石砂山(いしざれやま)は、貴重なギフチョウの生息地です。春の発生シーズンに行けば、まずまちがいなくギフチョウに出会えることでしょう。
ギフチョウは、『春の女神』と呼ばれるように、春にだけ姿を現わします。その美しい姿を撮影しようと、多くの写真愛好家たちが石砂山を訪れます。
津久井神奈交バス: 藤野駅 → やまなみ温泉(乗り換え) 津久井神奈交バス: やまなみ温泉 → 篠原(終点) 津久井神奈交バス: やまなみ温泉 ← 菅井下 津久井神奈交バス: 藤野駅 ← やまなみ温泉(乗り換え)
地理院地図: 石砂山 , 伏馬田城山
石砂山の天気: 相模原市緑区 , 牧野
レポ: 石老山 , 石砂山の女神たち
関東地方を暴風雨が襲った、その翌4月4日、石砂山に行ってきました。ギフチョウを見るためです。一昨年の四月、町田市の成瀬尾根で1匹のギフチョウ(あるいはヒメギフチョウ)を偶然見ましたが、次にいつ見れるか分からないほど、ギフチョウは珍しくなっています。そこでギフチョウの保護地である相模原市の石砂山に、春の女神を慕って、自分の方から出向くことにしました。
JR藤野駅8時発の奥牧野行きバスに乗り、やまなみ温泉で下車。篠原(しのばら)行きバスに乗り換えます。コミュニティバスタイプのかわいらしいバスです。100円を前払いして乗車すると、座席が10ほどあり、ほぼ満席でした。発車すると、狭い山道をスイスイと走り抜け、15分ほどで篠原の里に到着。春の花の咲きほころぶ、明るく暖かな朝です。
バス停から南に進み、短い石橋を渡って、やや狭い道に入ります。すると右手に案内板が立っていました。
バス停から10分ほどで、石砂山登山道の取り付きに至ります。篠原川に木橋が架かり、ミツバツツジがにぎやかに咲いていました。バスから降りた人々のほとんどはここを素通りして、川沿いの道を直進して行きます。農道のような道を奥へと進むと、ギフチョウを撮影している人々がいました。1匹のギフチョウがスミレの花で吸密しています。その一点に向けられた数々のレンズ。モデルの撮影会みたいな構図です。
さらに奥へ進むと、山道になります。私は、誰もいないところまで行ってギフチョウを見つけようと、奥へ奥へと進んで行きました。明るいのどかな里山の道です。テングチョウやシジミチョウたちも飛んでいました。私は、花を探しながら、ゆっくりと歩いて行きます。すると、3mほど先のスミレの花にギフチョウが止まっているのを見つけました。すぐにカメラ(コンデジ)を向けると、パッと飛び立って、何と、私の足下のスミレの花に止まってくれました。ラッキー!!もう撮り放題です。いや、この蝶は撮影されたかったのでは? と思ったほどです。
さて、石砂山登山口に戻ると、民家の庭先に大勢の人々がカメラを手に庭を見つめていました。さらに続々と、蝶や写真の愛好家たちがやって来るようです。と、満開のミツバツツジにギフチョウが飛んで来ました。一斉にシャッターを切る効果音が鳴ります。カシャカシャカシャと、飛翔中の蝶を連写する人もいます。私の目の前の花にも1匹が止まりました。その途端、「すみません!」と言いながら割り込んでくる人。遠慮していたらシャッターチャンスを逃がしてしまうのでしょう。気持ちは分かりますが・・・。私はこの辺で山に登ることにしました。
山頂までは、わずか1.5km、取り付きから約50分の行程です。私はスミレを探しながら、ゆっくり登って行きました。10分ほど登った頃、3人の男性が腰を屈めて何かを近接撮影していました。これはギフチョウしかありません。私がその手前で足を止めると、どうぞと言って、撮影場所を空けてくれました。見ると、蝶たちが団子になっています。これ、何匹ですかと聞くと、3匹とのこと。交尾中の番(つがい)に、さらに1匹のオスが割り込んできたのだそうです。
3匹はもつれ合ってパタパタしていましたが、体を支える手足がおろそかになったのか、ポトリと地面に落ちました。そのとき1匹が離れて飛んで行き、残った2匹がすっきりとした交尾態勢になりました。この2匹は枯れ葉に上がり、パタパタをやめました。シャッターチャンスです。私のコンデジでも楽々撮影。この人々によれば、ギフチョウの交尾時間は1時間ほどあるとのことで、皆さん余裕しゃくしゃくで譲り合って撮影していました。
登山道にもギフチョウは飛んでいました。しかし花のない場所にはめったに止まってくれないようです。やがて丸太で土止めした急階段が現れ、これを登りきると山頂に達しました。おお、いるいる。ギフチョウたちが飛び交っています。でもなかなか止まってくれません。立派なカメラを持った女性に、「あなたのカメラなら、飛んでいる蝶を撮影できませんか?」と尋ねたら、「できます。でも、『これは!』といえる写真は何百枚に1枚くらいしか撮れません。」とのことでした。
山頂は南に眺望が開け、焼山、黍穀山、袖平山の連山が堂々と聳えていました。その右手にまっ白な富士山、左には丹沢三峰、さらにその左には大山も望めました。ベンチとテーブルがあったので、ここでお昼にします。私のコンパクトデジカメでは、飛んでいる蝶は撮影できません。おにぎりを食べ、お茶を飲みながら、花見ならぬ蝶見をしました。ここはもともと冬越しのヒオドシチョウの縄張りだったらしく、さかんにギフチョウたちを追い払っています。でも多勢に無勢。とても追い払いきれません。
余談ですが、蝶の愛好家らしい人と蝶の話をするときは、蝶を1匹、2匹ではなく、1頭、2頭と数えます。蝶はただの虫ではなく、もっと格位が高いみたいな響きがします。私は1頭、2頭という数え方があまり自分の感覚になじまないので、通常は1匹、2匹と数えています。ごくまれに、1羽、2羽と呼ぶ人もいるようです。
山頂でたっぷりとくつろいだので、石砂山西峰に向かいます。明るい登山路を軽快に下って行くと、スミレ類、ヒトリシズカ、キランソウなどが咲いていました。左手には枝越しに富士山が見えるのですが、樹木の切れ目がなく、撮影向きではありません。7分ほど下ると鞍部に達し、ヒトリシズカがたくさん咲いていました。ここに道標が立っていましたが、私はよく読まずに西峰(572m)に登ってしまいました。石砂山は東西に二つのピークを持つ双耳峰です。その両耳は、丸くふっくらとしています。
本当はここから鞍部に戻らなくてはならなかったのですが、私は惰性的に西に進んでしまいました。この後に登るつもりの峰山が石砂山の西にあるので、とにかく西に行けばよいのだと、あまり考えずに決め込んでいました。峰山への正しいルートは、先ほどの鞍部から一旦南へ大きく湾曲して再び北に上るのです。地図を見ながら歩けば決して有り得ないポカミスでした。間違いに気がついたのは、自分の影が自分の前にあるのを見て不思議に思ったからです。時刻は11時46分。私は北に進んでいたのでした。
ようやく地図を広げて現在地を確認すると、すでに415.5m三角点の近くに来ています。そのままやまなみ温泉まで行ってしまおうかとも思いましたが、そうするときょうの登山は終わってしまいます。やまなみ温泉から峰山に往復する気分にはなりそうもありません。複数の山は、一座ずつ登るよりも縦走するほうが満足感が高いものです。私は引き返すことにしました。
正午のメロディーが里から響いてきたとき、西峰に戻って来ました。約40分ものタイムロスです。登山の基本をおろそかにしたことを大いに反省しました。再び鞍部に下り、休んでいたマウンテンバイカーに挨拶して、道標を見ながら南に向かいます。送電線の下を通過する場所は眺望が東西に開けていました。東には、道志みちの彼方に仙洞寺山、三角山、茨菰山(ほうづきやま)などが望めます。西はゴルフ場の向こうに小金沢連嶺の南部が望め、休憩にはもってこいの場所に思えました。でも予定より遅れているので先に進みます。
伏馬田入口バス停への分岐から、道標が菅井を示す道に進みます。どちらの道も東海自然歩道です。この分岐から25分ほどで、伏馬田城跡への分岐にやって来ました。尾崎城址と書かれた道標も立っています。ここで休憩しながら、城跡に行くか行かないか考えました。まあ、せっかくの機会なので行くことにします。やや暗い道を登って行くと二つ目の峰(536m)に伏馬田城址と書かれた標柱が立っていました。でも城の痕跡がよく分かりません。説明板がありますが、城跡の説明ではなく、ここに植えられた2種類の桜の説明でした。
その桜は、アメリカの首都ワシントンからから里帰りした、カンザン(関山)とフゲンゾウ(普賢象)なのだそうです。それらしい樹を見ると、どちらもまだ蕾が固そうでした。これらが咲いているときに来れば、それなりに感慨に浸れるかもしれません。私は少々がっかりしたものの気を取り直して、引き続き菅井方面に向かいました。先ほど休憩した分岐まで戻る必要はありません。歩いて来た尾根を少しだけ戻ると、菅井小学校を指す古びた道標があります。これにしたがって、西に下って行きました。
10分ほどで山道は終わり、急に明るく開けた農地に出ました。何だか別天地に来たみたいです。まず満開の白い桜から歓迎の挨拶を受けました。次いで、左手の大空間から焼山、黍穀山、袖平山、大室山がストレートに目に飛び込んできました。私は立ち止まって、このちょっとアルペン的な景観に見とれてしまいました。ここは、「仁(じん)の丘農園」というのだそうです。農園を出ると、ハナモモやスイセンの咲く道があり、その彼方に峰山が見えてきました。ああ、伏馬田城址を巡ってきてよかったと、この時初めて思いました。
菅井小学校はすでに廃校になっており、何か他の施設として使われているようです。ただ二宮金次郎の石像は、今も薪を背負って歩きながら勉強していました。そして、県道76号の15mほど手前に来たときです。左前方の道から小型バスが現れました。何というタイミングでしょうか。これは乗るしかありません。私が手を上げるとバスが停まってくれました。峰山はまたの機会に登ることにします。走りました。あっという間に私は車上の人となり、やまなみ温泉に着いてしまいました。
最後にどんでん返しのように時間ができたので、やまなみ温泉で一風呂浴びました。3時間600円は、ありがたい料金です。この日の男湯の露天風呂は岩風呂風の造りでした。私は首まで湯に浸かり、晴れ渡った空からの微風を頬に受け、ゆったり極楽気分。芝生の向こうには「二部咲き残り」となったソメイヨシノの並木。その花びらが三、四枚、つつましく湯に浮いていました。
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