お坊山東峰は、中央線の車窓から大きく望めます。よく整備された大菩薩連嶺の南部縦走路を利用して、お坊山(西峰)経由で至るのが一般的です。
お坊山東峰には、東尾根(南東尾根とも呼ばれる)と南尾根からも登れます。いずれも一般登山道ではなく、地理院地図にも示されていないルートなので、十分な準備と注意が必要です。
富士急山梨バス: 笹子駅前 → 吉久保入口
地理院地図: お坊山東峰
お坊山東峰の天気: 大月市 , 甲州市 , 笹子駅 , 甲斐大和駅
レポ: 笹子雁ヶ腹摺山・お坊山
1月19日、お坊山東峰に行ってきました。本年初めての雪山です。東尾根からの登りは、滑りやすい落葉の積もった急斜面で、いきなり骨が折れました。でも尾根に乗ってしまうと、眺望も好く、軽快なスノーハイクを満喫。登るにつれて雪は深まり、ふくらはぎが疲労し、山頂直下ではかなりの遅足になりました。お坊山山頂では富士山を眺めながら大休止。そして下山はさらに深い雪を踏みつつ、ツボ足で大鹿峠へ。最後に冬景色の景徳院を訪れて、甲斐大和駅にゴールインしました。
国道20号を歩くのを避けるため、笹子駅前からバスを利用しました。私は吉久保入口で下車しましたが、次の吉久保まで乗れば、さらに登山口に近づけます。稲村神社の手前を左に進んだら、すぐに左折。北に向かって集落内の坂道を登り、中央道をくぐり抜けると、「御坊山登山図」と赤い字で書かれた白い案内板がありました。ここで鋭角に左折するのが正解です。ところが私はこの図に惑わされ、直角に2度左折する道を探して真っ直ぐ進んでしまいました。
行けども行けどもそのような道が現れず、道を間違えたことに気付きました。白い案内板まで戻ってよく見ると、その下に古い錆びた金属板があり、「御坊山、左へ」と書かれています。これを見落としたために、10分間のタイムロスになりました。そしてその方向に進むとすぐに、赤い布と踏み跡があったので、斜面に取り付いてみました。落ち葉がたくさん積もっていましたが、踏み跡は続いていたので、「行ける!」と確信を持って登って行きました。
やがて踏み跡はあいまいになり、踏み跡とも、そうでないともとれるようなスジが錯綜し、赤い布やテープも当てにならなくなりました。極端な言い方をすれば、そのような目印は誰かが、かつてそこを歩いたことがある、という程度の情報しか持っていません。斜面は急峻で、滑りやすい落ち葉が敷き詰められ、足を進めるのに難儀しました。下に見える中央自動車道が、なかなか遠ざかってくれません。こうなったら、最も歩き安そうなルートを拾いながら、尾根を目指すしかないと思いました。
早く尾根に乗るために、立ち木や倒木も、できるだけ利用しました。実を言うと、私はこのような登りが嫌いではありません。ただ、歩き始めに疲れ過ぎてはいけないので、時々立ち止まり、呼吸を整えました。南に中央本線と国道20号を隔てて、鶴ヶ鳥屋山や本社ヶ丸が励ましてくれます。ふくらはぎの筋肉は疲れましたが、斜面の凍結や岩場はなかったので、最悪の場合、四つんばいで登れると思いました。でも頑丈な枝を拾って杖にすることで、まずはこの斜面を乗り切ることができました。
尾根に乗ると、また「御坊山登山道」と赤い字で書かれた白い案内板がありました。図はすっかり消えていて、何も読み取れません。この辺りから、歩くのがウソのように楽になりました。雪はまだ浅く、尾根の南面では雪が融けています。幅広の緩やかな尾根を、軽やかに登って行くと、やがて送電鉄塔が現れました。標高840mあたりです。展望が利くので、ここで小休止としました。熱い紅茶が喉を流れます。肩に送電線を担いだ本社ヶ丸が、頼もしそうな姿で近づいていました。
お坊山に促されるように、先に進みます。地図上の水平距離では、わずかしか来ていませんが、エネルギー収支としては、既に中間点まで登った気分でした。北面の枝越しに、勇壮な姿の滝子山が望めます。尾根の立ち木に、色鮮やかな赤いリボンが結んでありましたが、この後も、赤リボン、赤テープは、山頂までずっと見られました。登るほどに、左右の山並みがよく見えるようになります。南には三ツ峠山、北には大谷ヶ丸も姿を見せました。
松の青々とした若木が群生した小峰を越えると、そこが入道山(992m)でした。きれいな山頂標が立っていますが、撮影には不都合な北向きです。ここでは立ち止まらず、棚洞山(1201m)に向かいました。その逆扇形の姿が、目の前に見えています。尾根の左右の樹木も減ってきて、見通しがよくなりました。本社ヶ丸から、大沢山、大洞山を経て北に延びて行く山並みが見事です。ここからは見えませんが、南の三ツ峠山、北の大菩薩嶺へと続く山脈の一部です。
うれしいことに、行く手の空が晴れてきました。冬の空に現れる、どっぷり深みのある青です。 天気予報では、お坊山に登頂する予定の正午前後は「曇り」でしたが、もしや富士山や南アルプスを望めるでしょうか?早く行きたい!棚洞山への尾根道では、まだ積雪も足首程度、楽に歩を進めました。尾根に立つたくさんの落葉樹は、妨げることなく日差しを雪に落とし、明るい山上庭園を成しています。歩行者が少ないので、どこを見ても雪は純白。触れば、適度な湿り気もありました。
巻き道でしょうか、足跡のない道を右に分けました。「タナホラ山」と書かれた小さな私製の標識が、そちらに行かないように山頂を指しています。言われるまでもなく山頂を目指して尾根の中心を登って行くと、アカマツの立ち並ぶ棚洞山に至りました。山頂標のわきに、三等三角点があります。ここで1回目の昼食にしました。私の冬の定番は菓子パンです。青い空を見上げながら、熱い紅茶を少しずつ飲みました。行く手には、東峰がはるか高く聳えています。
棚洞山の先では、積雪が深くなりました。一人が歩いた足跡がありましたが、きょうのものでしょうか、昨日のものでしょうか。動物の足跡もたくさんありました。多いのはシカの足跡、爪が特徴的です。登山道は、幅広の尾根いっぱいに、大きなジグザグ道になりました。尾根の北面では膝下までの雪。登山道が雪に埋もれて不明の箇所では、好き勝手にルートを選んで歩きました。傾斜のきつい部分もあります。まるで絵のような、すてきな林もあったりしました。
健脚なら、尾根を直登する方が早く登れます。けれども私はふくらはぎが疲れるので、できるだけジグザグに登って行きました。日頃のトレーニング不足を痛感します。それでも目に入るものすべてが美しいので、足がよく動いてくれました。そして、ついに東峰の山頂標が見えました。東尾根の終点です。午前11時50分、目的地に到着。ずいぶんと時間がかかりました。
東峰は、一昨年の初秋に来た時よりも、明るく広く感じました。木の葉がきれいに落ちてしまったからでしょう。山頂はあまり展望が利きませんが、どこか心やすらぐ雰囲気があり、神様が休息する庭かも知れないと思いました。ベンチの雪は払わず、立ったまましばし休憩します。雪があらゆる音を吸い取ってしまったのか、静寂の極致のような山頂。この東峰からは、あの滝子山がほっそりした女性の姿のように見えました。
東峰からお坊山に行く途中の鞍部で、大鹿峠への道を右に分けます。その先の、朽ちたベンチのある展望地からは、大菩薩嶺から滝子山までをすっきりきれいに望めました。この展望地は楽しみな場所です。ここから尾根を真っ直ぐ大鹿峠に下ったことがありますが、試しに少し下りてみると雪が深く、腿の半分まで潜りました。とても歩くどころではありません。
さて、お坊山に着くと、さっそく富士山を見に行きました。残念、山頂に雲がかかって、しかも完全に逆光です。それでも雲が流れていたので、そのうちに山頂が顕れるかも知れないと思い、2回目の昼食を取りながら、ずっと眺めていました。南アルプスと八ヶ岳も雲隠れ。金峰山も山頂は雲を冠っていました。かれこれ45分ほど眺めていましたがあきらめて、目の前のトクモリを撮影して山頂を辞しました。東峰への鞍部まで戻ります。
その鞍部から大鹿峠に向かいました。北面をトラバースする道です。ツボ足ではズボッ、ズボッと、膝下まで潜るほど雪がありました。尾根の上だけは比較的に雪が締まり、滝子山や大谷ヶ丸などを見ながら、気持ちよく歩けました。正面の枝越しに見えるのは、ハマイバ丸でしょう。この尾根は西風が強そうで、東側に雪庇が成長し始めていました。下方には、大鹿峠の送電鉄塔が見えています。背中には、山影に隠れそうな太陽から、日が差したり陰ったりしていました。
大鹿峠から送電鉄塔に向かって少し登り返すと、「大鹿峠下山口」と書かれた標識が立っています。これを見て左折し、道なりに田野方面に下れば景徳院に行けます。振り返ると、東峰がお坊さんの頭のように丸く見えました。葉を落として山の地肌の見える様が、五分刈りの坊主頭のようでした。
田野への道は、はじめ幅広で、傾斜も緩やかな歩き易い道でした。しかし20分ほど下ると、道が南面に転じ、急斜面に落ち葉が露出。滑落しないようにと、緊張しました。再び尾根道になると、前方でガサガサと大きな音がし、また緊張の一瞬。見ると、赤い顔をしたヤマドリが走り去るところでした。色鮮やかな体で、オスだと思います。次いで、可愛らしいリスが目の前の道を横切って行きました。鎌倉で見慣れたタイワンリスより小ぶりです。
氷川神社は修復が終わって、屋根がピカピカになっていました。無事に下山できて感謝です。神社の先、参道が凍結していて、うっかり足を滑らせそうになりました。登山は、最後の最後まで油断大敵です。なつかしい田野の風景を俯瞰し、民家の玄関前を通過すると、車道に下り立ちました。そして景徳院に立ち寄ります。雪景色の景徳院を見たかったのですが、雪は少ししかありませんでした。でも石灯籠の上には、ふんわり綿帽子。無事に山を下りられて、もう一度感謝です。
景徳院入口バス停では、次の便まで50分あったので、甲斐大和駅まで歩くことにしました。約30分の県道歩きですが、路側帯の狭い区間では、歩道を法面の高みに設置してあるので、安心して歩くことができます。でも国道20号に入ると、交通量が多く、大型ディーゼル車が通過するときは、排気ガスを吸わないように息を止めて歩きました。
甲斐大和駅は、絵本の中の駅のようです。こじんまりとした駅舎、赤い郵便ポスト、花キャベツのプランター、背後に中学校。ちょうどやって来た甲州市民バスもミニサイズ。駅員はいるのかいないのか分かりません。切符は、乗換駅まで現金で購入しました。その駅で一旦改札を出ることにより、132円も節約できるからです。
東峰の東尾根は、取り付きの急斜面こそ厳しいものの、その後はすばらしい尾根歩きを楽しめました。次回は、南尾根から登ってみたいと思います。冬場の積雪も少ないでしょうから、道を覚えれば、エスケープルートとしても使えるかも知れません。南尾根はお坊山への最短ルートになるので、年間を通し、この山域にもっと出入りしやすくなると思います。
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