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シロイハタ・セーメーバン

シロイハタ

セーメーバン北西稜の美尾根

山梨県大月市の北部にある、ちょっと不思議な地名を持つ、「シロイハタ」と「セーメーバン」を訪ねました。

バス停 富士急バス: 猿橋駅 → 奈良子 登山口
バス停 富士急バス: 大月駅 ← 遅能戸 登山口

地図 ルート図 ヤマレコ

地図 地理院地図: シロイハタ , 大岱山 , セーメーバン

天気 セーメーバンの天気: 大月市 , 雁ヶ腹摺山

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コース & タイム 鉄道駅 猿橋駅 バス停 6:59 == 7:24 奈良子バス停 7:26 --- 7:54 矢竹:林道奈良子線起点 8:00 --- 8:43 シロイハタ最奥家屋 8:46 --- 9:25 林道船窪線起点9:29 --- 9:55 百間干場 9:56 --- 10:05 金山峠 10:06 --- 10:09 葛野川線11号鉄塔 10:14 --- 10:17 富士山展望地 10:18 --- 10:31 大岱山・金山民宿村方面分岐 10:31 --- 10:43 大岱山最高地点 10:43 --- 10:50 白ブナ 10:56 --- 10:57 大岱山の山頂標 11:08 --- 11:14 宮地山分岐 11:14 --- 11:51 セーメーバン 11:57 --- 12:23 深城線11号鉄塔 12:24 --- 12:40 深城線10号鉄塔 12:43 --- 13:03 サクラ沢峠 13:04 --- 13:29 セーメーバン登山口 13:29 --- 13:52 遅能戸バス停 バス停 14:00 == 14:14 大月駅 鉄道駅
※歩行時間には道草と撮影の時間が含まれています。
大岱山、セーメーバン おおぬたやま:標高 1190m+、せいめいばん:標高 1006.2m 単独 2023.11.29 全6時間26分 満足度:❀❀❀ ホネオレ度:❢❢❢

大月市の北部、地理院地図にカタカナで書かれた地名が二つあります。シロイハタとセーメーバン。その名の由来には、おそらく諸説あって、国土地理院では確定しかね、音だけを表記したのかも知れません。特に長い間、私の脳内でミステリーゾーン扱いだったのが「シロイハタ」。そこで思い切って現地に行ってみることにしました。晩秋の山は美しい紅葉・黄葉に彩られて楽しかったのですが、落ち葉の積もった急勾配の下り道では少々難儀しました。

猿橋駅からバスで奈良子へ

猿橋駅で電車を降りると、南口に急ぎました。朝日を浴びてピンク色に染まった、ずらりと並ぶ山々を望みます。筆頭は重鎮、雁ヶ腹摺山。その右に横たわる楢ノ木尾根。右手にどっしり百蔵山と扇山。左手の駅スロープに移動すると、岩の衝立のような岩殿山。小金沢連嶺の最南端を守る滝子山。これらのいずれもが、富士山を望める「名低山」です。きょう登る大岱山とセーメーバンは、雁ヶ腹摺山の露払いのような位置に控えています。

6時59分発の奈良子(ならご)行きのバスに乗ったのは、私の他に地元の中学校の女子生徒4名。初めは彼女たちが車内を活気づけていました。でも猿橋で皆降りてしまうと、終点の奈良子まで乗降客はなく、もったいなくも私一人を乗せて走りました。この路線はいつまで存続するでしょうか? これから歩く林道奈良子線が、もし魅力的な道ならば、私があと何回かは利用するかも知れません。できれば姥子山への「プチ冒険」ルートが見つかるといいのですが。

バスは時刻表通りに奈良子に着き、一人を乗せて猿橋営業所へと走り去りました。「バス待合所」の古さと大きさとを見ると、かなり前まではバスが住民の足になっていたと想像されます。その向かい側の「春日大明神」の方は、さすがにきちんと手入れがされているようで、妖怪ムードは全くありません。これから歩く深い谷間の林道沿線は、私にとって個人的未体験ゾーン。WEBを検索しても、登山者が歩いた記録は乏しく、何が見られるか楽しみです。

矢竹とシロイハタ

さて、この季節は谷間の林道に日が差すのが遅く、紅葉の色も冴えません。でも左右の山並みから日差しが次第に下がってきて、突然、背中に暖かみを感じ、ものすごい足ながおじさんの影が、足元から前方に投影されました。7時40分。それまで鈍い色合いだったモミジが、お日様マジックでたちまち輝き始めます。林道の左手は、小俣川。かなり深い谷を流れています。右手の山麓にはところどころに家屋が立ち、緩斜面の「準平地」も、わずかながら見られます。

矢竹の集落を通過中に、道端の廃車が目に留まりました。平板の4ドアを持つ、小型のシトロエンです。錆びてはいますが、車体やランプ類にほとんど傷がなく、"2CV6"と"CITROËN"の銘板も健在。きっと大切に乗った車なのでしょう。そこにいた方の話では、「すでにエンジンは取り外されている。また前輪駆動で左右の可動域が狭くて、急角度の右左折ができないのが短所ではあった、云々 ...」とのことです。そしてその廃車のすぐ先が林道奈良子線の起点でした。

引き続き林道を進みます。日差しの注ぐ道はすこぶる快適で、鮮やかな紅葉や黄葉が次々と現れ、目を楽しませてくれました。振り返ると、小俣川左岸の山並みから、何本もの尾根がきれいな線を描いて流れ落ちています。さらに進んで、山椒沢橋と二階谷橋で2本の沢を越えると、まだ日差しの届かない寒色の世界に入りました。いよいよシロイハタです。ひどく錆びた車の置かれた家屋が1軒だけ佇んでいました。廃屋でしょうか。

シロイハタから車両ゲートへ

シロイハタの付近では、ソバ畑の痕跡を探してみました。ソバは白い花が咲きます。でも今は昔の物語、でしょうか、その痕跡は確認できませんでした。尋ねるべき人もいません。そのシロイハタを後にすると、林道に散らばった落石が目立つようになりました。しかも角張った石が多く、車両は走りにくそうです。そしてシロイハタの1軒屋から7分ほど歩くと「白旗橋」「しらはたばし」なる橋がありました。銘板に「昭和36年3月竣工」とあります。

シロイハタの名の由来は「白い畑」か「白い旗」か分かりませんでした。地名には当て字を使うことも多くあります。例えば、湿地を埋め立てて「梅田」とするとか。きょう「白旗橋」を見つけたのは収穫ですが、シロイハタはこれ以上詮索せずに、不明のままにしておきます。その「白旗橋」を後にすると、林道の勾配が幾分増しました。舗装はコンクリート区間とアスファルト区間が交互に現れます。やがて左手の小俣川と林道との落差が縮まってきました。

小俣川に容易に出入りできそうな場所もありました。そのすぐ上流で、川が二すじに分かれますが、直進する方が本沢です。林道はここで左にカーブし、本沢を越える橋に(林道起点から)3.5kmと記されていました。この橋を渡ると車両ゲート。「一般車両通行止め」となっていて、鎖と南京錠が掛けられています。ゲートの横をすり抜けて行くと、「恩賜県有林」「山火事注意」などの目立つ看板がありました。奈良子林道は小俣川左俣の右岸沿いに続きます。

林道船窪線~百間干場~金山峠

車両ゲートから20分ほどで、林道船窪線の起点に至りました。ここで奈良子線は右に折れ、姥子山の山腹をぐんぐん登っていきます。船窪線も勾配が急で、コンクリート舗装の表面に碁盤の目のような刻みが付いていました。黄色の道路標識は「安全速度 20km/h以下」「落石注意」です。舗装区間はすぐに終わり、土と小石の上に轍がしっかりと固まっていました。ちょっと素敵だと思ったのは、小俣川を越える橋から見た、のどかそうな林間のせせらぎです。

その橋を越えると、道が荒れ始めました。四駆車でないと走り難そうですが、歩く分には全く問題ありませ。相変わらず上からの落石には要注意。そして船窪林道起点から正味20分ほどで、百間干場に到着しました。この地名は、どんな由来があるのでしょうか。私がここに来るのは13年ぶり。先回は金山鉱泉経由の谷道で、金山峠を越えて来ました。きょうは奈良子から延々と歩いてきて、あまり登ったような感覚がありませんが、標高はすでに1,000mを超えています。

百間干場から左手の山道に入りました。ぐんぐんと高度を稼げるのが痛快です。山道を登って10分足らずで金山峠に到着。「金山峠山頂」という標識が地面に落ちていました。「峠」を「山頂」と呼ぶのは珍しいと思います。落書き標識の方は、支柱に針金で括り付けてありました。「沢コース荒れている・増水時渡渉困難・危険」と、誰かの手書きがあります。休憩する場面ではないので先に進むと、すぐに送電鉄塔がありました。葛野川(かずのがわ)線11号です。

大岱山あれこれ

葛野川線11号の真下は緑地化していて、風も防げるので休憩の候補地にはなり得ます。でもその先2~3分で、富士山の見える場所がありました。この時、午前10時17分。すでに小さな雲が富士山頂にかかっていましたが、まもなく雲が増え、逆光になってしまうと予想されました。この富士山展望地は狭く、ベンチなどはありません。昼食は大岱山で取るつもりで、さらに登っていくと、左手の樹木を透かして、白谷ノ丸~雁ヶ腹摺山~姥子山の稜線を望めるようになりました。

大月市(大月市西奥山活性化対策委員会)の道標を見て、一つ気が付きました。大岱山の岱にある「山」の一部を削ったり書き足したりして「土」に変えてあるのです。これはいたずらでなければ、「垈」の文字にこだわりを持つ人のしたことでしょう。この山には「大垈山」と「大岱山」の二通りの表記があります。どちらも正しいのでしょうが、本記事では大月市の道標のオリジナル表記に倣って「大岱山」としました。

ところで、大岱山山頂標識には「標高1179.8m」と書かれています。ところが、地理院地図ではその地点から北西に約300m離れた地点に、標高1190mの等高線が小さなマルを描いています。そこで今回は、まずその地点に行ってきました。続いて「白ブナ」を表敬訪問します。行くと、木の傍らにちゃんと標識があり「樹齢約三百年」と書かれていました。地面にカメラを置いて記念の自撮りをします。そしてこの白ブナから約50m行くと「大岱山山頂」標識に至りました。

セーメーバンへ

大岱山頂付近は風がやや強かったので、すぐ近くの平地に下りて昼食にしました。明るく、暖かく、静寂で、心地よい場所です。つくづく「ありがたい」という感情が湧き上がってきました。昼食と言っても、おにぎり代わりの菓子パン1個と、魔法瓶の熱いレモンティーだけ。行動食のようなものです。これをペロリと平らげると「先を急ぎなさい」という山の声(?)か何かに促されて、次の目的地、セーメーバンに向かいました。私はこういう感覚を大切だと思っています。

落ち葉の敷き詰められた庭園のような道を、心でルンルン、足でサクサクと歩いていきます。6分ほどで宮地山への分岐点に至りました。道標がかなり黒っぽく汚れているので、次回はスポンジと洗浄剤を持っていきたいところです。さて、その先はプラ階段の急下降ですが、落ち葉の堆積があって、相当に気を遣いました。でも標高差にして約40m下ると、尾根道が緩やかになります。再び♪ルンルン、♪ランラン。深い落ち葉の道も、平坦地では楽しく歩けます。

深城線16号鉄塔を過ぎると、明るい小広場がありました。勝手ながら、名前を付けてあげたいような気がします。次いで15号を過ぎると、この日一番の美尾根(上の写真)に出ました。最高の気分です。そして14号のすぐ先で、セーメーバンに至りました。ここは3度目。道標は立ち木に紐で縛り付けてありました。山頂名は、なぜか「セイメイバン」でなくて「セーメーバン」です。特に見るべきものはありません。でも何故か私はこの山頂が好ましく思えます。

安全ブレーキを多用

さて、セーメーバン南稜の下りは、最初の約50m(標高差)がやや急峻です。落ち葉のない季節なら特に問題はありませんが、きょうここまで歩いてきて、転倒や滑落を防ぐため、相当に慎重な歩きを要することが分りました。そこで、時間のゆとりを持って、早めに山頂を発つことにします。山頂に誰かが置いていった棒があったので、これを杖代わりにして、おもむろに下り始めました。過去に2回下った経験から、小股でゆっくりと、ブレーキの利く状態を保っていきます。

風は微風、日当たりは良く、ところどころに美しい紅葉。深く積もった落ち葉さえなければ、絶好のコンディションです。過去2回は送電鉄塔を一つずつ訪ねながら、楽しく歩きました。でも今回は全く楽しめません。あと1、2か月経って、落ち葉のあらかた吹き飛んだ後で来ればよかったかな、とか思いながら、できるだけ安全そうな径路を選んで歩きました。落ち葉に埋もれたザレ、安定の悪い石、円筒状の棒切れなどは、できることなら踏みたくありません。

今の季節、どこの山でも似たり寄ったりの状況でしょう。鉄塔11号から10号にかけて、この尾根のハイライトと呼ぶべき好展望が続くのですが、浮かれてはいられません。鉄塔10号を過ぎ、ようやく傾斜が緩くなって一安心と思ったら、ズルズルッと足を取られ、前のめりに転倒してしまいました。幸いそこには落ち葉が分厚く堆積していて、やんわりと私の体を受け止めてくれました。全く無傷で済み、感謝です。踏んだのは丸い枝。持っていた杖は真っ二つに折れました。

サクラ沢峠から遅能戸へ

テレビアンテナ用の黒いケーブルが見えると、サクラ沢峠はすぐです。赤く塗られた石祠の脇を通り、サクラ沢峠に到着しました。きょうは安全最優先で、時間を惜しまずに下りてきたので、オプションとして考えてきた高ノ丸には行きません。サクラ沢峠の写真を撮って、すぐに金山民宿村に向かいました。この道の下り始め、道幅の狭いトラバース区間がありますが、3年前と比べて斜面との同化が少し進んだかな、と思いました。と言っても、まだ普通に歩けます。

バスの時刻と時間調整をしながら歩き、サクラ沢峠から約25分で林道奥山線に下り立ちました。ヤマレコでは「セーメーバン登山口」と呼ばれる地点です。ちなみに、ここの道標には「セイメイバン」と書かれています。林道を少し下って、金山本沢橋を渡ると、鉱泉の建物と人が見え、人里に帰って来たんだなあと思いました。そこからは金山林道をゆるやかに下って、遅能戸バス停に無事ゴールイン。迎えてくれたのは一輪咲きのコスモス。可憐でした。バスは8分後です。

家路

大月駅行きのバスは、時刻表通りに来て、時刻表通りに大月駅に到着しました。乗ってきたのは私だけ。駅のホームで残っていたパンを食べ、まだ熱かったレモンティーを飲みました。電車内では気持ちよくうたた寝をし、ハッと目覚めると、「終点ですよ」の優しい声。高尾と八王子で乗り換え、また幸せな気持ちで夢路に迷い込んでいきました。

木の葉ライン

↓ 紙芝居



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