扇山から望む富士山は、大月市が選定した「秀麗富嶽十二景」の一つです。
扇山は、アクセスのよい山です。中央本線の鳥沢駅からの最短路をはじめ、四方津駅、梁川駅、猿橋駅からも歩いて登ることができます。
地理院地図: 扇山
扇山の天気: 大月市 , 扇山 , 鳥沢駅 , 四方津駅
レポ: 百蔵山・扇山 , 扇山・御春山
1月1日、扇山に登りました。旧甲州街道犬目宿から、荻ノ丸、犬目丸を経て、開いた扇の頂点を目指すという、おめでたプランです。楽しみにしていた冬の「秀麗富嶽」は、白い空に浮く淡い影となって、あたかも春霞のような趣。幸い元日にふさわしい晴天に恵まれて、快適な新春登山ができました。山頂周辺には、若干の積雪もありました。
当初の計画では、四方津駅からバスで犬目に入るつもりでした。ところが元日は特別ダイヤで、午後の1便しか運行されないのです。これは、富士急山梨バスのホームページで前日に知りました。それならと、梁川駅から大田峠を経て犬目まで歩くことに計画を修正。初めの予定より1時間ほど早い電車で出かけました。
午前7時過ぎ、梁川駅に到着。跨線橋から赤く染まった扇山が望めました。桃太郎の扇みたいで、縁起が良さそうです。小さな駅舎を出て、小さなトンネルをくぐり、線路の北側の道に出ました。しばらく線路に沿って、北西方向に進みます。突き当たった車道を右折して5分ほど歩くと、白い小さな標識に「大田」の文字と、赤い矢印が、右手の階段を指していました。標識には、「扇山に行けるよ」との落書きもあります。
階段の道を登ると、背後の斧窪(おのくぼ)御前山を間近に望めました。その先、篠竹の生い茂る道を通り抜けて、大田峠を越え、霜柱をザクザクと踏みながら下りた所が大田の集落。下り立った道を右に進み、大田のバス停で左折します。中央自動車道の高架下に差し掛かると、橋梁のかなたに扇山が見えてきました。
ゴルフ場を貫いて登る車道は、視界すこぶる良好。扇山、犬目丸、荻ノ丸が、さあ来いと言わんばかりに姿を見せています。振り返れば、くっきり富士山、道志、前道志の山並み。車道をさらに登って、静まり返ったクラブハウス前を通過して行くと、山奥らしい農村風景が広がりました。右手の畑には、黄色の実が鈴生りになった夏みかんの木。犬目集落の最初の家の元気な犬に吠えられ、旧甲州街道に出ると、そこに犬目のバス停がありました。
犬目に来た記念に、犬嶋神社を見学します。バス停の少し東よりの角から、北に上る小ぎれいな路地が参道です。この道も、これと交差する二本の小路も、生活の雰囲気がいっぱい。畑の中の参道を真っ直ぐ上り詰めたところに犬嶋神社があり、ぽっかり電球が燈っていました。拝殿にはお酒のビンと紙コップが供えられていましたが、神々と参拝者たちへの思いやりなのでしょう。元旦のとても静かな時間、これまで人の姿を全く目にしていません。
旧甲州街道に戻り、安達野バス停で県道が大きく右に曲るところから、坂道を新田に上ります。すると和風の落ち着いた家並みが出現。私が扇山への登山口をキョロキョロ探していると、向こうから歩いて来たお婆さんが、手の動きで入口を教えてくれました。道標の類はありません。お婆さんに聞こえるくらいの大きな声で一礼。教わった路地を登って行くと、小さなお社と児童公園がありました。ちょっとした好展望地です。ここで登山靴に履き替え、準備運動をしました。念のため、熊鈴を着けます。
さて、地図を見ながらジグザグ道を登って行きます。ほとんど樹木がなくて、日当たりぽかぽか。地図上の等高線は込んでいますが、登山道の傾斜は緩やかで、楽々登れます。汗をかき始めたので、上着とセーターを脱ぎました。こうして全身の筋肉がほどよく温まった頃、金比羅神社に着きました。大きく傾いた、小さな木製の鳥居が、長い風雪を想わせます。大野貯水池、四方津方面の町並み、その彼方の山々などの展望が好く、時間を取れば、山座同定の総復習ができたかもしれません。
荻ノ丸の南東尾根に乗ると、ところどころに雪が見られるようになりました。広葉樹とアカマツ、ヒノキなどの混合林です。地面には松葉がたくさん落ちていました。松葉は、腐りにくいのかもしれません。歩きながら、荻ノ丸はどこだろうかと、気をつけていましたが、それらしいピークは通過しませんでした。巻いた峰のいずれかが、おそらく荻ノ丸だったのでしょう。そうこうしているうちに、犬目丸に着いてしまいました。
犬目丸からは、富士山、道志、丹沢方面の眺望が開けていました。標識もベンチもありませんが、明るく好ましい場所です。温かいミルク紅茶を飲みながら小休止。でもこの時、冷たい風が吹いてきたので、早々に切り上げ、先に進むことにしました。尾根道は樹林帯の中にあり、風が遮られます。ただしこの尾根からの眺望は、あまりよいとは言えません。北面には権現尾根がチラチラと見えるのですが、樹木が多すぎて、カメラを向けるほどではありませんでした。
犬目宿からの登山路を左から合わせ、6〜7分歩いた頃、ようやく北面の樹木がまばらになるところがありました。そこは広場のようになっていて、少し登山道を離れますが、貴重な展望が得られそうです。その広場に踏み込むと、足首よりも深い雪が積もっていて、動物たちの足跡だけがありました。尾根の縁まで行ってみると、小枝の空いた窓から、麻生山、権現山、雨降山を結ぶ、なだらかな権現尾根を、真正面から心ゆくまで眺めることができました。
山谷への道を左に分けると、傾斜がきつくなってきました。特に急ぐ必要もないので、雪面でのスリップに注意しながら、ゆっくりと登って行きます。急傾斜の箇所では、恐る恐る下りてくる人もいました。登る私にとっては、楽しい道です。そして新田の登山口から2時間ほどで、扇山の頂に到着しました。
山頂から望む富士山は、とても大きく、美しく見えました。ところが、デジカメを向けると、晴天の半逆光ということもあって、液晶モニタに富士山の姿が映りません。(それでも、撮影ボタンを押したら、淡い富士山がカメラに収まっていました。)富士はさておき、扇の空を見上げれば、冬らしい深みのある青色。とてもよい気分です。私は丸太ベンチの一つに腰を下ろし、ミルク紅茶の魔法瓶を取り出して昼食にしました。先客は7人。それぞれ富士山を見ながら、食事や休憩をしています。
さて、山頂からは、高尾・陣馬・笹尾根に続く山並み、その山麓の町々や高速道路なども、よく望めました。他方、北面の権現尾根と北西の大菩薩・小金沢連嶺は、繁茂した枝越しに、もどかしく眺めるのみ。ところで、扇の頂にハエが全くいなかったのは、季節がら期待どおりでした。暖かい季節にはどうなるでしょうか。「自分で作ったゴミは自分で持ち帰りましょう」の大看板は、山頂に健在でした。
里から響く正午のメロディーとともに、山頂を発ちました。「秀麗富嶽」の引力が弱くなったので、百蔵山には行かず、大久保山への鞍部から梨ノ木平に下るつもりです。山頂から鞍部までわずか10分足らずですが、この日最後のスノーハイクを楽しめました。念のため、軽アイゼンを携行していましたが、その出番は最後までありませんでした。
鞍部から、暖かそうな南面を下ります。途中、つつじ群生地への分岐でベンチに腰を下ろし、もう一度富士山をとっくりと眺めました。今夜の初夢の代わりです。さらに下って、青い容器のある水場で手と顔を洗い、喉を潤しましたが、水はあまり冷たくありませんでした。地下水なのかもしれません。日陰にシモバシラを探しながら下りたのですが、これはダメモト、見つけられませんでした。
午後1時頃、登って来る家族に出会いました。両親と男の子と女の子です。梨ノ木平登山口からあまり遠くない地点でしたが、男の子の調子が悪そうでした。お父さんに、「この先、どこかで時間を見計らって、引き換えされたらいいかも知れませんね。」と言ってあげましたが、明るいうちに下山できたでしょうか。
梨ノ木平で、スニーカーに履き替えました。このところ、登山道では登山靴、林道ではスニーカーを履くというパターンになっています。さて、梨ノ木平から鳥沢駅に行くのに、ゴルフ場を大きく迂回しなければなりません。でも、里に入ると、正面間近にそびえ立つ高畑山や倉岳山を望めるのが嬉しいところ。どこかで百蔵山も振り返り見てあげましょう。鳥沢駅の近くまで下ると、秋山山稜を東方に延々と、矢平山まで望めました。
鳥沢駅のホームに降りる階段は、とても狭いです。一人が歩ける幅しかありません。こんな駅って、他にあるでしょうか。駆け込み乗車ができないことは憶えておきましょう。ホームにアナウンスが流れ、特急あずさが凄まじい風圧を切って走り抜けた後、見るからに大人しそうな普通列車がやって来ました。滑らか過ぎない止まり方も、ドアの開き方も、昔と同じです。乗り込むと、すぐに気持ちよくなって、眠りこんでしまいました。
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