ここで言う焼山沢右岸尾根は、北丹沢の焼山沢と音見沢とに挟まれ、東海自然歩道の1070m峰を頂点とする尾根です。音見沢左岸尾根と呼ぶこともできます。奥相模湖と宮ヶ瀬湖を結ぶ「道志導水路」の真上にあります。
神奈中バス: 橋本駅 → 鳥屋 神奈中バス: 三ケ木 ← 西野々 神奈中バス: 橋本駅 ← 三ケ木(乗り換え)
地理院地図: 焼山沢右岸尾根721m峰 , ルート図
焼山沢右岸尾根の天気: 相模原市 , 袖平山 , 鳥居原 , 青野原
レポ: ガタクリ峰・焼山 , 伊勢沢左岸尾根 , 焼小屋沢左岸尾根 , 焼山沢左岸尾根・焼山北尾根
12月2日(日)、北丹沢の焼山沢右岸尾根を登り、焼山北尾根を下ってきました。地図とコンパスを頻繁に見ながら歩く、マイナールートです。焼山沢右岸尾根には準危険ゾーンがあり、焼山北尾根には山頂直下の激しい下降があるので、よい子の皆さんにはお奨めできません。でも季節柄、素晴らしい紅葉が各所で見られました。曇天でしたが、もし天気予報通りの「晴れ」だったら、❀ 4個だったでしょう。ただ、翌朝目覚めると、腰が痛くなっていました。
3年前にガタクリ峰とその東西に続く尾根を歩いて以来、水沢川源流域の尾根を毎年1本ずつ登ってきました。山歩きの最中、隣にきれいな尾根が見えると、そこを歩きたくなり、歩くとそのまた隣の尾根を歩きたくなる、というわけです。今回はその第4弾。焼山沢右岸尾根の踏破ですが、ずっと気がかりなことがありました。それは「無断入山禁止」の看板。林道伊勢沢線を歩くと、これを3箇所で目にします。Web上の山行記に、この看板に言及した記事は見当たりません。
599m峰に最短距離で登ろうとすれば、林道伊勢沢線の水沢橋に近い地点から取り付くことになりますが、皆さん、断りを入れて入山したのでしょうか? 第一に、マナーの問題。第二に、たとえ花や木を盗まなくても、動物と間違えられてハンターに撃たれた場合、無断入山者は不利な扱いを受けるかも知れません。考えた末、遠回りになりますが、599m峰の西側まで林道を歩くことにしました。高尾山と同じ標高を持つ峰には、ぜひとも登っておきたいと思ったのです。
とても遠回りになりましたが、この計画は結果的に大正解。音見沢橋の先の林道支線は、眺望絶佳のスーパー林道でした。伊勢沢南岸の尾根、栂立尾根、ガタクリ三峰(仮称)、伊勢沢左岸尾根、等々のパノラマが大展開。空の晴れていないことが惜しまれます。日が差せば、紅葉・黄葉の山々が錦秋の光彩を放ったことでしょう。そして尾根の切通しから599m峰に向かいました。片道10分の平坦な尾根歩きです。599m峰で紅茶を飲み、きょうの第一目標を達成しました。
切通しに戻り、引き続き林道を進みます。尾根への取り付き点を探した結果、林道の終点で、左の尾根に容易に乗ることができました。これより、道志導水路の真上を歩きます。導水路は地下にあるので、見えません。地理院地図では青い破線で示されています。ここは南面(左)の開けた、明るい素敵な尾根。枝越しに、丹沢三峰やガタクリ峰などを望めます。すぐに左から鹿柵(植生保護柵)が現れました。そのまま柵の右側を進んで行きます。
尾根に取り付いてから15分ほどで、721m峰に到着しました。南面にミニ草原のような尾根を持つ、明るい展望地です。休憩の絶好地なので、一休みして行きましょう。ダニがいなければ、昼寝も悪くありません。私はおやつとお茶を口に入れ、ラジオ体操第一をしました。実は汗をかいたせいで、少し寒気がしたのです。発熱・速乾性の下着と間違えて、形がよく似た綿100%の下着を着てきたことに気づきました。大失敗です。きょうは気温もぐんと下がりました。
純毛のベストを取り出して着ると、ほどほど体が暖かくなりました。もう冬なのに、白っぽい蝶か蛾が飛ぶミニ草原。紅葉が見られるのは、この辺りまでで、これより高いところでは、枯葉になっています。この先の急登に備え、スリング2本とカラビナをポケットに入れました。必要な場合、最低限のセルフビレイができるようにするためです。特に幕岩の横あたりは、相当な急勾配。幸い、立ち木がかなりありそうです。四駆モード(両手両足)で着実に登りましょう。
長めの休憩を終えて、先に進みます。すると鹿柵の右側が狭まり、歩きにくくなったので左側に移ると、尾根を巻くような踏み跡がありました。これを辿るとまた鹿柵にぶつかり、右上の壊れた鹿扉を通過します。その先で、根こそぎ倒れた大木が尾根に横たわっていました。狭い尾根に立ちはだかる太い松の木が、大きな枯れ木を支えています。やがて右手の樹間に、切り立った灰色の岩壁が見えるようになりました。これが幕岩、いよいよこのルートの核心部です。
急登に取り付きます。まず、足もとの土がよく締まっていることが判りました。これはありがたいことで、もし斜面の土がザレると、難易度は一挙に高まります。緊張感も3倍くらいに跳ね上がるでしょう。足場をしっかり確保し、手で立ち木、根っこ、岩角など、堅固なホールドは何でも利用します。尾根上に小さな岩場もありますが、よく目視して安全そうなルートを見定めたら、その通りに登れました。ときどき下を振り返ると、その急峻さに身が引き締まりました。
ほどなく小さな平地に立ちました。一息つけます。錆びたワイヤーが地面に半分埋もれていましたが、かつてここに林業の索道があったのでしょう。そして再び急な登りに差しかかると、初めの急登に負けず劣らず急峻でした。また小さな岩場がありましたが、巻くことはできないので、最適の登路を探しつつ乗り越えるしかありません。でもここまで来ると、焼山がぐっと近づいて、励みになりました。その先、短い美尾根区間を経て、急登の終わりが見えてきました。
急登を終えた地点には、錆びたワイヤー、滑車、ロープなどが残置されていました。標語にもあるように「ゴミは持ち帰り」と言いたくなります。そのすぐ先の小峰を越えると、きょう初めての道標が見えました。かなり朽ちてはいますが、平戸(5.8km)と焼山(0.8km)とをしっかり指しています。傍らに倒伏した標識もあり、起こしてみると「草木を傷つけない」と書かれていました。横のベンチで小休止します。熱々の紅茶を飲んで、きょうの第二目標を達成しました。
これより東海自然歩道の鳥屋分岐に至る道は、ハイウェイのように歩きやすい道でした。廃道になったとはいえ、近年まで登山道であっただけのことはあります。そして、「登山者の皆様へ」という白い立札を、初めて裏側から見て、東海自然歩道に立ちました。そのまま焼山に直行します。山頂に到着すると、展望台にロープがぐるりと張られていました。何か問題が生じたのでしょうか? きょうの天候では展望が利かないので、上るつもりはありませんでしたが。
焼山到着は午後1時ちょうど。帰りのバスは午後4時37分の1本だけ。私にとって未知の北尾根を下るには、適度のゆとりがあると言えるかも知れません。下り始め、無残に倒れたシラカバの木々に心を痛めます。一般登山道を少し下った地点から、北尾根の下降点を探しました。ところが、真北に伸びるべき尾根が見当たりません。でも、よくよく地面を見ると、踏み跡らしいものが急斜面に向かっています。その先を目で辿ると、ずっと下方に尾根らしいものが見えました。
時間は十分にあるので、慎重に下りました。と言っても、激下りの区間は、あまり長くありません。すぐに勾配が緩み、落ち葉と腐葉土の堆積した、足に優しい尾根歩きが始まりました。途中に間違いそうな枝尾根もなく、紅葉・黄葉を楽しみながら、ルンルンと下って行きます。荒井沢分岐(標高770m)には、ピンクのテープが木に結んでありました。ここで小休止し、電子コンパスで針路を確認します。これは磁北ではなく、真北(しんぼく)を指すのが特長です。
地形図によれば、698m地点あたりから徐々に尾根が北東方向に向きを変えます。その地形は、歩きながらもよく見通せました。そして標高が下がるほどに、紅葉・黄葉が美しく、かつ豊かになりました。もし日が差していたら、どれほど素晴らしいことでしょうか。右手に見える東海自然歩道の尾根は、岩石のゴロゴロ転がった、荒廃の道。こちらは足元フカフカ、まるで王子王女様の道です。これはちょっと、秘密にしておきたいとも思うほど。...神奈川の水源林万歳です。
尾根の分岐点(標高442m)で、初めて思案しました。地形図には道が記されていないし、考えようにも根拠がありません。直感で真北の尾根を選択し、下って行くと、三つの石祠が並んでいました(標高402m)。これはしめた! これだけ立派な祭祀所があるからには、良い参道があるに違いありません。傍らの鹿扉を通り抜けると、果たして幅広の楽チン道が、ずっと下までジグザグ状に続いていました。そしてバス道路に下り立つと、何と、そこは「伏馬田入口」でした。
第三の目標も達成し、これできょうの登山は、無事終了です。さて、初めての焼山北尾根では、時間調整がうまくできませんでした。できるだけゆっくりと降りて来たつもりでしたが、バスが来るまで45分もあります。のんびり西野々バス停まで歩きましょう。公園の休憩所で腰を下ろし、おやつの残りを全部食べ、紅茶を飲み干しました。余った時間で、整理体操として、ラジオ体操第一を再び行いました。後はバスと電車に乗って、うたた寝しながら帰宅するだけです。
焼山沢右岸尾根は、プチ冒険を好む者には、うってつけのルートだと思います。ただ私も寄る年波には勝てず、翌朝目覚めて立ち上がろうとしたら、腰が痛くなっていました。
Alt + < = 戻る。 Alt + > = 進む。 Internet Explorer では、最後に Enter を押してください。 了解