減少が心配されるイワウチワ。山を愛する人、山野草を愛する人、人を愛する人、みんなでこの可憐な花を護りたいものです。
関東地方にもイワウチワの自生地がいくつかあります。その一つが、奥多摩の鉄五郎新道から大塚山に至るルート上にあります。
地理院地図: 大塚山
大塚山の天気: 東京都奥多摩町 , 青梅市 , 御岳山駅
レポ: 鉄五郎新道・御岳山裏参道
4月10日、奥多摩の鉄五郎新道から、大塚山に登りました。さらに、御岳山上集落から大楢峠、城山を経由して鳩ノ巣に下山する計画です。ところが、途中で大変な忘れ物に気づきました。
午前7時55分、古里駅で下車。跨線橋に上って、あたりの山々を眺めます。春らしく白みがかった青空。暖かな陽射し。何だか良い日になりそうです。駅からは、好奇心で右手の狭い路地を歩いてみます。特別珍しいものもなく、すぐに青梅街道に出ました。やがて右にカーブするその手前で、左前方に下る坂道に入ります。民家の庭に「大多摩ウォーキングトレイルA,Bコース」と書かれた案内板が立っています。前方に見える山は何だろうかな?と考えているうちに、赤いアーチを持つ寸庭橋(すんにわばし)が見えてきました。
寸庭橋の手前のトイレはきれいです。使ってみましたが、清潔無臭で、トーレットペーパーも完備していました。寸庭橋を渡るとすぐに右の階段を下り、南の山道に入ります。寸庭川を越える小橋を渡り、なおしばらく平坦な道を進むと、その次の橋の手前で鉄五郎新道を示す、白く円い標識が目に入りました。ここでリュックサックを下ろして、準備運動をします。深呼吸をすると、空気の美味しさが胸に染み渡ってきました。熟年男女5人組がいましたが、「きょうは道なき道を行きます」と言って沢すじを真っ直ぐに登って行きました。
さて、白く円い標識のあるところから少し登ると、左手に寸庭の集落が見えてきました。集落の手前に短い橋があります。その橋の手前に右に登る細い道があったので、おそらくこれが登山道だろうと思って登って行きました。すぐに別の道に出ます。左手を見ると、やや下がった方に道標が見えました。確認しておこうと思い、そこまで一旦下りてみます。すると、大塚山・御岳山を指し示す立派な道標があり、鉄五郎新道と、誰かが書き添えてありました。これで自信を持って前進できます。実際、これ以降、最後まで迷う箇所はありませんでした。
ところで、鉄五郎新道を下ってきた場合、自然の成り行きで、この道標を通過すると思います。その場合、寸庭集落を通って、寸庭橋に行くことになるのでしょう。次回は、このルートで登ってみようと思います。
鉄五郎新道というのはどこからどこまでを言うのでしょうか。それはともかく、今歩いている道は金比羅神社の参道のようです。所どころに白い板の古い道標があり、文字もかすれて判読しにくいのですが、金比羅神社までの距離が書かれていたようです。右下の沢も低くなりました。見下ろすとワサビ田らしきものも見えます。緩やかな道を登って行くと、先ほど別れたパーティーが先を歩いているのに追いつきました。
白く円い標識から30分ほど歩いたところで、右下に細い道を分けます。かなり古びた道標に、「鳩ノ巣駅、バットレスキャンプ場」と書かれています。この分岐から3分ほどで、金比羅神社の石鳥居の前に立ちました。鳥居には蔓が巻きつき、「金比羅神社」と書かれた銘板は斜めに傾いています。その手前のボロボロの廃屋と相まって、妖怪映画の撮影セットみたいなムードがあります。社はこの先右手ですが、興味もないので、左に進みます。石鳥居から3分ほどで、「アルペンコースの人のみ、下山道→」と書かれていました。かなり以前に付けられた標識のようです。
その3分ほど先が、イワウチワの自生地でした。すでに一人の熟年男性が、一眼レフを構え、斜面に張り付くようにして撮影しています。花は、写真で見るような賑わいのある咲き方ではなく、小さな群落を作って、まばらに咲いています。その男性は、ここのイワウチワを撮影するためだけにやって来られたのだそうですが、今年は花が少ないとのことです。花のつき具合が少ないのか、それとも株数が減ってしまったのでしょうか。
先ほどの5人組パーティーも到着しました。めいめいにコンパクトデジカメで撮影しています。私の方は撮影に一区切りついたので、行動食を摂ることにします。で、リュックを開いたのですが、ありません。食料がゼロです。ああ、昨晩準備して冷蔵庫に入れておいたままだったのだ!何と言う不覚!食料を忘れて山に登ったのは初めてのことです。
あれこれ対策を考えました。御岳神社の参道まで足を延ばせば、お店はたくさんある。鳩ノ巣方面に下る計画なので、どのみち御岳山上集落には行くのだ。そうだ、そうしよう。・・・しかし、そんな安直なことでよいのか?という気もする。この失敗を二度と繰り返さないために、きょうは空腹に耐えて歩き抜こう。水は十分にある。ただ、非常食すら持たずに行くのだから、安全なルートに転進しよう。こういうわけで、御岳山から、旧参道を滝本駅(ケーブルの下の駅)に下ることにしました。元気を出して、広沢山に向かいます。
さらに登って行くと、右手に鋸尾根が見えてきました。大岳山から奥多摩駅に通じる長い尾根です。二つ目のイワウチワの群落もありました。こちらは下の群落と比べると、株も少なく、花もわずかです。しかし花のつぼみがかなりありました。少し標高が高くなった分、咲く時期が遅いのでしょう。また赤みの強い花もいくつか見られました。
その先、広沢山への登りは、ところどころにきつい傾斜がありました。しかし、迷いそうな場所や、危険な箇所はありません。ここまで幾度となく花の撮影で道草を食ったので、時間は掛かっていますが、体力は撮影のたびに回復して元気です。
10時41分、広沢山に到着。地図を広げてみると、大塚山まで水平距離はまだまだあるものの、標高差はわずか70m程度です。もう急登はなさそうなので、軽やかに足が進みます。前方の視界が白くなったので、何かと思ったら、NTTの電波中継基地でした。とても大きなアンテナが立っています。その右手を回り込むように登ると、大塚山の頂上に飛び出しました。
この前に大塚山に来たのは、3年前の9月。そのときは、何も展望の利かない、つまらない山頂だと思いながら素通りしました。でも今は広々として、テーブルやベンチもある、明るい広場になっています。山頂からは、御前山と石尾根方面が見渡せて、なかなかの眺望です。これなら、ここを目的地に登ることも十分に考えられます。標高も920mで、御岳山の929mと大して変わりません。
テーブルでお茶にしました。何か食べられるものでもあればなあ、とリュックのポケットを調べていたら、カントリーマアムが1個出てきました。おお、これは感動ものです。でかしたぞ、カントリーマアム。よく味わって、ゆっくりと食べます。今まで食べた同類のお菓子のうちで、最も美味しく感じました!
御岳山に向かいます。幅広の遊歩道のように整備され、気持ちよく歩けます。小鳥がハンミョウのように、道案内をしてくれます。コガラかヒガラか、たぶんヒガラでしょう。道が左にカーブすると、奥の院と御岳神社が見えてきました。まもなく富士峰園地です。
暖かくなったので、カタクリが咲いているかもしれないと思い、富士峰園地に立ち寄ってみます。ロープの張られた階段を昇って行くと、カタクリの葉がありました。花の方は、園地の上まで登っったところで、数輪みつけました。まもなく正午。明るい日差しを受け、花弁をバレリーナの腕のように高く上げて組んでいます。「カタクリから5つのメッセージ」という小パネルがここかしこに立っています。それには、「私たちは、『スプリング・エフェメラル(春のはかない命)』とも呼ばれています。」とありました。
ヤマガラが来たので、カメラを花から小鳥に移します。よく動くので、シャッターチャンスは1回しかありませんでした。二本檜、夫婦杉、安産杉などを見て、山上集落に向かいます。
いくつかの僧坊の前を通り、鳩ノ巣路の出入口に来ました。何の注意書きもありませんので、大楢峠方面には問題なく行けそうです。でもこのルートは次回のお楽しみ。私は参道わきに咲いていたアズマイチゲを撮影し、御岳山ビジターセンターの前まで戻って、下山の途に就きました。
昭和10年にケーブルが開通するまで、この道は御岳山への参道でした。今は、アスファルトで舗装され、許可を得た車両がときどき通行します。一度は自分の足で歩いて、往時の様子を想像してみるのも良いでしょう。道の両側には杉の巨木が立ち並び、1本ごとに通し番号がついています。また途上には随所に昔名が残っており、その謂れも書いてあります。
上から順番に、「やまのかみ (山の神)」、「あんまがえし (頂上と勘違いした人)」、「だいこくのお (大黒の尾根)」、「じゅうやっくぼ (ドクダミの生える窪地)」、「だんごどう (地蔵堂がある)」、「なかみせ (中間点の茶屋)」、「おおまがり (道が大きく蛇行)」、「うまたてば (馬を休めた)」、「ろくろっ首 (細い道がくねくね)」など。
吉野街道から多摩川を望んだら、桜がきれいでした。御岳苑地に下り、杣(そま)の小橋を渡ります。左岸に渡り、水辺に行くと、砂と岩があります。さっそく靴と靴下を脱ぎ、裸足で、しっとりした砂の上を歩きました。アスファルトの旧参道を延々と歩いてきた足ですが、ここで大いに癒されます。川に足を入れたら、足のほてりがとれて、爽快な気分。でも1分と経たぬ内に足が冷たくなってきました。水際の岩に上り、次の電車が来るまでのんびりと足腰を休めます。近くで見る多摩川の水は、思いのほか躍動的で、生き生きと流れています。
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