焼山は、丹沢主脈の最北端の峰です。山頂に展望台が立っています。
姫次は、広くなだらかな山頂を持ち、天候によりますが、美しい林相とともに富士山を望めます。
神奈中バス: 橋本駅 → 三ケ木 神奈中バス: 三ケ木 → 焼山登山口 神奈中バス: 三ケ木 ← 東野 神奈中バス: 橋本駅 ← 三ケ木
地理院地図: 焼山
焼山の天気: 丹沢山 , 青野原 , 青根
レポ: 姫次・袖平山(スノーハイク) , 姫次・袖平山(紅葉ハイク)
2月5日(水)、首都圏に降雪があった翌日、丹沢の焼山と姫次を目指しました。真新しい雪を踏みながら、焼山までは快適でした。その後、次第に雲行きが悪くなり、八丁坂の頭で撤退を決定。青根への下り坂は険しく、ゆっくり慎重に下りました。深い雪を踏んで足腰は疲れましたが、美しく厳しい山は、素晴らしいものでした。
橋本駅北口の三ケ木(みかげ)行きバス乗り場には、2列の待ち行列ができていました。1本前のバスが遅れているようです。やがてタイヤチェーンの音をガチャガチャと鳴らしながら、バスが入って来ました。私は長い方の行列に並び、本来乗る予定だった6時53分発のバスではなく、この混んだバスに乗り込みました。車内で神奈中バスの一日乗車券(1000円)を買います。
三ケ木バスターミナルで、7時40分発の月夜野(つきよの)行きに乗り換えます。このバスは定刻きっかりに発車しました。ところが、橋本駅6時53分発のバスは、まだ三ケ木に到着していません。もし月夜野行きバスに乗り遅れていたら、どこの山に行ったかなあ、などと走るバスの中で考えていました。
焼山登山口でバスを降りたのは、私だけでした。まずは目の前の諏訪神社で準備運動。きょうは骨折り登山になるかもしれないので、いつもより入念に骨格を整えます。さて、焼山登山口は、バス停から西に100m余り歩いたところです。真新しい雪を踏みしめながら林道を登って行くと、青空にきりっと聳え立つ峰が見えました。あの峰が焼山でしょうか。焼山は北や南から眺めると、丹沢主脈が東に落ち始める角(かど)の部分に当たります。
林道から登山道に取り付きました。あとはずっと1本道です。尾根を外さないようにひたすら歩けば、通行不能箇所がない限り、迷わずに目的地とゴールの東野バス停まで行けるはずです。降ったばかりの雪は、言うまでもなくとてもきれいでした。動物の足跡がときどき見られる以外は、だれの足跡もありません。一歩踏み込むごとに、キュルルルと雪が声を立てます。全くの無風なので、汗をかき過ぎないように、上半身だけ夏山と同じ姿で歩きました。
雪質は、とてもサラサラしていました。積雪が深くない場所で、足を雪面にフラットに置くと、片栗粉のように(ちょっと大げさかな)足が後に滑ります。傾斜の強い場所では、キックステップになりますが、脚の筋肉に負担をかけるので、なるべく使わないようにしました。凍結の露出は見られないので、アイゼンの出番はなさそうです。また、軽い雪質でも足が雪にもぐりこむ分、無雪季よりも所要時間と疲労が大きくなります。
落葉樹林に入ると、別世界に来たように明るくて、とても気分よく歩けました。ところが、大きな動物の足跡が、2箇所で登山道を横切っていました。ちょっと不気味です。熊鈴を取り出し、手で振り鳴らしながら歩きました。本州のツキノワグマは冬眠しないそうです。でも彼らは基本的に夜行性なので、足跡は昨夜(たぶん)の降雪後に付けられたものだと思います。
再び針葉樹林帯に入りました。ジグザグに登って行きます。ここを抜ければ、あとは最後まで大した登りはないと思ってがんばっていると、また明るい尾根道に出ました。樹氷がとてもきれいです。降雪直後だったので、もしかしたらと期待した霧氷も、一部に見られました。キラキラ輝く木々の道を歩く気分は最高。ほどなく前方右手に、焼山頂上を指し示す道標が見えてきました。私は当然のように山頂に向かいますが、一応バイパスもあります。
山頂に着くとリュックを下ろし、さっそく展望台に上りました。まず目に飛び込んで来たのが、丹沢山と丹沢三峰。そして宮ヶ瀬湖とその背後の山並み(相州アルプス)。笹尾根と奥多摩方面は、樹木に隠されて、あまりよく見えません。大菩薩連嶺、南アルプスは、展望の想定圏外といったところ。蛭ヶ岳を探したら、枝と枝の小さなすき間に、辛うじて山頂を望めました。このときはまだ、主稜の空が晴れていました。
展望台を降り、軽食を取りました。温かい紅茶と、冷えて固くなったベーコンフランスパンです。「焼山のいわれ」を読み、三つの祠を訪ねました。きょうはこの先、誰とも出会わないかもしれません。とても静かな山頂。宝石に飾られた木々。明るく、暖かく、美しい時間と空間。訪問者は私だけ!
焼山頂上で25分ほど過ごしました。きょうの目的地である姫次に向かいます。焼山からの距離は約5kmですが、アップダウンはほとんどありません。けれども、この水平に近い稜線では、これまでの登り道よりもずっと積雪が多くなりました。特に北面の吹き溜まりでは、ひざ下10cm位までもぐるほど。この行程が長く続くと疲れるので、積雪のなるべく少ないところを選んで歩きました。
姫次までは、展望の乏しい稜線歩きです。でも、きれいな樹氷がいっぱいで、足取りは極めて軽快。ところが、樹木の切れ目から丹沢三峰が見えたとき、何と、濃いガスに覆われ始めていました。この先の姫次から富士山と丹沢主稜を望めるでしょうか? 昨日調べた表丹沢と裏丹沢山麓のピンポイント天気予報は、すべて『終日晴れ』でした。まあ、雲行きがよければ、そのうちに晴れるかもしれません。
平丸分岐にやって来ました。平丸へ下る道を見やると、すっかり雪に覆われて、どこが登山路だか分からなくなっていました。これは参考まで。それより、このあたりから、積雪の下に変な空洞があって、歩きにくくなりました。足がズボッと空洞に落ちると、その瞬間バランスを取り直さねばなりません。多少リスクはありますが、空洞のない路肩を歩くようにしました。
黍殻山に登るつもりはなかったので、頂上への分岐では真っ直ぐ巻き道に進みました。この巻き道には、幅の狭い箇所があります。慎重に歩きさえすれば、特に危ないというほどではありません。黍殻山をパスすることで、少なからずスタミナを節約できたと思います。上空からは、薄日が差してきましたが、丹沢山方面は、濃い雲にすっかり覆われていました。どうも見た感じでは、雪雲かもしれません。少し、先を急ぐことにします。
黍殻避難小屋の北から、南アルプスの一部が見えました。こちらはきれいに晴れています。樹木の枝が張っているので好展望とまでは言えないものの、白峰三山と甲斐駒ケ岳を無理やり撮影することはできました。いつか、もし黍殻避難小屋に宿泊することがあったら、この展望は覚えておきたいと思います。
改築中の避難小屋を、ガラス窓から覗いてみました。内装工事があと少し残っているようで、小屋内に工具類や携帯発電機などが置かれていました。小屋の外にあった掲示によれば、工事は2月28日までだそうです。さて、これからどうするか考えました。姫次の眺望は、かなり悲観的です。この先、青根への下山路は2本あるので、とりあえず八丁坂ノ頭までは行って、様子を見て決めることにしました。
黍殻避難小屋のすぐ上に青根分岐があります。帰路はここから東野バス停に下る予定です。少し入って見ると、ここも雪が厚く、登山道は全く不明瞭。でも、地図とコンパスをしっかり見ながら、尾根を外さないように歩けば大丈夫かな、と思いました。ただ、視界不良になると、間違った枝尾根に入り込むかもしれません。それを避けるため、決断が遅れないようにと自分に言い聞かせます。
さて、雪はますます深くなりました。知らず知らず、筋力を消耗していきそうです。凍りついた木々の枝が、登山道に垂れ下がって、頭や肩を撫でたりもします。鹿が2頭、登山道を横切って谷に下って行きました。元気そうです。鹿たちは、どんな場所で夜を過ごすのでしょうか。
八丁坂ノ頭(約1340m)にやって来ました。道標に、姫次 1.0kmとあります。でも状況からみて、姫次の眺望は絶望的です。撤退を決めました。誘引力が消滅したのです。ツツジの木(たぶん)の下に腰を下ろし、遅い昼食にしました。まず温かく甘い紅茶を飲みます。空が灰色でも、樹氷はきれいです。デザートの板チョコは、カチカチになっていましたが、口に入れたら絶品でした。78円で買ったものです。
さて、八丁坂ノ頭からは先行者のトレースがありました。きょう誰か一人、蛭ヶ岳に向かったようです。この足跡を辿って下れば、道を探す手間が大いに省けるでしょう。また、尾根に沿ってモノレールが設置されていますが、これも濃霧時などに下山ルートのよい目印になりそうです。でも下り始めると、すぐにその険しさを実感しました。きれいな雪の下に、見えない岩や落とし穴が隠されていそうです。できるだけ踏み跡を辿りながら、慎重に下って行きましたが、一度だけ見事にスリップして尻餅を付いてしまいました。
レール下をくぐったところで、モノレールとはお別れです。ありがとう、モノレール。ところで東野からのバスですが、平日午後4時以降、三ケ木行きが2本、やまなみ温泉行きが5本(*)あります。時間を気にして、無理に急ぐ必要はありません。単独行でもあるし、絶対に怪我をしないことの方が大切です。コース半ば、少し疲れ始めたころ、古いベンチがあって腰を下ろせました。ありがたや、小休止とし、紅茶を飲みました。魔法瓶の発明者にも感謝です。 * 2014年10月より、2本に減りました。
午後3時15分頃、小粒の雪がフワリ、フワリと舞い落ちて来ました。空は暗くなっています。きょうは、山で誰にも会わないのかと思っていたら、3時半頃、後から下ってきた若い単独男性が、私を抜いて行きました。「こんにちは。険しいですね」が互いの挨拶です。その後945m峰を東面で巻き、さらに下ってアカマツの林を過ぎると、林道が見えてきました。やれやれ、ほっとします。この部分の林道は、地理院地図にまだ示されていません(平成26年4月1日から示されています)。林道に下り立つと、東海自然歩道の立派な道標がありました。
林道を下って行くと、車止めゲートがありました。「東野バス停2.0km」という道標のすぐ近くです。これは山と高原地図(2013年版)やアルペンガイド『丹沢』に載っていません。ゲートには、「林道関係者以外進入禁止」と書かれていますが、施錠されていなかったので、登山者の車が入って行ったようです。ゲートの外には、何台かの車両が置かれていました。
東野バス停にはちょうど午後5時に着きました。ゆっくり下山したので、温かい食事や入浴をする時間はありません。三ケ木行きのバスが来るまで、小雪の降る青根の里をぶらぶら歩きました。私は山を下りたとき、最初に見る人里の風景が好きです。夕暮れの街灯や家々の明かりに、何か懐かしいような、ぬくもりを感じました。
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