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楢ノ木尾根

楢ノ木尾根

楢ノ木尾根のミズナラ林

楢ノ木尾根は、林相の美しい尾根です。ミズナラ、ダケカンバ、カラマツ、モミ、ツガなどが、たくさん自生しています。また開花期には、サラサドウダン、シロヤシオ、ヤマツツジ、ほか種々の花を楽しむことができます。

バス停 富士急山梨バス: 大月駅 → ハマイバ前 登山口
バス停 富士急山梨バス: 猿橋駅 ← 上和田 登山口

地図 地理院地図: 雁ヶ腹摺山 , 泣坂ノ頭

天気 楢ノ木尾根の天気: 大月市 , 雁ヶ腹摺山 , 上和田

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コース & タイム [第1日] 鉄道駅 大月駅 バス停 8:40 == 9:06 ハマイバ前 9:10 --- 10:58 湯ノ沢峠入口 11:11 --- 12:33 湯ノ沢峠 12:58 --- 13:47 大蔵高丸 13:49 --- 14:15 ハマイバ丸 14:15 --- 14:19 ハマイバ丸草原の展望地(大休止) 15:08 --- 15:45 大蔵高丸 15:49 --- 16:25 湯ノ沢峠(泊)[第2日] 湯ノ沢峠 4:48 --- 5:44 白谷ノ丸 5:47 --- 6:04 黒岳 6:18 --- 7:18 大峠 7:31 --- 8:34 雁ヶ腹摺山 8:37 --- 9:28 大樺ノ頭 9:45 --- 10:46 唐松立 10:59 --- 11:45 栂尾根ノ頭 11:45 --- 12:21 泣坂ノタル 12:21 --- 12:37 泣坂ノ頭 12:50 --- 13:08 大峰 13:09 --- 13:31 西沢ノ頭 13:31 --- 14:12 上和田下降点 14:12 --- 15:21 水道施設 15:30 --- 15:46 水無山登山口 15:51 --- 15:54 上和田バス停 バス停 16:05 == 16:37 猿橋駅 鉄道駅
※歩行時間には道草と写真撮影の時間が含まれています。
雁ヶ腹摺山、泣坂ノ頭 がんがはらすりやま:標高 1874m、なきざかのあたま:標高 1420.7m
単独 2018.05.25-26 第1日 7時間15分 第2日 11時間06分 合計18時間21分 満足度:❀❀❀❀ ホネオレ度:❢❢❢

5月25・26日(金・土)の2日間、楢ノ木尾根を歩いてきました。大月駅から大峠までタクシーを利用すれば1日コースですが、一人で乗るのはもったいない(約7,500円)。そこで、湯ノ沢峠避難小屋を利用しての1泊2日コースとしました。第1日は、お花見:湯ノ沢のクリンソウとハマイバ丸のトウゴクミツバツツジをたっぷりと鑑賞。第2日は、展望と美林:カラマツ・ミズナラ・ダケカンバの美しい楢ノ木尾根を縦走して、養蚕風情の残る上和田に下りました。

段落見出し 第1日: 長いアプローチ

楢ノ木尾根を歩きたい!と思い始めた時から、あっという間に十余年が過ぎ去りました。山の友たちは、一人、二人と山歩きから離脱。私自身も、明日のことは分かりません。そうこうしているうちに、今年も花の美しい季節が到来。ついに思い切って、1泊2日の計画を立てました。1日目は滝子山の鎮西ヶ池でクリンソウを見て、ツツジの美しいハマイバ丸と、ズミのきれいな大蔵高丸を経て、湯ノ沢峠避難小屋へ。2日目は黒岳と大峠を経て、楢ノ木尾根一直線です。

素晴らしい計画だと思ったのですが、よく検討してみると、2日目にかなりのスタミナが必要です。そこで1日目は湯ノ沢でクリンソウを見て、避難小屋に着いたら荷物を置き、ハマイバ丸まで往復することにしました。これで、メイン行程の2日目に備え、かなりの体力を温存できるはずです。調理器具は取り止め。食事は水か湯を注げば出来上がる、牛めしとカップめん。途中に水場があることを踏まえ、飲料は冷水2リットル、調理用の熱湯0.5リットルとしました。

大月駅8時40分発の、ハマイバ前行きバスに乗った登山者は、私を含めて4人。うち、2人が桑西で下車し、2人が終点まで行きました。いずれも男性です。私が岩魚釣りセンターの前で準備運動をしている間に、もう一人の方は出発して行きました。私はこれから、湯ノ沢入口まで約1時間40分、林道真木小金沢線テクシー(徒歩)の旅です。真木川の清流から来る冷風と瀬音は心地よく、ミスジチョウがさっそく挨拶に来てくれた上に、ササバギンランも咲いていました。

段落見出し 安息の湯ノ沢

湯ノ沢入口付近では、伐採作業が進行していました。林道に面して、大きな伐採地があり、重機が唸っています。先回は、と言っても9年も前のことですが、ここで野生の猿たちと出遭いました。もうすっかり様変わりして、猿の来そうな場所ではありません。湯ノ沢峠へは、道標に従って、ここから左のコンクリート道に上がります。林道から離れるにつれて重機のエンジン音が遠くなって行き、左手に湯ノ沢を低く見下ろせる展望地に着いたところでお茶にしました。

水分補給と休憩を終え、少し先に進むと、ヤマツツジの真っ赤な花に目を奪われました。ようやく咲き始めたばかりの花と、まもなく咲こうとしているつぼみが、羽化したての蝶のように、無垢な色と姿を見せています。それから10分ほどでコンクリート道は終わり、山道になりました。さらに5分ほどで、道が沢に下ります。古い木橋で沢を越える地点から、涼しくて快適な道になりました。ここまで暑さに耐えて歩いて来たことが、一遍に報われる思いがします。

先回はその先でスズタケの薮をこぎましたが、今回はその笹薮が全面的に枯れて、バタバタ倒れていました。この状態は、後ほど行く湯ノ沢峠付近でも顕著に見られ、この山域の笹薮は、すっかり歩きやすくなっています。そう言えば一昨年、湯ノ沢峠のスズタケが実を着けていました。子孫を残した笹は枯れて、次世代の肥やしになるのでしょう。林床に日差しが届き、緑の草が生え、シロバナノヘビイチゴやクワガタソウなどの可愛らしい花が咲いていました。

段落見出し まるで桃源郷

さて、そろそろクリンソウを探さねばなりません。水ぎわの湿った場所に行って見よう、と思ったら、何と、道沿いにたくさん咲いていました。そこは緑の草地に付けられた、一すじの踏みつけみち。その両脇に数十株の花茎が立ち、それぞれ10輪前後の赤い小花を着けています。クリンソウは、ジャンボサイズの桜草。もし森の小人の結婚パレードがあるとすれば、その沿道の飾りつけくらいのサイズです。今この道を歩く人は、クリンソウを見ずに歩くことはできません。

念のため、水ぎわにも行って見ると、クリンソウがしっかりと咲いていました。よかった、よかった。今回の目標を一つ達成。すっかり軽くなった足で、さらに奥へ進んで行くと、庭園のような場所がありました。一面の緑の草地に、若い木々が程よく植わり、一跨ぎで越えられそうな小川がさらさらと流れています。水面には青い空が映り、丸木を並べた橋を渡ってその園地に入ると、もう桃源郷の心地。自然の園地なのに、まるで絵本の森に来たみたいです。

足下に咲く、イチリンソウに似た、白い清楚な花。これは確か、サンリンソウです。5弁花ですが、6弁の花もあります。気をよくして、どんどん進むと、沢がロックガーデンの様相になりました。渋い萌黄色の苔の生した大きな岩が積み重なっています。9年前の6月26日に歩いた時は、花よりもこの岩石園が印象に残りました。登山道の勾配が徐々に増していきます。大月市のきれいな道標の立つところに、白っぽい樹皮のダケカンバが数本あり、ロープで囲まれていました。

段落見出し ランラン、湯ノ沢峠から大蔵高丸

やがて、登山道は左に折れ、トラバース気味に登って行きます。これは、峠道が峠に近づくと、よくある道の付け方です。もう気分はルンルン、草むらのウマノアシガタの花も「また来たね」と言っているようです。そして湯ノ沢峠に到着。とりあえず避難小屋に荷物を置いて、トイレに行きました。実は、少し前から我慢していたのです。トイレに入ってびっくり。きれいで、無臭で、無料で、備え付けの紙、電気の照明、手洗いの水まであります。全身で感謝しました。

小屋に戻ると、サブザックを取り出し、その中に飲み物とタオルを入れました。身軽になって、大蔵高丸とハマイバ丸に向かいます。まずはじめの楽しみは、お花畑。百花繚乱の季節にはまだ早すぎますが、名を知らないすみれ各種とスズランのほか、小さな蝶がたくさんいました。「湯ノ沢峠のお花畑」は、広々として気持ちのいい草原です。前方のふっくらした山は大蔵高丸、後方に白ザレを見せるのは白谷ノ丸、そして北西に望める奥秩父には、五丈岩も認められました。

大蔵高丸への登りで、きょう初めて山で人と出会いました。私が、産卵で忙しそうなモンキチョウにカメラを向けていたら、「モンシロチョウですね」と言われたので、「卵を産んでいるのです」とだけ答えました。そして山頂直前まで来ると、ようやく富士山が見えました。陰影は薄いのですが、むしろ上品な姿に見えます。ここは大月市が選定した、秀麗富嶽十二景の三番山頂。山梨百名山の標柱が新しくなり、その向きも、富士山を背負うように立っていました。

段落見出し ランラン、大蔵高丸からハマイバ丸

この先の稜線は、なだらかな起伏の続く、極上の散歩道です。まず大蔵高丸付近はズミの天下で、ふっくらした白とピンクのつぼみを目いっぱい着け、今1分咲きと言ったところ。ズミの花≒(梨の花+林檎の花)÷2かな? 湯ノ沢峠の駐車場で満開だったその花の名を、ここに来てやっと思い出しました。そして稜線の各所に趣を添えるダケカンバ、ハマイバ丸に近づくほど賑やかになるトウゴクミツバツツジ。足下にはシロバナノヘビイチゴ、イワキンバイ(?)など。

ハマイバ丸山頂を通過し、南面の広い草原に行きました。富士山とツツジを同時に眺められる展望地です。夜明け前から湯ノ沢峠に車で乗り付けて、大きなレンズと三脚を担ぎ、この付近に陣取って、明け方の富士山を撮影するカメラマンが、相当数いると聞きます。でもきょうの富士山は、黄砂の影響があるのか、コントラストが薄すぎ。とは言え、見る分には十分美しいのです。私はこの草原に腰を下ろし、お菓子と飲み物を取り出して、大休止しました。

大月からワラビ採りに来たという方がいました。改めてよく見ると、この草原には、たくさんのワラビが生えています。でもその方によると、食べるためには一手間かかるので、今どきワラビを採って食べる人はめっきり減ってしまったそうです。またツツジは、今から1週間ほど前が、最盛期だったとのこと。「夜目、遠目、傘の下」と言いますが、私の遠目には今も完璧に美しいトウゴクミツバツツジ。太陽を見上げると、きょうも暈(かさ)が出ていました。

段落見出し 長い夜

この草原で50分ほど過ごしました。湯ノ沢峠に戻ります。帰る北の空は真っ青で、明日登る白谷ノ丸、雁ヶ腹摺山、大樺ノ頭などを、美しい色彩でくっきりと望めました。また、お花畑から白谷ノ丸を望むと、トウゴクミツバツツジの花によるマジェンタの斑が、山腹にたくさんちりばめられていました。明日の行程も楽しみです。十分に満たされた心で、湯ノ沢峠避難小屋に戻りました。私の散歩中に到着した男性が2人いて、今夜の同宿は3名です。独りでなくてよかった!

さて、以前には小屋の隅に布団が積み重ねてあったのですが、すっかりなくなって、床にはカーペットが敷かれているだけでした。窓ガラスに貼紙があり、「衛生上問題がありましたので、撤去しました」とのこと。続けて、「あくまでも災害や緊急時に使用する避難小屋ですので、寝泊り等もご遠慮下さい」と書いてあります。うーむ、そうだったのか。これは困りました。しかたなく、今回に限り、一度だけ泊まらせてくださいと言って、泊めてもらうことにしました。

3人とも早めの夕食に取りかかりました。小屋内は火気厳禁。入口の外に座り、きょうはどこから来て、明日はどこへ行くか、等々語り合いながら、各自温かいものを作ります。私は魔法瓶の湯を使って、カップめんと牛めしを食べました。その後、よく覚えていませんが、6時頃には寝たと思います。布団をあてにしてエアマットを家に置いて来たので、夜間背中が冷えました。眠れたのか、眠れなかったのか、夜間にホトトギスの鳴く声と、車が乗り付ける音が聞こえました。

段落見出し 第2日: さあ、本番だ!

深夜に目を覚ましたので、星を見がてらトイレに行こうと外に出ると、小屋は濃霧に包まれていました。昨晩はなかった車も来ています。どうせ床が冷えてよく眠れないので、そのまま4時まで寝袋を被って待ちました。全員が起きたところで、室内の蛍光灯を点け、明るい光の下で朝食、パッキング、身支度などすることができたのは、この小屋ならでは。顔を洗いに水場に行くと、か細い水がチョロチョロと流れ、付近には僅かながら、クリンソウが咲いていました。

身支度が整うと、皆さんに挨拶し、4時半過ぎに湯ノ沢峠に行きました。準備運動を念入りに行います。峠からは、白み始めた空の下に、切り絵のような山々を望めました。気になる天候はどうでしょうか。雨が降っても、雁ヶ腹摺山までは行きたいと、この時点では思っていました。昨晩は妻にメールを送ったのですが、携帯のバッテリー残量が少なかったので、今朝はテレパシーで代用(届くかな?)します。こうして4時48分、2日目の行動を開始しました。

湯ノ沢峠付近には、「ウグイスのヤブ」と私が勝手に名付けた、スズタケの薮があります。過去2回、薮の中でウグイスの「チャッ、チャッ」と鳴く声を聞きながらヤブこぎを強いられた場所です。しかし今回は、この笹薮が枯れて、登山道も整備されていたので、楽々通過できました。昨夜、眠れなかったようで本当はよく眠れたのか、あるいは精神が高揚していたせいか、体がめっきり軽くなって、順調に白谷ノ丸の肩の少し下の展望地に至りました。

段落見出し 白谷ノ丸へ

さて、はるか見渡す大空と富士山は、共にうす墨色。滝子山に続く稜線は緑、ツツジは鮮烈なマジェンタです。翻ると、南アルプス、八ヶ岳、金峰山、国師ヶ岳などを、意外にもくっきりと望めました。こちらは、淡いオレンジ色の空に稜線が浮かび上がっています。よし、きょうはまずまずの天候。もし遠望が利かなければ、目の前の風景を楽しみながら歩くことにしましょう。白谷ノ丸の頂を見渡せる地点まで登ると、山頂に行く前に、右手の白砂の小峰に向かいました。

その白砂の小峰に行く途中、鮮やかなトウゴクミツバツツジがあったので、富士山と重ねて眺めると、素晴らしい絵になりました。今、富士山は青みを帯びた墨絵。中景の山なみは、緑の切り絵。近景のツツジは、豊かなボリューム感と、目の覚める赤紫。鑑賞者が私しかいないのは、何とももったいない! これぞ早起きのご褒美。そして次は白砂の小峰です。砂と岩とケルン、背景に幾重もの連嶺、その果ての雲海に浮かぶ富士山。ここに北斎がいたら、何を思うでしょうか?

白谷ノ丸は展望の峰です。一歩一歩登りながら、きょう歩く雁ヶ腹摺山と、大樺ノ頭から始まる楢ノ木尾根をじっくりと眺めました。それは、これまで何度も地図を見て想像してきた楢ノ木尾根の、ようやく目にする実物です。この位置からでは、長手方向に眺めるので、その長さと起伏とを見ることはできません。でも、引力はむしろ強く感じます。まずは、目前の白谷ノ丸と黒岳を越え、眼下の大峠に下りねばなりません。すでに心も体も十分に熱し、準備万端でした。

段落見出し 黒岳を経て、大峠へ

白谷ノ丸の北面に入ると、様相が一変しました。不揃いが持ち味の自然林、苔生した数々の倒木、みずみずしいバイケイソウの群落。すべて小金沢連嶺の匂いと味わいです。そして黒岳に登頂。標高1987.6mは、今回の山行における最高峰。大月市、塩山市、大和村、三つの山頂標が並び立っています。樹木に囲まれて眺望はありませんが、黒岳を表敬して小休止。座ってお茶を飲んでいると、昨晩同じ小屋に泊まった若者が登って来ました。きょうは丹波まで歩くそうです。

さて、大峠への分岐は、黒岳山頂から北へ2分ほどの地点にあります。道標を見て右折し、標高差410m余りの下降に入りました。広葉樹と針葉樹の混交した自然林で、雰囲気は悪くありません。北面に雲取山と飛龍山を望めたり、山道のアクセントになるトウゴクミツバツツジが咲いていたりして、飽きませんでした。多くの生木がへし折られた倒木地帯もあって、何か凄まじい力の働いたことを思い知らされます。途中にある、赤岩ノ丸(1792m)は巻きました。

黒岳からちょうど1時間で大峠に到着しました。東屋の前、マユミの木の下で一休み。その東屋は頑丈そうな造りで、中でビバークした人のレポを読んだことがあります。私はこれから雁ヶ腹摺山に登るのですが、その前に、簡単な骨格調整のストレッチをしました。林道には何台もの車が来ていて、重機も1台ありました。今しがた車を降りて富士山を眺めている人々もいます。大峠の北面に、歩いて行ける距離の「小金沢シオジの森」は、いつか行ってみたい場所の一つです。

段落見出し 雁ヶ腹摺山

午前7時半、雁ヶ腹摺山に取り付きました。3分ほど登って、御硯水の水場。ここで思い切り顔を洗い、のどを潤しました。大峠から山頂にかけては著名なハイキングコースで、登山道がよく整備されています。ミズナラの極めて多いことから、楢ノ木尾根の「楢」とは、ミズナラのことであろうと思いました。足洗石、神奈備(かんなび)石ほか、天然石も見ものです。富士山の見える展望地がいくつかあり、ここでもトウゴクミツバツツジがその風景に花を添えていました。

大峠から正味1時間で、雁ヶ腹摺山に登頂しました。草原の向うに見える富士山と、幾重にも重なる山なみは、五百円札に描かれた風景として有名です。その元写真は、昭和17年11月3日、午前7時15分頃に撮影されたとの由。山頂標に記された標高は、先回来た2010年には、1857mと書かれていましたが、今見ると、1874mに修正されています。素晴らしい眺望を持つ峰ですが、小虫が顔にまとわりつくので、誰も山頂に長く滞在していません。私も早々に山頂を辞しました。

北に向かって、緩やかに下ります。10分ほど行くと、緑もあざやかなカラマツ林となりました。カラマツの好きな私は、ご機嫌です。左手に、牛奥ノ雁ヶ腹摺山と小金沢山を望める場所があります。あの稜線を歩いている人々は、先ほど黒岳で別れた若者も、こちら本家の雁ヶ腹摺山を眺めているかも知れません。小さな鞍部を過ぎると、マイヅルソウの白い小さな花が咲いていました。軽く登り返した標高1780mの小峰で、大樺ノ頭を指す道標を見て、北東の尾根に進みます。

段落見出し 大樺ノ頭

次の小さな鞍部では、右手に展望があり、明るい尾根わきにマルバダケブキの群落も見られました。ここにも鮮やかなトウゴクミツバツツジがあり、その下を歩いて登り返します。小規模の岩稜がありますが、何も難しいところはありません。そしてもう一度軽く下って登り返すと、大樺ノ頭(1776.7m)に立ちました。三等三角点がありますが、展望は利きません。楢ノ木尾根は、どこからどこまでを言うのか知りませんが、ここ大樺ノ頭をその西端と見ることもできます。

男性数名のパーティーが、北から登って来ました。聞くと、大峠からシオジの森に行き、ここ大樺ノ頭に登って来たとのことです。「シオジとはどんな木ですか? ここにもありますか?」と尋ねると、「ここには見られません。」さらに、「遊歩道のような道に落ち葉が積もって、滑りやすかった。」「個人的には期待外れでした!」と言う人も。私も「シオジの森」には行って見たいと思っているので、こういう情報は参考になります。ここで腰を下ろし、軽食を取りました。

大樺ノ頭のすぐ東で尾根が分かれます。直進は道形のない薮尾根。ここは左折して、明瞭な道を下るのが正解です。下り始めにサラサドウダンの花が咲いていました。花はいいのですが、私は地形図を見て、左折は考えにくいので、ちょっと不安になりました。でも、少し下ると泣坂ノ頭を指す道標があったので、不安はすぐに解消。横で咲いていたズミの花を見ながら喜びます。なお、ここのサラサドウダンは暗くてよく見えません。後ほど、鑑賞と撮影の好適地があります。

段落見出し 美しいミズナラの広場から唐松立へ

尾根道が、とても良い雰囲気になりました。青い空、緑と白の取り合せが美しいダケカンバ、赤いベニバナノツクバネウツギ、親指姫サイズのマイヅルソウなど、目を楽しませてくれます。行く手の高みに立つ送電鉄塔は、楢ノ木尾根の重要なランドマーク。やがて、緑陰の美しい広場に入りました。5日前に歩いた長尾尾根のブナ林にも似て、そのブナをミズナラに置き換えたような美林です。エゾハルゼミの大合唱が響く中、セミを探してしばらく広場を彷徨ってみました。

広場にもサラサドウダンがありましたが、唐松立への登りに入ると、嬉しくも、その花が目の高さにまで下りて来ました。超小型の逆さチューリップ。可愛らしい花が10個ずつほど房になって、風にそよそよ揺れています。この花を撮影していると、男性三人組に追いつかれました。ここで一緒に花を愛でます。このパーティーとは、上和田まで前後しながら、同じルートを歩きました。その最も年配の方は、私と同年齢。皆さん、よく山を歩いていらっしゃるようです。

送電鉄塔(葛野川線5号)の立つ唐松立(1597m)には、明るい稜線を好むシロバナノヘビイチゴがたくさん咲いていました。踏まないように気を付けて、ピークに立ちます。ここは本来素晴らしい展望地なのですが、あいにく今日は空気が霞んで、特に南面の遠望があまり利きません。富士山は辛うじて頭のてっぺんが見えるだけ。他方、北面は、飛龍・雲取を擁する奥秩父を最奥に置き、順次手前に、天平尾根、丹波大菩薩道、牛の寝通り、長峰などを望めました。

段落見出し 泣坂ノ頭へ

引き続き東に進みます。ふと気が付くと、ゴヨウツツジがありました。星のように整った五枚葉がきれいです。花はありません。よく見て行くと、ゴヨウツツジはとてもたくさんありました。加えて、ヤマツツジの花も見られるようになり、こちらは遠くからでもよく目立ちます。まもなく二つ目の送電鉄塔(深城線29号)の下を通って、栂尾根ノ頭(1409m)に至りました。標識らしいものはありません。その先の下り道には、ロープの代わりに錆びたワイヤーがありました。

次の小峰(1360m+)へと登って行くと、地面にシロヤシオの落花がありました。木を見上げて白い花を探すと ... あった! 1輪だけ残っていました。三人組のリーダーらしい方がカメラを向けます。私もこの1輪を撮影。証拠写真のようなものですが、花期にはきっと素晴らしい道になるだろうと想像されます。近くには、慎まし気に白花のフウリンツツジも。そしてこの小峰を越えて下ると、泣坂ノタル(1320m+)と呼ばれる鞍部に下り立ちました。次の峰が泣坂ノ頭です。

これより標高差100mほどの急登です。単に高さ100mの山に登るだけ、と考えれば大したことはないのですが、疲れが蓄積している上、度重なるアップ&ダウンに辟易してもいます。あればうれしい巻き道も、ここにはありません。気合を入れて、前進するのみ。ほとんど直登の道を黙々と登っていきます。道半ばに咲いていたサラサドウダンが、ことさら愛らしく見えました。こうして、ゆっくり、ゆっくり、15分ほどかけて、泣坂ノ頭(1420.7m)に登頂しました。

段落見出し 大峰 ・ 西沢ノ頭 ・ 水無山

泣坂ノ頭にも三等三角点がありますが、樹木に囲まれて、展望はゼロ。公設の山頂標はありません。私製の小さな標識だけが、立ち木に釘で打ち付けてあります。ここで自分のスタミナを考慮し、帰りのバスを1本遅らせることにしました。1時間の余裕が増し、より安全に下山できます。いつまた来れるか分らない山ですから、急がず、よく味わっておきたいとも思いました。見上げると、トチの大きな葉が重なり合って、しゃれた緑のステンドグラス。もう少し憩いましょう。

次の大峰への登りには、シロヤシオが咲いていました。1輪、2輪ではありません。数十輪か、もっとあります。見頃はとうに過ぎていますが、ようやく見られたゴヨウツツジの花。今年は各地で開花が早まりましたが、例年だったら今が楢ノ木尾根のシロヤシオの見頃だったことでしょう。今回はクリンソウ、サラサドウダン、ズミなどを見られたのですから、あれもこれもと、贅沢を言ってはなりません。それからほどなく大峰山頂(1403m)に到着。壊れた祠があります。

大峰のすぐ先で右折して、急な下りに入ります。少し登り返して西沢ノ頭(1298m)。その直ぐ先は南方を見渡せる展望地なのですが、きょうは残念。でも、燃えるようなヤマツツジと、どことなくファンタジックなヤマボウシの共演がすてきです。エゴノキはほとんど落花して、地面が白い花道。その先は、水無山を目指して黙々と歩きました。冬枯れの季節なら、多少は展望があるのでしょう。そして水無山頂(1139m)直前に、上和田への下降点を示す道標がありました。

段落見出し 下山

水無山頂は省略して、上和田へ下りる尾根に進みました。登山道はありません。うすい踏み跡が、あったりなかったり、全く不明瞭。とにかく尾根を外さないよう下るのみです。地図上で、上和田への水平距離は短そうに見えますが、標高差は600mほどの急勾配。落ち葉も積もっていて、気が抜けません。急いだところでバスの時刻は決まっているので、一歩一歩、足元をよく確かめ、慎重に下っていきました。下から聞こえる人のような声は、キツネの遠吠えでしょうか。

尾根の下降が終わりに近づいた頃、幅広の古い道跡が尾根を横切っていました。その道跡は左から下りてきて、右に尾根を巻いています。私はこれを、地形図に残っている旧登山道だと思い、この道跡を下ってみることにしました。すると、地形図と同じように、右へ右へと巻いて行きます。調子に乗ってどんどん進んでいくと、道跡が次第に斜面と同化し、まもなく消えてしまいました。困りましたが、もう里道が近いはず。戻るまでもないと考え、斜面を強引に下りました。

下り立ったところには、簡易水道施設のようなものがありました。余水パイプのような管から、水が流れ出ています。ここで手と顔を洗い、疲れた足を休めました。そして、少し下ると、すぐにコンクリート舗装の生活道路に出ました。斜面に家屋の散在する上和田の里を眺めながら、バスの通る国道139号へと下って行きます。大きな屋根裏を持つ家屋があったので、畑にいた方に尋ねると、やはり元養蚕農家で、かつてこの斜面一帯は桑畑だったとのことでした。

段落見出し 家路

さて、国道に下り立ちましたが、バス停がどこなのか分かりません。学校が見えるので、行って見ると、そこは廃校になった小学校でした。窓に「心の○○さと 上和田小学校 思い出をありがとう!!!」と書いてあります。(○○は欠落)道傍の畑にいた人にバス停の場所を尋ねると、「どこでも手を上げれば止まってくれますよ」とのこと。それはよかった! でも少し時間があったので、猿橋方向に歩いてみると、すぐに上和田バス停がありました。あの三人の方々も来ています。

この方々も、あの巻き道に少し引き込まれたそうですが、すぐに戻って、正しい道を見つけたとのことでした。尾根の要所に道標があれば、大いに助かると思います。特にバスの時間を気にしているときなど。ともかく、皆無事に下山できて何よりです。そうこうしているうちに、大月駅行きのバスが到着しました。このバスは、16時05分、上和田の始発です。小学校の前で待っていたら乗れませんでした。バスに乗り込むと、いつものように幸せな気分になり、ウトウト...。

上和田には飲料の自販機がなかったので、猿橋駅に着くとさっそく買って飲みました。炭酸が、渇いたのどを効果的に潤してくれます。そのボトルを片手にホームに行くと、遅れて来た1本前の電車に乗れました。でも三人組の方々とは、挨拶をしないまま、はぐれてしまいました。私は睡眠不足と、山歩きの疲れが出て、座席に着くとすぐ夢見心地に。高尾行きの電車だったので、乗り過ごす心配はありません。こうして今回もまた無事に、楽しい登山ができました。感謝。

木の葉ライン

↓ 紙芝居



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