高尾山域は野生の動植物が豊かですが、中でも日影沢沿いと小下沢沿いは、スミレ類をはじめとする春の山野草の宝庫です。開花を待ちわびたアマチュアカメラマンたちが、大型一眼カメラと三脚を手に、花の最も美しく見える瞬間を捉えようと狙っている姿が見られます。
京王バス: 高尾駅 ← 大下(おおしも)
地理院地図: 景信山
景信山の天気: 東京都八王子市 , 高尾山
レポ: 景信山(ネコ踏まないで)
3月16日(土)、高尾梅郷の梅が見頃になったのを見計らって、景信山と小仏城山を歩いて来ました。小下沢(こげさわ)と日影沢では早春の山野草にも出会え、うららかな春の訪れを祝ってきました。
JR高尾駅北口8時12分発小仏行きバスに、微妙な判定でアウトになったので、木下沢(こげさわ)梅林まで歩いて行くことにしました。バス通りを歩くのは面白くないので、上椚田橋(かみくぬぎだばし)から遊歩道梅林に入り、小仏川沿いに歩きます。途中、駒木野公園と天神梅林を経由し、見頃を迎えた梅の花を愛でながら、蛇滝口(じゃたきぐち)までやって来ました。ここからは、旧甲州街道を歩きます。裏高尾の道端には春の野草が咲いていて、とてものどかな雰囲気。高尾駅からの距離を感じることなく、木下沢梅林に到着しました。
木下沢梅林の丘は、紅白の梅が今まさに爛漫。管理小屋の裏手の小さな芝生の丘は撮影スポットらしく、すでに幾つもの三脚が立ち並んでいました。この梅林は土休日の10時から16時まで一般開放されます。私はお茶を一杯飲んでから、開園時刻を待たずに小下沢林道に向かいました。林道は小下沢沿いに関場峠まで伸びています。何か春の花は咲いてないかと、林道の左右に目を凝らしながら歩きましたが、目ぼしいものを見つけられないままに、野営場跡に来てしまいました。「小下沢風景林」と書かれた大きな看板が立っています。
まずはハナネコノメでも見つけようと、私はザリクボ沢と小下沢の出合う木橋に行きました。花を見つける手っ取り早い方法は、花を撮影している人を探すことです。平日は自分で花を探さねばなりませんが、土休日ならアマチュアカメラマンたちが、人間のことは忘れて花に熱中しています。ニリンソウとハナネコノメは難なく見つかりました。上の写真はハナネコノメですが、実際はとても小さな花です。白く見えるのは蕚片で、花弁はありません。赤い葯(やく)が点々と、目を近づけるほどに可愛らしい花です。
さて、ほどほどに写真が撮れたので、景信山に向かいます。はじめザリクボの沢筋を緩やかに登りながら、早春の花を探しました。日当たりの悪い北面なので、咲いている花はまだほとんどありません。寒そうな沢の岩に生えたハナネコノメの群落も、まだ小さな白い蕾。さらに登って、日向と日陰とが半々程度になると、タチツボスミレやユリワサビの花が見られました。
やがて右に北高尾山稜が見えるようになりますが、この眺望は長くは続きません。登山道が左に折れると、山ひだに沿って長々と、眺望のない平坦な道を歩きます。こうしてザリクボから45分ほど歩いた頃、景信山の東尾根に到達しました。
東尾根に乗ると、傾斜がけっこう急になりますが、その分、高度がどんどん稼げます。相変らず眺望はあまり利きません。まもなく左より、小仏バス停からの道を合わせ、行き交う人々も増えました。この尾根は、バス停から景信山に登る最短ルートです。未就学児と思われる男の子が、お父さんと片手を繋ぎ、お母さんに後から見守られながら、しっかりした足取りで登っていました。私は暑くて汗をかきそうになったので、ジャケット、カーデガン、チョッキを次ぎ次ぎに脱ぎながら、体温を調節して行きます。
上の方にきれいなトイレが見えてきました。このあたり、斜面を崩さないように、木の階段をしっかりと歩きます。12時5分、明るく開けた景信山頂に到着。すばらしい眺望です。埼玉方面の目印は西武ドーム、近くに見える都市は八王子、先ほど見上げた北高尾山稜は今眼下に見えています。景信茶屋の側に回りこむと丹沢山塊が大山から大室山までずらり望め、その右に上品な富士の姿。手前には相模湖も添えられて、登山者に十分に報いる風景です。ただ昼時とあって、ほとんどの人は、景色の鑑賞よりも食べる方を楽しんでいました。
山頂では、多種多様な人々が見られました。幼児、ご老人、トレイルランナー、犬を連れた人、若い外国人のグループ、ファッショナブルな若い女性たち、等々。私のような単独行者もかなりいました。高尾山から陣馬山まで、各山頂が同じような賑わいを見せていることでしょう。スギ花粉のもうもうと舞う季節ですが、さすが、人気のある山域です。私は大好きなパンを一つ食べ、熱いお茶を飲みました。小休止後、先があるので腰を上げて、次の城山に向かいます。
景信山から小仏峠へは、本来軽快に下れる道なのですが、人が多くて思った以上に時間がかかりました。夜に妖怪の出そうな小仏峠を通過して、城山への登りに入ると、「道を間違えてしまった」と言いながら登っている単独女性がいました。聞くと、城山から日影に下るつもりだったのに、気がついたら小仏峠にまで来てしまっていたので城山に戻るところなのだとか。確かに城山の山頂は平坦で、はっきりした頂点がありません。この女性は、茶店のあるにぎやかな場所を見たけれども、山頂だとは思わずに通過してしまったそうです。
しばらく話を聴いてあげながら歩いたのですが、私が「小仏バス停に下りてはいけないのですか?」と訪ねたら、「そう、そこに行きたいんです。」との返事。それなら小仏峠から降りるのが最短ルートです。そのルートを教えてあげると、女性は再び回れ右をして小仏峠に下りて行きました。好天の週末、奥高尾の銀座通りにはいろいろな人が歩いているようです。
城山山頂に到着し、どこに山頂標があるかと探したら、高尾山を望む側、天狗の木彫りの横に立っていました。古くて地味な山頂標です。新しくきれいな道標が各下山口に立てられていますが、それらには現在地が書かれていません。城山茶店の周囲に置かれたたくさんのテーブルが満席になるほどの人々が食事をしていましたが、ひょっとしたら自分が何という名の山に来ているのか知らない人も、いたかも知れません。私は南面を展望できる場所に腰を下ろして、ゆっくりとお茶にしました。
ところで、私は城山から日影に下りて、もう一度木下沢梅林を見て帰る計画です。日影に下りるには、日影沢林道と山道の2ルートがありますが、スミレの咲く季節は日影沢林道がお奨めです。でも実際に歩いて見なければ、スミレが咲いているかどうか、分かりません。林道を登ってくる人が見えなかったので、スミレ情報を教えてもらうこともできず、私は山道を下ることにしました。固くて滑らかな車道よりも足に優しいからです。「山と高原地図」に、「道標のないバリエーションルート」として破線で示されている道です。
この山道は初め、ほの暗い杉林の中を歩くのですが、中ほどまで来ると南面が暗い杉林、北面が明るい落葉樹林になります。このあたりでは、北面の枝越しに中央自動車道が見え、自動車の走行音が響いて来ます。さらに下って道が右に折れると、尾根が遮音壁となって急に静かになりました。日影沢に降り立ったのは、城山から一時間ほど下った頃です。この「バリエーションルート」はよく踏まれているようで、特に迷いそうな場所も、危険な箇所もありませんでした。
日影沢では、アズマイチゲの白い花が目を引きました。開花したスミレは少なかったのですが、株の周囲のゴミが、きれいに、しかし不自然に取り除かれていました。撮影に余念のない人々がひたすらカメラのファインダーを覗いています。
木下沢梅林に戻って来ました。ゲートから順路にしたがって、梅林内を散策します。芝生の丘からは淡いピンク色に見えていた紅梅が、近くで見ると鮮やかな赤桃色(ディープピンク)の清色で、順光の青い空に映えていました。シンプルで、生き生きとして、梅の花って、本当に力強いなって、改めて感じさせられます。また逆光で見ると、紅梅も白梅も、花の内にこめられた生命力が、そこを透過する光によって増幅し、息をのむ美しさです。やっぱり来てよかったと思いました。
梅の花そのものは、今までにたくさん撮影したけれども、どうしたら梅の咲く季節になった喜びを写真で表現できるのだろうか? 何と共にその花を撮影することで、その場の情感をより生き生きと伝えられるのだろうか? もちろん、それは桜でも、ハナネコノメでも同じことです。写真の難しさも楽しみも、きっとどこまでも尽きることがないのでしょう。
大下(おおしも)から乗ったバスは、大変に混雑しました。2台運行していたのですが、2台目は故障だとかで、1台に乗客をぎゅうぎゅう詰め。高尾駅までの時間がとても長く感じられました。駅到着が大幅に遅延したのに、乗客の誰一人として不平を言わず、皆さん最後まで運転士さんに協力して、静かにバスを降りて行きました。
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