天城山は、伊豆半島の中央部にある連山の総称で、天城山脈とも呼ばれます。
天城山は、日本百名山、新日本百名山、花の百名山に選ばれています。
伊豆スカイライン: 天城高原IC → 県道111号(遠笠山道路) → 天城高原駐車場
伊豆東海バス: 伊東駅 → 天城高原ゴルフ場
地理院地図: 天城山
天城山の天気: 伊豆市 , 東伊豆町 , 天城高原
5月16日、山の友たちと、伊豆の天城山に行って来ました。晴天は期待できない日でしたが、もともと天城山は樹木に覆われて展望の利かない山。草木や花を見るには曇天でも全く差し支えありません。狙いは何といってもアマギシャクナゲの花です。そしてブナやヒメシャラなどの自然林。歩いたのは短めのコースでしたが、願った以上のものを天城山は惜しみなく見せてくれました。
天城山へのアクセスには、伊豆スカイラインを利用しました。平日とあって対向車に出会うこともなく、ほとんど貸し切り状態。所どころにシカやイノシシの絵と共に「飛び出し注意」と書かれています。私たちは、往路で雄のキジに、復路ではシカの群れに出遭いました。道路わきには植栽と思われる赤いツツジの花が、長い区間ずっと見られました。この赤い色に飽きるのを防ぐかのように、ときどき現れて爽やかな藤色の花を見せてくれるヤマフジ。富士山も芦ノ湖もソフトフォーカスで、季節感いっぱいの道路でした。
伊豆スカイライン終点の天城高原ICから遠笠山道路(県道111号線)に入ります。そのまた終点の天城高原ゴルフ場に到着したのが、午前7時55分。かなり広いハイカー専用の無料駐車場があります。平日なので車の数はわずかでしたが、土休日には賑わうことでしょう。ここへ来るには、伊東駅から伊豆東海バスが運行するシャトルバスを利用することもできます。
ところで、駐車場には、どこからかニッキのような香りが漂っていました。八つ橋に使うニッキです。それはさて置き、ここからは、行く手の万二郎岳と馬の背がよく見えていました。空はうす曇り、ほとんど無風で、暑くも寒くもありません。軽く準備運動をし、登山口に向かいました。男性3名、女性2名のパーティーです。
天城山には、天城峠と天城高原ゴルフ場を結ぶ縦走路もありますが、私たちが歩こうとしているのは、縦走路東端部の「シャクナゲコース」という周回ルートです。発着点は駐車場のすぐ隣。今回歩いてみたら、始めから終わりまで分りやすい道標が完備し、通過がやや難しそうな箇所には梯子やロープが設置されていました。また、迷いそうな箇所にはロープや木の枝で、しっかり通せんぼがしてあります。注意書きが日・英・韓・中の四ヶ国語で書かれているのも、きっと多くの外国人がここを歩くからなのだろうと思います。
さて、発着点には、アセビの花が咲いていました。小さな釣鐘のような白い花は、先端が薄ピンク色で、間近で見ると可憐な花です。万二郎岳と万三郎岳の間には、アセビのトンネルと呼ばれる箇所があります。もしかしたら、今そこが花のトンネルになっているかも知れません。
登山道に入ったら、倒木が目立ちました。大きな木が根こそぎ倒れています。見れば、根はあまり深く張っていないようです。天城山は、土の層が浅いのかもしれません。立派な木が横たわっているのを見ると、もったいない気がします。降雨量も多い山だそうですが、根元の地面がえぐられている立ち木も多く見られました。
大きなヒメシャラの木にも驚かされました。肌色のすべすべした樹皮で、ヒメシャラに似ているな、とは思ったのですが、果たして本物のヒメシャラでした。群生しています。7-8月の開花期に訪れる人々は、白いツバキのような花を楽しめることでしょう。このあたりでなぜか、ヘリオトロープのような芳香が漂っていました。
発着点から20分ほど歩いた頃、四辻(よつじ)にやって来ました。ここで、コースの巡り方を選ぶことができますが、たいていの人は時計回りを選ぶようです。私たちもそうしました。まず南に万二郎岳を目指します。こちらは明るい自然林の中を歩くので、朝の気分にはぴったりです。傾斜のゆるやかな登山道を登って行くと、林間のここかしこに紅紫色の花が咲いていました。雄しべがたくさんあるトウゴクミツバツツジです。かなり遠方に咲いていても、よく目立ちます。ただコースを外れて見に行くことは慎まねばなりません。
小さな白い花がパラパラと地面に撒かれているのは、アセビです。これも群生していることが多く、びっしりと鈴なりの花をつけている様はなかなか見事です。登山路のすぐ脇にはコアジサイが、あたかも植え込まれたかのように連続して生えていました。夏に水色の涼しげな花を咲かせます。これが登山道に沿って延々と続くさまを想像すると、天城山にまた来なくてはならないような気がしてきました。
少し古いガイドブックに、万二郎の北面のガレ場に注意と書かれていましたが、登山道はガレ場を外れていました。登山者の安全のために、新しく道を開いたのでしょう。万二郎岳まで残りわずかな距離になって、傾斜が急になりました。地形図を見ると、ここを頑張って登り抜けば、その先に苦しい登りはなさそうです。互いに励ましあって、難なく万二郎岳に到着しました。
万二郎岳山頂は展望がありません。特にすることもなく、後から登ってきたパーティーと互いに記念写真を撮り合いました。古い山頂標に味わいがありますが、三方からの張り綱で辛うじて立っている状態です。山頂から少しだけ西に縦走路を下ったところの岩場が、このコース最大の展望台らしいのですが、きょうはどうでしょうか。行ってみると、あいにく南面から濃霧が絶え間なく吹き上がり、目の前にあるはずの馬の背すらもよく見えませんでした。眺望はあきらめ、山歩きそのものを楽しむことにします。
万二郎岳の西に連なる馬の背は、緩やかな起伏をなす尾根がその背骨です。この辺りにもヒメシャラの木がたくさんありました。その滑らかな幹は、ひんやりと気持ちよい触感です。新緑の木々の中に、アセビの赤味がかった新芽が瑞々しく、気持ちよく歩いて行きました。馬の背の最高地点近くに右手(北面)がちょっと開けた箇所があり、北東に遠笠山(1192m)を望むことができました。山麓はゴルフ場になっています。これがこの日、天城山で私たちが得た、唯一の遠望でした。
いよいよアセビのトンネルにやって来ました。群生するアセビのくねくねした幹が左右から覆いかぶさって、本当にトンネルです。残念ながら花のトンネルではありませんでしたが、通り抜けるまで6分間ほど楽しめました。トンネルの両端に日・英二ヶ国語の説明板が立っています。アセビを英語で、"Japanese Andromeda" ということを知りました。
アセビのトンネルの先を下り、馬の背と万三郎岳の鞍部である石楠立(はなだて)を過ぎると、赤いシャクナゲの花が目に入ってきました。わあ、きれい!あった、あった!と歓声が上がります。ほら、あそこにも!こっちのはもっときれいよ! 初めのうちはそのたびに立ち止まって、花が最もきれいに見える角度を考えながら撮影していたのですが、そのうちどんどん花が多くなり、よりどり見どりになりました。赤桃色からほとんど白色の花までいろいろと咲いているのですが、天城山に自生しているのですから全部アマギシャクナゲだと思います。
アマギシャクナゲもいいのですが、同じ場所でトウゴクミツバツツジも見頃を迎えていました。どちらもツツジ科です。シャクナゲもツツジも個体差がかなりあるようで、満開の木もあれば、つぼみばかりの木もありました。
万三郎岳に近づくに連れ、ブナの木が増えて来ました。巨木がたくさんあります。網目のように張られた根が地面から露出している所を歩いていたら、ブナが実は、動く生き物なのではないかという気がしました。人間のような姿のブナもあり、きっと夜になったら踊りだすんじゃないかな、などと冗談が飛びます。またブナに混じって、ハウチワカエデの木がありました。木漏れ日に葉をかざすと、葉脈がとてもきれいです。そんなカエデの多い場所に平坦地があったので、大休止してお昼にしました。あとわずかで万三郎岳です。
万三郎岳山頂も展望が利きません。でも天城山の最高峰、したがって伊豆半島の最高峰で、一等三角点が置かれています。三角点が設置された頃には、おそらく展望が良かったのでしょう。狭い山頂の北はじに、万二郎岳と兄弟分のような山頂標が立っています。古いガイドブックには、この山頂からアマギシャクナゲの群生地と涸沢分岐点を経て四辻に通じる道が示され、「自然保護と登山道整備のため2003年7月より数年間の予定で通行禁止」と書かれています。
私たちは、昼食を済ませ、元気よく万三郎岳にやって来ました。狭い山頂には紅色ののマメザクラが咲いていました。地面にも花びらがたくさん散らばっています。せっかくの山頂なので、ベンチに腰を下ろして15分ほど休憩しました。近くには、落ち着きを感じさせる白い花のムシカリ(オオカメノキ)も咲いていました。
万三郎岳からは、来た道をそのまま戻っても良いのですが、私たちは周回コースを全うする計画です。万三郎岳下分岐点で縦走路を左に分け、ブナの林を通り抜けると、北に向かう階段の道がありました。通行禁止の登山道の代わりに作られたのでしょう。まだ土止めもしっかりとしています。ただ傾斜が急な上に、どこまで続くのかと思われるほど長く、この階段が終わったときはほっとしました。
涸れ沢を横断すると、すぐに涸沢分岐点でした。誤ってコースを外れないよう、ロープと枯れ枝で通せんぼがしてあります。その先、四辻近くの菅引分岐点も同様でした。地形図やコンパスを持たずに入山する人が多いのかも知れません。道迷い対策には力が入っていることが伺えます。この区間は、馬の背から北北西に伸びる太い尾根を巻くために、東西に並行する縦走路よりも水平距離が長くなっています。
涸沢分岐点から東に向かって、四辻手前のヒメシャラ林の手前まで、これと言って観光スポットはないように思いました。暗がりの中にぽっかりランプのように咲くシャクナゲ、湿地に咲く豆粒のような花、様々な様態のブナ、苔の生した溶岩など、体力にゆとりがあれば楽しめますが、すでに稜線上でたっぷりと見てきた後では、さほどに興味を引きません。パーティーも口数がめっきり少なくなりました。荒っぽいゴロ岩も多く、弱い足や疲れた足にはちょっとした試練の道です。でもこれが山と言うもの、頑張ってもらうしかありません。
登山路がやっと歩きやすくなった頃、右手にヒメシャラの林が見えて来ました。試練は終わり、山の優美な姿に癒される区間です。その左手は黒っぽい檜の造林で、何とも対照的です。行く手に、朝通った四辻も見えて来ました。もう、駐車場は遠くありません。次回は時季をずらして、天城峠から天城高原まで縦走してみたいと思いながら、ゴールに向かいました。
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