姫次から袖平山にかけては、丹沢主稜と富士山の好展望台です。冬の晴天日にこそ、その美を惜しみなく見せてくれることでしょう。
神奈中バス: 橋本駅 → 三ケ木 神奈中バス: 三ケ木 → 焼山登山口 神奈中バス: 三ケ木 ← 東野 神奈中バス: 橋本駅 ← 三ケ木
地理院地図: 姫次
丹沢の天気: 丹沢山 , 青根
津久井三姫物語
レポ: 姫次・榛ノ木丸(新緑ハイク) , 姫次・袖平山(紅葉ハイク)
2月21日、冬晴れの晴天日、北丹沢の姫次と袖平山へ行って来ました。焼山登山口から東海自然歩道を辿ってのスノーハイクです。雪上のトレースがしっかりしていたので、労せずして美しい雪道を歩いて姫次に至ることができました。今回も、神奈中バスの一日乗車券(大人1030円)を利用しました。
公共交通機関による北丹沢・道志方面へのアクセスでは、入山計画を立てるに当たって、ほとんど選択の余地がありません。定番通り、橋本駅6時20分発三ケ木(みかげ)行き、三ケ木6時55分発月夜野行きと、バスを乗り継いで「焼山登山口」で下車。数えたら、10人の登山者が降りました。神社の裏手に公設トイレがああります。境内に戻って、入念にストレッチ運動をし、スパッツを装着し、焼山を見上げました。樹上にあまり白い雪は見えませんが、地面には積雪があることでしょう。
今回は、昨年2月5日に姫次を目指しながら、八丁坂ノ頭分岐で撤退したときと同じルートを歩きます。林道を歩きながら、今年は積雪が昨年よりもずっと少ないので、時間も労力も少なくて済みそうだと思いました。10人は、バラバラに登っていたようです。車止めゲートを越えて、焼山登山道への取りつき点では、後から来たトレイルランナーに、あっと言う間に抜き去られました。その後姿を見送ると、軽快な足取りですが、あの小さなリュックには何が入っているのでしょう。
石畳の道には、積雪が全くありませんでした。焼山まで2.1km点のベンチの先で道が白くなっていましたが、続く樹林帯では落ち葉と腐葉土の道になります。その先も薄い積雪があったり、なかったりしました。あまり早くアイゼンを履くと、その爪で腐葉土や小枝を噛んでしまいます。「滑落注意」の標識の先で、先行者がアイゼンを装着しているのを見て、私も軽アイゼンを履きました。もともと、かなり踏み固められた雪でしたが、以後、下山するまで安定感を持って歩くことができました。
明るい広葉樹林帯に入ると、気持ちのいいスノーハイクになりました。東海自然歩道なので、登山道や道標の整備はよくできています。かなりの人が歩いたのでしょう。雪上のトレースはほどよく締まっていて、無雪季と同じような速さで歩けました。しかも土汚れのない、真っ白な雪です。時おり雲の切れ目から日が差し、雪の上に樹木の青みを帯びた陰が落ちるのがきれいでした。
暗い檜の植林帯では、登山道の積雪が少なくなります。アイゼンの爪をいたわって、できるだけ雪の厚い部分を歩きました。檜はクリスマスツリーのように、枝に雪を乗せています。枝が重みに耐えられなくなってバサッと雪を落とすと、木漏れ日に粉雪が舞って、キラキラと輝きます。どこの雪山にもある光のマジックですが、目の前でそのキラキラを見るのは嬉しいものです。勝手ながら、自分の頭には雪を落とさないでくれ、と願いながら歩きました。
焼山山頂の手前、20分間ほど、きつい登りがあります。大して長くはありませんが、ジグザグ道を何度も折り返し、稜線に出そうでなかなか出ません。ここが、この日の一番のがんばり所でした。そして稜線に立つと、丹沢山や丹沢三峰が見える...はずでしたが、残念。どんより曇っていました。ほどなく、焼山山頂への分岐点です。ここは雪が解け、春のように暖かな日差しがありました。そして、きれいな白樺林を抜けて、焼山山頂に到着。さっそく展望台に登ります。
丹沢の展望はガスに阻まれ、もやもやした宮ヶ瀬湖と、晴れていた相模原方面 が見えただけでした。早々に展望台を下ります。お腹が空いたので、菓子パンを1個食べました。まだ先は長いのですが、もう急な登りはありません。姫次の標高は約1430m、焼山は約1060mなので、位置エネルギーの大半はすでに稼いだことになります。この調子だと、この先も東海自然歩道を軽快に歩けそうです。リュックを背負うと、山頂標の頭をポンと叩いて、黍殻山に向かいました。
その先も、思ったとおり、きれいで快適な雪道を歩けました。1年前に来た時は、野生動物の足跡しかない新雪の上を歩いて、大変に疲れました。その代わり、美しい霧氷のご褒美と、自分ひとりで聖域を歩いているような、張り詰めた喜びがありました。今回は、霧氷こそありませんが、楽チン軽快登山です。平丸分岐からは、北面のトレースがしっかりと付いていました。人の踏み跡は、ありがたいものです。下山路の候補として、頭に入れました。
ところで、帰りのバスは東野16時20分発の1本しかありません。下山後に時間が大きく余ることが予想されたので、黍殻山に立ち寄ることにしました。山頂を指す道標から右手に登ります。トレースは、尾根の北側にありました。雪が深いので、踏み抜きには注意が必要です。念のため、と言うより気休めですが、60cmほどの頑丈な枝を拾って、ストック兼ピッケル代わりにしていました。万一バランスを崩したら、この棒を使って滑落停止できる...やも知れません。
山頂の手前で、右手遠方に白峰三山が見えました。南アルプスは、きれいな青空です。さっそく撮影しようとトレースから逸れたら、膝上まで足が雪に沈みました。それより、いきなり見えた富士山と大室山が、くっきり、大迫力。こんなところで道草を食わずに、早く姫次に行きたくなりました。
黍殻山頂には、雨量計がありますが、山頂標は見当たりません。展望も樹間に富士山がわずかに透けて見えただけで、ほとんどありません。焼山の展望台で出会った男性と、ここで再び出会ったので、少し話をしました。この方は、私のように軽装ではなく、本格的に装備されたアルピニスト装束で、カメラも優れものを持っていました。やや控え目の速度で歩いておられましたが、自己ペースを守り、省エネ登山に徹していたのだと思います。この方は、その後大倉まで日帰り縦走されました。
黍殻山を下り、東海自然歩道に復帰すると、すぐに水場分岐と大平分岐です。「この先350m、黍殻避難小屋あり」と書かれた道標もあります。ここから5分ほど行くと、避難小屋の入口。そのすぐ近くには、南アルプスのビューポイントがあります。小枝が多くて撮影向きではありませんが、白峰三山と甲斐駒ヶ岳を望めました。私は少し戻って、黍殻避難小屋の広場に行き、メルヘン的な雪原の向こうに立つ、きれいな小屋に向かいました。まだ改築後1年未満で、内部もきれい、清潔そうです。
避難小屋のすぐ上の、釜立尾根分岐から青根に通じる道にも、しっかりとしたトレースがありました。1年前に来た時は、この分岐にも、平丸分岐にもトレースがなく、大きな緊張感を持って歩き続けました。そのようなプチ冒険も、人生を豊かにするもので、決して嫌いではありません。でも、八丁坂尾根にトレースを見たときの安堵感は、これもまた忘れられません。これより右手には、冬枯れのカラマツ林が、青い空の背景と、うす緑色の笹を前景に、絵巻物のように展開しました。
さて、八丁坂ノ頭分岐では、一年前、雪に座って昼食を取った場所に、トウゴクミツバツツジらしい木の芽がふくらんでいました。蛭ヶ岳を隠していた雲も、いつしか晴れています。道の中央に敷設された木道のおかげで、圧雪の上を軽快に歩くことができましたが、すれ違いのために木道を一歩外すと、ズボッと膝あたりまで雪に潜りました。そして、東海自然歩道最高地点では、傍らに立つブナの木に、「元気かい?」と目で挨拶。そのすぐ先の、明るく開けた空間が、きょうの目的地です。
姫次のベンチ広場に来ると、自ずと目は真正面の富士山に。ああ、見えた、よかった、間に合った! と言うのも、すでに時刻は正午近く。太陽が西に回るほど、富士山の色は淡くなり、空の青さは薄くなるからです。黍殻山で会話をした男性と、富士山を背景に記念写真の撮りっこをしました。すでに裾野は雲に覆われていましたが、これはこれで、富士山が天空に立っているようで好いものです。ここで絶命したという折花姫は、この世の別れに、美しい富士山を見たのでしょうか。
丹沢主稜を眺めるのなら、袖平山方向に歩いて1分の小さな丘が、お奨めの展望台です。ベンチやテーブルはありませんが、蛭ヶ岳から檜洞丸を経て大室山に至る豪快なパノラマが欲しいままです。私が行ったときは、南アルプスや八ヶ岳などは、霞んでしまっていましたが、蛭、臼、同角、檜、熊、大笄、小笄、犬越路と、心にメロディーを奏でるような眺めでした。
時間がたっぷりとあったので、袖平山に行ってみました。姫次から西に、のどかな道を進みます。きょうは風もなく、本当にポカポカ暖かな日和。この稜線は南面の眺望に優れるだけに、日当たりがとてもよく、各所で道がぬかるんでいました。でも表丹沢ほどではありません。のんびり20分ほど歩いて、袖平山に到着しました。誰もいない、静かな山頂。西面がよく開けた、すてきな山頂です。きょうはちょっと春めいた空。やさしい色の富士山が、ほほ笑むように、上品に控えていました。
姫次に戻ると、神ノ川から登って来たという若者男女のグループが、食事中でした。のんびり和やかな様子でしたが、この日は蛭ヶ岳までとのこと。大倉に向かった男性は、今頃どこを歩いているでしょうか。姫次は、様々な山の旅人が、しばし腰を下ろして安らぐ休憩所。表丹沢と異なり、付近に茶店はありませんが、登山者の心身に、力と潤いを補給する場所になっています。私は好きなカラマツ林を撮影して、姫次を後にしました。
主脈縦走路から青根への下山路は、2本あります。少しでも長く山歩きを楽しみ、林道歩きを少なくしたい場合は、八丁坂ノ頭から。行動が計画よりも遅れて、明るいうちに、一刻も早く林道に下りたい時は、黍殻避難小屋の上から、釜立尾根を下るのがいいでしょう。私は今回、往路で見ることのできなかった丹沢三峰をきれいに眺めたかったので、よいビューポイントを通過できる後者を選びました。釜立尾根にトレースがあることを、往路で確かめてあります。
釜立尾根の登山路も、雪がほどよくしまっていて、富士山の「砂走り」のように下ることができました。地面のデコボコも岩も、雪で埋め尽くされているので関係ありません。一つ心配したのは、東野バス停に早く着き過ぎてしまうのではないかということでした。途中の沢やベンチでゆっくり過ごそうと思ったのですが、腰は下ろせないし、やはり独りでは、そうそう長居もできません。縦走路から正味50分ほど下ると、あっけなく林道に下り立ってしまいました。
林道は始め積雪があって歩き易かったのですが、樹林帯に入ると路上の雪が乏しく、軽アイゼンの爪がガチガチ鳴りました。でも凍結箇所も多いので、なかなか外すことができません。「東野バス停2km」の道標の立つゲートまで来て、ようやく安心して軽アイゼンを外しました。そして青根の集落に入ると、古いバスの時刻表や二十三夜塔、玉利屋商店、ほかレトロっぽいものを撮影しながら、できるだけゆっくりと歩きました。
東野バス停に到着したとき、三ケ木行きのバスが来るまで30分以上ありました。そこで、今回初めて「あおりん」に行って見ました。現役木造校舎で知られる青根小学校の、裏山の学校林です。道志みちが国道413号と出合う交差点から、コンクリート階段を上って行くと、一部に凍結した雪が残っていました。手すりがあるので、危険はありません。上り始めると、どんどんと視界が開けて行きます。丸木造りのハシゴのような階段を上り、アスレチック広場のようなところに至りました。
その広場には、斜面に立つ大きな立ち木を支柱に使った、すてきな見張り台があります。そこに立つと、眼下の青根の集落はもちろん、正面に大室山、右手に道志、左手に黍殻山から袖平山にかけての山並みを雄大に望めました。バス停で時間を持て余す方には、お奨めの場所です。私はここで月夜野行きのバスが行くのを見て、時間を見計らいながら、青根公民館前バス停に下りました。バス停に並ぶ五つの丸木椅子の一つに腰を下ろし、髪に櫛を入れ、まだ温かかった紅茶を飲み干しました。
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