仙洞寺山は、丹沢山塊の北東のはずれに位置し、訪れる人も少ないので静かな山歩きができます。
山麓にある光明寺は、戦国時代の武田軍によって焼かれ、その火で近くの山も焼けてしまったとのこと。
神奈中バス: 橋本駅 → 三ケ木(みかげ) 神奈中バス: 橋本駅 ← 渡戸(わたど)
地理院地図: 仙洞寺山
仙洞寺山の天気: 神奈川県相模原市緑区
津久井三姫物語
10月4日、秋晴れの爽やかな日、足腰のメンテナンスのために、仙洞寺山に行ってきました。午前中に仕事を一段落させ、遅い出発になったので、近くて低い山の候補の中から、まだ登ってなかった仙洞寺山に決めました。何より火海峠に立ってみたかったのですが・・・。
12時32分、三ケ木バスターミナルから出発。国道412号と413号の共通部分である、やや騒々しい道を南に歩きます。八坂神社に来たら、石段を一気に登って静寂の世界に瞬間移動。境内は台風の通った名残りか、木々の枝が散乱し、石段を照らす蛍光灯もカバーが割れて落ちていました。
社殿の裏に行くと、林道に通じる道がありました。この林道をたどれば仙洞寺山の山頂近くまで行けます。道ははじめ緩やかですが、筋肉が温まってくる頃に勾配を増します。人も車も来ない秋の林道。静寂そのものです。
森林管理署の看板の前で大きく展望が開け、南高尾山稜と、奥高尾・陣馬山稜のパノラマが待っていました。泰光寺山、コンピラ山、城山、景信山...かつて何度か足で歩いた稜線を、目で歩きます。谷間を蛇行する中津川の傍には、黄金色の稲田がのどかです。
林道を進むと周回林道に突き当たります。仙洞寺山をぐるりと取り囲む林道で、右か左に行かねばなりません。WEBには、どちらに行っても山頂に行けたという記事があったので、大した考えもなく左に行きました。後で分かったのですが、右に行く方が楽ではあったのです。
2〜3分歩くと、右手に階段の道が現れました。さっそく取り付きます。少し登ると、園芸店で売られているイボのついた野菜の支柱がいくつも立っているので、よく見ると植樹がなされています。「新ニッポン探検隊」と書かれた銘板もあります。ここで階段道が消えてしまったので、そのまま上に登り続けました。登山道でないところを歩くのは慎まねばなりませんが、どうしようもなく楽しいものです。
尾根らしいところに近づくと、よく目立つ赤と青のペンキの剥げかかったドラム缶が見えました。そばに行ってみると、階段道があります。再び階段道を登って行くと、階段は再び消えてしまいましたが、すぐに尾根に出ることができました。
尾根上で右折して登って行くと、右から登山道を合わせます。先ほどの周回林道の分岐を右に行けば、ここで出合うのでしょう。そのまま尾根道を直進すると、ほどなく一つのピークに達しました。「ココハ451m峰ピーク」と書かれた黄色いテープが木に巻いてあります。この峰で遅い昼食にしました。
451m峰から仙洞寺山への道は、はっきりしていました。クモの巣が顔にかかるので、棒で払いながら歩きます。鞍部にさしかかると、とても大きなモミの木が立っていて、おおすごい、と見上げました。となりのアカマツと並んで、仲が良さそうです。
その先にはピラミッドのような岩がありました。風雪の中で角がとれて丸みを帯び、緑の苔が生(む)して、海苔を巻いたおにぎりのような姿です。さらに少し歩くと、「青山村」と読める石標があり、仙洞寺山の頂上に着きました。
仙洞寺山に山頂標はなく、木に巻きつけた張り紙と、近くの松の幹に打たれた慎ましい板に、「仙洞寺山 583m」と書かれているだけです。眺望は利かず、腰を下ろすのに都合のよい木も岩もないので、素通りすることにしました。
さて、次は火海峠に行く予定なのですが、山頂の南側はだだっ広く、道が判然としません。でも南西に伸びる尾根をたどって行けばいいはずです。コンパスを取り出すまでもなく、明るい太陽が南西の空に輝いています。楽しい気分で藪をこいだり木につかまったりしながら、踏み跡の定かでない尾根の上を忠実に下って行きました。
周回林道に下りるところには、トラロープがありました。ロープの助けを借りて下りると、周回林道を横断して再び尾根を登ります。藪で覆われていますが、このあたりの道ははっきりしています。赤いペンキで塗られた石標を過ぎると、ピークがあり、大きな木が倒れて尾根を塞いでいました。この木を乗り越えながら、火海峠への分岐を探します。
火海峠へは右に分岐するはずですが、いくら探しても分かりませんでした。藪が濃すぎて、切れ目がないからです。それらしいところを少し偵察してみようにも、間違っていた場合、元の場所に戻れるか分かりません。木に目印をつけても、藪だらけでとても見つけられないでしょう。少しばかり残念ですが、火海峠はあきらめ、南東に延びる尾根を下り続けることにしました。
この南東への尾根の上に踏み跡はありませんでした。それまでむき出しだった両腕に引っかき傷が増えてきたので、長袖の薄ジャンパーを着ます。倒れた木の枝に足を取られて転倒しないように気をつけながら、尾根の上を忠実に、どんどん下って行きました。
尾根の終点は小さな墓地でした。その脇を通って明るい畑地に出ると、丹沢の山々が目の前に。思わず嬉しくなります。蛭ヶ岳のあたりは雲がかかっていますが、右手に丹沢三峰、遠く正面に大山を望めます。これが仙洞寺山の上から見れたら、いっそう素晴らしいのですが、ここから見ても十分に感動的です。
農道を下って行くと、農作業をしていたおじいさんが怪訝そうな顔で私をじっと見ています。顔を見合わせ、こんにちは!と挨拶を交わしました。振り返ると、仙洞寺山が意外にも優しい山容で私を見送っているように見えました。
細い道を通って県道に出ると、「ここは渡戸 標高二六七米」と書かれた白い杭が立っていました。バスが来るまで24分あるので、串川に沿った県道513号を歩くことにします。伝説の「くしかわ姫」が櫛を落としたという川です。次の馬石橋でもまだ時間があったので、さらに2ストップ歩いて、光明寺を過ぎた六間入口バス停まで来ました。秋の日の午後、おだやかな陽射しを浴びながら、私はまもなく来るはずのバスを待ちました。
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