単独登山は一人で山に登ることです。これはお奨めできません。でも私自身、単独行が多くあります。山に行けば、必ずと言っていいほど、単独行者に出会います。以下、私の思うところを少し記します。
単独であろうと、パーティーであろうと、登山はリスクを伴います。
滑落、転落、転倒、など自分自身が主因で起こるもの
落石、雪崩、落雷、大水、など自分以外に起因するけれども、巻き込まれることを防ぐ努力が可能
猛獣(熊)、マムシ、スズメバチ、などにより登山以外でも起こりえる被害
急な病気 高山病、食あたり、足つり、持病悪化、ほか各種
過労・低体温 2009年、夏のトムラウシ山での大量遭難は記憶に新しい。
迷子 丹沢のような身近な低山でも、道迷いによる遭難事例は多くあります。
しっかりしたパーティでの登山と比べ、単独行では、事故に伴うトラブルのリスクが大きくなります。
自己責任
単独行では、すべてが自己責任です。事故になった場合の山岳救助を当てこんで冒険登山をする人は、まずいないと思いますが、実際に救助隊の世話になれば、多くの人々に二次遭難のリスクを課すことになります。家族の精神的および経済的負担も大きくなるでしょう。自己責任と言っても、生命を失ったり、重度の身障者になるようなことがあれば、その後の家族のために責任を取ることすらできません。
救助費用、捜索費用などを、一定の限度額以内でカバーする山岳保険があります。防ぎようのない事故もあるわけですから、利用する価値はあります。その上で、保険に投入した何千倍ものエネルギーを、遭難の予防に当てるべきでしょう。
単独行では、単独行ならではのリスクを最小限にするために、計画も、その実行も、より慎重になる傾向はあるようです。そのような理性は、計画の時点では誰でも多かれ少なかれ持っているでしょう。でも、いざ山に入れば、人をぐんぐん引き付ける山の力が働きます。個人においても集団においても、衝動と理性の綱引きを冷静に見れる人が、責任と自由とを存分に行使できます。
冒険の要素がゼロの登山はありません。登山に限らず、人生には冒険が付き物です。では、実際に遭難したとき、あるいは目の前に遭難が感じられたとき、人は冷静な判断と行動を維持できるでしょうか?それが極めて難しいということを、多くの遭難事例が物語っています。
無知、無理、無帽には、死の影が忍び寄ります。山を知り、自分を知り、地道に心技体を鍛え、謙虚に山に入る者に、山は惜しみなくその美を表してくれます。
登山が、勝敗のつくスポーツだとすれば、無事に帰宅した人が勝者です。
責任とセットの自由
山選び、コース選定の自由
自分だけの憧れの山、憧れのコースなどあるでしょう。あまり人気のないコースも、単独行では気兼ねなく選べます。また自分の体力と技術に合ったコース取りができます。他方、パーティーの場合は、最も弱い人や初級者を考慮した計画が必須です。日取りの自由
単独行では、天候の良い日を選ぶ自由度が大きくなります。山行予定日の天候が悪ければ、自分の意志だけで計画を変更できます。他方、グループで登山する場合、全員の都合を調整することが簡単ではなく、曇り日や小雨程度なら決行せざるを得ないこともあります。出発時刻を決める自由
単独行では、前夜行、超早朝の出発、遅い出発などで目的の山の魅力を自分なりに探訪できます。ご来光、朝焼け、夕焼け、など狙いやすくなります。歩行ペースの自由
単独行では、どんなに速く歩くことも、どんなにゆっくりと歩くことも、自分の都合で自由に決められます。写真撮影、景色の鑑賞、行動食の摂取、大小の休息、衣服の調節なども、誰にも迷惑をかけることなく、いつでもどこでもできます。時間、空間の使い方の自由
単独行では、出発から帰宅まで、自分自身の静かな内省の時間だと言っても過言ではありません。生き物との出会い
一人で歩く方が、鳥、獣、昆虫などと出会いやすくなります。ただし、パーティーに動植物への関心の高い人がいれば、目と耳が増えるので、むしろ出会いやすくなるかもしれません。
単独行の味を一旦覚えてしまった人は、諸般のリスクを背負って、喜びを胸に抱いて、また独り山に向かってしまうのです。
名言・迷言
「適度の危険は人生を豊かにする。」(リンドバーグ:世界初の大西洋無着陸横断飛行を単独行で達成)
「登山は放蕩である。」
「山との付き合いは、女房との付き合いより古い。」
ところで、自由な人の心は、山への愛情より、人への愛情の方が強いのが本来的であると、私は思います。
夫婦、親子、兄弟姉妹で山に登って、人と自然への愛を同時に深められるといいですね。
その他、改めて書くほどでもありませんが…
登山計画書は、家族用、提出用、自分用と3部用意しましょう。 → 記入用紙 (PDF)
地図と方位磁針を持たずに山に登ることなど論外です。
傷薬、傷テープ、頓服薬、包帯、ほか、病気や怪我を想定して入念に準備しましょう。
水は最低でも1日分を別に持って行きましょう。お茶やジュースだけでなく、ただの水も最低500ml程度は持ちましょう。
応急薬品、炊事用具、ビバーク用品、予備電池など、全部自分持ちです。単独行では、荷が重くなります。
携帯電話は、使わないときでもさまざまな通信を自動的に実行しています。山中のように中継機が遠くて電界の弱いところでは、電池を早く消耗します。いざ使いたいときに電池切れにならないように、発信も着信もする必要がない場所では、機内モードに切り替えるか、電源を切っておきましょう。また、携帯電話が使用する周波数帯(UHF)は、地形、樹木、雨雪などの影響を受けやすく、特に電界が弱くて地形も複雑な山岳部では、通信できない場合が多くあります。緊急時に全く役に立たないことは、決してまれではありません。
衛星電話は強力な味方です。驚くほど小型で軽量なものも市場に出てきました。ただし、レンタル料、通信料とも高いです。山中で使っている人を見たことは、まだありません。私ももう少し金持ちになったら持って行くかもしれません。