ここで言う焼小屋沢左岸尾根は、北丹沢の焼小屋沢と音見沢とに挟まれ、東海自然歩道の1109m峰を頂点とする尾根です。音見沢右岸尾根と呼ぶこともできます。
神奈中バス: 橋本駅 → 鳥屋 神奈中バス: 三ケ木 ← 平丸 神奈中バス: 橋本駅 ← 三ケ木(乗り換え)
地理院地図: 焼小屋沢左岸尾根1109m峰
焼小屋沢左岸尾根の天気: 相模原市 , 袖平山 , 鳥居原 , 青野原
レポ: ガタクリ峰・焼山 , 伊勢沢左岸尾根 , 焼山沢右岸尾根・焼山北尾根
11月2日(木)、北丹沢の焼小屋沢左岸尾根を歩いてきました。この2年前、ガタクリ峰とその先に続く尾根を登ったとき、右手に見えたきれいな尾根を登りたいと思いました。それは、伊勢沢左岸の尾根です。そして1年前、その伊勢沢左岸尾根を登ったとき、右手にまたきれいな尾根が見えました。それが焼小屋沢左岸の尾根です。時の流れは速く、また1年が経過。今回は紅葉のきれいなうちにと思い立ち、天気の良い日を選んで行ってきました。
鳥屋から音見沢橋まで、1年前と全く同じ道を歩きます。伊勢沢林道に入ると、路上の落石が多いように思いました。私の手では持ち上げられないような大石もあり、こんなのをまともに食らえば、たとえヘルメットを着用していても、重大事故は免れ得ません。林道の法面を見ると、土から水が染み出ていました。土がよく締まっていないかも知れません。気温が上昇すれば、ヤマビルが動き出す心配も。一方、山は紅葉や黄葉に彩られ、空の青さも十分です。
音見沢橋で、これから登る尾根を見上げました。どこから取り付いたらいいでしょうか。尾根末端の擁壁は、とても登れません。まず、音見沢右岸に取り付けそうな箇所がないか、偵察してみることにしました。沢沿いの林道を150mほど上り、最初のヘアピンカーブまで行って見ましたが、沢右岸は全く簡単じゃなさそう。音見沢橋に戻り、擁壁を巻きながら伊勢沢林道を進み、尾根に上がるのに助けとなる木々が、ほどよい間隔で立っている箇所を探します。
すぐに、目ぼしい箇所が見つかりました。斜面上に、踏み跡かも知れないラインも見えます。ここでで準備運動を念入りに行い、普段の山行ではしない身支度をしました。
身支度が整ったら、斜面に取り付きます。踏み跡のように見えたラインは、すぐになくなりました。予想通り、土のが締まりが緩いので、キックを深めに入れます。それでも足下が崩れるときは、第3の足である杖で体を確保しました。立ち木が途切れ、下方が急落し、滑落した場合に途中で引っかかるものが何もない箇所を通過するときは、ヤモリのように斜面にへばりつきました。「もし滑落が始まったら、勢いがつかないうちに斜面に伏せる」覚悟をして進みます。
尾根に乗るまで5分と見積もったのですが、10分かかって、ようやく擁壁の上に立ちました。自分が登って来た斜面を見下ろすと、ロープを使わずには決して下る気になれない斜面です。この際だから、もっと楽に登れそうなルートを探しておこうと思い、尾根を登って行きましたが、予想したよりも狭い尾根で、左右の落ち込みも厳しいことが分かりました。左右いずれかの沢をある程度遡上すれば、人にお奨めできるようなルートが、もしかしたらあるかも知れません。
その狭い尾根には、アセビがたくさん繁っていました。これは身を確保するのに役立つ場合もあるし、逆に障害物になって、危ない通行を強いられる場合もありました。でも極度に危険な箇所は、尾根上には最後までありませんでした。そもそもこんなところを歩くのは、プチ冒険が嫌いではないからです。一つ目の小さなピーク(605m)を越え、鞍部に下りると、そんなプチ冒険もなくなりました。左右の沢の音が聞こえます。ステレオ録音ができたら、きっと素敵でしょう。
その鞍部から10分も登らないうちに、左から鹿柵(植生保護柵)が現れました。人が通過したらしい大きな穴もあります。ここで、そのまま柵の右を歩くか、穴をくぐって左側を歩くか、選ばねばなりません。間違った方を選ぶと、やがて行き止まりになる(?)迷路ゲームのようなものです。ここで私は右を選択。するとすぐに通行スペースが狭まり、歩き難くなりました。左側は歩き易そうです。ところが鹿柵が右に折れる直前に倒木があり、鹿柵を押し潰していました。
鹿柵を楽々と越え、広くなった尾根を気持ちよく登って行きました。ご神木のように立派なモミの木が2本並び立っています。しばらくすると、右から別の鹿柵が出現。これが尾根の中心線を上って行くので、私はその左側を登って行きました。ところが、行く手左から、また別の鹿柵が迫って来るではありませんか。さて、どうなるでしょうか? 幸い、二つの鹿柵が合わさるところに、壊れて開きっぱなしの門があり、これを通り抜けると、もう鹿柵はありませんでした。
こういう訳で、この尾根の鹿柵は「常に左側を登る」あるいは「常に右側を下る」が正解です。鹿柵が終わると、それより上では紅葉が真っ盛りでした。リュックを下ろして、昼食にします。春・夏はおにぎり、秋・冬は菓子パン。これを主食に、果物とデザートと甘い紅茶が、私の定番山ランチです。美しい紅葉を愛でながら味わえば、何でもごちそうの味。腰を下ろす前に、しばらく立ったまま、靴にヤマビルがやって来ないことを確かめました。
きれいなグラデーションのモミジ葉もあります。緑→黄緑→黄→黄橙→橙→朱。紅葉は、標高が高くなるほど色が濃く、ボリュームも豪華になって行きました。すばらしい紅葉や黄葉があるたびに、止まる足。ただ、純赤の葉は見られず、赤に近い朱色止まりです。赤くなる条件を、まだ十分に満たしていないのでしょう。私は紅いモミジと緑のモミジの取り合わせが好きなので、そのような写真が多くなりました。補色がケンカせず、よく調和するのが自然界の彩色です。
まだ11月のはじめ、木々の葉は繁り、展望はあまり利きません。わずかな隙間から丹沢三峰の堂々とした姿を覗けました。ついでに、私の心の丹沢三峰は、無名ノ頭とその両隣の峰です。さらに登ると、標高940mあたりから、尾根幅もずっと広くなりました。紅葉はますます華麗になり、前後左右、どこを見ても美しくないところがない! そんな箇所もありました。とても素敵な尾根なのに、人の匂いのしない尾根。管理用の杭や標識すらも、全く見当たりません。
東海自然歩道の稜線が、左右から迫って来ました。初めてまともな踏み跡が現れ、これが左へと逸れて行くのを見送ります。最後まで尾根の中心を辿って行くと、目の前に「保安林」の標識が現れ、東海自然歩道がありました。1109m峰頂上に立ちます。峰と言うほどの盛り上がりはありませんが、ここが紛れもなく焼小屋沢左岸尾根の頭です。「神奈川県水源協定林」の杭が打たれ、漢数字の番号の埋め込まれた古い石柱に、苔が生していました。他に目印はありません。
しばらく中天を見上げ、高く伸び上がる木々の色を楽しみました。ここに降った雨や雪は、丹沢主脈の稜線によって二つに分けられます。その一部が焼小屋沢と音見沢とに一旦泣き別れるのですが、いずれも神奈川県の水源として利用され、最後は相模湾に注がれます。私も一県民として、その恩恵を受けているので、丹沢山塊と道志山塊は、生命の山と言えます。生きとし生けるものに命を与える水。その故郷を慕って、私は知らず知らずに巡礼しているのかも知れません。
1109m峰を後に、平丸分岐に向かいます。東海自然歩道を姫次方向に10分ほど行くと、黄葉のカラマツ林が見えてきました。下山路として平丸ルートを選んだのは、私の好きなカラマツをたくさん見られるからです。しかもこの登山道は、今のところあまり荒れていません。きょうは時間にゆとりがあるので、美しい場所ではゆっくりと歩くようにしましょう。西日を受けて輝くカラマツ林を何度も振り返りながら、また楽しかった一日を想い返しながら、下って行きました。
登山道の最後は、中沢に沿って下ります。ここで時間調整の休憩をしました。きれいな沢の水で手と顔をざぶざぶと洗って、ふうっと一息。頃合いを見計らって平丸バス停に行くと、大室山の肩に太陽が掛かるところでした。犬を連れたおばあさんが来ます。「こんにちは。バスを待っているの?」と声をかけられました。今朝、鳥屋を発ってから、初めて出会う人です。どの山を登って来たのか尋ねられましたが、答に迷いました。この方も以前はよく山に登ったそうです。
焼小屋沢左岸尾根では、すてきな尾根歩きができました。一旦尾根に乗ってからは、迷うような箇所もないので、良いと言えば良いのですが、ルートファインディングの楽しみはありません。取り付きと、尾根に乗るまでのルートを見つける楽しみは残っています。今回も美しい自然を満喫し、無事に帰宅できました。ヒル休みのうちに、丹沢をもっと歩いておきたいと思います。
Alt + < = 戻る。 Alt + > = 進む。 Internet Explorer では、最後に Enter を押してください。 了解