入道丸は、山梨県の阿寺沢川と、神奈川県の綱子川の間に横たわる尾根上にあります。展望の利く峰ではありませんが、近接する356鉄塔からはすばらしい展望が得られます。
ムギチロは、道志山塊の巌道峠のすぐ東に位置し、道志みち(国道413号)からも、その円い峰をたやすく見つけることができます。この峰も展望は利きませんが、東西方向に軽快な稜線歩きを楽しむことができます。
神奈中バス: 藤野駅 → 奥牧野 神奈中バス: 三ケ木 ← 東野 神奈中バス: 橋本駅 ← 三ケ木(乗り換え)
地理院地図: ムギチロ
ムギチロの天気: 上野原市 , 道志村 , 秋山 , 月夜野
12月12日、県境尾根の綱子峠から、道志山稜の巌道峠(がんどうとうげ)にかけて、初冬の稜線を歩いてきました。はじめの計画では、引き続き阿夫利山に登るつもりでした。ところが、平野峠付近で大きな動物を見てしまい…
先月のデン笠行きに利用したのと同じ、JR藤野駅7時14分発のバスに乗りました。終点の奥牧野(おくまぎの)で下車。最初から最後まで、乗客は私だけでした。バス停から3分ほど歩き、秋山川に架かる前川橋という吊橋を渡ります。奥牧野バス停は、綱子川の奥に向かうのに、絶好の位置にあるのです。ただし、歩行者と自転車の専用橋です。しっかりとできた吊橋で、ほとんど揺れることはありません。ただこの日の朝は、真っ白に霜が降りていて、板の上で足を滑らせないよう、注意を要しました。
綱子川に沿って、林道を南に進みます。急峻な斜面を切り取って作られた道で、左の山側は落石注意、右の谷川は転落注意。その谷は深いので、よそ見をしながら歩いてはいけません。紅葉はすでに落ち終わり、早朝であることもあって、目にも頬にも寒ざむとした峡谷の道。日の当たるのは遅く、日の沈むのは早いことでしょう。戦国時代には、武田・北條の合戦がなされたと案内板に書かれていますが、今静かに歩くと、ひとり考え事をするために、誰にも気づかれない隠れ家に入って行くのにぴったりのような気がします。
奥牧野から40分ほどで、綱子集落にやって来ました。人々は、まだ家の中なのでしょう。ひっそりとしています。右手の南向き斜面に散策路と展望台があったので、上ってみました。雄大な展望とは言えませんが、山里の民家や畑、柿の実、小川、里山などを見渡すことができます。スケッチブックを携え、時間を忘れて写生するにはいいかもしれません。散策路はそのまま進行方向に下りることができます。細くなった綱子川に架かる小さな橋を渡って、山あいの道を5分ほど歩いたら、右に綱子峠を案内する白い柱が立っていました。
右に登って2分ほど進むと、左に登山道が分岐していました。ここでリュックを下ろし、準備運動をします。腰を左右に捻ると、ポキポキ音がしました。腰椎がずれたまま長時間歩くと、その翌日に腰が痛みます。登山道に入ると、大きな羽ばたき音を立てて、キジが飛び出しました。オスです。続いてメスも飛び立つだろうと待ち構えていたら、数秒遅れてオスの方へ飛んで行きました。
植林はすぐに終わり、落葉樹林に変わりました。深く積もった落葉をサクサク踏みしめて歩きます。誰か連れがいたら、「これがホントの山サク(散策)です」と言いたいくらい。地面に落ちたドングリが二つに割れ、根を下ろし始めています。やがて左側の空が開け、送電鉄塔が見えました。そこに行くと素晴しい展望が得られることは、まだ知りません。さらに少し登ると、逆光の南面に丹沢山塊のシルエットが望めました。
登山道を歩くこと約20分で、綱子峠に至りました。標識類がたくさんあります。地面の上にも一つありました。ここは山梨と神奈川の県境尾根。共に秋山川の支流である、阿寺沢川の右岸、綱子川の左岸に伸びています。いつか、北に向かって尾根の終点まで歩いてみたいと思いますが、道がどうなっているかは分かりません。樹木の枝越しですが、北面に奥多摩の山々や権現山を望めました。
送電鉄塔356号に至ると、すばらしい展望が待っていました。一番右に丹沢の焼山。左へ順番に石老山、小仏城山から笹尾根へと続き、その奥に奥多摩の山々。反対側も送電鉄塔355号に向かって、送電線が大空を走るように延びて道志山塊に至る、低山ながら雄大な展望です。なお、鉄塔自体に銘板はなく、送電線巡視路の標柱で番号を知りました。この日のルートでは、ここ以外にあまり眺望は期待できないと思ったので、ゆっくりと休憩しながら晴天下のパノラマを楽しみました。
356号鉄塔から入道丸に向かって、気持ちのよい尾根道を進みます。尾根南面が落葉樹なので、日当たりも上々。空が広く見えます。でも入道丸に近づくと檜林になり、展望はほとんどなくなりました。木漏れ日を拾って、小さな円い葉はすみれの苗でしょうか。町の花屋に並ぶ色とりどりのビオラの苗を一瞬思い出しました。ほどなく山頂に到着。山名を書いた、私製の標識が少なくとも3種類、立ち木に取り付けられています。地面には三等三角点。山頂付近は樹木が多少まばらになっていて、枝越しに秋山方面を望めました。
入道丸の三角点峰(714.4m)の南西に隣接し、720mの等高線を描く峰があります。三角点峰と山体を共有しているので、入道丸西峰と呼ぶべきかもしれません。ここを通り過ぎると、再び南面が落葉樹の、明るい尾根道になりました。720m峰から5分ほどで、鉄塔354号への巡視路を右に折り返すように分けます。「バリエーションハイキング」(松浦隆康氏著、新ハイキング社)によると、この道は、阿寺沢林道に通じているとのことです。
平野峠で、鋭角に右折して、730m峰に登ります。南側に巻き道もありますが、急いではいません。どんな眺望があるかなと登って行くと、南面の枝越しに道志村のどこかが見えました。焼山や黍殻山も見えます。頂上には「ゴガンノ丸」と書かれたテープがありました。他に、平野山という名もあります。ここを過ぎて下り始めると、檜洞丸と大室山も姿を現わしました。どこまで行っても枝越しにしか見えないのが残念ですが、葉の繁った季節には見ること自体が難しいでしょう。
大室山の雄姿を見て、気分よく尾根道を進んで行きます。突然、左手の斜面から大きな音が聞こえました。シカやサルのガサガサ音よりもずっと迫力のある、不気味な音です。その方向をそっと覗くと、50mほど下に、大きな獣が立ち木を揺さぶっているように見えました。「おお、でかい!」私より体の大きな動物です。熊でしょうか、イノシシでしょうか。どちらにしても、襲撃されると危険です。私は1枚だけ撮影すると、その場を早足で立ち去りました。そして、かなり離れたところに来てから熊鈴を取り出し、足に着けました。
それからは足を速め、西へ、西へと進みました。ムギチロまで来て、ようやく一安心し、大休止。腰を下ろし、昼食にします。これから先、どうするか考えました。予定では巌道峠から先、金波美峠までバリエーションルートを歩き、阿夫利山を越えて富岡に下りる計画でした。でもバリエーションルートで、もし猛獣に遭遇すると、大変危険です。先ほどは、私の方が獣より上にいたし、逃げるための登山道もはっきりしていました。金波美峠へは車道を歩いても行けますが、山と高原地図には所要時間が書かれてなく、「長い車道歩き」とだけ記されています。
考えた末、きょうのところは安全に下山することにしました。ただし、あの平野峠に戻る気はしません。するとムギチロから最も近いバス停は、巌道峠経由で「久保小学校入口」です。しかし、バスの不便な道志みち。「東野」まで歩いても、帰宅時刻に変わりはありません。まあ、一度くらいは道志みちを歩いて見物するのも悪くないかと思い、巌道峠に向かいました。
その先の登山道上で、二箇所に獣の糞がありました。どちらも大型です。一つはすでに崩れて、まぶされた木の実の種が見えていましたが、もう一つはまだ原形を保ち、人間のもののように太く大きく横たわっていました。気をつけねばなりません。886m峰の先の下りで、登山路の傾斜が急峻になりました。立ち木の助けを借りながら、慎重に下って行きます。そのまま尾根を真っ直ぐ進んで行ったら、巌道峠の切通しの上に出てしまいました。戻るのも面倒なので、そのまま右に降りて、石碑の横に下り立ちました。
巌道峠にある林道の分岐からは、大室山と富士山が初めてきれいに見えました。目障りな木や枝がありません。時間がたっぷりあるので、腰を下ろし、ミルクティーを飲みながら二度目の昼食を取りました。ここで30分ほど山の眺めを堪能し、下山の途に就きました。
久保からは国道413号を青根公民館前バス停まで歩きました。南に丹沢山塊、北に道志山塊を望みながらのテクテク膝栗毛です。途中の大渡(おおわた)あたりから、しばらく袖平山の雄姿を見ながら歩くことになりました。足の疲れが多少まぎれます。最後に唐沢に架かる上野田(うえのだ)大橋を渡るころには、太陽が大室山の高い肩に掛かり始めていました。
今回の山行では、図らずもムギチロが思い出深い山になってしまいました。久保から野原あたりまでの道志みちから、円い頭のムギチロががよく見え、容易に判ります。
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