姫次付近にはカラマツが多くあり、紅葉と新緑の衣替えが楽しめます。
榛ノ木丸への道は、一般登山道ではありませんが、踏み跡は明瞭です。
神奈中バス: 橋本駅 → 三ケ木 神奈中バス: 三ケ木 → 平丸 神奈中バス: 三ケ木 ← 東野 神奈中バス: 橋本駅 ← 三ケ木
地理院地図: 榛ノ木丸
丹沢の天気: 丹沢山 , 青根
レポ: 姫次・袖平山(紅葉ハイク) , 姫次・袖平山(スノーハイク)
5月2日、北丹沢の姫次と榛ノ木丸へ行って来ました。昨秋の姫次紅葉ハイクと同様、各地で道草を食いたいだけ食ってのゆったり登山です。終日快晴に恵まれ、新緑のカラマツ林と、富士山や丹沢主稜の美しい眺望とを満喫できました。今回初めて行った榛ノ木丸は、途中に林相の美しい場所があり、新緑のカエデやブナの精気を感じながら、素晴しいリフレッシュの時間を過ごしました。
土休日に国道413号を走るバスは、午前と午後に各1本しかありません。入山するには、三ケ木6:55発月夜野行きに、下山した場合は月夜野16:15発三ケ木行きに乗るしかありません。入山はよいとしても、山では何があるか分からないので、下山後に利用するには、はなはだ不便です。そこで大多数の登山者は、縦走目的での入山時のみにバスを利用することになります。東野発やまなみ温泉行きも、土休日には運行されません。
平日の午後には、東野発三ケ木行きが3本運行されるので、終バスを予備とすることができます。しかしゴールデンウィークのバスは、不便な土休日ダイヤで運行。登山計画には十分なゆとりを持たせなくてはなりません。そして、もしすべてが順調に進めば、大幅に時間が余ることになります。でも、それはそれで結構なことなので、楽しい時間の使い方を考えることにします。
過去2回の姫次ハイクでは、計画に柔軟性を持たせるために、袖平山往復をオプションとして組み入れました。今回は趣向を変えて、榛ノ木丸往復をオプションとしましたが、調べてみると、榛ノ木丸に関する情報は、あまり多くありません。榛ノ木丸の位置にしても、山と高原地図(2010年版)と東丹沢登山詳細図とで異なります。標高も定かでありません。現実の所要時間は、行って見ないと分からないものです。こんな訳で、時間にできるだけ余裕を作るために、平丸から登ることにしました。
平丸ルートの楽しみの一つは、登り始めて間もなく、大きな大室山が単独で見えることです。朝の光線の加減で、色合いが美しいのは、このルートならではの特典かもしれません。次は、主稜線に立ったときに出会うカラマツ林。紅葉も新緑も美しく、地面には細かい松葉が堆積して、踏むとふかふかします。そして高度を稼いで、少し疲れを感じ始める頃に姿を顕す富士山。隣に座する大室山は、富士山の露払いとしても立派です。雲が出ないうちに早く姫次に行こう! と力が湧きます。
登山道を1時間半ほど登ると、高みに立つ道標が見えてきます。あれは何という峰だろう? と思いながら頑張って登りきると、そこはもう東海自然歩道。苦しい登りは終りました。東の焼山方向を見ても、西の黍殻山方向を見ても、明るい新緑がいっぱいの、優しい散歩道にしか見えません。南面の丹沢三峰が、よく来たねと言ってくれるのもここ。焼山登山口から来た健脚者たちが足早に歩いて行きます。私はすみれを撮影したり、木々の若葉を愛でたりしながら、ゆったりとした足取りで歩きます。
黍殻避難小屋下の大きな広場は、まだ冬枯れの色でした。ここが緑になるのは、いつ頃でしょうか。日当たりはよく、樹木に囲まれているので風もなく、気持ちのいい場所ですが、展望はありません。ただ、縦走路の曲がり角まで1〜2分歩けば、白峰三山ほか、南アルプスの峰々を望めます。トイレは、バクテリアによって分解処理するという、浸透式だそうです。覗いてみましたが、特に臭いもなく、きれいに保たれていました。小屋の屋根と樋を使って、雨水を貯めるようになっています。
青根分岐を超えると、南面が開け、丹沢山から三峰、栂立(つがだち)尾根を経て宮ヶ瀬湖に落ちる長い稜線を一望できるようになります。また、八丁坂ノ頭付近まで来ると、不動ノ峰と丹沢最高峰の蛭ヶ岳まで、堂々とした姿が見られます。標高が上がるほどに増えるマメザクラの花。目の覚めるように鮮やかなミツバツツジ。北面のカラマツ林は若葉色へと衣替えの真っ最中。緩やかな坂道の中央には木道、ぬかるみそうな箇所には麻の網が敷かれ、ここだけはVIP待遇の気分で歩けます。
姫次に到着すると、晴れた空にくっきり爽やかな色の富士山が待っていました。同時に到着した人からも、「きれいですねえ」の声。私は数ショットをカメラに収めると、右手の小山に登りました。蛭ヶ岳、檜洞丸、大室山と連なる丹沢主稜を眺める絶好の展望地です。でも、富士山とともにあるだけで、それらの山々がいっそうすばらしく見えるのですから、やはり富士は日本一の山。嬉しいことに、この小山の上にはマメザクラが咲いていました。ここでは富士桜と呼びましょう。
姫次と言えばカラマツですが、その新緑は独特の美しさがあります。カラマツの山と林、その枝と葉、大きく眺めても、細かく見つめても、瑞々しい生命が充満。「カラマツはうれしかりけり」「カラマツは楽しかりけり」と、どこかに書きたいほど。このカラマツ林を前景に、蛭ヶ岳も若返って見えました。きょうは微風で、薄着でも寒くないほど暖かな日差し。やがて夜になれば冷え、強い風が吹きすさぶこともあるでしょう。足下のタンポポの、地面すれすれに咲く様が、愛らしくもあり、厳しさをも語っていました。
榛ノ木丸に向かいます。来た道を7分ほど戻り、鳥屋造林組合管理地の壊れた標識の立つ場所が、榛ノ木丸への入り口。ここから針葉樹林下の笹原に付けられた踏み跡を辿って行くと、同じ標識が繰り返し何度も現れます。こうして踏み跡を10分ほど進むと、明るい広葉樹林にやって来ました。ブナ、カエデ類などの木々に、春ならではの色があふれ、姫次のカラマツ林とも異なる別天地のようです。だれでも簡単に行ける場所ですが、私はこの美しい林を、とりあえず「秘密の楽園」と決めました。
その先には痩せ尾根もありました。さらに先には崩落地もあり、足下をよく見て進まねばなりません。 崩落地にはたいていの場合、広大な展望があります。この崩落地からは、丹沢主脈の黍殻山と焼山へと続く稜線を、新鮮な視角から望めました。また崩落現場にはツツジの木があり、若葉を開き始めていました。どんな花が咲くのでしょうか。どなたか花を見られた方は、教えていただければ嬉しく思います。
榛ノ木丸には、意外にもあっさりと到着。榛ノ木丸への入口である分岐点から、正味35分ほどでした。私製の山名標識に、1312mと書いてあります。北面に明るい広場があり、休憩するのに好ましそう。ベンチなどはないので、落ち葉の上に座って、お茶にしました。目の前には姫次あたりの平坦な稜線が見えています。東海自然歩道の最高点はどこでしょうか。ここがすてきな空間だったので、ヤマビルのことなどは全く考えもしないで、ゆっくりとお茶を飲み、チョコレートを食べました。
帰路、「秘密の楽園」で大休止しました。榛ノ木丸への往復が、予想したよりも短時間で済んだからです。それに、あまり早く下山しても、東野バス停付近には、腰を下ろせる場所が乏しいのです。すばらしい空間で、すばらしい時間を過ごすほうが好ましく思われました。しばらくあたりを散策し、空を眺め、木々を見つめ、地面の草花を探して過ごします。ツツドリの「ホホッ、ホホッ…」と深いエコーのかかった声。キツツキのびっくりするほど大音響のドラミング。かれこれ30分以上も落ち葉に座っていましたが、ヤマビルはやって来ませんでした。
下山路は、先回、先々回と同じ、釜立尾根に取りました。同じルートを、秋、冬、春に歩いてみることで、定点観測的にその変化を感じてみたかったからです。このルートの特徴は、最短時間で林道に下りられること。 万一、下山中に日が暮れそうになった場合には、第一選択肢になるでしょう。逆に言えば、あっけなく山歩きが終わってしまうので、少しでも長く山道を楽しみ、林道歩きを減らしたい方には、向きません。
さて、下り始めるとすぐに、沢の流れが聞こえてきました。さらにジグザグを幾度も繰り返して行くと、ベンチが見えてきます。ここでひと休みしたくなりますが、そのすぐ下で登山道が沢と最接近します。私は沢のほとりにリュックを下ろし、冷たい流れで手と顔を洗い、喉を潤しました。登山道には、東野バス停3.9kmと書かれた道標があります。このあたりの緑はひときわまぶしく、目にまとわりつく虫さえいなければ、「ほとんど極楽」と言ってもいいかな、と思いました。
長い我慢の林道歩きを終えて、青根の里にやって来ました。里には里の花が咲いていて、足の動きが緩まります。バスが来るまでの時間を使って、樹齢700年という大杉の立つ諏訪神社と、神奈川県唯一の現役木造校舎のある青根小学校に行って見ました。大杉に手を触れたり、校庭に立ち入ることは慎むべきですが、これら生きた遺産を間近に見て、木の一生に思いを馳せるだけでもいいものです。
東野バス停には腰を下ろす余地がなかったので、次の青根公民館前まで行って、丸木を立てただけの椅子に座りました。バスが来れば正面に見える位置です。紺色の空に、鯉のぼりが三匹泳いでいました。
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