ヨモギ平は、訪れる人の少ない、隠れた山上の庭園です。
BOSCOオートキャンプ場からヨモギ平に至る登山道とその周辺は、木材の搬出作業で大きく様変わりしています。また、作業中は立ち入ること自体も危険です。
神奈中バス: 秦野駅 → ヤビツ峠(終点) 東名高速道路: 秦野中井IC → ヤビツ峠
地理院地図: ヨモギ平
ヨモギ平の天気: 神奈川県秦野市 , ヤビツ峠
レポ: ヨモギ平・三ノ塔
4月19日、山の仲間たちと、丹沢のヨモギ平と三ノ塔を巡って来ました。静寂のヨモギ平は新緑の一歩手前。地面には秋の落葉が、今なおいっぱいに敷き詰められていました。他方、三ノ塔から二ノ塔にかけては、夥しい数のハイカーたちと道を譲り合っての通行でした。
週末のヤビツ峠行きバスは混雑すると思い、車を使いました。ヤビツ峠に到着した午前7時、駐車場にはすでに8台の車が入っていました。大山北尾根を目指す若い二人組と、ヨモギ平を目指す私たち五人組の2グループが、谷沿いの道に降りて、門戸口に向かいます。この道を歩くのは、昨年11月以来ですが、その時よりも荒れていました。去る2月の大雪で、フェンスや立ち木が広範囲に倒れたようです。雨後らしく、谷間の朝は湿気を帯びて、マメザクラやキブシの花についた露がきれいでした。
ヤビツ峠から門戸口まで、40分ほどかかりました。グループで唯一の女性のペースに合わせ、かなりゆっくりと歩いたからでしょう。門戸口からは、よく舗装された県道70号を下って行きます。沿道の斜面に、ミツマタの花がたくさん咲いていました。最も見事な群落だと私が思ったのは、諸戸山林事務所の手前、右奥に少し入ったところの斜面です。ただ、花はすでに盛りを過ぎていて、白っぽくなっていました。2〜3週間前なら、鮮やかな黄色の花が見られたことでしょう。
登山道に取り付くために、BOSCOオートキャンプ場内を通らせてもらいます。受付の人に挨拶をし、ヨモギ平に向かう旨を話すと、「行き方を知っていますか?」と訪ねられました。私は知っているつもりだったので、「ハイ」と答えましたが、実際に行ってみると、三年前に来た時とはずいぶんと様変わりがしていました。材木の伐採と搬出のために、重機の通る広い作業道がジグザグに上っています。かつての登山道の方は、探してはみたものの見つけられませんでした。
作業道を少し上ると、トラロープで通せんぼがしてあり、「これより先は、林業の作業現場となっており、たいへん危険です。立ち入りはご遠慮いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。」とていねいな言葉で書かれていました。でもきょうは作業が休みのようです。この作業道は緩やかで、足に優しかったので、行けるところまで行ってみることにしました。
作業道が終わった地点で、その近くの枝尾根に取り付きました。ふっくらした尾根の中心に踏み跡があり、だれか私たちと同じように来て歩いたようです。キャンプ場から20分ほどで落葉樹林帯になり、雰囲気が明るくなりました。木々の枝には、小さな新芽が表れています。あと半月もすれば、美しい緑が萌え出ることでしょう。地面に敷き詰められた落葉のすきまから、幾種類かのスミレが、顔と手を出していました。
この枝尾根をさらに10分ほど直登すると、ヨモギ尾根に合わさりました。そこはヨモギ尾根がやや狭くなっていて、おそらく806m点付近か、もっと北だったかも知れません。ここまではヨモギ尾根南面を登ってきたので無風でしたが、ここからは冷たい北風を受けるようになりました。空は全面的に曇りです。天気予報は悪い方に外れました。ヤビツ峠のピンポイント予報では、午前7時から午後3時まで「晴れ」だったのです。山ではよくあることですが、正直なところ、少しばかり残念でした。
とはいえ、元気を落とした人はいませんでした。山友の皆さん、心の底から山が好きなのです。ヨモギ尾根は表尾根や大倉尾根のように荒れていません。そこを歩くだけで喜びを得られる小世界です。晴れていれば北に望める塔ノ岳や丹沢山は、残念ながら濃霧のかなた。花子とアンならリアルに想像できるかな? 誰にも見える華やかなミツバツツジやマメザクラの花は、まだ緑の少ない山のアクセントです。今咲いている草花はスミレ類だけのようですが、これからどんな花が出てくるのでしょうか?
壊れた鹿柵を跨ぎ、そのしばらく先で、まだ壊れていない鹿柵を通り抜け、待望のヨモギ平に到着。ここまでヨモギ尾根をかれこれ30分ほど歩きました。ここは広葉樹に囲まれ、なだらかな曲線で構成された、癒しの空間と言っていいでしょうか。「ヨモギ平」の木札のある中央広場(?)に行って、ティータイムにしました。初めの話題は、ヨモギはどれだろう?---ないみたい---鹿が食べ尽くしたのかも---本当かな?---ヨモギ餅はうまいよね---等々。
マルバダケブキの初々しい若葉や、ヤマトリカブトの端正な葉も、それ自体は愛らしい被造物ですが、鹿に嫌われて繁殖していると言われます。私は昔のヨモギ平の姿を知りませんが、ほどよい数の野生動物と人間とが、ヨモギに象徴される自然の恵みを共に享受していたのではないでしょうか。暖かな陽射しがあれば、寝転がって目を閉じて、何か楽しい夢を見たいような気もしました。
三ノ塔に向かいます。この幅広のなだらかな尾根は私の大好きな道ですが、他のメンバーたちにも好評でした。落葉の敷き詰められた、足にも心地よい尾根道を、緩やかに下って行きます。鞍部の少し手前で尾根が細くなり、左手の谷を見下ろすと残雪が散見されました。このあたりに、アセビとキブシの花が、同じ場所に渋い味わいで咲いていました。
鞍部から、ややきつい登りになります。ブナやコナラなどの立つ気持ちのよい尾根ですが、運動不足の人の足には応えたようです。樹木に詳しいメンバーが、クマシデの実を教えてくれました。ところで、この尾根の途中から、真新しいモノレールが設置されていました。何に使うのでしょうか?この種のモノレールは、上から下に延びて来ると聞いたことがあります。この冬にヘリコプターが三ノ塔山頂に繰り返し飛来していたのを思い出しました。モノレールは山頂のすぐ手前まで続いています。
ヨモギ平から正味1時間ほどで、表尾根に合わさりました。ここまで私たちのグループ以外に人を見ませんでしたが、さすが丹沢表尾根、続々と人がやって来ます。常駐のお地蔵様は、とても暖かそうな帽子とガウンを召していました。冷たい風が頬を打つ中、ずっと登山者たちを見守り続けています。私たちは三ノ塔山頂の休憩小屋に入って食事をしましたが、寒い隙間風がヒューヒューと通り抜け、早々に退散しました。これは避難小屋ではないのです。でも雨を凌ぐのには役立ちそうです。
二ノ塔に向かって、一旦下ります。流れる濃霧で、二ノ塔が見えたり隠れたりしていました。景色はともかく、凄いのはすれ違う人の多さ。30名ほどの大パーティーが二つ連続してくるところは圧巻でした。下りの私たちは、山のエチケットにしたがって、通過待ちです。「中学生ですか?」と訪ねたら、「中高生です」との返事。中高一貫校でしょうか、皆さんエネルギーに満ち満ちています。しんがりの顧問の先生は一人だけでしたが、大丈夫かな、と少し心配しながら見送りました。
二ノ塔に登り返すと、ここにもきれいにマメザクラが咲いていました。フジザクラとも呼ばれます。丹沢に適しているのか、この日マメザクラの花を多くの場所で見ることができました。たくさんの小さな花が、恥ずかしそうに下向きに咲きます。実生なのか、木によって、花のピンクの濃い薄いなどの個体差があります。
健脚の男性二人に、先に行ってもらいました。ヤビツ峠に駐車してある車を、富士見橋まで持ってきてもらうためです。私を含め残りの三人は、ゆっくりと山を下り、[表尾根0番]標識の前で車に乗りました。すぐに眠くなったので、その後のことはあまり覚えていません。気がつくと、「秦野温泉さざんか」のすぐ近くに来ていました。温かい風呂から上がると、帰路の車内でまた爆睡。登山+温泉+睡眠で、すっかりストレスが解消され、元気溌剌になって帰宅しました。
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