矢倉岳山頂には270度の素晴らしい展望と、のどかな草原があります。鷹落場の展望は苦しく、鳥手山には展望がありません。
鳥手山林道終点から山伏平まで、道標はありません。踏み跡の不明瞭な部分も多くあります。
箱根登山バス: 新松田駅 ← 矢倉沢
地理院地図: 鷹落場 , 矢倉岳
矢倉岳の天気: 南足柄市 , 矢倉岳 , 谷峨駅
レポ: 矢倉岳
10月30日、谷峨駅から北足柄山域の鳥手山、鷹落場、矢倉岳を歩いてきました。計画に当たって参考にしたのは、松浦隆康氏著の「バリエーションルートを楽しむ」144~145頁。最初の目的地である鳥手山(とでやま)まで、踏み跡を見つけることができず、時間と体力の残量を大きく減らしました。その後、踏み跡が判りやすくなり、三度にわたる急登も省エネモードでクリア。矢倉岳の開放感いっぱいの山頂でパノラマを満喫した後、予定を変更して矢倉沢に下りました。
近場で紅葉を楽しめる山は、現在まだありません。ならば、ススキの草原と綿帽子を冠った富士山とが見られる山に行こうと考えました。そこで思い出したのが、松浦氏の本の記事「鷹落場―矢倉岳―洒水の滝」です。そこで、記事中にある「鷹落場付近略図」と地理院地図とを見比べながら、何度か記事を読んだのですが、スッキリと理解できません。でもその方が、現場でルートファインディングをする楽しみがあります。今の時期にピッタリのプランだと思いました。
ところで、記事には山北駅から平山を経由して入山するルートと、谷峨から入るルートとが紹介されています。私は御殿場線が山北--谷峨間を走るときの風景が好きで、後者を選びました。谷峨駅からは、西丹沢の反対側に行くのですが、これも私にとって、探索欲をくすぐる未知のエリヤ。帰路は「21世紀の森」を経由し、洒水の滝を見て、山北駅に隣接する「さくらの湯」に入る、周回コースを計画しました。でもこれは、時間不足で変更することになります。
さて、谷峨駅を出てからは、松浦氏の簡潔な説明が正確で、鳥手山林道終点まで極めてスムーズに行けました。ただし、退沢橋(ぬけざわばし)を起点とするその林道は「立入厳禁」となっていたので、ここでの記述を差し控えます。これから計画される方は、平山ルートをお選びください。Web上に、たくさんの山行記があります。
コンクリート林道の終点から、山道に入ります。はじめは道形が明瞭で、イノシシ(?)のヌタ場や足跡はありましたが、土を踏む喜びをもって進んで行きました。でもそれは10分も経たずに終わり、その先は踏み跡があるような、ないような、心許ない植林帯。ここにはかつて踏み跡があった、というバイアスをかけて見れば、踏み跡に見えなくもない、そんな斜面を慎重にトラバースして行きました。小規模ですが崩落地もあり、人にお奨めできるルートではありません。
トラバースの先で尾根に至ると、「水源の森林No.13」の赤帽白杭がありました。尾根の向う側は急峻な谷です。この尾根を登って行くと、立ち木にピンク、紫、白、黄色などのテープが付いていました。大丈夫そうです。尾根を5分ほど登ると、赤帽白杭No.119と「水源協定林」の白い看板があり、丹沢方面に木の間越しの展望がありました。また私製の標識が二つあり、一つは谷峨駅を、他の一つは鳥手山(→)と洒水の滝(←)を指し示し、2017.1.21とありました。
その尾根を登りきると、平坦地に出ました。右に行くべきか、左に行くべきか、見通しが悪いので判断しにくい箇所です。こんな時の私のルールは、まず正しくないと思う方向に進んで見て、正しくないことを確認し、引き返して正しい道に行くことです。ここでは右が正しいと思われたので、まず左に行って見ると、小さな石祠がありました。木漏れ日の当たり方を見て、違うという確証が得られたので、正しいと思った方向に進みました。畑沢分岐と呼ばれる辺りでしょう。
さて、その先を少し下ると、右に明るいカヤトがありました。松浦氏の「略図」に小さなカヤトが二つ示されていますが、そのいずれかでしょう。次は、平塚営林署の看板を見つけねばなりません。少し登って再び平坦地に出ると、木の間越しに鷹落場と鳥手山らしい峰を望めました。左遠方に頭の見えるのが、矢倉岳でしょう。しかしこの平坦地は倒木だらけで、とても人が歩くような場所らしくは見えません。果たしてここを進んでいいのでしょうか?
倒木帯を抜けて少し下ると、右手やや下方に、それらしいボロ看板の裏側が見えました。表側に回って見ると、きれいな字で「平塚営林署」と書かれています! ああ、よかった! これで、自分が正しいルートにいることは、100%確実です。そこから、ゆっくりと地面を踏みしめて登ること約25分、一つの小峰に達しました。立山(640m+)です。その先、5分ほどで、ようやく鳥手山に登頂しました。ああ、長かった! 展望はありません。立ったまま行動食を口に入れました。
このとき11時5分、すでに予定時間を大きく超過したので、計画の変更を考え始めました。明るいうちに洒水の滝を見るには、遅くとも午後1時までには矢倉岳山頂を発たねばならないでしょう。それは、この先の径路の状況次第。とにかく前に進みます。鳥手山山頂から斜面を真っ直ぐに下り、右からの巻き道を合わせ、鞍部に至りました。標高は推定で603mほどです。短い黒杭、赤杭、コンクリート杭があり、ガラスの小瓶が転がっていました。この先は急登です。
その鞍部から鷹落場山頂にかけて、急登を3度こなさねばなりませんでした。1度目は標高差約80m。まだ先が長いので、省エネモードで登って行きます。登り詰めた小丘では、樹々の隙間に富士山の頭を望めました。紅葉した木はありませんでしたが、黄色やオレンジ色になった葉が逆光でとてもきれいです。そして束の間の安息が終わると、2番目の急登は標高差約90m。踏み跡は相変らず不明瞭ですが、適当にアブラチャンの群生を縫いながら登って行きます。
押立山(770m)と呼ばれる小丘に立ちました。赤帽白杭や短い杭類が数本立っています。時計は早くも12時ちょうど。枝越しに丹沢を眺めていたら、里の方から正午のメロディーが聞こえてきました。このメロディーを鷹落場で聞きたかったのですが、マイペースを守ることは安全登山の基本です。そして鷹落場まで3度目の急登。残る標高差はわずか50m。トリカブトが咲いていれば足を止め、丹沢の峰々を見てはカメラを向け、休み休み登って行きました。
急登が終わったところから左に100mほど行くと、目指す鷹落場でした。この時、12時14分。2等三角点がありますが、展望はちょっと苦しいかな。それでも、大野山の彼方に大室山を、何とか望めました。リュックを下ろして、お茶休憩にします。この空に鷹が飛んでくれれば最高ですが、明るく、静かで、爽やかで、気持ちのいい山頂です。鷹が落ちるというのは「落雁」と同様の意味でしょうか? シダンゴ山の近くにあるタコチバ山も、鷹の落ちる山だったのかな?
鷹落場から先には、道らしい道がありました。笹の繁る道など、走りたくなるほどです。そんな道を5分ほど軽快に進むと、のどかな雰囲気の広場がありました。車座でお弁当を食べるのに好さそうです。ここでは矢倉岳が正面、ほぼ真南に大きく見えました。道は南西方向に続き、右下には採石場が見え隠れします。矢倉岳が左手になり、さらに左後方にどんどん離れて行くので、あれあれ?と思いました。地図を見ると、この先で道は南東方向に急旋回するので、大丈夫です。
道はますます黄金色を帯びてきました。混交樹林の落ち葉によって、土は柔らかく、しかも傾斜は緩やか。歌でも歌いたい気分です。もう、踏み跡があっても無くてもかまいません。ひたすら尾根筋を進めば大丈夫。大きなヤマザクラの木が4本立つ地点を過ぎると、ついに矢倉岳を目の前に見るようになりました。そして、きょう初めての道標を裏側から見上げると直ぐ、見覚えのある山伏平に到着しました。このまま矢倉岳山頂まで一気に登ってしまいます。
矢倉岳の空はとびきり大きく、開放感に満ちていました。きょうは朝から富士山を小出しに見てきましたが、ここで全身を惜しみなく見せてくれます。明神ヶ岳、大涌谷、金時山など、引き立て役も富士山に相応しい堂々とした姿。そして、矢倉岳のすばらしさの一つが、海を望めることです。相模湾、東京湾、房総半島を望めば、溜まったストレスも解消、皆消。展望台の跡でしょうか、枡席のような枠組みがあり、靴を脱いで座れるようになっています。大休止しましょう。
きょうの山頂は、全くの無風。自衛隊の演習でしょうか、時々富士山の方から、雷鳴に似た轟音が鳴り渡りました。ところで、10月30日は、「初恋の日」だそうです。由来については、ご自分でお調べください。折しも山頂のベンチには若い二人がいて、ずっと途切れることなく、楽しそうに会話をしていました。青春はいいですね。二人の青空のように明るい声は、この日の、この時間の、この場に似つかわしいように思いました。
靴を脱いで、足を緑色のマットの上に置き、考えました。これから21世紀の森を経て洒水の滝に下りると、滝に着く頃は暗くなってしまうかも知れません。ヘッデンは持っていますが、滝のライトアップまでは望めません。滝見物はまたの機会にすることとし、矢倉沢に楽チン下山をすることにしました。山頂標によれば、所要時間は80分。幸い携帯の電波(au)が来ていたので、バスの時刻表を調べると、ちょうどいいタイミングで、新松田駅行きがあります。
矢倉沢への道は、落ち葉でフカフカでした。スタコラ順調に下って、茶畑道の動物止めゲートを通過し、しっかりと閉じます。ここで丹沢をスッキリと眺めるのを楽しみにして来ました。そして思ったより早く、矢倉沢の里に到着。緩い谷戸の棚田では、ざる菊が見ごろ直前でした。畦道を彩る花は、白いミゾソバ、赤いソバ。山頂にいた、あの二人も下りてきました。矢倉岳は西日を受け、半逆光のシルエット。公民館の奥の、菊畑のベンチで、あと少しだけバスを待ちます。
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