日の出山は、ご来光を迎える名所として知られます。東面に大きく開けた、関東平野の眺望は抜群です。また西、北、南の各面には奥多摩の山々を展望することができます。
日の出山は登山ルートが豊富です。御岳山ケーブルカーを使えば最短時間で登頂できます。一方、長い金比羅尾根を歩けば、山頂に達したときの喜びもひとしおでしょう。
地理院地図: 日の出山
日の出山の天気: 日の出町 , あきる野市 , 御岳山駅
5月7日、奥多摩の日の出山に行って来ました。せっかくの奥多摩行きなので、ルートを工夫して、まず御岳渓谷遊歩道を散策。次いで、光仙橋より北尾根を登り、山頂からは麻生山を経て、長く緩やかな金比羅尾根を下りました。勝手に名づけて、「新緑満喫プラン」。途上には、瑞々しい緑の中に、ヤマフジ、ヤマツツジ、ほか色々な山野草が咲いていました。
奥多摩にまぶしい緑が噴出する季節です。奥多摩線の車窓から多摩川を眺めるだけでも、疲れた目が洗われる思いがします。登山もいいのですが、河原も歩いてみたいものです。どの駅で下車してもよいと思うのですが、今まで一度も降りたことのなかった沢井駅から歩くことを計画しました。駅舎の上に仏塔が載っている、めずらしい駅です。
電車を降り、プラットフォームからさっそく仏塔を眺めました。仏塔といっても、屋根の部分だけです。駅舎の上に浮かんでいるようにも見えます。ただ、駅舎とあまり調和していないのが残念です。というより、駅舎自体が奥多摩の美しい自然の中で、あまりに無造作に思えます。利用者の少ない無人駅だから、仕方がないのかも知れません。 駅前のトイレの方が、人をほっとさせてくれそうです。
駅を出て、さっそく多摩川に向かいます。小澤酒造の長い塀に沿って坂道を下り、青梅街道を少しだけ東に歩くと、御岳渓谷遊歩道の入り口がありました。スロープを下り、まゝごと屋の前を通って、楓橋という名の吊橋に足を踏み入れます。午前8時半、いよいよ新緑の多摩川・満喫ゾーンに入りました。
楓橋の上から眺める多摩川は、木々の緑と空の青を映していました。私の大好きな彩色です。下流方向を見やると、川幅の広いところでは青く滑らかに、狭くなるところでは小波が立って、きらきらと輝いていました。もう登山は止めにして、川をずっと見ていたいような気がするほどきれいです。
対岸の北斜面、小高い位置に、小さな庵のような寒山寺が見えます。緑色の二重屋根に白い壁と赤い柱。城の物見櫓のような吹き晒しで、夏は涼しいかもしれませんが、冬はその名の通り寒そうです。寺のすぐ下に護られるように、赤い屋根の鐘楼が控えています。
楓橋を渡りきると、「大日本寒山寺、中国蘇州寒山寺より寄贈された仏像が安置されております。」と書かれた高札が立っていました。仏様の一人住まいのようです。これを無人寺と言ってよいのかどうか分かりませんが、どなたか鐘を撞いてくれる人がいるのでしょうか。できれば奥多摩の谷間に響く鐘の音を、朝に夕に聞いてみたいものです。
寒山寺の裏手に御岳渓谷遊歩道と書かれていました。こちらは多摩川の右岸です。左岸が日当たりもよく、人家が建ち、鉄道と青梅街道が走る「陽」の側面とすれば、右岸は「陰」です。明るい緑の山と深く青い空を映す多摩川を見るには、「陰」の道が好都合です。天然の草木が生い茂り、咲く花もウツギ類、ヤマアジサイ類の白い花が目立ちます。暗がりに咲いていたヤマツツジは、紅色を水で薄めたような優しい色。でも陽光を拾ったヒメレンゲは鮮やかな黄色で、遊歩道のアクセントになっていました。
河原に下りられる場所は多くありませんので、小道を見つけたら下りてみましょう。けっこう岩があります。いずれも角が取れて、丸味を帯びています。わずかながら砂浜もあって、靴を脱いで歩けます。足を流れに浸すとひんやり、でも冷た過ぎはしません。もう5月なのです。流れる川の水は、近くから見るとさらにきれいで、生き生きとしています。
セグロセキレイがやって来て、岩の上でいつもの仕草、尾羽をピコピコ縦に振り始めました。ゴールデンウィークには多くの人間たちがやって来て、何か食べ物を得られたのかもしれません。首をかしげたりひねったりして、しばらく私の方を見ていましたが、私は野鳥にはおこぼれも落とさないように気を付ける主義なのです。このとき、私は遊歩道にゴミが一つも落ちていないことに気づきました。
遊歩道は御岳小橋の手前で、大きな岩尾根に阻まれて、行き止まりになります。その手前に分岐があり、左に上ると、都道45号の御岳トンネルの手前に出ました。御岳渓谷入口と書かれた道標が、今来た道を指しています。ここから続けて二つのトンネルを通り抜けねばなりません。この45号線は青梅街道のバイパスのような道路で、たくさんの大型トラックが驀進していました。トンネル内に入ると、凄まじい轟音が背後から襲い掛かってきて、まるで巨大怪物の吼え声よう。静寂の遊歩道から一変して、ホラー映画に飛び込んだ気分でした。
トンネルを抜けて、玉堂美術館に下ります。ところが美術館の先で遊歩道が土砂崩れで通行止めになっていました。示された迂回路を登ると、そこは大きな御岳橋。橋の中央まで行ってみると、多摩川の両岸の緑の中に、ヤマフジの花がたくさん見られました。爽やかな藤色でとてもきれいです。ここから右岸の遊歩道に戻るつもりでしたが、「陽」の側も歩いてみたくなり、御嶽駅前を経由して多摩川左岸の遊歩道に下りました。
左岸は、太陽の恵みをふんだんに受けて、色とりどりの花が咲いていました。釣り人たちもいます。右岸では感じなかった風が左岸では強く吹き、垂れた藤の房が一斉にたなびいていました。右岸が「静」の世界とすれば、こちらは「動」です。気分もシャキっとして、軽快に歩いて行くと、前方に杣(そま)の小橋が見えて来ました。その先には発電所も見えます。
がっちりした印象の杣の小橋を渡り、御岳苑地を通り抜け、都道45号線をケーブル駅に向かって歩きます。右手の高みに惣岳山のぽっこりした頭が見えます。赤い大きな鳥居をくぐりながら左折し、5分ほど歩いたら、光仙橋にやって来ました。小さな、どうということもない石橋ですが、「山と高原地図」にその名がしっかりと記載されています。この橋のわきに、日の出山北尾根に取り付く石段があります。
石段を昇るとすぐに、「お願い この先危険ですので入山しないでください。青梅市、青梅観光協会」と書かれた看板が立っていました。危険と言うのは、クマでしょうか、それとも道迷い?理由は分かりませんが、万一事故が起きた場合は、登山者がひどく責められそうです。気を引き締めて、慎重に登らねばなりません。実際、山頂まで道標の類は全く見られませんでした。赤テープは所どころに見られましたが、尾根の中心を忠実にたどって行けば、迷いそうな箇所もありませんでした。
登り始めてすぐ、チゴユリとオトコヨウゾメが同じ場所に咲いていました。どちらも白い花で、よく目立ちます。撮影しようと思って腰を屈めたら、猛烈な東風が吹き始めました。そこは背の高い針葉樹林でしたが、平地ではもっと強い風だったはずです。天気予報のとおりになりました。花が激しく揺さぶられて、とても撮影どころではありません。風が治まるのをしばらく待ってみましたが、逆に強まるばかりなので、あきらめて先に進むことにしました。
正味30分ほど登った頃、北面の樹木が開けて、都県境尾根を望むことができました。その左には、木々に隠れて苦しいものの、川苔山も見えます。右手には先ほど仰ぎ見た惣岳山が頭を突き出しています。でもこれ以後、北尾根では眺望に恵まれませんでした。草木や花を探しながら、黙々と登るのみ。それだけに山頂の展望が感動的になるのですが。
大きな露岩の手前あたりからヤマツツジの花が見られるようになりました。遠くからでもよく目立つので、行く手にこの赤い花が咲いていれば、楽しみにしながら登れます。平坦地の露岩群あたりから広葉樹が増え、緑の若葉を通して差し込む光の中を気持ちよく歩けました。右手の枝越しに御岳山上集落が、自分よりもわずかに高い位置に見えてきました。その先に、本当に大きな大岳山が聳え立っています。
このまま足取り軽く山頂に到達するのかと思ったら、急登が現れました。でも既に御岳山上集落と現在地とが、ほぼ同じ高さ。日の出山頂は遠くなさそうです。足に力がみなぎり、ぐんぐんと高度を稼ぎました。ほどなく先が明るくなり、行く手に柵が見えました。近くでよく見ると、どうも北尾根への下山を防止するための柵ではないかと思われます。柵の脇から山頂を取り巻く歩道に上がりました。登ってきた方向を振り返ると、あれ、来た道がよく見えません。これでいいのだな、と思いました。
山頂は、にぎやかな声で満ちていました。小学生の遠足です。関東平野を展望する広場でおにぎりを食べている子たち。すでに食べ終わって帰り支度をしている子たち。山頂標を見て、「9020メートル!」と言っている男の子。大体において、男子より女子の方が体格が大きい年頃です。このグループは後ほど赤帽を冠って集合し、御岳山の方向に行きました。
さて、山頂の展望はすばらしいものでした。東西南北、どの方向を見ても、いずれ劣らぬ役者ぞろいです。簡単にまとめると、東面は関東平野。南面は丹沢と馬頭刈尾根。南西に富士山と大岳山。西面は奥の院と御岳山。北西に飛龍山、鷹ノ巣山、長沢背稜。北面は川苔山と都県境尾根。ただ御前山と雲取山は、日の出山の標高が足りないせいか、確認できませんでした。それでも十分に贅沢な展望です。次回は、もっと空気の澄んだ季節に来てみたいと思いました。
東雲山荘を覗いておこうと思ったのですが、車が見えて興ざめしたので回れ右しました。東面のベンチでお昼にします。植え込みのツツジが花盛りで、キアゲハが来ていました。先ほどの小学生たちが去った後、ゴミは一つも残っていません。私はまだ前途が長いので、あまりのんびりとはできませんが、食べるものだけはゆっくりと食べました。
麻生山(794m)は、金比羅尾根にあって、突出して目立つ山です。一度はその山頂を踏んでおきたいと思っていました。そしてどうせなら長大な金比羅尾根を完走したいとも。地図を見ても、日の出山頂から眺めても、あまり起伏の激しい尾根ではなさそうです。日の長い季節に、できるだけ山での滞在時間を長く味わうのに好ましいルートのように思えました。
五年前に当時小学生だった娘と来た時は、つるつる温泉に下りました。道がぬかるんでいて、娘がつるっと足を滑らせて転倒し、ズボンに泥がべっとりと付いたのを憶えています。その同じ坂道を下って行きましたが、土がよく乾いていて、危なげなく通過できました。ただ階段の土止めは、土が流されてしまって、ハードルのようになっています。道がぬかるんでいるときは、このハードルをよっこらしょ、よっこらしょ、と跨いで歩くのでしょうか?
下って行くほどに麻生山が競り上がってきます。つるつる温泉への道と分かれる広い伐採地まで来ると、麻生山の方が高く見えるようになりました。ここの道標には、「クマ出没に注意!!」と書かれた紙が。麻生山へはここで右折します。伐採地のおかげで左手に広々と見える景色を楽しみながら、ゆるやかな起伏を超えて行きます。このあたりは日当たりもよく、クサイチゴやチゴユリの小群落もありました。北尾根では強風に煽られて撮影できなかったチゴユリです。
日の出山から、道草込みで40分ほど下ると、道が左右に分かれていました。しかしよく見ると、直進して尾根を登る道もあり、麻生山を指す標識が木に取り付けてあります。計画通り直進し、この尾根を8分ほど登ったら、麻生山の山頂に至りました。山頂の手前から奥武蔵方面が望めますが、山頂は樹木に囲まれて、展望が利きません。何もすることがないので、名標に記念のタッチだけして先に進みました。
麻生山の下りは急峻でした。踏み跡があるようなないような尾根で、道を間違えたかもしれないと思いました。でも、立ち木の幹がつるつるしているので、多くの人々がつかまって下りたことが分ります。やがて東京電力の黄色い標柱が立っていて、「新秩父線18号に至る」と書かれていました。ここを鋭角に右折してしばらく水平に歩きます。ほどなく金比羅尾根の本線に合流しました。その先で左手の眺望が開けていて、見やると目指すあきるの市街地が、はるか彼方ではありませんか。この距離感に、何だか気の遠くなりそうな思いがしました。
さらに先に進むと、ヤマツツジの群落がありました。色鮮やかでとてもきれいです。花はサーモンピンクに近い薄い色から、濃い緋色までさまざま。同じ場所ではありませんが、紅紫色のヤマツツジを偶然に見つけました。場所は内緒にしておきます。このツツジ群落地を抜けると、再び大きな伐採地があり、強風というより暴風と言えるような風が唸り声を上げて吹き付けていました。私は帽子を片手で押さえ、尾根の反対側に吹き落とされないように腰を低くして通過しました。
送電線の下を通過するところで、珍しく右手に眺望が開け、白い雲の中に白い富士山が見えました。緑の濃い馬頭刈尾根は、くっきりと目の前です。大岳山は見えません。ここでマウンテンバイクの男女が下りて来ました。「すみませ〜ん」と言いながら、デコボコの登山道をドスン、ドスン、とドスの利いた音を立てながら下って行きました。この日、日の出山頂以外で出会ったのは、この二人と林業関係者5、6人だけです。
登山道の両側にシャガが咲いているところがあり、そこを通り抜けると、小さな橋がありました。橋の下を林道が通っています。その橋のすぐ先が金比羅山(金毘羅山とも書く)でした。大きな岩に祠が置かれ、何かが祀られています。その隣にひっそりと琴平神社があり、周辺がかなり広大な公園になっていました。もう、公園の花を愛でる気分ではありませんでしたが、色とりどりのツツジが見頃でした。
金比羅山の幅広の参道を下り、ついに人里が見えたときは、正直ほっとしました。金比羅尾根は、思ったとおり長い尾根でした。住宅街を通り抜け、五日市小学校の前を通過。最後に檜原街道を少し歩いて、武蔵五日市駅にゴールインしました。
帰宅して体重を量ったら、前の日と全く同じでした。どういうことでしょうか?
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