高尾山口駅から高尾山に登る人々の多くは、1号路、6号路、稲荷山コースのいずれかを歩きます。そこで、静かに自然と触れ合いたい人には、2号路、3号路、4号路がお奨めです。
地理院地図: 高尾山
高尾山の天気: 東京都八王子市 , 高尾山
6月14日、梅雨本番になる前に、足腰のメンテナンスのため、高尾山に行って来ました。まだ歩いたことのなかったコースを全部踏破しようと思い、2号路−4号路−1号路−5号路−3号路−2号路−6号路とつないで歩きました。これらの内、2号路、3号路、4号路は、初めて歩くコースです。
朝は少し出遅れて、高尾山口駅に到着したのは午前11時20分でした。毎度思うことですが、記念撮影の背景にしたいような駅舎ではありません。人は改札口を出ると、さっさと清滝駅に向かって歩き始めます。3分ほどの距離にある、ケーブルカーとリフトの清滝駅の方が、駅前広場も広く、登山口らしい趣があります。見上げると、空は晴れているものの、空気に湿気が含まれ、山頂からの眺望は望めないだろうと思いました。
まず、ケーブルカー乗り場の左を抜け、6号路方面に進みます。妙音橋の手前で6号路を左に分け、橋を渡って直進し、東京高尾病院の前を通過します。その先の登山路は、病院の私有地で、その「厚意によって通らせていただく」ので、静かに歩くように、と書かれています。しかし、私の後を歩いてくる、元気な若者たちの大きな笑い声が、ずっと響き渡っていました。
実は、私の愛用のトレッキングシューズが修理中なので、スニーカーを履いてきました。石の突起や木の根など、地面の凹凸が足裏によく伝わってきます。これは青竹踏みのように心地よく、これからの登山はできるだけスニーカーで歩こうかな、などと思ったりもしました。登山道はしっとりと湿っていて、足でも肺でも自然の中にいることの喜びを感じます。
七つのお地蔵様のある小台地で、琵琶滝からの道を正面より合わせます。この先、傾斜がやや大きくなり、露岩があり、道の谷側にはロープも張られています。この道が「上級者向けです」と書かれているのは、サンダルや厚底靴で歩いて欲しくないからでしょう。決して平坦ではありませんが、少なくとも、運動靴を履いていれば、特に危険箇所があるわけではありません。
ゆっくり20分ほど登ると、2号路に行き当たります。2号路はループ状になっているので、右に進んでも左に進んでも構わないのですが、左は下降気味なので、右に進みました。実は、これできょうの歩行ルートがほぼ決まったようなものです。右にわずかに登っただけで、霞台(かすみだい)に飛び出しました。ここは1号路です。見晴台のベンチで昼食にしました。
空気が澄んでいれば、ここは南東方向に東京、横浜方面の市街地と、さらに遠く東京湾まで見渡せる展望台です。あいにくこの時は曇り気味で、景色はすっかり霞んでいました。それでも眼前に南高尾山稜の山々を眺めながら、まだ暖かみの残るコーヒーを飲む気分は悪くありません。
昼食が済み、十一丁目茶屋を左に見ながら1号路を横断して、引き続き2号路を進みます。木で補強した階段をスタスタと降りると、道は左に折れ、蛇滝(じゃたき、じゃだき)への道を右に分けます。道はよく整備されています。1号路を横断してわずか8分ほど歩いたら、早くも4号路に接続しました。2号路は短いのです。
4号路に入ると、ほぼ水平の道をしばらく歩きます。途中に裏高尾方面を望める箇所があり、足元の深い谷間の向こうに、中央自動車道と小仏トンネルが見えました。登山路には、大きなイラスト入りの学習教材パネルが、ここかしこに立っています。興味を引かれれば、生物学や生態学への入門につながるかも知れません。例えば、スミレのタネに、エライオソームというアリの好む物質がついている。そのタネをアリが運んで行く。そして意外なところにもスミレが咲くことになる、という訳です。
少し物知りになったような気分で歩いて行くと、前から犬を連れた男性がやって来ました。細身の小型犬です。何という犬種かたずねると、「イタリアングレートハーンド」とのこと。小さくてもグレートなのですね。「イタリアングレートハーンド、行ってらっしゃい!」と、犬に挨拶してやりました。(帰宅後に調べると、Italian Greyhound でした)高い木の上では鳥たちが澄んだ声で歌っています。「いっちょみにこーい」と聞こえるのは、何という鳥でしょうか?
さて、4号路のハイライト、みやま橋にやってきました。高尾山で唯一の吊橋です。あまり長くはないし、ガッチリできているのでスリルはありませんが、少しは揺れるので、皆さん楽しそうに渡っています。吊橋の中央付近から下の谷を深く見下ろすと、吊橋のありがたみをつくづくと感じられます。
吊橋を渡ると、その先で軽い上り坂になり、いろはの森・学習の歩道を右から合わせます。これより先、4号路は通行止めになっているので、学習の歩道をそのまま山頂に向かって登ります。学習の歩道では、「いろは」48文字で始まる木の名前を学べます。ここでもほんの一部を学ぶことができますが、日影沢の「森の図書館」から登ると、全部学ぶことができます。
これより木製階段ユニットが登山道に設置されています。単なる好奇心で数えてみると、各ユニットは14段で、短いものも全部あわせると、143段ありました。まあ、どうでもいいことです。登り切ったところが学習の歩道の終点で、ここから、一旦1号路を登ります。できれば1号路は歩かないつもりだったのですが、仕方がありません。
その1号路には、すばらしく立派なトイレが完成していました。男子用に入って試用させていただきます。中はとてもきれいで、また好奇心で数えると、定員は小用が10名(うち子供用の小さなのが1つ)、男子用の個室が6室もあります。紅葉シーズンの週末に、女子用がどの程度の待ち時間になるか、興味のあるところです。
トイレの先で、通行止めの4号路を右から合わせます。私は山頂には向かわず、ここから右手の5号路に入りました。5号路は山頂をぐるっと巻く道です。私は半時計方向に回りながら、まず奥高尾に続く道と交差し、次に、稲荷山コースと交差します。2号路と共に、5号路もまた、短いコースです。あっという間に終わってしまいましたが、次回はご飯をゆっくり咀嚼するような気持ちで歩こうと思います。
一眼レフカメラを構えて植物を撮影している女性がいました。被写体は小さな草です。何という名の植物かたずねると、「イチヤクソウ」だとのこと。本を取り出して確かめてもくれました。蕾を5、6個着けてはいますが、咲くのはもう少し先のようです。花がなければ全く目立ちそうにありませんが、愛好する人はちゃんと見つけるものなのですね。お礼を言って別れました。
5・3・6号路のジャンクションから、3号路に入ります。3号路はほぼ水平に道が切られています。いくつもの尾根や谷を越えて延々と続くので、早く下山または登頂したい人は避けるようです。「かしき谷園地」という場所にベンチがあったので、2度目の休憩をとり、おやつをいただきました。すっかり冷めたコーヒーが、かえって美味しく感じられます。ところで、「かしき」とは、「樫木」の意味でしょうか?
小休止を終えて3号路を進むと、一団の熟年者たちが、何か説明を聞いていました。通りすがりに聴くと、地面に落ちている実を拾って、「これはツガの実です。」「ツガは高尾山ではここにしかありません。」と話していました。高尾山は、自然の教材が豊富で、よく研究された山です。博物の知識や経験の豊富な人と来れば、興味はつきないことでしょう。
上の方で、法螺貝のような音色が鳴り響きました。時計を見ると、午後2時です。いつしか空が明るくなり、樹木の開けた場所から八王子の市街地が見渡せました。白化したマタタビの葉の下に、円いつぼみがぶら下がっています。さて、長々と歩いて来た3号路ですが、浄心門に至るすぐ手前で、2号路に合わさります。そのまま真っ直ぐ進めば浄心門ですが、私は右に折れて2号路に進みました。ループ状の2号路の、往路に歩かなかった部分を歩くためです。
短い2号路はすぐに終わり、来た時に通った琵琶滝方面への分岐点にやって来ました。「上級者向けです」と、この分岐にも書かれています。琵琶滝に向かって下り始めると、再びスニーカーの底から地球のデコボコを感じ、足の疲れが癒される思いがしました。少し離れた距離から、ホトトギスの鳴き声も聞こえてきます。ほどなく至った七つのお地蔵様の手前で右に折れ、琵琶滝水行道場に下りました。滝のある方から、男性の修行者の気合に満ちた声が、轟いてきます。ここから6号路を少し下れば、すぐに清滝駅です。
6号路では、サイハイランの花を見ることができました。もしや、と思って探したセッコクは、この区間では見つけることができませんでした。セッコクの好いビューポイントは、6号路を少し登ったところにあります。
午後3時15分、高尾山口駅に戻ってきました。切符売り場の運賃表にツバメの巣があり(右の最後の写真)、何だかほっとします。ホームに上って電車に乗り込むと、発車もしないうちに眠りこけてしまいました。
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