雁ヶ腹摺山の山頂は、富士山の方角だけ樹木を切り開いてあります。五百円札が影をひそめても、この風景は不滅です。
雁ヶ腹摺山は、大月市の「秀麗富嶽十二景」の一番です。
富士急山梨バス: 大月駅 → 遅能戸(西奥山行き) 富士急山梨バス: 大月駅 ← ハマイバ前
地理院地図: 雁ヶ腹摺山
雁ヶ腹摺山の天気: 山梨県大月市
レポ: 小金沢山・牛奥ノ雁ヶ腹摺山 , 楢ノ木尾根
10月23日(土)、雁ヶ腹摺山に行って来ました。日帰り縦走の場合、実はコース取りの少々難しい山です。大月駅から大峠まで50分ほどタクシーを使うのが一般的ですが、3〜4名まとまらないと、不経済です。そこで考えたのが、南麓の金山鉱泉から山頂まで登り、大峠から林道をハマイバ前バス停まで、スロージョギングで駆け下りる計画。下り坂のスロージョギングでは、私の場合、歩くのと比べて所要時間を約60パーセントにまで短縮できます。
前日まで出ていた土曜日の天気予報は、終日雲一つない晴れマークばかり。これはチャンス、富士山と紅葉を期待し、登山の準備をしておきました。ところが当日の朝は、どんよりとした曇り空。少しがっかりしながらも、そのうち晴れるかもしれないと思いながら、横浜線、中央線と乗って行きました。
7時30分、大月駅発西奥山行きの始発バスに乗車しました。7時45分、遅能戸(おそのうと)で下車するまで乗客は私一人だけ。降りるとき、バスの運転手さんの「行ってらっしゃい」の声に、やさしく背中を押される思いがしました。
バス停前のY字路で、空模様を気にしつつ、軽く準備体操。期待に反し、ますます雲が厚くなってきたような気がします。土曜日だというのに、私以外に登山者は一人も見当たりません。
まず金山鉱泉まで1時間ほど車道を歩きます。イワシャジン、セキヤマアキノチョウジなど、紫色の花がたくさん咲いていますが、シャッターを切ると何故か青色に写ってしまう不思議。タマアジサイがまだ咲いていましたが、夏の頃と比べると、花もずっと慎ましげです。
8時40分、金山鉱泉山口館前を通過。そのすぐ先に大垈山(おおぬたやま)への分岐があります。ここで靴紐をしっかり結び、ベストを脱ぎました。大垈山には向かわず、真っ直ぐ進みます。さらに30分ほど歩くと、ようやく登山道らしい道になりました。うれしい事に、ここで少し青空が出現。日も差して来ました。
ここからほの暗い沢沿いの道を登ります。幾度となく木橋を渡りますが、ぬるぬるしていて滑りそう。土砂崩れがあったのか、たくさんの檜がまとめて倒れている箇所がありました。沢から離れて急斜面を登って行くと、再び大垈山への分岐がありましたが、ここが金山峠かと思います。10時13分通過。空はまた曇っています。
一旦林道に降り、畑倉用水水源地と書かれた場所を過ぎると、右斜面に登山道がありました。ここも急傾斜で、どんどん高度を稼げます。一部の樹木に紅葉や黄葉も始まりかけていました。晴れていればとても楽しく歩けそうな道です。でも、空は今にも雨が落ちてきそうな暗さ。下を見ると、リンドウやセンブリが可愛らしく咲いていて、慰められます。きれいなキノコがあったので、撮影しようと腰を低くしたら、ほのかに良い香りがしました。
11時31分、再び林道と出合いました。林道を横断して直進すると雁ヶ腹摺山、林道を右に進むと姥子山です。私は天候の回復を期待し、雁ヶ腹摺山の頂上に早く着き過ぎないようにと、姥子山に向かいました。
11時43分、姥子山西峰に到着。名標の類は何もなく、樹木に囲まれて眺望も利きません。しばらく休んで東峰に向かいました。
11時53分、姥子山東峰に到着。こちらは視野が開けていますが、霧のため山々は下の方しか見えません。それでも笹子方面まで続く雄大な山容を感じるには十分です。霧を含んだ深い谷を隔てて、赤や黄色に染まり始めた裾模様には、奥ゆかしい美しさがありました。
再び西峰を経て林道に戻り、雁ヶ腹摺山に向かいます。12時27分、元の登山道に合流。地図に白樺平とあるのはこのあたりでしょうか。あまり白樺は見当たらないようですが。
この先から、苔むした大きな岩が増えてきました。包丁で切ったように、縦にすっぱり割れている岩が多くあります。この時になって、明るい光が差し込んできました。見上げれば、空の一部に真っ青な窓が開いています。緑の岩苔もキラキラ輝き始めました。遅ればせながら、天気予報どおり、晴れるかもしれません。
軽くなった足でどんどん登って行くと、左手の樹間越しに、くっきりと富士の雄姿が見え隠れするようになりました。おおっ、と思わず感動の声を漏らします。さらに速くなった足取りで小走りに登って行くと、小さな草原に出ました。もう山頂は目の前。振り向けば、富士山の上半身と三ツ峠が白い雲海に青く浮かんでいます。この時を待っていました。
13時10分、山頂に到着。4名の先客がそれぞれの姿で富士山を愛でていました。でも展望の利くのは富士山の方向だけ。これはもう、富士山を眺めるための山だと言わんばかりです。五百円札の絵柄の案内板があり、昭和17年11月3日午前7時15分頃撮影とあります。
白い穂のススキの向こうの青い富士。構図を変え、露出を変え、画角を変えて何度もシャッターを切ります。朝から約5時間かけて登ったことが、十分に報われました。
もう一つ、私は雁ヶ腹摺山から牛奥ノ雁ヶ腹摺山(うしおくのがんがはらすりやま)を撮影する計画を持ってきました。北に向かって視界が開けている所を探します。山頂から15分ほど大樺ノ頭に向かって下ると樹木が開け、この夏に歩いた小金沢連嶺がきれいに見えました。その中に、牛奥ノ雁ヶ腹摺山が思いのほか近くに見えます。その北方には、森林と草原の成す模様に特徴のある熊沢山、天狗棚山の峰々。いずれもくっきりと望めます。
14時10分、いつまでも居たい気分ながら、山頂を辞しました。これから大峠経由でハマイバ前17時5分発のバスに乗る計画なのです。山頂からススキの原を抜けると、ここにも素晴らしい展望台がありました。白い雲海に島のように浮かぶ端正な富士山。同じ富士山でも感動するたびに撮影したくなってしまいます。
14時51分、大峠に到着。ログハウス風の休憩所を覗いて小休止の後、14時58分、スロージョギングを開始しました。ハマイバ前バス停まで、予定した走行時間は96分です。面白いことに、下りで使う筋肉は、まだとても元気です。スロージョギングのコツはいくら走っても疲れないような速さで走ることです。もし疲れたなら、それはスロージョギングではなかったのです。とはいえ、下り坂ではかなりのスピードが出ます。
1.4kmほど走ったところで、親切なご夫婦に拾われました。静かに車を止めて、「乗って行きませんか?」との声。ここは喜んで好意に甘えます。「ありがとうございます。お願いします。」ご主人と奥様が後部座席の荷物を片付けて、座るスペースを作ってくださいました。
こうしてあっという間に、国道20号の下真木バス停に到着。奥様がバスの時刻まで調べてくださいました。きょうは本当に助かりました、無事に帰宅されますように、と祈りながら車を見送ります。バスはすぐ来ました。
16時7分、大月駅に到着。予定よりも大幅に早く帰宅できそうです。電車内では、いつの間にか心地よく眠りこんでしまいました。
スロージョギングは、NHKの番組「ためしてガッテン」で取り上げられました。
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