丹沢の標高の高い部分では、冬に霧氷が見られます。冷えた霧が樹木などに付着しながら凍結すると、その結晶が成長して霧氷になります。
神奈中バス: 渋沢駅 → 大倉(終点) 神奈中バス: 渋沢駅 ← 大倉
地理院地図: 塔ノ岳 , 日高
塔ノ岳の天気: 丹沢山 , 秦野市 , 大倉
表丹沢やまなみ記録(秦野市観光協会サイト)
レポ: 塔ノ岳の霧氷と雨氷 , 丹沢山2015 , 塔ノ岳・鍋割山
2月9日、前日に出ていた秦野市のピンポイント天気予報では、終日晴天のはずでした。ところが、いざ登り始めると雪がチラホラ。やがて顆粒状の雪になり、塔ノ岳から北の稜線では降りつける粉雪を浴びました。でも山は霧氷できれいに飾られ、見渡す限りファンタジーの世界。ただ青空と眺望がなかったのは残念です。体力を温存するために、日高で引き返しました。帰宅後に、日没の塔ノ岳を眺めると、きれいに晴れていました。翌朝の山頂は、すばらしい光景に恵まれたことでしょう。
午前6時半の小田急線、伊勢原付近の車窓から大山は見えませんでした。上部には濃厚な雲がかかり、見えていたのは高取山以南の山々だけ。秦野駅付近からは、曇天ながらも塔ノ岳の山頂がすっきりと見えました。さて、これから天気予報どおり、晴天になるのでしょうか?いえ、せっかく来たからには、晴れてもらいたいものです。渋沢駅6時48分発の大倉行きバスは、1台のみ発車。5人くらいが立っていました。さて、きょうは何に出会えるでしょうか。
大倉に到着すると、まずはストレッチ体操。備え付けの登山者カードをサラッと記入して投函すると、すぐに出発しました。道端のロウバイの花は、雨や雪に打たれたせいか、もう見るのもかわいそう。その先には、歳をとらない丹沢クリステルとその双子らしい姉妹。彼女たちに見送られて山道に入ると、さっそく空から白いものがフワリ、フワリ舞い落ちてきました。頬や目に触れると、小さなひんやり感があります。丹沢ベースから眺めた二ノ塔と三ノ塔は、鈍い色の雲に隠されていました。
雑事場ノ平の平坦な道は、白い粉砂糖を撒いたみたいになっていました。顆粒のような小雪が降って来ますが、落ちても消えません。昨日見た天気予報は、外れたのでしょうか? 大倉尾根半ばの駒止茶屋まで来ると、三ノ塔の雲がなくなっていました。その代わり、高い空には濃い灰色の雲が全天を占領。これがその後、夕方近くまで雪を降らせ続けたのでした。帰宅後に見た天気サイトによれば、この日の秦野市の天気は、午前7時から10時までずらり雪ダルマが並び、湿雪と書かれていました。
堀山の家を過ぎると、積雪が増えてきました。樹木への着雪がきれいです。晴れていれば海を望める萱場平も、花立山荘直下の階段も、ガスで視界が悪く、振り返ってもただ白い空間が見えるだけ。花立山荘に到着すると、西面から吹き寄せる風に粉雪が舞っていました。そして花立に差し掛かると、木々の枝に小さな霧氷が見られるようになり、それまでそっと抱いていた期待感が一気に高揚。先が楽しみになりました。
金冷シ手前の馬の背では、もっと成長した霧氷が見られるようになりました。高い木にも、低い木にも、こんもり柴にも霧氷が着き、至近距離でまじまじと観察できます。そして金冷シ手前の十メートル圏は、あたかも霧氷宮殿への入口であるかのように、優美な装いになっていました。こんなきれいな金冷シを見たのは初めてです。
金冷シから塔ノ岳への道は、貴賓を迎えるかのように、すべての小枝という小枝が、霧氷で飾られていました。大自然の魔法と言ってもいいかもしれません。すれ違う人との挨拶は、「こんにちは、きれいですね。」ばかりになりました。相変らず眺望は全く望めません。青い空もありません。でも「きょうは来てよかった!」とつくづく思いました。
塔ノ岳山頂には、人影がありませんでした。寒いので、皆さん、尊仏山荘に入ってしまったのでしょう。ただ、猫1匹だけが雪の上を悠然と歩いていました。この猫は、あまり人の愛を受けてきたような表情ではありませんが、野良猫でしょうか。どうして寒風の吹き荒ぶ屋外にいるのでしょうか。ちょっと気にはなりましたが、猫には構わず山頂を素通りして、この日の目的地、日高に向かいました。9日前に歩いた丹沢山への美しい道は、どのような様相を見せているでしょうか。
思ったとおり、塔ノ岳北面の積雪は、大倉尾根よりもずっと深いものでした。富士山の「砂走り」のように、「雪走り」ができます。もちろん、走り下る時はよくよく注意しなければ、オバケ沢に転落しかねません。この辺りに群生するシロヤシオツツジの霧氷は、贔屓目もあってか、ことさらきれいだと思いました。シロヤシオの花がそうであるように、この霧氷も青空を背景に見たら、どんなに映えることでしょうか。
霧氷には、それが成長する物体の性質に依るのだと思いますが、いろいろな姿があります。普通にある水晶細工のような霧氷。サンゴのような枝振りの霧氷。小枝の天ぷらのような霧氷。緩く波打つテープのような霧氷。霧氷は、風上に向かって成長します。幅が5cmはあろうかという、大きな霧氷も見られました。面白いのは鹿柵です。縦と横の骨に霧氷ができて、障子の桟のようでした。でもこの日、私が最も感動したのは、ある巨樹の霧氷です。霧氷美術展の最優秀作品、と独りで決めました。
予定通り日高まで行って、引き返しました。眺望が全くなかったこと、また、雪山では、知らず知らずに体力を消耗していることがあります。ここは、身の程をわきまえて、ゆとりのある行動を取らなくてはなりません。降雪も風も増しています。往路で自分が付けた足跡が、帰り道では、もう分かりにくくなっている箇所もありました。
塔ノ岳への登り返しでは、雪が片栗粉のようにスルスルとして、足が滑りました。往路では「雪走り」で下った箇所です。軽アイゼンは携行していましたが、楽しみにしてきた甘酒を飲むために、尊仏山荘の入口で外さなければなりません。それも面倒なので、キックステップで続行しました。昼食も尊仏山荘で取ろうと思っていましたが、塔ノ岳山頂に至る直前に、風雪を避けられて、しかもきれいな場所があったので、そこで霧氷と雪を眺めながら食べることにしました。
雪の上に一人用のピクニックシートを拡げ、そこに腰を下ろしたら、ズボッと50cmほど沈みました。立ち上がるのも大変ですが、これだけでは尻が冷えます。新聞紙を折り重ねてポリ袋に入れたものを真ん中に置き、尻を乗せると暖かく感じました。昼食は、フレンチトーストと砂糖たっぷりのミルクティーとドラ焼きです。私は荷物の軽量化のため、単独行では、調理せずに食べられるものだけを持って行きます。美しい雪と霧氷に囲まれての、心満たされるお昼でした。
ドラ焼きを食べ終えると、お腹がいっぱいになり、甘酒はいらなくなりました。体も暖まっています。塔ノ岳に戻り、尊仏山荘の軒下で、軽アイゼンを履きました。山頂は相変らず視界不良。下山を始める前に、もう一度空を仰ぎ、晴れる気配のないことを確かめました。もし晴れそうなら、1〜2時間は待ってもいいと思っていたからです。山頂の石仏たちと標柱に、「じゃ、また」と言って、下山の途に就きました。
花立山荘の寒暖計は、マイナス7℃を示していました。塔ノ岳山頂では、マイナス8℃ほどだったと思われます。こういう天候では当然ながら、ぬかるみがなかったことが、大いに助かりました。私は堀山の家で軽アイゼンを外しましたが、もっと早く外しても良かったと思います。見晴茶屋の手前まで来て、ようやく小さなぬかるみを見るようになりました。
さて、大倉バス停での待ち時間が長くなると思ったので、雑事場ノ平から大倉高原山の家を経由して下りました。少し遠回りになります。大観望から見渡した湘南平野には明るい日が差していました。これを見たときは、天気予報が当たったのかな、と思いました。そして以後は時計を見ながら歩き、大倉バス停には発車の1分前に到着。満足感を持ってバスに乗り込んだ瞬間、エンジンがかかりました。
午後3時過ぎ、帰りの電車が秦野駅付近を走っていた時、車窓から見た塔ノ岳は、まだ雪雲の中でした。ちなみに、この日の日没は午後5時17分。帰宅して、わが家の窓から眺めた日没直前の塔ノ岳は、赤い夕陽にきれいなシルエットを見せていました。翌日に登った人たちは幸いです。真冬の青空に、美しい霧氷を見たことでしょう。
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