裏高尾を貫く旧甲州街道の北側、概ね堂所山あたりから八王子城山にかけ、ほぼ東西に続く山稜があります。小さなアップダウンを繰り返しながら、いくつもの小峰を越えて行く、縦走コースがあり、北高尾山稜と呼ばれています。
高尾山の賑わいと比べると、訪れる人も極めて少なく、静かな山歩きを楽しむことができます。
京王バス: 高尾駅 → 大下(おおしも) 京王バス: 高尾駅 ← 霊園前
地理院地図: 北高尾山稜・黒ドッケ
北高尾山稜の天気: 東京都八王子市
レポ: 裏高尾 , 裏高尾から八王子城山
7月10日、梅雨の晴れ間を狙って、北高尾山稜を歩いてきました。林道歩きは多少蒸し暑かったものの、稜線は爽やかな空気に満たされ、静かで軽快な山歩きを楽しめました。
JR高尾駅7時12分発の小仏行きバスに乗り、終点の一つ手前の大下(おおしも)で下車。ここで降りたのは、私だけでした。バスの来た道を少し戻り、木下沢(こげさわ)梅林に向かいます。青い梅がびっしりと実った梅林を右手に眺め、そのまま真っ直ぐ進めば、林道木下沢線です。
林道は湿っていて、ひんやりとした空気が肌に心地よく感じました。風は全くありませんが、さわやかな朝の空気を、思う存分に吸い込みながら、小下沢沿いに緩い上り坂を登ります。ところどころにリュウノヒゲの白い可憐な花が、下向きにつつましく咲いています。道草を食いながら30分ほど歩いたら、「小下沢風景林」と書かれた大きな看板の立つ広場にやって来ました。「木下沢」と「小下沢」の二通りの書き方があるようです。
この広場から左手の小下沢を渡って、景信山に至る道があります。沢に架けられた、その小さな木橋のわきでリュックを下ろし、ラジオ体操第一を入念にやりました。透明な水の流れる小下沢で手と顔を洗い、1ヶ月ぶりで自然のふところにやって来た喜びを、しみじみと味わいます。
再びリュックを背負い、広場に戻ります。草に埋もれてしまいそうな小さな標識に、「北高尾山稜」と書かれています。それに従って登山道に取り付けば、狐塚峠に至ります。きょうの私は、関場峠を目指し、小下沢林道を西に進みます。ヒメジョオンの花が、きれいな紫色で咲いていました。普通この花は白色です。
午前9時を回ると、蒸し暑くなってきました。車両の通らない林道は、轍の跡を残して草が高く伸び、靴とズボンをびっしょり濡らしています。熱中症にならないように、こまめに水を飲みました。夏の低山では、当たり前のような状況です。モンシロチョウによく似た、スジグロシロチョウが産卵しているところに、オスがやって来ました。メスはお尻を立てて、交尾拒否のポーズを取ります。緑の洪水のような林道に、マタタビの白化した葉が、心安らぐアクセントになっています。
先ほどの広場から正味1時間ほど歩いた頃、小下沢林道の終点に達しました。そこから登山道を1分半ほど登ると、あっさりと稜線上に出ました。ここが関場峠です。風はありませんが、空気が動くのか、爽やかさが感じられて、ほっとします。この関場峠から南西に30分ほど登れば堂所山に至ります。でも今回私が小下沢林道を歩き通して関場峠に立つように計画したのは、堂所山に引力を感じなかったからです。草をかぶった林道を歩くのは、快適とは言えませんでしたが、山の季節感はたっぷりと感じられました。
北高尾山稜の縦走路は、小さな峰々をいくつも越えて行く道です。多少、急勾配になる部分もありますが、長い登りや長い下りはほとんどなく、概して小さななアップダウンの連続です。登りで使う筋肉と、下りで使う筋肉の出番が短時間で交代するので、足が疲れ切ってしまうことなく、結構な長丁場を走破してしまう人が多いようです。
関場峠から、八王子城山(しろやま)までは、三本松山、大嵐山、黒ドッケ(夕やけ小やけふれあいの里への分岐)、杉ノ丸、高ドッケ、杉沢ノ頭、富士見台、ほか無名の小ピークを次々に越えて行きます。稜線からの展望は、必ずしも好いとは言えません。眺望を求めるのなら、冬枯れの季節のカラリと晴れた日がお奨めです。他方、夏場は山野草や虫たちとの出会いを楽しめます。
高ドッケと思われるピークの登りで、熟年の単独男性とすれ違いました。この日、山中で初めて眼にした人です。そのピークからの下りでは、とてもしっかりした足取りで登って来る熟年の単独女性に出合いました。この二人の登山者に、「高ドッケはどのピークですか?」と尋ねてみたい気もしましたが、二人とも静寂を好んで歩いているような印象を受けたので、「こんにちは」を交わすだけにとどめました。
杉沢ノ頭への登り道で、前方にアサギマダラが草に止まっていました。そっと近づいて撮影したのですが、飛び立ってもまたすぐ近くの草に止まります。アサギマダラは、1000km以上も南の海を越えて日本に渡って来る蝶です。長旅で疲れているのかな、と思いながら別れると、また別のアサギマダラがいました。こちらの蝶もはるばる日本にやって来たのだろうなあと思うと、やはり撮影してあげたくなってしまいます。
アサギマダラの翅の、鱗粉の付いていない部分に、書き込み(マーキング)がある場合があります。私はまだ見たことがありませんが、マーキングのある蝶を見つけたら、しかるべきWEBサイトで報告できるようになっています。
富士見台から富士山は、雲に隠れて見えませんでした。梅雨時とあって、期待もしていません。もちろん、すぐ近くの景信山や小仏城山はよく見えました。ここで腰を下ろし、昼食をいただきます。この三月に来た時は、富士山がきれいに見えました。その時は、富士見台から地蔵ピークを経て、梅のきれいな駒木野に下りました。
さて、これから最後の峰、八王子城山に向かいます。富士見台から少し西に戻り、分岐点から北西に伸びる道に進みます。こちらの尾根ではそよ風が吹いていて、すこぶる快適になりました。足取りも軽く、八王子城天守閣があったという狭い山頂を通過し、馬冷(うまひやし)の分岐を経て、手押しポンプ井戸の傍を通り過ぎると、あっという間に八王子神社の境内でした。
あまり急いで下山するのももったいないので、展望台でゆっくり休み、八王子神社、本丸跡、金子丸跡などを見学しながら「新道」を下りました。それでも時間が余ったので、最後に御主殿跡を訪れ、広々とした緑の芝生のベンチで、残ったお茶を飲み、おやつの菓子パンを食べることにしました。
ジャムとマーガリンの入ったパンをちぎると、すぐにルリタテハがやって来ました。この蝶はかなりの高速で飛び回ります。私の前を何度か行ったり来たりしていましたが、甘いジャムにありつけそうにないと思ったのか、やがて猛スピードで飛んでいってしまいました。以前に、砂糖をたっぷり利かせた紅茶を飲んだとき、ギフチョウで同様の経験をしたことがあります。
八王子城跡を発ち、霊園前バス停に向かいます。ずっと真っ直ぐに伸びる、白い石畳の道を、緩やかに下って行きます。時刻は午後3時。強い夏の日差しが石畳から照り返してきます。道沿いの民家の庭には、ダリアやオクラなど、夏の花や野菜が育っています。どこにも人の姿が見えないなあ、と思っていたら、道のずっと先から自転車に乗った小さな男の子が二人、やって来ました。ここはゆっくり歩きたい道。もう、きょうのゴールは遠くありません。
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