日和田山とその麓の巾着田は、セットで価値を高め合う名コンビ。菜の花、サクラ、ヒガンバナなど咲く、それぞれの季節に、遠足の小学生、ハイキングの大人、アマチュア写真家たちのメッカ。駅から歩いて行けることも魅力です。
地理院地図: 日和田山
日和田山の天気: 埼玉県日高市 , 高麗駅
9月24日夜のNHKニュースで、埼玉県日高市にある巾着田(きんちゃくだ)に咲くヒガンバナの映像を見て、今年こそ見に行こうと、27日(火)に思い切って行ってきました。まず日和田山に登って巾着田の全体像を眺め、次にヒガンバナの群生地で「赤いじゅうたん」を存分に見るという計画です。
天気予報では、午前中曇りということだったので、ゆっくりと出かけました。高麗(こま)駅に着いたのは午前10時40分。電車から吐き出された人の数は、首都圏のラッシュ時なみ。駅のホームや地下道は「曼珠沙華」の真っ赤なポスターでいっぱい。何か一大イベントのようです。人の波に身を任せてようやく改札を出たら、お祭りのような賑わいの駅前広場。これが土休日だったらどうなることでしょう。
鹿台橋(ろくだいばし)までは、巾着田めあての人々の流れに合わせてゆっくりと歩きます。車道を横断するところなどは警備員が交通整理をしていて、まるで万博のよう。このあたり、どこからでも日和田山がよく見えます。巾着田まで、道標に描かれた真っ赤な顔の天下大将軍が案内役です。
深紅に塗られた鹿台橋を渡ったところで巾着田コースと分かれ、日和田山に向かいます。やっと、のどかな風景になりました。民家の庭先で真っ赤なミニトマトのようなものが、枝ごと売られています。「へえー、花ナスというのですか。 安そうだから下山時に買って帰ろうかな、」などと思いました。
日和田山登山口には、何と、アカボシゴマダラがいました。外来種の蝶ですが、近年急速にその生息域を広げているようです。登山道には砕かれた砂利が敷き詰められ、その上を杉や檜のチップで舗装してあります。「硬いものや杖(ステッキ等)を使用しないでご利用下さい」と書かれています。
金刀比羅神社参道に立つ石の鳥居を通り抜けると、男坂と女坂の分岐です。男坂の岩登りが楽しいとガイドブックで読みましたが、男坂の方には子供たちの大集団がいるようで、にぎやかな声が響いて来ます。ここは静けさを選んで女坂に進みました。といっても、すぐに男坂と合流します。金刀比羅神社前の見晴台に飛び出しました。
私はいつもの習慣で、まず富士山を探しました。大岳山は探さなくても目に止まります。向かってその左にやや影が淡いものの、優美な富士を見つけ、ほっとしました。本命の巾着田は、南の方角にとてもよく見えます。高麗川がぐるっと巾着を取り囲んでいるのですが、これは緑の樹木の立ち並ぶ回廊になっています。その中に赤い花の回廊も見えるかと思ったのですが、花は木々の茂みに隠されて、ここからは見えません。この巾着形の耕作地は奈良時代に渡来した高麗人の知恵によるものだそうです。
さて、男坂からは、男女小学生たちが次から次へと登ってきます。みんなすごく元気そう。クラス全員がそろうと、先生が指揮を執って、金刀比羅神社前の岩の上で記念撮影です。
日和田山頂にも大勢の小学生たちがいました。あまり大勢の腰を下ろす場所がないので、山頂を素通りして行くクラスもあります。東方の市街地をパノラマのように見渡せる山頂なのに、ちょっと残念そうな声も聞こえました。
一休みした私は、西方に伸びる尾根に下山路を取りました。左から巻き道を合わせ、次の分岐で日向方面に向かいます。まもなく富士見岩が行く手にデンと立っています。あまり大きくはありません。その先、「チャートの小径・男岩・女岩へ」と書かれた分岐で左折しました。「チャート」というのは、石英などを主成分とする硬い堆積岩のことです。男岩・女岩では何名かの男女がロッククライミングをしていました。「.....危険ですので登らないでください。事故の責任は一切負いません--日高市」と書かれた警告板が立っています。
シダなど下草の豊かな針葉樹林をしばらく歩くと、民家の脇に出ました。私道のような狭い道を遠慮しつつすり抜け、車道に出ました。ここからは左へ高麗川に沿って歩きます。透明な流れの中に鯉(?)のような魚が見えました。岸には数株のヒガンバナが赤いアクセントを添えて、のどかな里の秋です。
巾着田へのやや狭い道に入ると、小学生の列に巻き込まれました。子供たちはエネルギーを発散していて、一緒に歩くと元気になります。二、三回道を折れ曲がると、すぐに巾着田に着きました。この子たちは、まず高麗川の河原で遊ぶようです。川の土手にもたくさんのヒガンバナが満開。クロアゲハ ナガサキアゲハが吸蜜に来ていました。真っ赤な花にひらひらととまる真っ黒な蝶。冥府からやって来たみたいです。
その先が、いよいよヒガンバナの群生地です。200円の入場料を支払って入ると、テレビで見たのと同じ赤じゅうたんが、遠くまで延々と続いています。ただし、明るい秋の空の下に咲いているのではありません。閉ざされた樹木のやや暗い回廊を、赤一色にびっしりと埋め尽くす曼珠沙華。美しすぎて、凄みを感じます。赤いじゅうたんの上には黒い生きもののように、しかし静かに立ち並ぶ木々。おびただしい観光客のうごめき。ここには、あの溌剌とした子供たちは来ていません。
デジカメのファインダーを通してヒガンバナを撮影していた私は、胸に込み上げるような不整脈を感じました。期外収縮の始まりです。これはヒガンバナを見過ぎたせいだと、直感しました。視界の中に赤い色の占める面積が大き過ぎるのです。しかもその赤い色が、この世離れした赤です。すぐに外に出ようと思ったのですが、ここは有料私設で、出入口はわずかしかありません。期外収縮は次第に増えてきます。これはまずいことになってきました。
何とか最寄りの出入口から外に出ました。するとそこには、広々と明るいコスモス畑があり、その向こうに日和田山が優しく立っています。これを見たら、不整脈は、スッと治まりました。森の緑や空の青はいくら鮮やかでも、どんなに見ていても大丈夫です。でも限度を越えた赤い色は、私の自律神経を狂わせたのでした。幸いこの先ずっと、日和田山とコスモスの花を見ながら歩く道が続きます。空の色も爽やかに、やさしい花と優しい山。この癒しの風景は無料なのです。
巾着田の出入口付近の河原では、小学生たちが水遊びをしていました。中学生以下は無料でヒガンバナ群生地に入場できるのですが、見に行かないのかも知れません。「これで良い」と、私は強く思いました。
午後の高麗駅は、朝来た時にも増して、賑わっていました。プラットホームもあふれんばかりの人々。せめて飯能まで臨時列車を運行してくれないものかな、と思います。ヒガンバナのパワーのすさまじさを見た一日でした。
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