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アカヤシオ咲く 両神山(白井差新道)

両神山の岩稜に咲くアカヤシオ

両神山の岩稜に咲くアカヤシオ

両神山に登頂するルートのうち、最も難度の低いのが、白井差(しらいざす)新道です。白井差新道は私有地内にあり、その地権者である山中氏の手により、よく整備されています。また通行に当たっては、事前の予約と環境整備協力金1000円/人が必要です。

バス停 西武観光バス: 西武秩父駅 → 小鹿野町役場
バス停 小鹿野町営バス: 小鹿野町役場 → 白井差口 登山口
バス停 小鹿野町営バス: 薬師の湯 ← 白井差口 登山口
バス停 小鹿野町営バス: 三峰口駅 ← 薬師の湯

地図 地理院地図: 両神山 , ヤマレコルート図

天気 両神山の天気: 両神山 , 小鹿野町 , 両神荘

連絡先 山中豊彦氏宅電話: 0494-79-0494


コース & タイム 鉄道駅 西武秩父駅 バス停 7:50 == 8:29 小鹿野町役場 バス停 8:30 == 9:16 白井差口 車 9:18 == 9:23 白井差登山口(山中氏宅:入山手続)9:37--- 9:52 昇竜ノ滝 9:58 --- 10:34 水晶坂標識 10:34 --- 10:54 ブナ平 11:04 --- 12:20 表登山道出合 12:21 --- 12:29 両神山剣ヶ峰 12:47 --- 12:55 表登山道・梵天尾根分岐 12:55 --- 13:35 ブナ平 13:49 --- 14:04 水晶坂標識 14:05 --- 14:40 昇竜ノ滝 14:51 --- 15:12 白井差登山口(山中氏宅:登山終了)車 16:03 == 16:08 白井差口 バス停 16:22 == 16:54 薬師の湯 バス停 16:58 == 17:17 三峰口駅鉄道駅 17:20 +++ 17:44 鉄道駅御花畑駅 17:45 --- 17:49 西武秩父駅 鉄道駅
※歩行時間には道草と撮影の時間が含まれています。
両神山 りょうかみさん:標高 1723.3m 単独 2019.5.17 全 5時間35分 満足度:❀❀❀ ホネオレ度:❢❢

5月17日(金)両神山に登りました。ねらいはアカヤシオです。今年は4月末の降雪と低温の影響で、開花が平年よりもゆっくりと進んだと見られ、まだ十分に美しい花が咲いていました。登山計画を立てるに当たって、悩ましく思ったのがバスの利用法です。ところが時刻表を調べてみると、今はかなり便利になっていることが分かりました。それでもゆとりを持って日帰り登山をするために、山頂への最短ルートである白井差新道を利用しました。

段落見出し 長いアプローチは、鉄道と路線バスの旅

私が両神山に向かうのは、これが2回目です。初回は学生時代の1971年11月。当時、住んでいた東京世田谷を午前6時に発ち、電車とバスを乗り継いで納宮へ、さらに徒歩で日向大谷までテクテク。短い秋の日の午後4時半に、ようやく社務所に到着し、前泊しました。両神山は、公共交通機関によるアクセスの不便な山であることは、今もあまり変わりません。でも現在の小鹿野町営バスは、日向大谷線、白井差線ともに、数少ない運行便の接続に配慮が見られます。

変な話ですが、今回の山行の成否は、八王子駅での横浜線から八高線への乗り換えにかかっていました。乗り換え時間は、わずか2分。これは短すぎて、インターネットの乗換案内では示されません。この2分間に6番線の昇りエスカレーターを速足で上り、トイレに行き、電光石火で1番線に下りる、奥多摩行きで積み上げた経験がものを言い、しっかり間に合いました。余裕綽々で八高線と西武秩父線を乗り継ぎ、7時33分、西武秩父駅に到着。トイレを済ませておきます。

駅の改札を出ると、バス乗り場1番に行きました。7時50分発、西武観光バス栗尾(くりお)行きに乗り、運転士さんに白井差口への行き方を教わります。発車時の車内はガラガラだったのですが、バス停ごとに高校生を拾い、程よく座席が埋まって行きました。路線バスの旅を楽しむ心づもりで行けば、長いバスの旅もそれなりに楽しめます。8時29分、小鹿野町役場に到着。下車したのは私だけ。目の前に宮沢賢治の歌碑がありますが、それを読んでいる時間はありません。

段落見出し 貸切だった、小鹿野町営バス

庁舎の前に、幼稚園のバスのような絵柄のマイクロバスが見えました。小鹿野町営バスと書いてあります。新調したばかりなのか、ピカピカの車体。「おはようございます。白井差口までいくらですか?」と尋ねると、「白井差口ですね、山中さんには連絡してありますか?」と問われました。昨日、山中氏宅に電話で予約を入れてあります。運賃は町内一律200円で、後払いだとのこと。バスはすぐに出て、歌碑の前にある本来のバス乗り場で一旦停車し、再発車しました。

こんなわけで、バスからバスへの接続が良過ぎるほど良いので、トイレを西武秩父駅で済ませておいてよかった、と思いました。車内もきれいで快適です。車窓から秩父ワインの酒造所や両神庁舎(旧両神村役場)などを見て、薬師の湯のロータリーを回り、小森川沿いの狭い県道367号を走ります。運賃表示板に、沿道の名所が写真で紹介されるのですが、堂上(どうじょう)では、きれいなセツブンソウの写真が映されました。大きな自生地があり、花期は2月~3月です。

幅員の狭い道で、大型ダンプと次々にすれ違うようになりました。石灰石の採掘場があるのです。鳶岩(とんびいわ)と聞いて空を見上げたら、本当にトビが飛んでいました。川塩(かわしょう)は岩塩の産地でしょうか? 煤川は石炭? 地名の由来に想いを馳せます。キャンプ場を2ヶ所左手に見て、9時16分、時刻表通り白井差口に到着しました。ここから40~50分歩いて、山中氏宅に来るように言われていましたが、何と、山中氏が軽トラで迎えに来てくれました。

段落見出し 足に優しい登山道

山中氏の家に行くと、奥様から名前と住所を書くノートを渡され、改めて白井差新道の利用条件を説明されました。日帰りピストンで、必ずここに戻って来ること、その時、環境整備費として1人1000円が必要なこと、などです。さらに地図を渡され、要所要所の説明を受けました。また、山で不要な荷物、私の場合は履いて来たサンダルを預かってもらいます。下山予定時刻を伝え、「行ってらっしゃい!」「行ってきます!」となりました。いざ、出発!

はじめ、少しだけ林道の続きを歩きます。白いウツギの花が目立っていました。すぐに林道終点で、山道となり、桟道や桟橋が現れます。白井差新道全般にわたり、山中氏の手でとてもよく整備されていること、あまり多くの人が歩かないこと、しかし程よい数の人が歩き続けること、などにより、良好な状態が保たれています。岩山のイメージのある両神山ですが、土を踏んで歩けるし、急勾配の斜面には緩勾配のジグザグ道があるので、膝や足首に優しい感じがします。

登山口から約15分で、昇竜ノ滝に至りました。滝壺に下りる小道があります。清楚で優美な一条の白滝。水際にいた蝶が飛び立ちました。クワガタソウやヒメレンゲの花が咲いています。休憩にも好いスポットなので、また帰りに立ち寄りましょう。この先、小森川が大笹沢と名を変え、その右岸と左岸を桟橋で行き来しながら、山頂方向へ効率よく登って行く道を辿ります。ここは、かつての作業道を、登山道として整備したものだと聞きました。納得です。

段落見出し うるおいの山

「大又」は、沢の二俣です。その右俣は産泰尾根の断崖へと北上し、左俣は大笹沢本流として北西に上り、やまびこ橋のさらに上流の、ノゾキ橋で左の梵天尾根と、右の産泰尾根から水を集めていると見られます。この日、オオドリ河原と呼ばれる地点では、伏流化して水は見られませんでした。しかし、新緑の木々が緑の洪水を成しており、沿道に見られるハシリドコロ、コガネネコノメソウ、ヒロハコンロンソウなどから、水分の豊かな山であることが伺えます。

オオドリ河原右岸の峻険な尾根を巻き終わる頃、道の勾配がやや増し、山の斜面にバイケイソウが見られるようになりました。水晶坂の標識のある地点が、白井差新道のほぼ中間点です。登山口から1時間かかりました。花がなければ、あと1時間と少々で、登頂できたかもしれません。水晶坂のジグザグ道を登って行くと、13名のグループが下りてきました。登山口にあったマイクロバスのツアー客でしょう。私は水晶坂を20分ほど登った地点、ブナ平で休憩しました。

ブナ平は、その名の通りブナの木が多く立つ、お奨めの休憩地です。白井差新道にベンチの類はありませんが、地面に転がっている丸木に腰を下ろして、お茶とおやつにしました。時々短く日が差すことはありましたが、ブナ林の空を見上げると、灰色にわずかな青味。無風ですが、空気は爽やかで、まだ汗をほとんどかいていません。その後も、下山するまで汗ばむことはありませんでした。このブナ平から5分ほど登ると、夢見平というロマンチックな名の場所があります。

段落見出し 花もいろいろ

夢のような道は、夢見平を過ぎてから始まりました。緑鮮やかなバイケイソウの道。見上げれば、両神山のいかつい山容の一部を成す、産泰尾根が見え隠れします。登山道わきに咲く可愛らしい草花は、先ほど挙げた種に加え、ヤマエンゴサク、ミヤマキケマン、エイザンスミレ、ミヤマハコベ、ニリンソウ、等々。ニリンソウは白地にうすピンクの縁取りのあるものが多く、エイザンスミレとともに、慎みを知る乙女っぽい装い。足が頻繁に止まるようになりました。

ブナ平から1時間、ようやく梵天尾根への縦走路に乗りました。ここは十字路で、新しそうな道標が立っています。上落合橋に通じる作業道は進入禁止で、トラロープで通せんぼ。ここで右折すると、アカヤシオのふくよかなピンク色が目に飛び込んできました。たくさん咲いています。間に合いました! さっそくカメラを向け、1枚パチリ。2枚目を撮ろうとしたその瞬間、さっと日が差し込み、青空が開けました! 胸がときめきます。歓喜したことは、言うまでもありません。

山中氏によれば、例年ならアカヤシオが一斉に開花するけれども、今年は4月29日の降雪と、それにつづく寒気のせいで、開花がバラバラになったそうです。開花がゆっくりと進み、咲く花の密度は下がったものの、見頃の期間が長くなったと考えられます。そのおかげできょうも新鮮な花を見られるのですが、例年の花のピークは、さぞ豪華なものなのでしょう。とは言え、きょう十分に美しいアカヤシオを、心ゆくまで見れました。はるばるやって来て、本当によかった!

段落見出し 半世紀ぶりの山頂

さて、日差しはあまり長続きせず、青空も出たり、消えたりしていました。山頂の剣ヶ峰に向かいます。今来た尾根が産泰尾根と出合う地点にもロープが張られていました。これをくぐって、表登山道に立ちます。右手に休憩所がありましたが、誰もいませんでした。山頂に向かうと、そこはガイドブックで見たことのある、アカヤシオロード! もちろん実物の方が、ずっときれいです。この佳境のひと時、きれいな青空と太陽が出て、アカヤシオを輝かせてくれました。

山頂は露岩で成り、短い鎖場があります。多くの人々の足を支えて来たであろう岩角は、よほど硬質なのか、ツルツルしていません。しっかりした鎖と硬いホールドのおかげで、不安なく登れてしまう、これも両神山の魅力の一つなのでしょう。アカヤシオもこの岩場が大好きなようです。そして登頂。首なしの地蔵様と石の祠に迎えられます。1971年以来となる、2回目の登頂を果たしました。残念ながら、遠望は利きません。でも山頂には、美しい花と太陽がありました。

1971年の『登山手帖』を見ると、「(11月14日)両神山頂 10時10分、高曇り、風全くなし、展望良好、奥秩父・八ヶ岳・腹だけの富士山・甲斐駒の頭・蓼科・北アルプス・浅間山・谷川岳・草津白根・武尊山・筑波山・武甲山・二子山・赤久縄山・白石山・父不見山・みかぼ山・三国山、etc. きりがない」「両神山-八町峠は、地図上の感じよりも、はるかに登降が激しい」と書いてあります。その日は、日向大谷社務所から登り、八丁尾根を経て、坂本に下りました。

段落見出し 名残りを惜しみつつ

両神山頂は狭く、次から次へと人が登って来るので、あまり長居はできません。近隣の険しい峰々の眺望を楽しんで、早々に山頂を辞します。再びアカヤシオロードを歩き、ロープをくぐると、「白井差へ3.2km 2時間」という文字が目に入りました。この時、12時55分。十分なゆとりを持って、下山できます。急いで下ってはもったいない。名残りを惜しみつつ、経済速度で下って行きました。ブナ平でまた休憩し、鮮やかに咲いていたミツバツツジを愛でました。

その後、17名のグループと抜きつ抜かれつしました。山中氏の話では、近年旅行会社が白井差新道に目を着け、ツアー客を連れ、狭い道を小型バスでやって来るそうです。私は時間調整を兼ね、昇竜の滝で長めの休憩を取りました。美しい滝と谷、渓流のせせらぎ、可愛らしい花などと共にある時間を、ギリギリまで愛おしみます。そして、ゆっくりと白井差登山口に向かいました。

林道終点に近づいた頃、後ろから山中氏に追いつかれ、あの団体、あの夫婦、あの青年を、どの辺りで見たかと尋ねられました。山中氏は毎日、入山者全員が無事に下山するのを見届けているようです。貸した地図を下山後に返してもらうこと、協力金は後払いにすること、登頂記念のバッヂをくれることなど、その意味がよく分かりました。また事情の許す限り登山者の送迎を行い、好きな会話をたくさんし、信頼関係を結び、登山道の新鮮な情報を得ているのでしょう。

段落見出し 大名登山、でもドジ

再び山中氏宅。規約通りすべきことを済ませ、夫人が淹れてくださった温かいお茶を飲んでいると、山中氏が風呂を浴びてからバス停まで送ってくださるとのこと。ここはありがたく好意に甘えます。予定外の時間ができたので、しばらく夫人と歓談しました。その間に山中氏は1組の夫婦を車で送り、戻って来ると、私を白井差口バス停まで送ってくれました。きょうは、ほとんど大名登山になったと言えるでしょう。道中、山中氏はある珍しい植物の話をしてくれました。

小鹿野町営バスに乗り、薬師の湯で降りました。運賃は町内一律の200円。支払うと、運転士さんが乗り継ぎ券をくれます。薬師の湯での乗り換え時間はわずか4分間ですが、地元の青年は要領よく、道の駅かどこかで買い物をして来ました。三たび小鹿野町営バスに乗り、終点三峰口駅で下車。小鹿野町内の分は乗り継ぎ券で、秩父市内の分は現金で200円を運賃箱に入れます。私は車内で両替をしたのですが、紙幣が何度も戻って来て、手間取りました。

影森行き電車の発車が、2分後に迫っていました。駅舎に入ると、駅員さんに急かされ、慌てて切符を買いました。御花畑まで440円。このとき、券売機から出たお釣りは受け取ったのですが、肝心の切符を取るのを忘れてしまいました。電車に飛び込んでからそのことに気づいたのですが ... ああ、ドアが閉まるとのアナウンス! しかたなく、そのまま乗って行きます。終点の影森駅では、4分待ちで熊谷行き急行に接続しました。御花畑までは、200円の急行券が不要です。

段落見出し 清々しい家路

御花畑駅の改札にいた、年輩の駅員さんに訳を話したら、「いいですよ」と言って、そのまま通してくださいました。朝の西武観光バスの運転士さんに始まり、きょう出会った人々は、どなたも親切な人ばかりでした。感謝です。憂いが消え、清々しくなった心で西武秩父駅へと歩いて行くと、明るい空にスッキリそびえ立つ武甲山を望めました。

木の葉ライン

↓ 紙芝居



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