見城(みじょう)は、かつて関東管領山内上杉氏の築いた要害の、物見台だった場所です。山城の一般的特徴である、眺望、防御性、アクセスの好さを備えています。
鐘ヶ嶽の南麓を流れる七沢川に沿って、梅や桜の木がたくさんあります。梅の咲き始める早春から、桜の咲く春本番まで、里山を美しく彩ってくれます。
神奈中バス: 厚木バスセンター → 七沢温泉入口 神奈中バス: 本厚木駅 ← 広沢寺温泉入口
地理院地図: 見城 , 鐘ヶ嶽
鐘ヶ嶽の天気: 厚木市七沢 , 広沢寺温泉
レポ: 大山三峰山 , 鐘ヶ嶽北尾根・白山
3月12日、早春の明るい日差しに恵まれた一日、厚木市の見城と鐘ヶ嶽を歩いてきました。まず見城に登って鐘ヶ嶽を眺め、陽だまりの展望地で昼食。その後、大沢の里に下って、せんげん道から鐘ヶ嶽に登りました。七沢川沿いでは白梅の花が、山里に訪れ始めた春の歓びを歌っているようでした。
七沢行きバスの乗客の大部分は、神奈川リハビリで降りました。残った客は私一人。七沢温泉入口で下車し、進行方向に少し歩いたところで足が自然停止。日向山登山口を目指すのですが、北の七沢温泉回りと、南の川沿いの道の二つがあります。地図を見ていると、すぐに角の商店から男性がやって来て、「どちらに行かれるのですか?」と尋ねられました。説明すると、「それは長くなりますよ」とのこと。そして、南の川沿いの道は特に珍しいものもないので、北回りがいいと言われました。
七沢温泉に来ると、右手の石垣に小林多喜二に因んだプレートがあり、石垣と石垣のすき間に狭い階段がありました。この階段を上っても、見城に行けます。私はここを登らず、七沢温泉を通り抜け、村中山観音寺(そんちゅうざんかんのんじ)を訪ねて見ました。明るい墓地の斜面に立つ、十一面観音像に似た石仏が目に入りますが、親しみのある短足体型です。「夕焼け小焼けの碑」にも行ってみたかったのですが、気付かないうちに通り過ぎていました。
その先10分ほど林道を進むと、日向山の登山口がありました。熊出没注意の看板があります。すぐ近くに「亀石この先60m」と書かれていたので、行って見ました。沢のほとりに丸味を帯びた大きな岩が一休みするように止まっています。あまり亀に似ているとは思いません。亀石に上がると、溜まった土に木が生えていました。付近には、他にも大きな岩がゴロゴロしています。岩の下の土が大雨でえぐられるたびに、転がり落ちてきたのでしょう。
亀石の先で、日向山登山道に合わさり、整備された道を15分ほど軽快に登って行くと、七曲峠に立ちました。ここは日向山と見城の鞍部にあり、七沢温泉と広沢寺温泉とに通じる十字路です。ただし、地理院地図では見城への道は示されていません。峠には「山神」と彫られた小さな石碑と祠がありますが、祠は荒れたまま放置されている様子でした。もはや、ハイカーと林業関係者以外、この峠を通行する人はほとんどいないのでしょう。
七曲峠から北へ5分ほど稜線を登って行くと、右に下る道があり、「広澤寺駐車場」へ0.9kmと書かれていました。そしてさらに1分で見城山頂に到着。正面に大きな鐘ヶ嶽が鎮座しています。樹木が邪魔なので、フェンスぎりぎりまで行って眺めました。山裾から見上げたり、大山・三峰などの前衛として望むことの多い鐘ヶ嶽ですが、ここでは等身大の堂々とした山容を見せています。他方、東面に厚木市街地方面を望めましたが、春霞がかかっていました。
山頂で休憩するつもりでしたが、風がかなり強かったので、「広澤寺駐車場」への道を下りてみました。都合よく、山頂から2分ほどのところが広場風になっています。ここは見晴らしがよい上に、風を防げて、ぽかぽかの陽だまりになっていました。とても居心地がよさそうだったので、落葉に腰を下ろし、両脚を伸ばしました。お腹が空いたので、昼食を半分食べることにします。
七曲峠に戻ると、右折して大沢川右岸に下りました。ここからコンクリート舗装の林道を大沢に下ります。林道を歩き始めるとすぐに、大釜弁財天の鳥居に呼び止められました。鳥居をくぐると足下に岩釜があり、流れ込む滝と、流れ出る滝とが白い泡を立てています。私は一番下まで下りて、段差のある滝を見上げました。最下段には結び目のついたロープがあって、問題なく下りることができますが、岩の上に堆積した濡れ落ち葉で滑らないよう注意が必要です。
林道に戻ります。さらに下って行くと、対岸に岩場が見えました。他にもいくつかロッククライミングの対象となる岩場があるようです。さらに林道を下って、広沢寺温泉に通じる二ノ足林道と合わさる直前で、フェンス扉を通過しました。ここから谷間(たにあい)に小規模の棚田や茶畑が見られるようになります。今の季節は、梅の花が早春の雰囲気を醸していました。道沿いに、愛宕大権現、下向き地蔵、広沢寺、七沢マイクロ水力発電所などがあり、興味深く歩けます。
「鐘ヶ獄」バス停の端に、「せんげん道」と書かれた新しそうな石柱が立っていました。ここは鐘ヶ嶽登山口への分岐点で、鐘の形をした鐘ヶ嶽が見られます。見城から鐘ヶ嶽に行くには、西側から登るほうが早くて楽なのですが、私は今回初めて鐘ヶ嶽に登るので、伝統のある「せんげん道」から登りたいと思ったのです。ここまで来るのに長々と道草を食いましたが、いよいよ本番です。
鐘ヶ嶽登山は、急な石段を登って、石燈籠の間を通り、鳥居をくぐり、ごく普通の神社へ入るように始まります。でもそれはほんの始めだけで、すぐに暗く雰囲気の悪い道になりました。荒れたV字溝を歩いているみたいです。果たして鐘ヶ嶽には、清浄な山頂があるのでしょうか?それとも、楽土に達する前に苦界を通過せよということなのでしょうか。気を取り直して進んで行けば、石仏たちが見守ってくれています。諸々の菩薩像や如来像が○丁目と書かれた石柱の上で、通行人の方を向いて座っています。
仏の加護を受けて神社に詣でるというのも不思議ですが、気にしなくていいのでしょう。それより、どの石仏も、鼻や体の一部が欠けていました。古代ローマの遺跡には夥しい数の大理石の神像がありますが、ほとんどの像で鼻が欠けているか、修理されています。これは後の征服者たちが、手っ取り早く異教の神々の顔をつぶすために、鼻だけを壊して回ったのだと言う話を聞いたことがあります。日本の石仏像の場合は、風化によるものでしょうが、一部に心無い仕業があったかもしれません。
八丁目と九丁目の間には、ヤブツバキの群落があり、これがこの日、登頂までに見た唯一の花らしい花でした。十丁目からは、石仏はなくなり、大きな石柱のみになりました。2〜3分歩くごとに1丁進むので、目標への接近を実感できます。気がつけば、いつしか登山道は明るく、雰囲気のよい道に変わっていました。また、十八丁目では、東面に展望があります。時折強い風が吹き付けてきましたが、空はよく晴れていました。
廿二丁目に来ると、南面が開け、先ほど登った見城を望めました。「鐘ヶ嶽山頂20分」と書かれた道標があります。そして、石段が現れるとまもなく浅間神社です。この石段は、全国各地の山中に見られる古い神社のように、石段の各ステップが小さく、登る分には問題ありませんが、下るのは怖そうです。手すりはありません。この道を登りにしてよかったと思いました。それにしても、昔の日本人は、今より足が小さかったのでしょうか。
浅間神社に着くと、5人ほどの先客が休憩していました。東面に展望があります。私は東京スカイツリーを探しましたが、都市部には靄がかかり、横浜のランドマークタワーを見つけるのが精一杯。きょうの風は南から湿った空気を運んできたようです。他方、手前左手には、大きく削られた高取山(荻野)が、痛々しく横たわっています。この山は、やがて消えてしまうのでしょうか? さて、山頂は目と鼻の先。早々にリュックを背負い直し、鐘ヶ嶽山頂に向かいました。
山頂に着くと、まず二体の石像が目に飛び込んできました。身長は、背が低めの大人ほど。誰と誰の像でしょうか?何の説明もなく、由緒も分かりません。(不動明王らしい)一つ思ったのは、この石像のサイズの人間なら、あの石段の踏面(ふみづら)はちょうどよかったのかもしれない、ということでした。山頂は樹木に囲まれているので、展望はありませんが、風を凌ぐことができます。テーブルがありましたが、私は転がっていた丸木に腰を下ろして、昼食の残り半分を食べました。
下山開始時刻を記録するため、山頂の道標を撮影しました。登ってきた方向は、「鐘ヶ獄入口1時間10分」となっています。「地獄で仏」と言いますが、せめてもの慰みに、石の仏様が配置されていたのでしょうか? 冗談はさておき、「広沢寺温泉1時間20分」と書かれた、南西方向に進みます。石段は全くなく、快適に下って行けました。登山道に崩落箇所がありますが、トラロープが取り付けられています。崩壊のおかげで展望も楽しめます。山頂から20分ほどで、峠の十字路にやって来ました。
峠の道標によると、右は「山の神隧道経由、広沢寺温泉」とあり、「らくらくコース」と落書きされています。左は単に「広沢寺温泉」。直進方向を指す腕木はありませんが、「見晴広場B」と落書きがあります。私は山神(やまのかみ)トンネル内を歩きたくなかったので、左の道に進みました。その道には長い区間にわたって鎖が設置されていたので、らくらく下ることができました。下り立った場所は、トンネルの東側の広場。きれいな簡易トイレがあります。
これより、二ノ足林道を広沢寺まで歩きます。歩き始めるとすぐに硫黄の臭いが漂って来ました。掘れば温泉が湧き出るかもしれません。大沢の梅林では、梅の花と鐘ヶ嶽を同時に眺めることができました。その先は、朝歩いたのと同じ道です。太陽が西に回ったので、棚田の段差がより立体的に見えました(上の写真)。 また今回は、初めて広沢寺にも行って見ました。正門前の2本のクスノキの葉が、新緑のように初々しく輝いていたのが印象に残っています。境内の掲示板に、「春来草自生」とありました。
まず、七沢温泉郷という広い地域の中に、「七沢温泉」と「広沢寺温泉」があることを理解しておきましょう。次に、「七沢温泉」まで乗って行けるバスと、「広沢寺温泉」まで乗って行けるバスは、どちらも毎日わずかしか運行されていないことを知っておきましょう。運行本数の多いのは「七沢」行きバスです。これに乗って「七沢温泉入口」や「広沢寺温泉入口」で下車するのが、歩くことを厭わないハイカーにとって便利なのです。
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