奥武蔵の、西武鉄道秩父線---秩父鉄道線---JR八高線に囲まれたエリヤには、駅から駅まで歩けるハイキングコースがたくさんあります。若き日の田部井淳子さんが登山訓練に励んだ日和田山も、ここにあります。
地理院地図: スカリ山 , ユガテ , ヤマレコ
スカリ山の天気: 飯能市 , 日高市 , 毛呂山町 , 物見山
レポ: ユガテ・顔振峠・八徳 , 奥武蔵の山上集落
1月30日(木)、前日から続く春のような陽気に誘われ、奥武蔵の高麗川(こまがわ)左岸の峰々をプチ縦走してきました。東飯能駅から東吾野駅まで、まったり、まったりと、春を先取りした低山漫歩です。スカリ山の前後を除き、道は良すぎるほどよく整備され、道標もふんだんに出てきて、迷いそうなところは皆無。道中、山座同定と、関東平野の展望を楽しみ、ふんわりロウバイの香りに包まれたりもし、すてきなハイキングになりました。
先月12日に天覧山を目指した時と同様、東飯能駅西口から商店街に進みます。ところが、天覧山コースと異なり、奥武蔵自然歩道を指し示す道標は見当たりません。そこで、分かりやすい国道299号を辿ることにしました。聖望学園を過ぎて、しばらく西進します。大体の見当をつけて国道を離れ、スマホをナビゲーターにして山に向かう道に入り、道なりに進んで行ったら、「奥武蔵自然歩道入口」の標柱が立っていました。詳しくは、ヤマレコの歩行ログをご覧ください。
奥武蔵自然歩道は、はじめ公園の遊歩道のような趣でした。湿った落ち葉をガサゴソ踏みしめ、まず高麗峠(こまとうげ)を目指します。途中に「アオダモの森」があり、標柱に漢字とフリガナが書いてありましたが、漢字の方は忘れてしまいました。帰宅後に調べると「青梻」という難しい字です。花のないアオダモの森をパスして行くと、「ほほえみの丘」がありました。保育園のネーミングみたいで、思わず微笑みを誘われてしまいます。
コースの左手に展望のよさそうな場所があったので、ちょっとだけ行ってみると、真っ白な富士山と、奥多摩の大岳山、御前山などを望めました。ヤマレコが自動的に記録してくれる地名によると「萩の峰」となっています。これも帰宅後に知りました。ともかく、スッキリした富士山を見れて、一安心。好い日になりそうな予感がします。引き続きコースを5分ほど行くと、高麗峠に至りました。魔法瓶を出して、ベンチでお茶を一服。熱々、フーフー、ゆっくりすすります。
ドレミファ橋にやって来ました。この橋で高麗川を越えるのですが、ただの桟橋にしか見えません。入間川の同名の橋のように、♪ド・♪レ・♪ミ・♪ファ♪と、リズムよく飛び石を踏んで渡る橋ではありません。よく見ると、飛び石の間隔が長いので、渡り板が必要なようです。入間川のドレミファ橋と同じなのは、水位が高いとき沈下すること。その時は「あいあい橋」経由で遠回りすることになるのでしょう。幸いきょうの高麗川は、低く、やさしく流れています。
ドレミファ橋を渡ると、そこは「巾着田曼殊沙華公園」です。あたり一面を覆う緑の草は、すべてヒガンバナ。私は2011年の秋に訪れ、撮影中に不整脈(期外収縮の頻発)を発症したことがあります。この世離れした赤を見つめ過ぎ、自律神経を乱されたのでした。急いで外に出て、コスモス畑と日和田山を眺めた瞬間、正常な脈に復帰。何ともドラマチックな記憶があります。以後しばらく「ポピーの赤とチューリップの赤は天国、ヒガンバナの赤は地獄」と思っていました。
さて、広々とした巾着田からは、日和田山がよく見えます。その尾根続きの高指山と物見山も見えているはずですが、どの峰々なのか、私にはまだ同定できません。ただ、金毘羅神社の二の鳥居は判りました。園路を真っ直ぐ歩いて行くと、万葉歌碑、水車小屋、用水路、梅林などのアトラクションがあって飽きません。巾着田を出ると、ここまでもそうであったように、次から次へと道標に導かれ、日和田山登山口に到着しました。そのすぐ上に休憩所とトイレがあります。
ところで、田部井淳子さんの記念碑はどこにあるのでしょうか? 近くで休憩していた年輩の男性に尋ねると、すぐ下の駐車場の入り口にあるとのこと。そして「皆さん、よく見過ごしてしまうんですよね。この辺(休憩広場)にあればいいんですが」とも。私は礼を述べて、来た道を駐車場まで戻ると、ありました、ありました! 台座に「日和田山からエベレストまで」と書かれています。笑顔の写真も、碑文も素晴らしいものです。来てよかった! でもこの場所は ...。
一の鳥居をくぐって直ぐ先、男坂・女坂分岐では、男坂の方に進みました。先回は賑やかな学童グループが来ていたので、私は静かな女坂を登ったからです。ところが、またすぐ先で、男坂と「見晴らしの丘」とに分かれていました。ここはあっさりと予定を変更して「見晴らしの丘」コースを選択。男岩・女岩にも興味があります。明るくて感じの良い道を登って行くと、すぐに「見晴らしの丘」でした。ベンチがあります。その先、岩と岩の間を登ると、二の鳥居でした。
二の鳥居の立つ所は、やや広い露岩になっていて、すばらしい展望があります。眼下の巾着田、遠くの富士山をはじめ、周辺の山々と町を広大に望めます。ここで岩に腰を下ろし、おやつ休憩にしました。神社に参拝する人、大きなカメラを富士山に向ける人、電車を追う人など。ただ、西方はよく見通せません。ところが、日和田山頂に向かう途中、奥多摩をもっとよく望める場所がありました。本仁田山から大持山・小持山まで、樹木に邪魔されずに望め、撮影できます。
日和田山頂では、筑波山と東京スカイツリーを見て、すぐに物見山に向かいました。山頂に通信施設のある高指山はパスします。その施設のために造られた舗装道路を緩やかに下って行くと、駒高陸橋の手前で、ソシンロウバイの花が香っていました。透明感のある黄色い花の向こうに、真っ白な富士山が見えます。きれいそうなトイレと、見晴らしの好さそうな東屋もあり、休憩の適地ですが、そのタイミングではなかったので、先に進みました。
駒高陸橋を渡って、右手の尾根を登ります。ほどなく、巻き道を左に分け、あっけなく物見山に登頂しました。名前に反し、展望は苦しいのですが、防風林に囲まれた野外ステージのような、好ましい山頂です。10脚ほどのベンチが円弧状に並び、腰を下ろすと目の前の空間に微妙なプライベート感があります。ここで二度目のおやつにしました。ぽかぽか日和、どこからか、淹れたてのコーヒーの香り。リラックスし過ぎて、一等三角点にタッチするのを忘れました。
次は、北向地蔵を目指します。日高市と毛呂山町の境界尾根を5分ほど下って、ヤセオネ峠。何か場違いのような良い道に下り立ちました。ルンルン調子よく進んで行くと、何と、行く手に白い軽ワゴン車があるではありませんか! 車の傍らまで行くと、野菜の無人販売所があり、ユズ、キクイモ、ハヤトウリなど並んでいました。おそらく小瀬名(こぜな)集落の人が栽培しているのでしょう。ヤマレコによると、私はこの直後に「小瀬名富士」を通過したことになっています。
その先も、小型車なら通行できそうな、よく整備された道でした。切通しを下り切って、林道を横断。すぐに道標が示す山道に上がります。林道の間の山道を5分ほど歩くと、北向地蔵がありました。正ちゃん帽を深く冠り、赤いエプロンをまとった三体の石仏。表敬のため対面すると、それぞれのお顔に目鼻があるのか、ないのか、ウーム。その時ちょうど正午になったので、鐘を鳴らしました。「佛心」と書かれた鐘を、できるだけやさしく鳴らしたら、優しい音がしました。
次に目指すのは、観音ヶ岳とスカリ山です。ここで、どうしても奥武蔵グリーンラインなる林道を歩かねばなりません。ハイカーにとっては少々興ざめの、山上ハイウェイです。幸い、僅か7分ほどで、「スカリ山入口」の標識があり、ほっとしました。毛呂山町のマスコットキャラクター もろ丸くんの標識もあります。さっそく尾根道に取り付くと、5分ほどで観音ヶ岳に至りました。三角点に似た石柱に「山」の字があります。展望は素晴らしく、夢中で撮影しまくりました。
観音ヶ岳からスカリ山に至るまでも、5分でした。広めの山頂広場に、四等三角点と丸太ベンチがあります。展望はいっそう素晴らしく、観音ヶ岳で撮った風景を撮り直しました。観音ヶ岳とスカリ山の両峰が、本日のハイライトと言っていいでしょう。ただ北関東方面はかすんでいて、輪郭が不明瞭の日光白根山、男体山、赤城山など、まだ私には同定できません。他方、近場の奥多摩から武甲山にかけては、稜線が明瞭です。ああ、山が呼んでいるなあ、と思いました。
スカリ山の展望で、大いに満足しました。ユガテに向かいます。まずスカリ山の西尾根を下ったのですが、けっこう急峻でした。地面が濡れているときは、山頂から一旦東に戻り、巻き道を歩く方がよいと思います。続いて、私はスカリ山の西の峰にも登ったのですが、展望はありませんでした。この峰にも南面に巻き道らしい踏み跡があったので、巻けるのなら巻く方が楽です。西の峰からは、派手な赤ペンキの目立つ尾根を慎重に下り、みちさと峠に下り立ちました。
みちさと峠には、もろ丸くんの道標があり、鎌北湖を指す腕木に「→北向地蔵近道」と落書きがありました。地理院地図には、みちさと峠から250mほどで林道につながる破線が描かれています。ところで、スカリ山・西の峰・観音ヶ岳の三峰は、山体を共有しているので、その全体がスカリ山と言っていいのかもしれません。東の峰に観音ヶ岳という名があって、西の峰が無名であるのは、ちょっと変です。後にユガテからその三峰を仰ぎ見て、そんなことを思いました。
みちさと峠からエビガ坂を経て、ユガテに到着。フーッとロウバイの香りが漂ってきました。ソシンロウバイの明るい黄色の花が、真っ青な空と白い雲とに、美しく映えています。足を止めて、軽く息を吸い込みました。調和の美は心地よいものです。そして弾む足で、民家の裏を抜け、畑のわきを通り、ひまわり畑の前の休憩所に行きました。静か、のどか、明るい、暖かい、きれい ... 好ましいものの取り揃った休憩所。ここでリュックを下ろし、大休止しました。
さて、ユガテは三度目ですが、不思議に思うのは、なぜカタカナなのだろうということ。スカリ山もエビガ坂も、カタカナ混じりです。もしかしたら、難読漢字の名があるのかも知れません。「青梻の森」や「檥峠」なども、フリガナなしで読める人は、あまりいないでしょう。ともかく、あたりに誰もいないので、話し相手は自分自身だけ。ユガテの標高は290mで、丹沢山麓の大倉と同じです。どことなく郷愁を感じるユガテは、現代の貴重な隠れ里なのかも知れません。
ユガテから東吾野駅へのルートは、最後まで山歩きを楽しめる「飛脚道」もありますが、新田に下りました。山歩きは、もう十分な気がしたからです。昨年の春、桜の満開時に歩いた虎秀川沿いの道を、今回は逆コースで歩きました。沿道にたくさんある花木は、しっかりと花芽を準備しています。桜、花桃、木蓮など、爛漫の春を思い浮かべながら、のんびり歩いて行きました。
福徳寺に立ち寄るなどして、時間調整もうまく行きました。東吾野駅に無事ゴールイン。次の電車は8分後です。線路を横切り、誰もいないプラットフォームに上がると、陽の当たるベンチに腰を下ろしました。楽しい山歩きを無事に完了でき、感謝です。
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