陣馬山頂は、丹沢、富士山、南アルプス、奥多摩、関東平野、相模湾と、ぐるり360度の好展望により、「かながわの景勝50選」に選ばれています。
陣馬山南面の栃谷尾根には明るい雰囲気があり、富士山や丹沢山塊の雄大な展望も背中を押してくれます。
神奈中バス: 藤野駅 → 陣馬登山口(和田行き)
地理院地図: 陣馬山
陣馬山の天気: 相模原市緑区 , 相模湖駅
レポ: 景信山・陣馬山 , 陣馬山・大名行列
晴天の1月29日、陣馬山に行って来ました。前日に関東地方南部で雪が降ったので、山にはきれいな新雪が積もっているかも、と期待したのです。ただ、1ヶ月ぶりの山行なので、足腰が万全ではありません。簡単に登れて、しかも眺望の好い山を地図上で物色し、栃谷(とちや)尾根から陣馬山に登ることに決めました。
藤野駅から陣馬登山口へは、「山と高原地図」によれば徒歩で30分ほどです。バスの便が少ないので、歩いてもいいのですが、狭くて長い沢井トンネルを歩くのは敬遠したいところ。そこで、時間的に利用しやすい、藤野駅8時10分発の和田行きバスに乗りました。バスはトンネルの手前で対向車2台の通過待ちをしました。少し遅延です。トンネルを抜けると、黄色い帽子の通学児童たちが、次々と乗り込んできました。定期券をランドセルにぶら下げている子もいますが、運転手に見せている子はいません。実質上のスクールバスです。
陣馬登山口バス停は藤野駅から四つ目で、運賃は170円でした。下車した橋の標柱に置かれたヤマセミのオブジェが目を引きます。近くの駐車場の看板には大きなヤマセミの木像がありました。この鳥は頭でっかちで、急降下するのに有利な体形なのでしょうか。魚を捕るところを見たいものです。それはさておき、陣馬山登山口は、バスの進行方向に少し歩いた右側にあり、石碑が立っています。ここから、傾斜のやや急な林道を上って行きます。歩いているのは私だけ。道の両脇には、わずかな残雪があります。
登山口から約20分、温泉の案内板近くの石垣に道標があり、右は奈良子尾根経由陣馬山(1時間55分)、左は栃谷尾根経由陣馬山(1時間20分)となっています。どちらが楽しい道なのかは分かりませんが、私は所要時間がより短い栃谷尾根に決めてきています。道はスイッチバックのように分岐し、栃谷集落に向かって上って行きます。林道のすぐ近くまでニホンザルたちが出て来ていました。人の姿を見ると、サッと逃げてしまいます。ザワザワ、ガサガサと、かなりの数がいるようでした。
視界が広々と開けたところに来ると、富士山と丹沢山塊が鮮やかに姿を顕しました。これより先、登るほどによく見えるようになるので、急いで撮影する必要はないのですが、最初の感動をメモリーに収めておきたくて、カメラを構えます。それに、あまりぼやぼやしていると、南に見える山は、逆光になってしまうのです。半逆光で見る山が、私は好きです。朝の出発が遅れると、眺める山々の陰影が薄くなってしまいます。
集落にさしかかったところ、ある民家(納屋?)の軒に陣馬山と書かれた小さな標識が左を指しています。林道歩きはここまで。左折して狭い路地を登って行きます。梅干の無人販売所と、白いベビー服を着たお地蔵様の前を通り過ぎると、野良道の様相になりました。斜面を切って造られた道は、眺望が好い上に日当たりもよく、ここでリュックを下ろしてマフラーを外し、ベストを脱ぎました。斜面右手は茶畑、左手は柚子(ゆず)畑。のどかで気持ちのよい道です。
さらに少し登ると、道は畑の中を貫いて、上の森林に向かってほぼ真っ直ぐ通じていました。左右は何か背の低い果樹の畑のようです。葉はありません。枝を低く水平に誘引しているから、桑畑ではなさそう。キウイ畑? 尋ねようにも、人は誰もいませんでした。このあたりからの眺望はさらに素晴しく、丹沢山塊をほぼ西から東まで見渡すことができます。美しい眺望は足を元気にしてくれるのですが、それもここまで。これより登山道に入り、山頂直下まで、展望の利くところはほとんどありませんでした。
森林に入っても、はじめ雪は全くありませんでした。しかし標高が上がるに連れ、あまり日の当たらない部分に雪が見られるようになり、山頂が間近になると、まずまずの雪山らしくなってきました。試しに横道に逸れて作業道を歩いてみると、足が20〜30cmほど雪に潜りました。登山道はしっかり踏み固められ、道の中央部は黒い泥と雪が混じって固まっているか、地面が露出しています。一部に固く凍った箇所もあるので、下りではアイゼンがあると助かる場面があるかもしれません。やがて、行く手に、白馬のモニュメントが見えてきました。
景信山方面から通じる「関東ふれあいの道」に至って、初めて人の姿を見ました。エネルギッシュな男性が、何と上半身裸で走って行きます。山頂の茶店が見えますが、このあたりから道がぬかるんで、歩きにくくなりました。道にござを敷いてあるところもあります。何とか泥濘を通過して、山頂広場に至ると、雪は全くありませんでした。
陣馬山頂の素晴しい展望は、期待どおりでした。中でも太平洋、相模湾の美しい輝きは、最高のご褒美に思えました。私は山から海を眺めるのが好きです。モニュメントの馬のように天を見上げると、快晴無風の真っ青な空。登頂を祝福してくれています。この素晴しい空間に、人は私を含めてわずか5人ほど。すごい贅沢だなあ...私は一番北のテーブルに着いて、温かいミルクティーを飲みました。いつものように、おにぎりと豆大福で昼食にします。
さて、山頂の北面にはきれいな雪がたくさんありました。和田峠方面へ行き来する人はあまりいないのか、大きな踏み跡が見られません。西には生藤山が、すぐそこに見え、ちょっと足を延ばしたい衝動に駆られます。しかしきょうは足慣らしのつもりで来たのだと自分に言い聞かせ、地図をたたみました。明王峠(みょうおうとうげ)から相模湖駅に下りる予定です。
45分ほど展望を満喫して、午前11時10分、山頂を後にしました。「関東ふれあいの道」を東に向かいます。この奥高尾縦走路は、栃谷尾根よりもたくさんの雪が残っていました。この時間帯で、陣馬山に向かって来る人々にしばしば出合うようになりました。女性の姿が多く、たいていの方がアイゼンを着けています。他方、男性は半数くらいがアイゼンなしで歩いています。私も念のため軽アイゼンをリュックに入れてあります。
明王峠で小休止。これより与瀬神社に下る道は眺望が利かないので、もう一度しっかり丹沢と富士山を見ておこうと思いました。小路の陽だまりベンチに腰を下ろし、まだ温かい紅茶を飲みます。
一羽のキジバトがやって来ました。その様子から見て、完全におねだりモードです。ここでご飯粒やパンくずをよくもらうのでしょう。ポッポッと歩いて来て、足下から50cmで立ち止まりました。小首を傾げて、丸い目でじっと見つめられると、思わず何かあげたくなってしまいます。何もやらずにいたら、ラジオ体操第一のように左右の翼を思いっきり後に展ばし、尾羽を扇のように広げ、また閉じてしゃがみこみました。
12分ほど休憩したところで、筋肉の冷えないうちにと思って、腰を上げました。明王峠から与瀬神社を経て相模湖駅に下るのが、鉄道駅への最短ルートです。このルートは、始めと終わりに急傾斜がありますが、途中は平坦地に近い、なだらかな山道です。峠の茶屋の近辺はぬかるみがありましたが、そこを通り抜けると、雪がほどよく締まっていて、凍結なども無いのでサクサク、スイスイと下れました。
石投げ地蔵嬢ヶ塚を左に見ると、ほどなく林道に下り立ちました。そのまま林道を横断します。ここからかなり長い区間、登山路はなだらかです。ほとんど人工の針葉樹林ですが、春から初夏にはフィトンチッドに満たされて、気分よく歩けそうです。廃屋のような大平小屋を過ぎ、なおも軽いアップダウンを経て行くと、樹間に相模湖が見え隠れするようになりました。湖水に光が反射して、なかなかきれいです。
最後に再び急傾斜を下ります。もう雪は全くありません。左に石老山を望める展望台があり、そこを過ぎてわずかに下ると、与瀬神社の境内でした。ご祭神は、日本武尊(やまとたけるのみこと)とあります。ここでトイレを借りました。左の狛犬が連れている仔犬の鼻を撫で、中央の石段を下ります。歩幅が狭くて急峻なので、慎重に降りなければなりませんが、すぐ隣に安全なスロープもあります。石段を降り切って参道を行くと、正面に与瀬神社の鳥居と、慈眼寺の鐘楼と、相模湖の湖水とが、絵のように現れました。
相模湖駅では、電車が来るまで少し時間があったので、またトイレに入りました。跨線橋階段の下にあります。これがとてもきれいなトイレで、一気に現代文明社会に戻って来た気分になりました。跨線橋を渡ってホームの椅子に腰を下ろし、まだたくさん残っていた紅茶をたっぷりと飲みます。きょうは楽チンコースでしたが、これから足腰をしっかり整え、今年も素晴しい山々に登りたいと思います。
Alt + < = 戻る。 Alt + > = 進む。 Internet Explorer では、最後に Enter を押してください。 了解