塔ノ岳は、首都圏から手軽に登れ、広大な展望に定評があります。冬の晴天日に登れば、「ハズレ」くじを引くことはまずないでしょう。
鍋割山に至る山稜は、左の写真のような緩やかな起伏が続きます。ブナ林の小鳥たちとも出遭いやすく、静かな散策を楽しめます。
神奈中バス: 渋沢駅 → 大倉(終点) 神奈中バス: 渋沢駅 ← 大倉
地理院地図: 鍋割山
鍋割山稜の天気: 神奈川県秦野市 , 大倉
レポ: 塔ノ岳・鍋割山稜 , 鍋割山稜 , 鍋割山
1月23日、表丹沢の、塔ノ岳と鍋割山稜を歩いて来ました。冬晴れの山稜は、約束されたような美しい展望と、歩きにくい泥濘(ぬかるみ)がワンセットでした。正月以後、初めての山行だったので、大倉尾根の登りで足の重さに苦しみましたが、鍋割山稜では爽快なスノーハイクを楽しめました。
午前7時、バスが大倉に着いたとき、あたりはまだ朝の赤味を帯びた光に包まれていました。いつもの習慣で、三ノ塔、二ノ塔、大山を撮影します。軽くストレッチをした後、登山靴を手提げ袋に入れたまま、スニーカー履きで歩き始めました。暖かく着込んでいるので寒くはありませんが、肺に入ってくる空気はよく冷えています。
駒止茶屋あたりまで登ると、登山道に少しずつ雪が見え始めました。ベンチに腰を下ろして、登山靴に履き替えます。手提げ袋を持って来たせいで、肩がけっこう疲れました。この先、堀山の家までは楽な登りです。しかも左の富士山、右の表尾根が励ましてくれます。でも私の脚はちょっと重い。正月太りと運動不足がたたっています。
堀山の家からのきつい登りで、どんどん後続者に抜かれました。おそらく1本遅いバスで来た人たちにも先を越されたことでしょう。私は省エネペースを堅持して、無理なく登って行きました。ところで、大倉尾根を以前よりも好きになったような気がします。最大の理由は、林道歩きがないこと。次に、木道の設置や植生回復の努力で、荒れが減ったこと。そして、このだらだらとした登りは、一気に大きな高度差を稼ぐよりも、脚に優しいことです。もう「馬鹿尾根」とは呼びません。
花立山荘直下は長い階段が設置され、かつての荒れた状態と比べると、登りも下りも楽になりました。もちろん植生の保護も大切なのですが、登山者にとっても、これはありがたいことです。今では傾斜の急峻さだけが印象に残る人も多いようですが、後を振り返りつつ登れば、光る海に浮かぶ島々、箱根や伊豆、房総半島まで見渡せて、楽しく歩ける場所です。
花立山荘前で休憩していたら、チャンプ畠山さんが降りてきました。夏も冬もミニ短パンでボッカをしておられる方です。そこにいたみんなから一斉に挨拶の声が上がりました。「きょうは何度目ですか?」「4496回目です。」これは、塔ノ岳の登頂回数。2月8日に、4500回記念登山をされるとのことです。その次は、5000回、そして、いつか10000回も達成されるのでしょうか?
花立まで登ると、南アルプスがよく見えました。金冷シの手前では、同角の頭の肩に真っ白な北岳を望めました。塔ノ岳山頂に至ればもっとよく見えるのですが、感動はその瞬間に、その現場でカメラに収めておきたくなるので、何度も立ち止まってしまいます。金冷シからの登りでは、右後方からの日射を熱く感じました。こうして、大倉から3時間以上を掛け、ようやく最初の目的地、塔ノ岳山頂に到着しました。広場の先客は、わずか5〜6名だけでした。
塔ノ岳からの展望は、改めて述べるまでもなく素晴しいものでした。聖岳から甲斐駒ケ岳まで白い峰を連ねた南アルプス。右にくっきり八ヶ岳も。そして今回特筆すべきは、鍋割山がよく判ったことです。鍋割山は、鍋割山稜の最高峰ではありません。今まで大体の位置は分かっていたのですが、「あそこだ!」と自信を持って言えませんでした。今回初めて、鍋割山荘の姿が決め手になって、鍋割山を確認できました。
表尾根ではヘリコプターが三ノ塔に何度もやって来ては、山頂に資材を吊り下ろしていました。冬は登山者が減って、工事をしやすいということでしょうか。さて、いつまで居ても飽きることのない塔ノ岳ですが、30分近く休憩したので、もう一つの目的地である鍋割山に向かいます。道がぬかるむ前に、なるべく遠くまで行きたいという思いもあります。金冷シまでは来た道を下るので、念のため軽アイゼンを着けました。
アイゼンで木道を傷めるのを申し訳なく思いながら、下って行きました。金冷シでは直進します。鍋割山稜に入ると、人と出会わなくなりました。足跡のない雪がとてもきれいです。大丸(おおまる)あたりで塔ノ岳を振り返ると、尊仏山荘の立つ峰がとても大きく見えました。大丸から少し進んだ所から望む、花立、三ノ塔、大山の、重なり具合も絵のようにきれいです。
鍋割山稜はブナがたくさん自生し、秋には紅葉の美しい山域です。この日も山稜はとても静かで、小鳥(たぶんシジュウカラ)たちの歌だけが聞こえていました。空も青く澄んで、気分は最高です。続く二俣分岐で、小丸(こまる)尾根を少し覗いてみました。登山道のぬかるみ具合を見るためですが、入口付近のぐちゃぐちゃが激しく、とても下る気にはなりませんでした。でもここは見晴らしのよい場所です。小丸の先に、檜岳山稜が、あたかも富士山まで続いているかのように見えました。
小丸から鍋割山に向かって下り始めると、さらにすばらしい展望があります。(上の写真)山々の配置もいい具合です。逆コースで歩く時は、見逃さないようにしましょう。他方、主脈・主稜方面の展望は、樹木に隠されてなかなか開けません。でも、鍋割山の直前に最高のビューポイントがあるので、楽しみに歩いて行けば大丈夫です。
ミズヒの頭と呼ばれる小ピークを越えると、そのビューポイントにやって来ました。ここは足を止めて、とっくりと眺めたい場所です。檜洞丸から、蛭ヶ岳、丹沢山、塔ノ岳まで、雄大に見渡せます。尊仏山荘は黒い点のよう。ここは鍋割山頂から3〜4分の至近距離なので、東向きに歩く人はスタスタと速足で通り過ぎることも多いようです。
楽しい稜線歩きも、鍋割山頂が終点です。広々とした気持ちのいい山頂からは、富士山の方向に檜岳(ひのきだっか)山稜をほぼストレートに望めます。残念ながら海の方向は雲が立って霞んでいました。山頂広場には10人ほどの先客が居ましたが、皆さん泥んこの靴ばかり。鍋割山荘には、名物の鍋焼きうどんがあるのですが、あまり空腹ではなかったのと、アイゼンを取り外すのが面倒だったので、広場のベンチに腰を下ろしました。温かいお茶を飲み、柔らかい大福を食べながら、しばし休憩です。
鍋割山は、入下山に思いのほか時間を要する山です。二俣経由なら大倉バス停まで、長い林道歩きを含めて、3時間は見ておくべきでしょう。私は靴ひもを締め直して下山の途に就きました。予想したことですが、登山道は、田んぼのようにぬかるんでいました。南向きの尾根なので、よく日が当たるのです。私を追い抜いていった男性は、「本当はアイゼンを外さなきゃならないんですが、これじゃ外せませんね」と言っていました。私も泥濘で滑りたくなかったので、軽アイゼンを履いたまま歩きました。
後沢乗越で軽アイゼンを外しました。続いて下りてきた方々も、ここで外し始めました。道標に [大倉 5.9km] とあるのを見て、「あと1時間だな」と言っています。(健脚ですね。)私は足(脚ではなく)がたいそう疲れてしまいました。この下にある杉の森は空間が広く、私の好きな道です。楽しみながらゆっくりと下り、林道終点でスニーカーに履き替えました。乗る予定だったバスを1本遅らせ、時計を見ながら長い西山林道をテクテク歩き、日没と共に大倉バス停にゴールインしました。
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