く送電線です。
仕事道に戻り、下って行くと、獣除けの柵が道を塞いでいました。「開けたら必ず柵を閉めてしばって下さい」と書いてあるので、そのとおりにします。続いて左に登る小道を分けましたが、実はこれが12号への道でした。私はうっかり通り過ぎ、大山フィッシングセンターで行き過ぎに気付いてUターン。10分ほどの損失で、12号に到着しました。周辺は緑のきれいな竹林です。竹と電球の縁を思いながら、鉄塔の真下より真上に向かって、工学技術の結晶を撮影しました。
13号鉄塔は、仕事道から仰ぎ見ただけで、パスしました。行く道が分かり難そうだったということもあります。そして鈴川を越えると、大山道の通る谷戸に出ました。谷戸の上手には、大山がどっしりと鎮座しています。新道を14号鉄塔に向かって歩きながら振り返ると、秦浜線13号から9号までを全部望めました。10号は頭の先だけが見えます。そして、きょうの目標である14号鉄塔にゴールイン。子易バス停はすぐ近くです。思った以上に楽しい鉄塔巡りでした。
追記 小蓑毛バス停から6号鉄塔へ行くまでに、私有地であるみかん畑を通り抜けるのは、好ましくありません。5号鉄塔と6号の間には送電線巡視路があるようなので、そちらをお奨めします。
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