権現山と名のつく山は、日本各地にたくさんあります。ここでは、山梨県上野原市と大月市にまたがる権現山を言います。
平地からはなかなか見えにくい山ですが、登山ルートは四方から通じています。「新・花の百名山」(田中澄江著 1995年)に選ばれています。
西東京バス: 西八王子駅 → 中央道八王子バス停下(乗り換え) 京王バス: 中央道八王子 ⇒ 中央道野田尻 富士急山梨バス: 上野原駅 ← 用竹
地理院地図: 権現山
権現山の天気: 上野原市 , 上野原駅 , 野田尻
10月14日、体育の日、上野原市の権現山に行ってきました。時々遠くから望んだ権現山の、水平にも近いなだらかな稜線は、いつか歩いてみたいと思っていました。南麓からの登山路はやや急峻でしたが、東西に伸びる稜線に一旦立つと、穏かで柔らかな散策路がありました。
休日の上野原駅発、不老下(ふろうした)行きの初バスは9時8分着です。変わりやすい山の天気を考えると、もう少し早く登り始めたいと思い、中央高速バスを利用することにしました。西八王子駅から、グリーンタウン高尾行きのバスに乗り、「中央道八王子バス停下」という名のバス停で下車。目の前に見える高速道路まで、2分ほど歩きます。
「中央道八王子」バス停で、山中湖行きの高速バスに乗りました。インターネットで予約して印刷したチケットを運転士さんに見せます。すぐに降りるので、最前列の席に座りました。この座席からは、フロントガラス越しに沿線の山々が良く見えました。権現山が見えないかと目を凝らしていたのですが、残念ながら未確認。山頂に鉄塔が立っている雨降山(あめふりやま、あふりやま)は、すぐに判りました。
バスは談合坂サービスエリアの端で停まりました。中央道野田尻(のたじり)バス停です。下車して歩行者専用の地下道を下り切ったら左折。地下道を出て真っ直ぐ進むと、宿場町風の趣を持った通りに出ました。旧甲州街道の野田尻宿です。この道を西に進むのですが、途中の犬嶋神社を見学して少し道草を食いました。
街道に戻り、また西に進みます。ほどなく、左手に緑色の道標が立っていて、「萩野・棚頭」を示す方向に右折。県道30号を6、7分歩いて、不老下バス停にやって来ました。上野原駅からのローカルバスよりも、約30分早い到着です。交通費も約300円ほど節約できました。
不老下バス停で県道を離れて左折し、棚頭(たながしら)を目指します。どこからともなく、シナモンの香りが漂っていました。ニッキの木でもあるのでしょうか。路傍には、ヤマゼリ、ヤマハッカ、セキヤノアキチョウジなど、秋の花がのどかに咲いていました。不老下バス停から30分ほど歩くと、棚頭の集会所があります。権現山の登山道取り付きは、そのすぐ手前にあるはずです。ここかな、と思って見ると、角材を十文字に組んだ目印が、道の右側のコンクリート垣に取り付けられていました。気をつけていないと、ちょっと見逃しそうです。
まず小さな石段を登り、足下の小さな案内板に従って、左手の民家の庭に入らないように注意しながら、右手に進みます。こんなところを通り抜けさせてもらってよいのかなあ、と思いながら目印の火の見櫓を探すと、その脇の登山道が簡単に見つかりました。ここからが本格的な登山道です。尾根をほぼ直登するような急勾配で、覚悟が必要だと思った私は、リュックを下ろして準備運動をしました。行動食を腹に入れ、スポーツドリンクを一口飲んで、準備万端です。まず小幅な足取りで、ゆっくりと登り始めました。
登山道は檜の植林に囲まれて、展望がありませんでした。あまり陽が射さないので下草も乏しく、慰めてくれる花も、渋い味わいのコウヤボウキくらいなもの。ただ頑張って登るしかありません。鳥も蝉も鳴かない、静かに深まってゆく秋の山道。幸い道はよく整備されていて、全く荒れていません。私が本日最初の通行者となったため、クモの巣が多く、小枝を拾って振り払いながら登って行きました。
1時間ほど登ると、林道に飛び出しました。これを横切って直進すればゴウド山ですが、道標には林道を左へ進む方向に権現山と書かれています。そこで林道を進んでみると、すぐに左手の視界が大きく開け、雨降山から権現山を経て西に続く長く平坦な稜線を望めました。実は、権現山は微妙な位置にあって、その雄姿を眺められる機会はめったにありません。ここは貴重なビューポイントですので、しっかりと見ておきましょう。この林道はゴウド山をバイパスして、再び登山道と交差します。
私はゴウド山からの展望も気になったので、林道を少し戻って、ゴウド山に登りました。でも樹木に覆われた山頂は展望がありませんでした。山頂には、高指山(たかさすやま)と不老山への分岐があります。やや薄汚れた金属板の道標と、朽ちた木製の道標とが立っていました。これから棚頭ルートで権現山を目指す方々にはバイパス林道がお奨めです。
ゴウド山の先で再び林道を横断し、雨降山に向かう尾根に取り付きます。この頃には体もすっかり温まり、軽快に登って行きました。檜の植林と広葉樹の自然林との境界となる尾根上には、アカマツやカヤがたくさん生えていました。キノコの香りはありません。ふと気がつくと、左手の木々の枝越しに扇山が見えるようになっていました。林道から35分ほど登った地点に、雨降山近道と書かれた道標があり、それが指す道には黒いプラスチックの階段が埋まっていました。雨降山の観測所に行く人々が通る道なのでしょう。
雨降山は下山時に通るので、まず権現山に向かいます。登山路は尾根から左の斜面に移り、峠道によく見られるような、雰囲気の好い道になりました。足がどんどん前に進みます。一部樹木の開けた箇所があり、扇山をしっかりと眺めることができました。扇の形もまずまずです。ここだけは日当たりが良く、オヤマボクチが咲いていました。
雰囲気の好い道をさらに7分ほど進むと、稜線上に立ちました。これ以降は、ずっとなだらかな散策路のような道が続きます。権現山に至る前に、いくつかの小ピークがあるのですが、それらもいつ通過したのか気づかないほどでした。左右に樹木があって展望はほとんどないのですが、南からの日差しが明るく、とても気持ちよく歩けます。下の登山道では見られなかった、リョウブやコナラなども見られるようになりました。
岩に刻んだ段々の上に小さな社が立っています。王勢籠(おせろう)神社の奥宮で、日本武尊が祀られています。その裏手から5分ほど登ると、権現山の頂上でした。
権現山頂からは、奥多摩のほとんど全域の山々を見渡すことができました。見えないのは、山の向こうに隠されている山くらいなものです。中でも三頭山から醍醐丸に続く笹尾根は、誘いかけてくるように美しく、権現山ならではの展望ではないでしょうか。他方、南面はすでに曇ってしまった上に逆光でもあって、富士山はもとより、扇山さえはっきりしませんでした。台風26号の接近も影響していたのでしょう。
山頂では先客の熟年4人パーティーが昼食中で、登山談義に花を咲かせていました。大きな声でとても楽しそうです。難聴の方がいらしたのかもしれません。このパーティーは、浅川峠の方向に下って行かれました。それからとても静かになった山頂で独り昼食にしました。あいにく花はなく、蝶やトンボの姿もありません。山頂の中心に二等三角点が生真面目そうに座っていました。
山頂で30分ほど過ごし、靴紐を締め直しました。用竹(ようたけ)に向かって下ります。地図の上でもかなり長い稜線ですが、それは傾斜が緩やかだということです。どこか展望の優れた場所があるといいな、と思いながら山頂を後にしました。
和見への分岐まで、来た道を戻ります。そのすぐ先が雨降山ですが、樹木が繁って、眺望はありませんでした。観測所の鉄塔が2基立っています。この辺りから、ミズナラの木が目立つようになりました。そのちょっと新緑を髣髴させるような瑞々しさが、季節はずれの喜びを感じさせてくれます。この尾根は、その先もずっと腐葉土が堆積していて、心持ちふかふかした道を軽快に歩けました。
地図には、寺ノ入山、二本杉山などの名が記されていますが、気をつけていないと知らぬ間に通り過ぎてしまいそうなほど、起伏がありません。私は芦垣(あしがき)への分岐で小休止したのですが、その少し先で初めて視界が開け、東方に笹尾根を望むことができました。知っていたら、ここで休憩すればよかった、と思ったほどの好展望地です。そこからさらに10分ほど下ると南方が開け、こちらは秋山山稜と丹沢の山々のシルエットを眺めることができました。
用竹バス停へは、直進の尾根ルートと、右手に下る墓村経由のルートとがあります。私はここまでの尾根道があまりにも歩き易かったので、真っ直ぐ尾根ルートを進みました。墓村という名も少し気になるので、次回はその村を歩いてみようと思います。下山直後に歩く里山の風景は、登山の楽しみの一つです。
尾根ルートは最後に右手の斜面をジグザグに下りますが、この区間だけが土のない固い道でした。ところが、登山路の終点まであと10メートルというところで、スリップして尻餅をついてしまいました。全くどうということもないありふれた場所でしたが、気が緩んでしまいました。
用竹の里で、右からの墓村ルートと合わさりました。行く手に、聖武連山(しょうむれやま)が見えます。近いということもあり、その姿にはなかなかの存在感があります。用竹バス停へは、その先5分ほどの道でした。私はバスの時刻に合わせて悠々と歩いて来たのですが、バスもほぼ正確にやって来ました。気分よくバスに乗り込みます。乗客のほとんどは登山客でした。
尾続(おづく)では住民たちが総出(?)で畑仕事をしていました。並べたテーブルの上でお団子のようなものをこしらえている女性たちもいます。これは上野原市の計画で、花壇作りをしているところですと、バスの運転士さんが教えてくれました。植えた後もずっと手がかかるのですが、皆さんボランティアでやって行くのだそうです。みんなで花を育てるような村は、これからもいっそう平和になって行くことでしょう。
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