刈寄山は、奥多摩山域の南部に位置する、戸倉三山の一つです。
前衛の今熊山、山麓の秋川、広徳寺、金剛ノ滝などと結んで、日帰りで美しい山水を楽しむことができます。
西東京バス: 武蔵五日市駅 → 今熊山登山口
地理院地図: 刈寄山
刈寄山の天気: 東京都あきる野市 , 八王子市 , 武蔵五日市駅
レポ: 夕やけ小やけから市道山・臼杵山
11月1日、奥多摩の刈寄山に行ってきました。前夜の星の輝きも素晴らしく、朝から絶好の秋晴れ。あきる野、秋川、赤とんぼ、赤い紅葉と、秋づくしの恵みの一日になりました。
はじめの計画では、武蔵五日市駅から、まず広徳寺まで歩き、金剛ノ滝を経由して今熊山に登ることを考えました。しかし広徳寺から先の道の状態が分からなかったので、無難に入山できそうな今熊経由のルートに変更。五日市駅前でバスを待つ間にラジオ体操をしていたら、目の前にハクセキレイが降り、尾羽をピコピコ振ってくれました。空は真っ青で、目にするすべてのものの色がとても鮮やかです。
今熊山登山口バス停では、私の他に中年の男女3名のグループが下車しました。同じく今熊山を目指して歩き出します。私は金剛ノ滝に立ち寄るため、今熊神社への参道を外れて新多摩変電所方面に向かったのですが、それ以後、下山するまで、人には全く出会いませんでした。
変電所の柵に沿って歩いて行くと、道端によく目立つ赤い消火栓が見えてきました。ここから金剛ノ滝に行ける記事を読んで来たので入ってみます。この道の他に、変電所沿いの道をそのまま進んで滝下流の堰堤に行くルート、広徳寺から徒歩15分のルート、林道刈寄線から逆川を遡行するルートなどの記事があります。
私の取ったルートで金剛ノ滝へ行くには、もったいないのですが、一旦登った後でかなり下らねばなりません。「金剛ノ滝下」を指す道標から、谷側にやや傾斜の急な狭いジグザグ道があり、落ち葉がたまっていました。足が滑らないように、コンクリート製の土止め杭の頭を踏みながら、慎重に下りて行きます。
9分ほど下ると河原に降り立ちました。ここの道標に従って水のない河原を少し歩くと、すぐに小さな滝が見えてきました。その脇の岩に、人ひとりがようやく通れるほどのトンネルがあり、上に登り抜けられるようになっています。トンネル内に入ると、ちょろちょろと水が流れていました。足元にはステップが刻まれ、壁にステンレスの鎖も付いているので、安心して通れます。
この短いトンネルを出ると、もっと大きな滝がありました。白い糸のように、繊細な流れが、何度も岩に当たりながら斜めに滑り落ちています。豪快とは言えませんが、優美な滝です。暗かったので、フラッシュなしで撮った写真は、全部ブレました。滝の脇に鉄梯子があり、上の方に通じる道があるようですが、通行禁止になっています。
再び岩のトンネルをくぐって、元の登山道に戻ります。道標が今熊山を示す方向に進むと、再び金剛ノ滝に下りる道が現れました。ここも通行禁止になっていますが、先ほど見た滝の脇の鉄梯子に続く道なのでしょう。ここの道標が山側を指す方向に、今熊山0.8kmと書かれています。
今熊山を北の尾根から登るルートは地図に記されていませんが、広くて歩きやすい道でした。岩山を削岩機で削って造った道らしく、足に堅固な感触が伝わってきます。北斜面ながら日が差し込んできて、わずかに紅葉した木々が美しく光り始めました。途中、二箇所にベンチもあります。
二つ目のベンチから8分ほど登ると、今熊神社の裏側に出ました。神社の表に回ると、今熊山の山頂標が立つ小広場です。山頂からは、武蔵五日市駅周辺の市街地と遠方の高層ビル群が見えました。さらに石段を下って大きな広場に出ると、展望が開け、市街地から金比羅尾根を経て、御岳山までの稜線を眺めることができました。この広場には公衆トイレがあります。
石段脇の分岐に立つ道標に、刈寄山2.9kmと書かれています。この分岐から西に進み、明るくなだらかな登山道を登って行きます。南側の谷の向こうに採石場があり、ダンプカーが埃を巻き上げて走っているのが見えました。大きな騒音が谷間に響き渡ってくるので、スタコラ歩いて早く遠ざかることにします。
今熊山から刈寄山まで、地図上では幾つもの小ピークを越えて行く道が示されていますが、ほとんどのピークには巻き道があって、水平距離がどんどん稼げます。山岳耐久レースでは、巻き道の方を走るのでしょうか。北側の樹木の切れる箇所で、ようやく大岳山が姿を見せました。
今熊山から1時間ほどで、市道山・臼杵山・陣場山への道を南方に分けます。ここからさらに小ピークを越えると、また南方への分岐があり、市道山・陣場山と書かれた、やや古い道標が立っていました。このあたりの縦走路上の小ピークを巻くいくつかの道は、造られてからまだ新しいのか、電子国土の地図に示されていません。
11時27分、刈寄山に到着。山頂には東屋風の休憩所がありました。広大な眺望とまでは言えませんが、南側に丹沢と富士山が、北側に御岳山から金比羅尾根を経て武蔵五日市駅周辺の市街地が、さらに遠方に都県境尾根の一部が望めました。順光できれいに見える北側に向かって腰を下ろし、お昼にします。
さて、お腹が満ちて、時間はたっぷりとあります。誰かと話をしたいのですが、誰もいないので静寂を楽しむほかありません。空を見上げると、かすかに色づき始めた木々の枝の上に、はるか高く軽やかないわし雲が浮かび、山の空をいっそう高く見せています。リュックを閉じて立ち上がると、北側の谷から、正午を告げる有線放送のメロディーが聞こえて来ました。
山頂からは、北東に伸びる尾根を下ります。「山と高原地図」には赤い破線で示され、「荒廃」と記してあります。今熊山で見た「戸倉三山案内図」にも「道荒れている」と書かれていました。今歩いてみると、特に荒れたところは見当たりません。ただ木の小枝が登山路にたくさん積もっていて、多少滑りやすくなっています。
もともと登山道とは、人が山につけた傷のようなものです。私たちはそこをできるだけ優しく歩き、傷口を広げないようにします。山自身が落ち葉や倒木で傷をふさぐ修復プロセスを、人が荒廃と呼ぶこともあります。
25分ほど下ると尾根道が終り、小さな沢に朽ちた橋が架かっていました。この橋を渡ることはできませんが、水量が多くはなかったので、沢に下りて手と顔を洗います。冷たい水が心地よいのは、まだ秋が深まっていないのでしょう。これより先は駅までずっとなだらかな道ばかりです。ズボンに種のくっ付く草がぼうぼう生えた山道を下って行くと、すぐに林道に出ました。
林道を下って行くと、小奇麗なログハウスがありました。「みなと区民の森環境学習施設」と書いてあります。庭で掃除をしていた方から「こんにちは」と声を掛けられました。これがきょう家を出てから初めてした人との会話です。案内図を見ると、「巨樹の森コーナー」、「雑木のコーナー」、「間伐枝打ちコーナー」ほかいろいろとあるようです。みなと区民はいいなあと思いました。
沢戸橋からは、秋川に沿って歩きます。佳月橋から下の河原を見たら、何と、11月なのにヒガンバナが咲いていました。河原に下りて、間近で見ると、今咲いたばかりのように、初々しさに輝いています。改めて低い目線から秋色の川を眺めると、川面を伝わる爽やかな空気が、目も心も癒やしてくれるようです。河原で角の取れた岩に腰を休め、お昼の残りを食べることにします。同じ岩で、赤トンボが暇そうに休んでいます。
この後、広徳寺と阿伎留(あきる)神社とに立ち寄り、五日市駅に戻りました。ところで、戸倉三山を一日で巡るには、長い一日が必要です。きょう登らなかった他の二山も、いつか早春の日にでも歩いてみたいと思います。
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