宮ヶ瀬湖の南東には、仏教的な名を持つ山々の連なる山域があります。そのうち、経ヶ岳より北に宮ヶ瀬湖へと至る道は、関東ふれあいの道としてよく整備されています。しかし、南側に華厳山、高取山、およびそれらの登山口を結ぶ道も、歩いてみればさまざまな魅力が見つかります。
この高取山を、他の高取山と区別するときは、荻野高取山と呼びます。
神奈中バス: 本厚木駅 → 半僧坊前 神奈中バス: 本厚木駅 ← 飯山温泉入口
地理院地図: 経ヶ岳
経ヶ岳・華厳山・高取山の天気: 清川村 , 半僧坊前
レポ: 仏果山・高取山 , 仏果山・高取山 2013
12月10日。この冬一番の冷え込みと、よく晴れ渡った空。東丹沢の経ヶ岳から南へ、華厳山、高取山と連なる小さな山脈を歩いてきました。圧巻は経ヶ岳から望む丹沢の峰々。初雪を冠ってきりりと美しい姿を見せ、爽快なトレッキングを満喫してきました。
午前6時半、少しばかり早起きして乗った小田急電車。車窓に目をやると、おお見えるぞ丹沢! 雪化粧したばかりの初々しさ。早くも心がわくわくします。午前7時本厚木駅に到着。7時5分発の半原行き神奈中バスは、10人ばかりの客を乗せて発車しました。
半僧坊前で、一般乗客と私との2名が下車。私はバスの来た方に方向に少し歩いて戻ります。ほどなく右手に「関東ふれあいの道」の道標を確認。これ以後、行く先々で現れる道標が経ヶ岳を示す方向に進みました。
林道を歩き始めると、何と、バナナの木が10本ほども立っているではありませんか。この凍てつく寒さの中で、バナナの房もぶら下がっています。これからもっと寒い季節がやって来て、あのバナナはどうなるのでしょう?
その先、「ヤマビルにご注意ください」と書かれた案内板があり、親切にも蛭除けのスプレーが備えてありました。でも私は、あの嫌な蛭の出没しない、この寒い季節を待って、この山に来たのです。「関東ふれあいの道」ですが、じめじめしていて、夏だったらさぞかしたくさんの蛭が出てきそうです。蛭とはふれあいたくありません。
二つの堰堤を右から巻き、さらに20分ほど登ると、テーブルとベンチのある休憩所に到着しました。眺望が素晴らしく、筑波山を含む関東平野を広々と望めます。行動食の豆大福をほおばり、まだ温かい紅茶を飲み、体の冷えないうちにリュックを背負います。
林道を横断して以後、登山道に積もった雪が次第に厚くなってきました。赤や黄色のモミジやカエデが真っ白な雪の上に落ちて、とてもきれいです。杉の葉に付着していた雪が、時おりパラパラと頭の上に落ちてきます。
その真っ白な雪の上に、お地蔵様の頭のように丸い石が飛び出ています。これは踏んでも雪のように滑らないので助かります。飛び石のように踏んで行くと、何だかお坊さんの頭を踏みつけているような気がしてきました。「ごめんなさい」と心の中で謝ると、石たちが、「私たちも踏まれることで役に立てて嬉しいんですよ」と言っているようでした。
経ヶ岳の頂上に至る直前、左手前方に金色に輝く海原が目に飛び込んできました。相模湾の上にちょうど昇った太陽の光線を受けて、きらきらととても神秘的です。その光を、後光のように背負って、目の前に鎮座するのは華厳山。その名に恥じぬ姿とは、今の華厳山のことです。
9時27分、経ヶ岳山頂に到着。まず何をおいても、丹沢の大パノラマに目を奪われます。一番左の大山、岳ノ台から右へ順番に、二の塔、三ノ塔、烏尾山、………蛭ヶ岳、黍殻山まで、懐かしい峰々が雪化粧をして待っていました。ああ来てよかったと思う瞬間です。これを私一人で見るなんて、もったいなさ過ぎるほどの贅沢。いつまでもいたい山頂です。
経石は、頂上の西側の尾根を、徒歩1分ほど下りた所にありました。弘法大師が経を納めたという洞が南面にあり、小さな仏像があります。経石を南東側から回り込んで見ると、大きなお釈迦様の手のようにも見えます。
山頂に戻ると、仲のよさそうな中年のご夫婦が来ていました。さらに七、八名のグループも到着。一気に山頂が賑やかになりました。私はいつまでも山頂に留まるわけにも行かないので、次の目的地、華厳山に向かいます。地図をしっかり見ながら、山頂より南に伸びる尾根道に入って行きました。
華厳山に踏み出したとたん、登山道の状態が一変しました。まず踏み跡がはっきりしません。南面は雪も解けて道がぬかるんでいます。これは予想外に時間がかかるかもしれません。スリップしないように慎重に下って行きました。
この尾根道に沿って、その東側に鹿柵が設置されています。かなり古びている上、ところどころ壊れているので、役に立っているかどうか分かりません。できればこの柵が本当に必要かどうか再検討していただき、もし不要なら、撤去して欲しいと思うほど殺風景になっています。この柵は、華厳山への鞍部のあたりまで続いています。
この経ヶ岳から南に続く尾根道には、樹木がずっと立っていて、これと言った展望地がないようです。でも木の葉はすでに落ちていて、枝越しに見える丹沢の山々が励みになりました。もし廃墟のような柵さえなければ、とても気持ちのよい尾根と言えるでしょう。
華厳山に至る直前の小さな峰に、年を取った犬がいました。主人を待っているのか、東面の尾根を見下ろしながらワンワンと鳴いています。首輪にはアンテナのついた小さな装置(GPS?)が付いています。猟犬かもしれません。口笛を吹いたら、私の方をちらりと見ましたが、また東の尾根を向いて鳴き続けていました。
華厳山の山頂にさしかかると、先ほどの犬が私を追い越して登って行きました。何がどうなったのか、もう鳴いていません。華厳山では、ずっと私の傍にいましたが、食べ物を欲しがる様子はありませんでした。
山頂には「西山を守る会」の郵便受けのようなものが木に取り付けてあり、開けてみたら黄色のチラシが入っていました。1枚もらいます。これを読むと、西山と言うのは経ヶ岳、華厳山、高取山の総称だということです。登山路の概念図がていねいに記されていて、ありがたい図です。また、西山を守る会が要所要所に設置した道標は、終点の飯山に至るまで、とても力強い味方でした。私は2万5千分の1の地図は携行していましたが、通行禁止区域を避けて迂回する面倒なルートを迷わず歩けたのは、何といっても親切な道標のおかげです。
華厳山から高取山に続く尾根道は、紅葉が色濃く残っていて、白い雪の上に散ったモミジやカエデがとてもきれいでした。第三楽章「秋」の終りと、最終楽章「冬」の始まりがオーバーラップしながらハーモニーを奏でているかのような情景です。私の前を歩いていた犬は、いつしか見えなくなりました。
高取山からは、国道412号側に至る道を下りるのが楽なように思えましたが、採石場を上から眺めてみたいと思い、発句石まで行って見ることにしました。立入禁止のトラロープを2回越すことが少々後ろめたいのですが、発句石の引力が勝りました。発句石の説明板と立入禁止ロープが同じ場所にあるとは……。
発句石の据えられた場所は、素晴らしい展望台でした。採石現場が眼下によく見えるのはもちろん、相模湾の向こうにはるか大島まで遠望できます。右手には大山が、侵すことのできない霊峰の威厳を持って、高く、どっしりと鎮座しています。
さて、下山です。足は全然疲れを感じていないので、幾分長めのルートですが、上飯山に下りることにしました。入山に使ったバスとは違う路線で帰りたいという気持ちもあります。発句石の説明板まで戻り、東に向かう尾根を下り始めると、下界から正午を告げる音楽が聞こえてきました。
この登山路も、踏み跡がはっきりしない部分が多く、しかも倒木だらけです。けれども赤いリボンと道標に導かれて、迷うことなく下って行きました。ただ走って下れるような道ではないので、十分な時間のゆとりを見ておかねばなりません。
林道に下り立つと、そこはゴルフ場の脇で、電気柵がゴルフ場を守るようにがっちりと立っていました。この林道を左に進めば国道412号に出られるようなので、次回はそうしようと思いますが、今回は初めてなので、右に進み、飯山まで歩いて行きます。
一旦ゴルフ場内のカート道を歩き、再び登山道に戻るので、電気柵のゲートを2回通過します。地図を見ると、ゴルフ場から標高差にして85mほど登り返さねばなりません。これは面白くありませんが、迂回路のようなものなので仕方ありません。この登山道も踏み跡が不明瞭でした。よく目を凝らして、ルートを見出して行きます。
236m峰にきれいな道標があり、「上飯山切通しまで800m」と書いてあります。その切通しがきょうの登山道の終点なのですが、最後の部分で予想外の時間を費やしました。藪の中に「至る敬和荘」と書かれた矢印がありましたが、その先に道のようなものは見当たりません。しばらく行ったり来たりして踏み跡を探してみましたが、尾根の上を忠実に下るのが一番と判断し、藪をかき分けて行きました。
途中、笹薮の中に石の祠の残骸が転がっていました。かつてはそこに道があったはずです。すでに下の方には切通しと道路とが見えています。このまま下って行くと、切り通しの上で立ち往生になるかもしれないと思い、なるべく右へ、右へ、と進むようにしました。飯山の方向です。
最後に厄介な倒木をウンコラと越えると、コンクリートの階段に出ました。やれやれ、ほっとします。あとは車道をゆっくりと歩いてバス停に向かいました。
上飯山のバス停に至ると思っていたら、「飯山温泉入口」バス停に行き着きました。次のバスまであと12分。バス停から宮ヶ瀬方面を振り向くと、正面に富士山のような形の山が見えました。経ヶ岳は一名、荻野富士(おぎのふじ)とも呼ばれます。無事に下山して眺めるその富士は、また一層美しく見えました。この山々がいつまでも護られるよう、もっと多くのハイカーたちに親しまれ、歩かれて欲しいと思います。
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