大山の北北東に位置する三峰山は、標高こそ1000mに満たないものの、山頂付近の急峻な尾根に鎖や梯子が多く設置され、軽いスリルを楽しむにはもってこいの山です。
左の写真は、大山三峰山の北尾根から望んだ、丹沢三峰です。
神奈中バス: 厚木バスセンター → 広沢寺温泉入口 神奈中バス: 本厚木駅 ← 煤ヶ谷
地理院地図: 大山三峰山
大山三峰山の天気: 神奈川県愛甲郡清川村 , 広沢寺温泉
レポ: 辺室山・鍋嵐
12月17日、親しい山の友と、大山三峰山に行ってきました。前夜から日本海側では雪が降り、関東地方もこの冬一番の寒さとなりました。でも一夜明けたら、穏かな快晴。山頂付近の雪も消えていて、思いの外、のどかな山歩きを楽しめました。
当初の計画では、鐘ヶ岳と日向山とに登るつもりで、『丹沢大山フリーパスB』を買って出かけました。友人とは、午前8時20分に本厚木駅で会う約束です。午前8時、私の乗った電車が海老名駅に停車中、何だか重苦しそうな声で車内アナウンスが流れました。”午前7時55分頃、本厚木駅と愛甲石田駅の間の踏み切りで、電車と乗用車との接触事故があり、全線で運転を見合わせる”、”復旧の見込みは午前10時頃”とのことです。
う〜む困ったな、と思いながら、しばらく待っていると、新宿⇔本厚木間と、小田原⇔伊勢原間で折り返し運転が決定。途中駅で運行打ち切りになった急行や特急ロマンスカーもありましたが、もともと本厚木行きだった私の電車は、本厚木まで行ってくれました。
本厚木駅は、事故のせいであふれんばかりの人の海。それでも改札口まで進むと、運よく一目で友人を見つけました。私と同じ電車に乗って来たということで、がっちり握手。さっそく厚木バスセンターに向かいます。駅から徒歩5分ほどでバスセンターに到着。9番線が、私たちの乗る七沢行きの乗り場ですが、そこに電車事故で足止めをくった登山者たちが続々とやって来ました。大山、丹沢、箱根方面に行くつもりだった人々のようです。すでに計画を変更したパーティーもあれば、ここからどの山に行けるか検討している人々も見られました。
友人と私は、電車事故の影響は受けていないのですが、予想外の好天日に鐘ヶ岳では、もったいないような気がしてきました。車窓から大山の雪が消えているのを見て、アプローチが長くはなりますが、大山に登ることに計画を変更。後になって、三峰山の方が所要時間が短そうだし、きょうは出発時刻も遅いし、ということで、また計画を変更。三峰山に登ることにしました。ところで、乗客のほとんどは、七沢温泉入口でバスを降りて行きました。日向山か日向薬師を経由して、大山を目指したかと思います。
広沢寺(こうたくじ)温泉入口でバスを降り、「県立丹沢大山自然公園」の石碑を見ながら、左にカーブする坂道を上って行きます。5分ほどで、鐘ヶ岳バス停に至り、右前方に鐘ヶ岳が見えてきました。鐘ヶ岳は梵鐘のような形に見えなくもありませんが、その名には別の謂れもあるようです。左手前方には大山が、その頂上の無線塔まで含めて、くっきりと望めます。鐘ヶ岳も大山も、澄み切った青空に聳え立って、ハイカーに及ぼす引力を競い合っているような気がしてきました。
この先、広沢寺温泉を経て、不動尻までやや長い林道歩きがあります。途中で出会う下向き地蔵は、謙虚に目を伏せておられますが、高めの台の上に座っておられ、そばに行けば、目を合わせられそうです。通行人や登山者たちを見守っていただくことができるように、高座に祭り上げられたのかも知れません。右手には鐘ヶ嶽がまだ明るい秋の色を装って、優しい山容で近づいてきます。
路上に、大きな緑色のカマキリがじっと佇んでいるのが目に入ってきました。触ってみたらゆっくりと動きました。体温が上がるのを待っているのでしょう。ぐずぐずしていると、車に轢かれるぞ。道端の小さな白い花は、マツカゼソウ。正月かクリスマスまで咲き残れるでしょうか?
林道を約1時間半歩いて、不動尻に到着。友人とおしゃべりをしながら歩いてきたので、長いとは感じませんでした。横に並んで歩けるのはここまで。「みんなのトイレ」で用を済ませ、ようやく登山道に入ります。すでに午前11時でした。
登山道に取り付くと直ぐに、大山と三峰山との分岐があります。右へ、三峰山の方向に進むと注意書きの札が立っていました。「三峰山は地形が急峻で………無理をしないで引き返す勇気が必要です」と書かれています。同じ注意書きが、煤ヶ谷(すすがや)方面の登山路の2箇所にもありました。ここで言う勇気とは、正しい判断力や決断力のことでしょう。季節、天候、体調などによっては、引き返す勇気を発動しなくちゃいかんな、と思いながら進んで行きます。
谷太郎川に流れ込む、沢沿いの斜面で小休止。ここにはまだ秋の輝きが残っていて、オレンジ色のモミジやカエデがとてもきれいです。とりわけ印象的だったのは、とても小さな葉のモミジの木。真っ青な空に映える、無数のオレンジ色の葉は、赤ちゃんの手のひらよりも小さそう。落ちた葉は沢に敷き詰められ、歩くとサクサクと心地よい音がしました。
年配の方が軽快に下ってきました。「山頂に雪がありますか?」とたずねたら、「雪はあるけれども、登山道の上にはありません」とのこと。これなら、地図に書かれている通りのタイムで行動できそうです。
沢に沿って付けられた登山道をさらに登って行きます。小さなクサリ場が現れました。木の根や枝、大きな岩角など掴む物や足場のない岩場です。鎖がなければ三点確保で攀じ登るしかなさそうな所ですが、ステンレス製の頼もしそうな鎖のおかげで易々と越えられます。これからこのようなクサリ場がたくさんあるのかと思うと楽しみだったのですが、実はこれ以後、煤ヶ谷に下山するまで、同様のクサリ場はありませんでした。しかし、手すり、もしくはガードレールのような役目を持った鎖はたくさん設置されていました。
12時6分、大山と三峰山とを結ぶ尾根に到達。この先、アップダウンを繰り返しながら、痩せた尾根を進んで行きます。山を下りて来る人にも次々と出会うようになりました。狭い尾根で譲り合って通行します。三峰山頂付近の尾根には、安定した登山道を整備するだけの余地がありません。幾つもの鎖や梯子を設置してあるので、「フィールドアスレチックのような」と表現されることのある山です。
右手には、荻野高取山から、華厳山、経ヶ岳、仏果山へと続く相州アルプスを、枝越しに見下ろせます。ここが頂上かな、と思いつつ登ったピークには何の標識もありませんでした。これを越え、次のピークを登り切ると、三峰山頂でした。狭い頂上に、山頂標と三角点があります。テーブルもありますが、座るベンチはありません。展望は良いとは言えませんが、枝越しに周辺の山々が何とか望めます。冬以外の季節にはその展望も難しいでしょう。
ゆっくりしていたいような山頂でもないので、腹ごしらえだけして、すぐに下山の途に就きました。煤ヶ谷まで5.4kmの下りは、いきなり急降下で始まります。相変わらずたくさんの鎖や梯子がありますが、鎖はピカピカのステンレス製。梯子は木製ですが、新しくて丈夫そうなので、安心して身を任せられます。主峰から北の峰に移る鞍部に、ムラサキシキブの実がきれいでした。
山頂から45分ほど下った頃、崩落地にやってきました。尾根の傍からずっと下の方まで山肌が露出しています。よくぞ尾根道まで崩れ落ちなかったものだと思います。次に大雨が降ったらどうなるでしょうか?三峰山の険しさは、このような崩落の繰り返しによってできたものなのでしょう。崩落は好ましいことではありませんが、おかげで展望の良さは、三峰山中で抜群です。左の丹沢表尾根の稜線から、右の鍋嵐(なべわらし)まで、雄大なパノラマを提供してくれています。
また注意書きが立っていました。「この先、斜面崩壊が多数あります。登山道の路肩崩落や、踏み抜きに十分注意して通行してください。」とあります。確かに崩落が路肩の下部にまで食い込んでいて、登山道の下の空間が透けて見える箇所もあります。ストック(杖)を使われる方は、路肩を突き破らないよう願います。
物見峠への分岐にテーブルがあったので、小休止しました。ここにも、「引き返す勇気が必要です」の注意書きが立っています。この分岐から15分ほど下ると、再びテーブルがありました。ここで物見峠からの道を合わせます。ここにも「引き返す勇気が必要です」の注意書き。「クマ出没注意」の警告板もありましたが、下に落ちていました。
いつしか急峻な登山路は終わり、なだらかな里山の趣になってきました。モミジの赤が、まだ色濃く残っています。右手には、鐘ヶ岳が高くせり上がってきました。
堰堤の下で鹿柵の扉を通過すると、まもなく人家が見えてきました。畑の脇の、お百姓さんの野良道のような、整った小道を歩いて行きます。冬だというのに逞しそうに咲いているタンポポの、黄色い花がとても新鮮。行く手には、紅葉の残る低い山脈が西日を受けて、錦絵のように輝いています。正面の山は、高取山でしょう。その向こう側には大きな採石場があるのですが、まだここからは見えません。いつの日か、この風景もなくなってしまうのでしょうか。
道がコンクリート舗装になるところに、登山者カード入れがありました。その横に、ヒルを人の居住地に持ち込まないように、と書かれています。冬以外の季節に山から下りて来た人は、自分の足をよく点検しなければなりません。もしヒルが付いていたら、硬いものを使ってしっかりとつぶさなければなりません。ヤマビルは弾力性があって、なかなかつぶれ難いものです。その時は、このコンクリート舗装が役立つことでしょう。
15時14分、煤ヶ谷バス停に到着。バスは1時間に1本で、次は16時4分です。時間があるので別所温泉まで歩くことにしました。左に美しい高取山を見ながら、25分ほど歩き、「清川村ふれあいセンター、別所の湯」に到着。一日一緒に歩いた友と、一緒に浸かる湯の心地よさ。極楽極楽の境地。
17時8分、別所温泉入口バス停から、本厚木駅行きのバスに乗りました。珍しい女性の運転士さんです。「丹沢大山フリーパスB」を持っています」と言ったら、「上飯山までの(区間)運賃を払ってください」とのこと。(別所温泉入口から170円。煤ヶ谷からだと210円) すでに日はとっぷりと落ち、バスは山間の真っ暗な県道を延々と走って行きます。別段、不思議なことでもありませんが、やがて無事に本厚木駅に到着。楽しそうなクリスマスのイルミネーションに飾られた駅前の空間は、異世界への入口のような気がしました。
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